「新日本プロレスの支配者」 グレー
ト-O-カーン×「アニサマゼネラルプ
ロデューサー」齋藤光二初対談 プロ
レスとアニサマを通じてみるライブエ
ンタメ 前編

夢の対談が実現した。SPICEで企画した新日本プロレスの支配者、グレート-O-カーン様による、世界最大のアニメソングの祭典、『Animelo Summer Live 2022 -Sparkle-(以下アニサマ)』の完全レポートを受けて、アニサマゼネラルプロデューサーである齋藤Pこと齋藤光二氏が新日本プロレス10.10両国国技館で開催された『超実力派宣言』を現地観戦。お互いのフィールドを体験した後に直接対談が行われた。お互いのエンタメに対する思い。プロレスとアニサマの共通点と違いなど、実に2時間以上にわたって語り合った両者。注目度MAXの対談を前後編に分けてお送りする。
――グレート-O-カーン様と、齋藤Pでございます。
齋藤P:よろしくお願いします。
グレート-O-カーン:うむ、よろしゅう頼むぞ。
齋藤P:失礼のないように頑張ります(笑)。
――オーカーン様にはアニサマを見ていただいて、齋藤Pにも新日本プロレスの10.10両国大会を見ていただきました。お互いのイベントの印象から聞いていければと思いますが、齋藤P、新日本プロレスはいかがでしたか?
齋藤P:まず、すごくいい特別な大会に立ち会えてよかったと思います。アントニオ猪木さんの10カウントゴングがありましたが、猪木さんの存在って言うのはプロレスだけじゃなく、カルチャーだったじゃないですか。
グレート-O-カーン:そうじゃのう。そこからどんどん派生もしていったしな。
齋藤P:政治家になったりだとか、いろんなことがあったんですけど、やっぱりシンニチイズムっていうのが、あそこで継承されてるって感じましたね。若いレスラーがリングを囲む『10カウント』っていう厳かな場面に立ち会えたっていうのは、すごくちょっと、特別感がありました。
――それは僕らも感じましたね。
齋藤P:年齢ばれちゃうかもしれないですけど、大仁田さんの引退試合とかの時代から、現地でプロレスを見たことないんですよ。だから、今のプロレスはこういう風になってるんだっていう、新しいものも見れたので、すごくおもしろかったですね。
――ずいぶん久しぶりの観戦だったんですね。
齋藤P:そうですね、あとは、オーカーン様のアニサマレポも全部読ませていただいて、すごい嬉しかったのが、ファン目線だけじゃなくて、僕がプロデューサーとして何かを仕込んでいるっていう、色々と考えてやってるんだろうなっていう視点で書かれていたんです。読みごたえもあったし文才も凄いんですけど、その部分がすごい嬉しかったんですよ。なので僕も同じような視点で、プロレスにはあるけどライブコンサートには無いもの、例えばレフェリーの存在だったりとか、色々な視点で見れたので、エンタメっていう意味では、すごく勉強になりましたね。
――オーカーン様は、いかがでしたか、アニサマ3日間。
グレート-O-カーン:エンタメとしてすごい勉強になったな。こっちも格闘技で、己の強さを磨き戦うとは言え、客を呼んで、その客から金を取ってるわけだ。なので客を喜ばすのが大事であって、そのやり方が違うだけという意味では、新日本プロレスに無いものもがたくさんあったな。
■ストーリーとかヒストリーっていうのはすごい大事だと思う
――なにか具体的に印象的だった部分はございますでしょうか?
