日本センチュリー交響楽団とパシフィ
ックフィルハーモニア東京が、アライ
アンスを締結~両楽団長に提携の狙い
を聞いた

先ごろ、日本センチュリー交響楽団(センチュリー)とパシフィックフィルハーモニア東京(PPT)のオーケストラ・アライアンスの締結が発表になった。プロのオーケストラ同士の業務提携がはっきりと打ち出されるのは珍しいこと。どうもこのアライアンスを提唱したのは、両楽団のシェフを務める飯森範親のようで。両楽団の楽団長に、経緯と狙いを聞いてみた。
両楽団でシェフを務める飯森範親   (c)Takashi Fujimoto
―― オーケストラ同士でアライアンスを結ぶケースはあまり聞きません。その経緯と狙いを教えて頂けますか。
望月正樹(センチュリー楽団長) 活動拠点が大阪と東京という事で、両楽団に営業上のバッティングはありません。オーケストラを運営していく上で起こる様々な懸案事項を共同で対処し、目指すべき事業を推進し、芸術的利益を追求して行こうと云うことで、アライアンスの締結に至りました。オーケストラ同士でこういう形を取るのは、初めてだと思います。
日本センチュリー交響楽団 望月正樹 楽団長  (c)H.isojima
二宮光由(PPT次期楽団長) 両楽団にタイトルを持つ飯森範親さん(センチュリーは首席指揮者、PPTは音楽監督)の存在が大きいと思います。彼がそういう発想を持っていた事と、両楽団の組織がちょうど新しくなり(センチュリーは2021年度から新理事長に交代。PPTは2022年度から楽団の名称変更、2023年から組織変更)、両理事長が新しい動きに積極的で、飯森さんの進言に、やってみよう!応じた事でアライアンスが実現しました。
パシフィックフィルハーモニ二ア東京 二宮光由 次期楽団長  (c)H.isojima
―― 今回のアライアンスによって何が変わるのか、ご教示ください。
望月 4つの項目に分けて説明致します。まず、アライアンスをはかるオーケストラ同士の交流と、単独ではサイズ的に少し無理のある作品にチャレンジする目的で、合同演奏を実施します。両楽団の6月の定期演奏会で、リヒャルト・シュトラウスのアルプス交響曲を採り上げます。この曲は4管編成で、特殊楽器も多く、総勢100名以上を要する大曲です。センチュリーは現在2管10型のオーケストラ。一方のPPTも同じ規模か少し大きいくらいのサイズですので、合同で演奏するのに相応しい曲です。指揮はもちろん飯森さん。リヒャルト・シュトラウスにはこだわりを持っておられるようで、どんな演奏になるか楽しみです。実はこの合同演奏には隠れテーマがあって、5月に還暦を迎える飯森マエストロを、みんなで祝おうという狙いもあります(笑)。

日本センチュリー交響楽団    (c)Masaharu Eguchi
パシフィックフィルハーモニア東京    (c)Takashi Fujimoto
二宮 合同演奏ではもう1曲、ジョン・アダムズの「Must the Devil Have All the Good Tunes?」を、ピアニスト角野隼斗さんをソリストに迎えて日本初演(日本人の指揮者・ソリスト・オーケストラによる初演)致します。角野さんと飯森マエストロは、2022年10月のPPT定期演奏会で、超難曲と言われるトーマス・アデスのコンチェルトを共演したばかり。良い関係のまま、再演が決まりました。
トーマス・アデス「ピアノと管弦楽のための協奏曲」(日本初演)で共演した指揮者 飯森範親とピアニスト角野隼斗   (c)Takashi Fujimoto