グレート-O-カーン:やっぱり演出だな。バックの映像だったり、ライトの使い方だったり、あと普段ではあり得ないコラボレーションとかもだ。そういうのは新日本も、もっとやれるなと思ったぞ。あと、さっき齋藤Pが申しておったことだが、共通しているが、大きな違いもあると思った部分がある。
――それはどのへんでしょうか。
グレート-O-カーン:新日本プロレスというのは50年続いていて、その中でドラマがある。勿論アニサマにも違うドラマがある。例えば、愛美は最初は路上(けやきひろばステージ)の方に出ていたが、それが何年か経って、メインステージに立った。そういうドラマがある。新日本で言うと、アントニオ猪木がいて、その弟子がいて、アントニオ猪木に反旗を翻したやつもいて……。そういうドラマの違いも余は感じたな。
齋藤P:ストーリーとかヒストリーっていうのはすごい大事で、まさに、初日の愛美さんのことを、オーカーン様が見て、レポートで「俺も頑張る」って励ますって、すごいことだと思うんですよ。それくらい彼女のMCは、いい意味でとっちらかってて、素が出ちゃって。「私、こんなんでいいですかね……」みたいな(笑)。
――そういう感じでしたね(笑)。
齋藤P:そこが可愛らしくて、あたふたしてたんだけど、その後の歌は凄く想いが入っていて。それはやっぱり彼女が寺川愛美としてけやきひろばステージでやったり、アニサマダンサーで出演したりっていうのがあったからこそ、積み上げてきたストーリーが結実したわけで。初日のトリだと、鈴木このみがデビュー以来、10年ずっとアニサマに出続けてて、ようやくトリっていうのを任された。そのトリを渡すときに、TRUEが、「三種の神器」と言われる彼女の強い楽曲をまとめてぶつけてきた(「飛竜の騎士」「Divine Spell」「UNISONIA」)。「お前、トリ行けんのか!?」みたいのをぶつけるわけですよ。これ多分、プロレスでも同じだと思います。第一試合で盛り上げることができなかった場合、第二試合のやつが盛り返さなきゃとか。
グレート-O-カーン:おっ、よくわかっとるな。その通りなんだよ!
齋藤P:それにマイクパフォーマンスっていうのも、プロレスに必須なものかはわからないんですけど、すごい大事だと思うんですよ。アニサマもMCはすごい大事で、MCでお客さんのスイッチを入れるか入れないかで、その後のサビでの盛り上がりとかカタルシスが変わるっていうのがあるんです。
グレート-O-カーン:そうだな。
齋藤P:あとプロレス会場で印象的だったのが、プロレスならではの拍手の作法ですね。コンダクター的なお客さんが居て、絶妙なタイミングで拍手を入れる。その響きが拍子木みたいないい音がするんですよね(笑)。
――ちょうど三列前くらいにいらっしゃいましたね。
齋藤P:彼が手拍子を入れるタイミングって、ちょっと選手への煽りというか、技がもう一個欲しい! 頑張ってほしい! ってときに入れてくれるんですよ。痛めつけられてるからこそ、反撃に対しての熱が乗るじゃないですか、それをブーストさせてるというか。パフォーマンスも同じで、高音出すときにちょっと苦しそうに歌うその表情が、グッと見てる人の気持ちを上げることがある。歌が上手過ぎて軽々と歌ってしまうと、得られないカタルシスもあるんですよね。
グレート-O-カーン:よく見抜いたなって感じだな(笑)。 余たちもただ戦ってるわけじゃない。演奏もそうかもしれんが、プロレスも顔ひとつ、声の出し方ひとつで、全部変わってくるんだ。
齋藤P:オーカーン様で言えば、モンゴリアンチョップの時にカン高い奇声をあげられるじゃないですか、あれはインパクトありますよね。やっぱりビジュアルと音を一緒に伝えるのが大事なんですよ。
――音だけでもビジュアルだけでもない部分ですか。
齋藤P: Poppin'Partyが最初にアニサマ出たときに、愛美さんと大塚(紗英)さんにも伝えたんですが、最初に楽器を「ジャーン」って鳴らすときに、音の前に大きく振りかぶって予備動作をしてから「ジャーン」ってやろう、と。
グレート-O-カーン:それだけで迫力が大分変ってくるのお。
齋藤P:大舞台だと、音は、目から入る時があるんですよ。大きく振りかぶるだけで、音の説得力が違う。プロレスでも普通に蹴るより、思いっきりロープに走って、反動付けてバーンってやることによって、ダイナミズムが見えるんですよね。
――それはありますね、音も動きも表情も連動している、確かに。
齋藤P:だから「うわ、痛ぇ!」って俺らも蹴られたみたいになるんですよ。それはエンタメとしてすごい大事なんだと思います。戦いの中のステージングというか。これがすごい大事だなっていうのを思いました。その本当にちょっとしたところがズレると、いい試合なんだけど、もう少しこう……って気持ちになる。
グレート-O-カーン:それこそが実力というやつだ、それ含めての強さなんだよ。見た目がいいとか、派手だとか。気合が入っているとか、要素は色々とあるが、プロレスもやっぱり総合力が必要なんだ。それが全部ないと、結局「なんか惜しいな」で終わってしまうんだよな。
齋藤P:そうですね。
■オカダ・カズチカ対JONAHで感じた「ヒーロー」の戦い方
グレート-O-カーン:ただプロレスの、また1個違う部分というのが、対戦相手がそれを引き出してくれるときもあるんだ。例えば赤コーナー側が盛り上げることができなくても、青コーナー側が最高の試合に引き立ててくれる時もある。
齋藤P:この両国大会でいうと、オカダ・カズチカ選手。新日では彼がトップでスターだって知ってるんですけど、彼がこの日ヒーローとして輝いたのは、対戦相手のJONAH選手、彼の存在がでかいと思います。
グレート-O-カーン:そうだな。
齋藤P:あの化け物みたいにデカくて、強くて、飛べるJONAH選手だったから、僕は詳しく知らなくても楽しめたと思います。これ、ライブも同じなんですけど、我々の肉眼って、360°自分の意志でカメラスイッチできるんですよ。だから、オカダ・カズチカが痛めつけられてるところじゃなくて、ここで「痛い!」とかって、観客が驚いてるところを見る楽しみ方も出来るですよね。
グレート-O-カーン:そうだ、その通りだ。
齋藤P:映像だと、スイッチングアウトした映像1個しかないから。だから反則行為をここで仕込んでる!とか、周りも含めて好きに見れるのがプロレスの面白いところですね。
グレート-O-カーン:映像で見ると、近くで、迫力があって見れるんだけれども、生で見ると全く違うものになるな。
齋藤P:だからライブのBlu-rayは“映像作品”としてすごく綺麗に仕上げるんですよ。そのために、後ろに映り込みのアニメとのシンクロを意識したりもします。あれは映像の作品の作り方ですね。ライブの作り方ってそれとは違って、例えば特殊効果で炎が上がって「熱っ!」ってなるじゃないですか。そういう体感とかも含めてみたりして感動させるようにっていう風に作ってるんで。
――その違いはありますね。映像と生だと感動や興奮がちょっと違う形で感じられます。
齋藤P:オカダ選手が強敵相手に、最後の最後で逆転したんで、ヒーローとして輝く。ただ、アニメもそうなんですけど、ヒーロー物って、ヒーローだけだとつまんないんですよ。
グレート-O-カーン:いやぁ、その通りじゃ。
齋藤P:オカダ選手はわかりやすくイケメンだし、どう見てもヒーロー。だから、どこかそのヒーローが相当痛めつけられないと面白くないと思っちゃう。普通に優等生が勝っちゃったら、むしろアンチが増えると思います。
グレート-O-カーン:うーん、その通りだな。まさに今、オカダは強すぎて、アンチを結構集めているぐらいの存在になっている。
齋藤P:そうなんですね。でもアンチが増えるっていうのも、凄くやっぱり大事なことだと思うんですよね。改めて思ったのは、格闘家って言うのは、やっぱり命を張っているんだなってことですね。自分の人格否定までされるギリギリでも戦い続ける。
グレート-O-カーン:こっちはプロなんで、どこまで言うべきか悩む部分ではあるが、余たちにはそれぞれの役割がある。第一試合なら第一試合、メインにはメインの役割がな。それをある程度分かって試合を見ると、より楽しいっていうのはあるかもしれんな。
――選手のバックボーンや抗争の流れなどの予習したほうが入りやすいですよね。
齋藤P:アニサマも予習が必要だって、思うじゃないですか。「Snow halation」だったら、ここでライトを白から一気にウルトラオレンジにするとか、暗黙の了解みたいなのがあって。
――ありますね。
齋藤P:要するに、ここで「この流れできたら、反則してこう」とかそう言うところで、みんなが期待してるストーリーってあるんですよ。でも、そこを裏切ることも大事。
グレート-O-カーン:ああ、そうじゃな。
■アニサマ流「サプライズ」から見るライブの楽しみ方
齋藤P:今回面白かったのは、飛び入りで謎の選手が……って思ったらティタン選手だったこととかですね。
――アニサマで言う「サプライズ」ですかね。
齋藤P:そうですね、通常のライブで言われるところの「シクレ」に近いと思いますが。興行的な話で言うと、シークレットって、2つの意味でメリットがないんですよ。
――2つですか、お聞きしても?