夢の競演再び。ジョン・アダムズ「Must the Devil Have All the Good Tunes?」にご期待ください!   (c)Takashi Fujimoto
―― 合同演奏は、まさにアライアンスの象徴ですね。その他はいかがでしょうか。
望月 2023年は“日本のオーケストラの父”とも言える近衛秀麿の生誕125年、没後50年の記念の年です。両楽団が揃って、近衛秀麿が編曲をしたスコアを使って演奏する事で、東西のオーケストラ界で、近衛秀麿の事が話題となればと思っています。
―― 近衛秀麿が編曲をしたベートーヴェンの交響曲第5番「運命」を、大阪フィルの演奏で聴いた事がありますが、4管編成だったように記憶しています。
二宮 近衛秀麿が編曲した作品の多くは、大きな編成でかかれています。楽譜や権利関係を管理している、近衞音楽研究所というのがあって、問い合わせてみたところ、スコアとパート譜が揃っている曲が15曲あるということで、センチュリーさんは4月定期で秋山和慶さんの指揮でベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」を選ばれました。PPTは飯森範親マエストロと相談して、10月定期で、全曲近衞秀麿版でいく事になりました。「越天楽」で始まって、ショパンのピアノ協奏曲第1番、そしてムソルグスキーの「展覧会の絵」というプログラムです。近衛版の「展覧会の絵」は、最初のプロムナードをトランペットではなく、弦楽合奏で入ります。面白そうでしょ(笑)。

皆様ご存知の曲を、近衛秀麿編曲版でお届け致します    (c)Takashi Fujimoto
―― それは聴いてみたいですね(笑)。3つ目のポイントは何になりますか?

望月 ソリストや指揮者の共同招聘です。とても現実的な問題ですが、他の楽団と一緒に招聘する事で、経費を抑える事ができます。第1弾として、世界的なチェリスト、アントニオ・メネセスを11月に共同招聘し、センチュリーでは秋山和慶さんの指揮でリヒャルト・シュトラウスの交響詩「ドン・キホーテ」を、首席客演ヴィオラ奏者の須田祥子と共演いたします。
二宮 PPTでは園田隆一郎さんの指揮で、ドヴォルザークのチェロ協奏曲を演奏致しますメネセスさんのように器楽奏者だと、空いているスケジュールにリサイタルを行うことも出来ますが、指揮者はそういう訳にもいかないので、マーケットを考慮しつつも、もう少し多くのオーケストラと共同招聘出来ると良いのですが。
世界屈指のチェリスト アントニオ・メネセス   (c)Clive Barda
―― そして4つ目が、2022年度から既に始まっている学生年間パスポートの発行ですね。年間5000円のパスポートを購入すれば、25歳以下の学生に限り、センチュリーの主催公演19公演と、PPTの主催公演15公演が、聴き放題になるという太っ腹な企画です。初年度は、何件くらいの申し込みがあったのでしょうか。
望月 センチュリーで100件、PPTで40件ほどです。いろいろと調べてみると、今の学生は本当に経済状況が大変なようで、ワンコインでも、コンサートの鑑賞に充てるのは厳しい聞きます。そんな状況を見るにつけて、公的な組織でもあるオーケストラが、何も手を打たないのは違うだろうという事で、学生年間パスポートの発想が生まれました。
二宮 両楽団とも、定期演奏会をはじめとする主催公演が対象です。出演者の名前を見ても、この年間パスポートの発想が如何に斬新で魅力的かがわかると思います。
―― 両楽団のアライアンスが、他のオーケストラをはじめ、楽壇全体への刺激となるのではないでしょうか。最後に「SPICE」読者に向けてメッセージをお願いします。
望月 ふたつのオーケストラがタッグを組むことで、これまで以上に魅力的な鑑賞機会を提供してまいります。これからの両楽団にご期待ください。
二宮 まだまだ一般的に「パシフィックフィルハーモニア東京」が認知されていないのが残念なのですが、私たちはただオーケストラの名前を変えただけではなくて、オーケストラのすべてを変えるつもりで、今、改革を図っています。ホント、新しいオーケストラを立ち上げているかのようで、どんどんと変わっていく姿をぜひとも観て、聴いていただきたいと思います。
両楽団のアライアンスにご期待ください!  (c)H.isojima
取材・文=磯島浩彰

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着