齋藤P:まず、例えば放課後ティータイムもそうですけど、これを事前に発表すれば大きく集客できるのに、シークレットにすることで出来ない。興行的にはマイナスでしかない。
グレート-O-カーン:それはわかるぞ。
齋藤P:あとひとつ、例えば氷川きよしさんが最初に出たときもそうだけど、氷川きよしが大好きなファンの人たちは、「何で言ってくれなかったの!?氷川きよしさん、見に行けたのに!!」ってイベントのヘイトにもつながる。興行的にもファンに対しても、誠実じゃないんですよ。
――そう言われれば確かにそうですね。
齋藤P:僕はシークレットって言葉は嫌いなんです。「シークレットがあります」って言うことは、プロモーションにはならないんですよ。言った時点でもう隠して無いから、シークレットじゃない(笑)。
グレート-O-カーン:それはそうじゃな(笑)。
齋藤P:だから僕らは、何度も言ってるんですけど、アニサマは「サプライズ」なんです。「サプライズ」があるのはいいじゃないですか。オーカーン様が「お前らに最高の『サプライズ』を用意しとくぞ!」とかって言ったときに、「何がくるかな!?」って思うわけです。シークレットとは違う。
――凄くわかりやすいですね。
齋藤P:その予想を現実がさらに上回ったら最高なんです。今回だと、2日目に『ウマ娘』でマンハッタンカフェ(小倉唯)が追加出走されて、その日、石原夏織さんいるよね、ってなると、みんなやっぱり「ゆいかおり、あるんじゃないか」ってワンチャン思ったんですよ。
――いや、思いましたよ!
齋藤P:これ、ひとつミスリードです。このミスリードで、ゆいかおりがくると思って、石原さんの後ろから小倉唯ちゃんが出てきた。「ウワッ」と思ったら、伊藤美来豊田萌絵が出てきて、StylipSがドーンと出てきたときに……「ギャー」になるんですよね。
グレート-O-カーン:あのときは客席も思わず歓声が漏れまくっていたのお。
齋藤P:「シークレット」を期待させて、アニサマは営業してないです。本音を言えば大変だからやりたくない。じゃあなんでそんなメリットにならないことをやるかと言ったら、あそこに行ったら絶対面白いことがある、っていうものを用意するのと、会場に足を運んだお客さんしか体感できないものを用意するためですよ。
――それは毎回感じていますね。
齋藤P:「マツケンサンバ」も、セットリストで見たら「何でアニソンでもないマツケンが来るんだよ」ってなると思うんです。でもオーカーン様が、「愉快だった」って言ってくれた。本当に面白いエンタメって、一言で「なんかよくわかんないけど、愉快だった」って言うのが、本当の意味での最高値なんですよ。あれは、今だから言いますけど、松平健さんが主役じゃなくて、実は i☆Risと内田真礼が主役。もっと言うと、一番おいしいところ持っていったのは、生き別れた弟をやった内田雄馬くんなんですよね。
グレート-O-カーン:あー、確かにおいしかったなぁ。あの後もネタをこすっておった(笑)。
齋藤P:全体の流れが構築できてさえいれば、現場にいる人達にはそれが伝わるんですよね。でもセットリストだけ見ると文句も出る。対戦表の勝敗だけ見て満足しちゃうみたいな。
グレート-O-カーン:それはすごいわかるぞ。いわゆるニワカと言うか、見てもないのに文句を言い始める輩がおるのだ。まず会場に来ればいいんだよ。来て、見て評価すればいいものを、対戦表だけ見て「優勝」とか、試合結果だけ見て「あ、こっちが勝ったのか。じゃあつまんない興行だな」「●●に勝ってほしかった」とか、何がわかるんだ貴様らに!  余たちは結果を売っているのではない!  試合の内容に命をかけて売っておるのだ!
齋藤P:対戦表があったらどっちが〇、✕とかってやっちゃうのはわかるんです。色々と外野は言いますよ。でも命をかけて戦っている人たちがいる中で、誰々が勝ったからつまんねぇとかって。それは違うだろって思うんですよね。
グレート-O-カーン:本当にそうだと思うぞ。
齋藤P:だからライブって本当に生ものなんですよね。最高の料理を僕らは用意します。でも最終的には、素材だけじゃなくて、調理法だとかその日の天気だとか、食べる人の体調とか、いろんなもので味も変わってくるんです。それを、「こんな料理が出ました」ってメニュー見てるだけで、「あ、これはおいしい、おいしくない」って、「オイお前、食べたんかよ!?」っていう(笑)。 そういうのはすごく思います。今のエンタメを取り囲む空気はそういう部分がよくないと思いますね。
グレート-O-カーン:そうだな。結果とかが、簡単に見えるからな。
齋藤P:だからセットリストも、アニサマもリアルタイムでね、(Twitterで)実況してるんですけど、やっている理由としては、ひとつは在宅組に悔しがってほしいっていうのもあるんです(笑)。
――そうだったんですね(笑)。
齋藤P:あとは、やってる最中に見ながら実況する人達もいるんで、それをある程度抑止するためにも公式でちゃんと出した方がいいだろうっていう部分ですね。でも今年面白かったのは、セットリストじゃないんですけど、「【悲報】芹澤優、アニサマの舞台で斬られる...」って実況出したときに、みんな、「何?何?芹澤優が切られるってどゆこと?」みたいになったんですよ(笑)。これは、セットリストで満足しちゃう人達へのアンチテーゼでした。
またアニサマでなんか始まったなってなりましたが(笑)。
――公式がちょっと悪乗りしてる感じがあったのは面白かったですね、そういう意図があったんですね。
■ドミネーターが語る「8割の満足」理論 エンタメの「ユニバーサルとマニアック」な楽しみ方
齋藤P:あと、これは僕、聞きたかったことがひとつあって。ジェイ・ホワイト選手ってヒーローっぽい雰囲気ありましたけど、ヒールなんですよね?
グレート-O-カーン:あいつは完全に悪者だな。
齋藤P:彼が最後メインで勝利したんですけど、華もある選手だと思ったんですね。でもその後のマイクパフォーマンス、彼は英語で話してたんですよ。で、僕はある程度英語がわかるんですけど、わからないところもあったりして、例えば「SWITCHBLADE」って言葉。予習してなかったから、どういう文脈で使っているのかわからなかったんですよ。
――「スイッチブレード」、彼の異名と言うか、キャッチフレーズですね。
齋藤P:昔プロレスって、ゴールデンタイムで放送していた時代がありましたよね。そういうときって、実況ありきでお茶の間で見ていたたんで、解説があったからわかりやすかったんですよ。今は後日、YouTubeで見ると翻訳があってわかるんですけど、会場だとどこまでお客さんが、英語でのやりとりをわかってるのかなって。
グレート-O-カーン:これも1個むずかしいところじゃな。余も、余のチームが外国人だけだから、余が最後マイクでしめることが多いんだが、これはこれで良いと思っている。理由としては……今の齋藤Pは、こっちの術中にドはまりしているのだ(微笑)。何故かと言うと、ちゃんと家に帰ったあと復習をしてくれているからな。
齋藤P:なるほど……それは大事ですね。
グレート-O-カーン:「あれは何だったんだろう」と思って、自分で勝手に調べてくれる。単語だったら、「あれは何の意味があるのだろう?」と見返して、気になってしまう。プロレスは、100あったら100全部を見せてはならんのだ。
齋藤P:なるほど……。
グレート-O-カーン:100を見せて満足すると、次、愚民どもは観なくなるのだ。見せる部分は8割とかに限定する。例えば技、モンゴリアンチョップや、大空スバル式羊殺しなど、余の技は多数あるが、「あっ、これが観たかったんだ」と全部を見せると満足してしまうのだ。勿論余はそれ以外の工夫でも満足させておる、試合の内容などでな。だがどこかで必ず、「あれ何だったんだろう、あれが気になる」という部分を作らなければならんのだ。歌もそうじゃと思うが、100回も連続で聴いたら、さすがに少しは飽きるじゃろ? それを、いかに飽きさせないかというのは、やはり8割の満足、2割を残す部分なのだ。もしくは、気にさせて、気になる部分を頭に残す。貴様は余たちがやってる術中にドハマりしているのだ。
齋藤P:まさに恐れ入りましたって言うか、ハマりましたね……。アニサマの作り方でも大事にしているのは、ユニバーサルとマニアックなんです。
グレート-O-カーン:ユニバーサルとマニアックだと?
齋藤P:ユニバーサルっていうのは、ボディランゲージもそうだし、デカい音、速いギターソロとか、炎とか。例えばルーマニアの片田舎のおばあちゃんがいきなりぽんとアニサマに来て、文化も、言葉もわかんないけど「わー、すごい!(拍手)」って、楽しくなる。これはユニバーサルで。共通言語なんですよ。凄いものは凄いっていうのはわかるんです。で、それと同時にマニアックって……。
グレート-O-カーン:余にはもうわかったぞ……!
齋藤P:ディテールをしっかりやることで、マニアが「そうそうそう!」ってなる部分ですね。2019年のアニサマで『けいおん!』(HTT)が復活したんですけど。
グレート-O-カーン:余がイギリスにおったころじゃな。
齋藤P:初日は『小林さんちのメイドラゴン』。中日は『響け!ユーフォニアム』とか『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』があったんです、そして最終日は『けいおん!』。京都アニメーションさんは直前に辛い事件があったんですけど……アーティスト達もそれをMCで「悔しかった、哀しかった」っていうことは言わなかった。それは音楽表現でやるべきだと思ったんです。あれだけの悲しい事件に対して、アニサマが出来ることは限られてたんですけど、何をやったかって言うと、素晴らしい作品を(映像)全部背負わせてもらって、みんなで楽しもうよ、そこだけだと思ったんです。ファンはそこをちゃんと汲み取ってわかってくれたと思っています。
――なるほど……。
齋藤P:ちょっと話逸れちゃったんですけど、アニサマとangelaさんでmasshoi(山内“masshoi”優)君が亡くなったときに追悼みたいなことをやりましたが、オーカーン様も、北村(克哉)さんのマッスルポーズをやったり、バックヤードで「1分間だけ俺はプロレスを辞める」みたいなコメントも見ましたけど、やっぱそこに人間のドラマがあって。僕はオーカーン様をもっと好きになったんです。あからさまじゃないんだけど、見る人が見れば、わかってくれる。声を大にして「みんなでこう思ってくれ!」ってことじゃないと思うんです。
グレート-O-カーン:北村というやつのことは余はよく知らん。だが、マッスルポーズはその北村というやつがよくやってたポーズらしい、これは別に誰もわからなくてもいいんだ。実際、実況のやつですらわかってなかったからのお。伝わらなくてもよかったのだ。その北村とかいうやつのファンと、北村というやつにだけに伝わればよかったのだ。それをやることによって、北村のファンの胸につかえているものが消えれば、それだけでよかったんじゃ。
齋藤P:わかります。
グレート-O-カーン:だからそれが齋藤Pの言う部分のマニアックな部分じゃな。ユニバーサルな部分だと、あのマッスルポーズやると、わかんないやつは「おお、オーカーン今日は気合入ってるな」と思う。それでいいんじゃ。
齋藤P:そうなんですよね。2019年の『けいおん!』も「Don't say "lazy"」って曲やったんですけど、あのED映像って10年後にメジャーデビューしたときのMVっていう体らしいんです。まさに2019年って10年後だったし、あの時衣装も新調したんですよ、一夜限りのために。だから、わかる人は「あの衣装って、前に着たことないよね」とか「あれは10年後だよね」とかわかる。
――まさにマニアックの部分ですね。
齋藤P:最初にバーン!って火薬を出したんですけど、まったく同じじゃないけど、あれってさいたまスーパーアリーナでやった『けいおん!! ライブイベント 〜Come with Me!!』のオマージュなんですよ。『けいおん!』のファンだったら絶対にわかる。
グレート-O-カーン:なるほどなぁ。
齋藤P:現場のその温度感は、僕がこう喋って、改めて映像で見ると「そういうことだったんだ。でも俺、『けいおん!』って、実はちゃんと見てないよね」ってなるかもしれない。でも、それきっかけで見てくれれば、京都アニメーションが作った作品にみんなが足を運んでくれて新しいファンができる、作品が再評価されるっていう流れができるって思ってるんです。
グレート-O-カーン:その話を聞いて思ったのが、今年のアニサマで言うと、WANDSと大黒摩季じゃな。世代的にはもしかすると『SLAM DUNK』のエンディングを知らないやつもいるかもしれんし、あの頃とボーカルも代わっている。恥を偲んで言うと、余はWANDSはもう解散していると思っていたんだ。
齋藤P:だって、第5期ですから。
グレート-O-カーン:それを知らなかったのじゃ。あの日見てそれを知ったというのもあるが。あの2組が一緒に歌う、『SLAM DUNK』の主題歌を担当した2組が、というのは齋藤Pでいうマニアックな部分ではないか。加えて単純に、歌唱力が凄かったので、ユニバーサルな部分の感動もあった。終わったあと気になって、WANDSの歴史を調べて、新しいボーカルの曲も聴いてしまったしな。
齋藤P: WANDSの昔のオリジナルでは、実はコーラスを大黒摩季さんがやってるんですよ。だからリハのときに、「いやぁ、昔のオトコの方がしっくりきたけど、でも若いオトコとも、今はもう大丈夫」ってかっこいいことを言ってた(笑)。
――大黒摩季にしか言えない言葉ですね、それ(笑)。
齋藤P:ボーカルとコーラスって、そういう感覚らしいんですよね。それで言うと僕は、プロレスはやっぱ素敵だなと思った部分の一つとして、ただただ相手を痛めつけてるだけじゃなくて、セッションを感じたんです。「お前こう来るか。じゃあこれ、できるか」的な無言のやり取りを、戦いの中で敵としている。ミュージシャンの場合は、事前リハーサルできるけど、プロレスはそうじゃない。そこがすごい。
■アニサマには正直、出演者に勝ち負けはある
グレート-O-カーン:プロレスには勝ち負けがあって、勿論勝った方がいい。余たちは勝つために戦っている。だが盛り上げられない試合をして勝っても、自分の評価を下げるだけなのじゃ。褒められたことではないが、いい試合して負けた方が評価が上がることもある。いい試合をして勝つのが一番いいんだがな。いい試合をするっていうのはプロとしての絶対条件なんだ。ただ、ちょっと気になったのは、アーティスト共には勝ち負けは無いだろ? どこが目指すところなんだ? 何が一番で、もしそれが到達できなくても、どうすれば満足がいくんだ?
齋藤P:アニサマで面白いと思っているのは、シームレスに繋がっていくライブだからこそ、ちょっと前のライブの記憶っていうのが消されちゃうんですよ。だから僕はちょっとプレッシャーをかける。Poppin'Partyが最初に出たときに、「対バン、GRANRODEOとFLOWだから!よろしくね」って。
――うわぁ(笑)。
齋藤P:LiSAさんが出てた時も、「LiSAさんの前に、サプライズのアーティストいるんだけど、女性のロック歌手なんで、今は言わないけど、来たら着火すると思うんでよろしくね」って。「え、誰ですか?」「まぁ楽しみに」とか誤魔化して。リハとかでわかっちゃうんですけど、その時は土屋アンナだったんです。
グレート-O-カーン:おぉ!
齋藤P:強い人の次に出る人って、すごいプレッシャーだと思うんですよ。でも、そこに打ち勝ってもらう。わざとちょっとストレスを与えることで、いいパフォーマンスを引き出すっていうやり方をしていますね。アニサマはある意味、完全に対バンなんですよ。勝敗は無いけど、やることはプロレスと一緒。結局、どれだけ記憶に残ってるかが大事なんです。
――そうですね、あれだけのアーティストが出ますからね。
齋藤P:アニサマに出たときに、よく「爪痕を遺す」とかって言うじゃないですか。セットリストのツイートでも、RTの数とか、元々の人気もあるとは思いますが、見えるものはありますね。あと大事なのは、次にやる自分のワンマンに、「アニサマから来ました!」ってお客さんが来るかっていうのはすごい大事だと思います。fhánaとかはやっぱりそういう作用があったと思ってるし、あとスピラ・スピカとかもそうですね。幹葉のMCは印象に残りますからね(笑)。
グレート-O-カーン:すごい気になったな!あれは。
齋藤P:「何だあいつは!?」って思うんですよ(笑)。 でも、歌うとうまい。このギャップから、「どんなライブするんだろう」って気になるから、足を運ぶ。そしたらもう勝ちです。僕は正直、出演者に勝ち負けはあると思ってます。だから、アニサマとかでもセットリストは僕が決めるわけじゃなくて、相談して決めるんですよ。
――そうなんですね。
齋藤P:曲数制限とかも特に決まってないんですけど、あえて1曲入魂で行こうってときもあるんです。それこそ8分目で「もうちょっと聴きたい」って思わせることの方が有効なこともあるから。僕、必ず言うんですよ。「結局、ライブでのパフォーマンスっていうのは、イベントじゃなくて、アーティストに返ってくる。アーティストのステージは裸一貫でそこに乗っかるから、なんかそこでイマイチだったなー、もう一つだったなーっていうのは、ぜんぶ自分に返りますよ」って。
グレート-O-カーン:そうじゃのう。
齋藤P:だから僕は、「絶対にこれをやれ」とは言えないんです。相手が「これでやる」と決めたら、納得するしかない。
■ReoNaに感じた「削ったがゆえに、尖って刺さる感覚」
グレート-O-カーン:自己プロデュースの世界だからな。プロレスで下手くそなやつにありがちなのは「やればいい」と思ってることだな。跳べばいい、難易度高い技をやればいいというやつだ。でも、ただ跳んでも効率的じゃないんだよ。「今は、相手が首を痛めてるから、首に集中的に攻撃するべき。殴るだけでも首にダメージを与えれば、勝てる筋道が立てられる」のに、跳びたいがために、一旦外に出して休憩させて、跳んでみたりな。
――流れが悪くなるんですね。
グレート-O-カーン:そうじゃな、難易度高い技をやって、失敗したりもあるな。そういう試合の組み立てもある意味自己プロデュースなんだよ、ぜんぶ自分に返ってくる。自己プロデュースで言えば、アニサマだとReoNaってやつだな。恥ずかしながら、それまでReoNaを知らなかったんじゃ。だが前情報でこういうアーティストだって聞いてて、見たら凄く印象に残った。あいつは無駄なことをしない、だから目が釘付けになるんだ。動けば動くほど、会場を使えば会場をつかうほど、見える部分が増えて楽しいかもしれんが、止まってるとそこだけを見るから、客も集中する。削ったがゆえに、尖って刺さった感覚はあったな。
齋藤P:書いてましたね。ほんとそれ、真理です。やっぱねぇ、ReoNaはすごい。スペシャルステージっていう出島みたいなものを初めて作った時に、孤立してるから、移動もあるし、狭いし……とかって思ったんですけど、「いいな」って後押ししてくれたのが、リハーサルでReoNa見たときですね。ペンライトもまったくない真っ暗な中で、ピンスポだけで立つ彼女を見た時。
グレート-O-カーン:それを今まさにイメージしてたぞ。炎が出たり、ライトが激しく動いたりするのもいいが、会場真っ暗にして、ライトが一個だけ差してる姿も、滅茶苦茶カッコイイじゃないか。
齋藤P:そうなんですよね。僕の中で、勝手に名前をつけた演出がいくつかあるんですけど(笑)その中の一つですねあれは。他に「鈴木雅之捌け」とかあります。
――「マーチン捌け」ですか!(笑)
齋藤P:そう(笑)。どういうことかと言うと、他の人は「ありがとうございましたー」って言ったら演奏がズドンと止まって終わって、それで捌けるんだけど、マーチンさんは「ありがとー」って言って消えていくんだけど、演奏はずっと続けてる。マーチンさんが捌けきったらそこで演奏を止めるっていう。ステージにオーラだけを残して帰っていく王者しかできないやり方なんですよ、あれ。
――王者の貫禄(笑)。
齋藤P:今年は斉藤朱夏さんに、「パパパ」はミュージカルテイストで1曲入魂だから、それをやってみようって提案しました。ReoNAのあれは「いとうかなこ演出」。いとうかなこさんはピンスポ1本だけで歌唱力だけを引き立たせる。あとは、下手から歩いて入ってくる演出を、「早見沙織入り」とか呼んでる(笑)。 早見さんが「(やわらかい声で)こんにちは~」と入ってくると、もうそこに空気感ができる。
――めちゃくちゃわかりますそれ(笑)。
齋藤P:派手な演出っていうのは、ある意味、アーティストを補うことができるんですよ。だけど、情報のレイヤーが多ければ多いほど、歌で勝負してる人とかに対して、余計な雑味が入ってしまう。楽器でもそうで、アコーディオンとか個性の強い成分のものを入れると、曲の印象が楽器の印象に引っぱられてしまう。これ、結構難しいんですよ。
グレート-O-カーン:ふむ……齋藤Pと話して、余が思ったことが2つあるな……。
――それはなんでしょうか?
後編に続く!
インタビュー=加東岳史・秤谷建一郎 校正・文=加東岳史・林信行 撮影=荒川潤

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