藤本隆行×鈴木ユキオ「国際社会が抱
える問題群を寛容/不寛容という切り
口で考察」~Kinsei R&D『T/IT: 不寛
容について』

長野県茅野市にある茅野市民館は、市民が主人公になって事業のアイデアを提案したり、美術館やホールの運営に携わったりすることで全国的に注目されている。その一方で昨年、ラヴェルによる組曲「鏡」の楽譜におかれた一つひとつの音符をヴィジョンとして読み解き、身体の表現とヴィジュアルプログラミングを通して視覚化させた『鏡/Miroirs』という作品を上演し、観客を驚かせ、喜ばせた。アーティストたちは1週間ほどのレジデンスを茅野で敢行して仕上げを行った。そして今年のクリスマスには、国際社会がかかえる問題群を「寛容(Tolerance)/不寛容(InTolerance)」という切り口で考察することに挑む『T/IT:不寛容について』が上演される。ダムタイプなどの照明デザインやテクニカル・マネージメントで知られる藤本隆行の企画だ。2017年に話題を呼んだ初演から、今回はダンサー・振付家の鈴木ユキオが振り付けを担当し、また最先端のメディアアートと身体が融合する新たな作品が生まれる。
――藤本さん、この作品のコンセプトからお話しいただけますでしょうか。2017年に初演されているんですよね。
藤本 京都のダンスカンパニー、MonochromeCircus(モノクロームサーカス)の坂本公成さんから「何か一緒にやりませんか」とお声がけいただいたことで始まったプロジェクトです。この作品は第3弾として創作しました。内容については、ある人物の行動に対する僕の思いから始まりました。つまり、その人の「なぜそんなことするの」という行動はどこから生まれてくるものなのか、少なくとも僕の中では不条理だったり、整合性がまったくないように感じることなんです。そのことを考えていくうちに、もしかしたら寛容さが極度にないのかもしれないと思い、「寛容」に関する概念を調べていく中で生まれた作品とも言えます。
――寛容、不寛容は分断が起こりがちな今の時代に非常に重要なテーマでもありますね。
藤本 そうですね。寛容は宗教的な概念でもあって、すごく面白いんですよ。たとえば宗教的に敵対しているものと、どうしても同じ空間を共有しないと生き延びられないことがある。そのための生きる技術、それが寛容の始まりのような気がするんです。その関係性がすごく面白い。そこに宗教が入ってくるのは、人間が社会的な構造を持つ適者生存というか、この社会の中で生き延びていく方法として、社会化することを選んだことに結びつくと思っていて。昔は宗教は絶対者であるとか、自分たちには大きな力があると添えることによって社会が成り立ってきたのだと思うんですけど、そこに発生した概念が寛容さであるということなんです。
藤本隆行
――鈴木さんと新たにタッグを組もうと思われたのは、どんな理由からだったんでしょう。
藤本 この作品は2017年に京都で初演し、昨年つくり直そうと思って、振付をユキオさんにお願いしました。作品の骨格は変わってないんです。いくつかシーンを増やしたりはしているけれど、時間軸として流れていくものはほとんど同じ。その中で振りを変えたいというお願いをしています。ユキオさんとはこれまでも何度かご一緒しているんです。怒られるかもしれないけれど、彼のダンスには野蛮さみたいなのもがあって。それは力強さと言い換えてもいいのですが、人間の表現に関する原初的な魅力がある。もちろん振り付けするにあたって一つずつ組み立てていく繊細な作業はされているんでしょうけど、その根源的な力みたいなのがある振りがこの作品の骨格には合うんじゃないかと思ったんです。
――鈴木さんは藤本さんとのお仕事をどう捉えていらっしゃるんですか。
鈴木 僕自身は藤本さんがおっしゃったように、身体で見せる、身体そのものにフォーカスしてダンスをつくってきたので、どうしても身体に向かいすぎてしまうところがあるんです。それに対して藤本さんは照明の側から違う見方を僕に与えてくれる、広げてくれるんです。そういう意味ではすごく助けられています。一緒にやることが、僕の考える身体に意外と合うんじゃないかと思っていて。僕の非常に細かいこととか、エネルギーみたいなものをよりわかりやすく見せてくれる照明をつくってくださるんですよね。
鈴木ユキオ
――今回の作品での振り付けはどんなふうになりますか?
鈴木 宗教的なこととペストのような感染症、今で言うとコロナになるかもしれませんが、何だか似ていますよね、どんどん広がっていくようなところとか。その辺りが身体でうまく表わせたら。細胞のように記号的な部分と、非常に熱狂してしまう人間の身体みたいなものがうまく描ければいいと思っています。
 でもでき上がった骨組みの中に飛び込んでいくようなつくり方は初めてで、逆に初めてだからすごく新鮮で面白いですよ。ストーリーのように展開するわけじゃないけれど、シーンごとに意味や目的、意図がすごくはっきりしてるので、その制約の中で自分のひらめきとうまく合わせていく楽しさがあるんです。ゼロから自分のイメージでつくっていくやり方も面白いけれど、これだけきっちりした流れの中に、身体を合わせていくのも新鮮で面白いですよ。
――テクノロジー的な表現の中で身体は戦うのか、融合していくのか、苦労や面白さはどのように感じられているんでしょうか。
鈴木 僕の中にはテクノロジー的なアイデアはあまりないので、それを楽しんでいる部分が大きいですね。藤本さんがつくってくださっている骨格の中で、それを汲み取りながらも、挑むような形で、いろいろな身体を提案ができるのは楽しいです。
『T/IT:不寛容について』初演より Photo by Kim Sajik
――ダンサーの皆さんはご一緒された経験もおありんでしょうか。
鈴木 いえ、一緒にやるのは今回が初めての方たちばかりです。3人のダンサーがメインで踊りつつ、別の角度から小倉さんが存在し、役者さんも身体を使ったりという感じで構成しています。皆さんとは僕の身体に対する考え方や感覚を、ワークショップやウォーミングアップを通して共有しながら、やっている。ダンサーとして力量のある方々ばかりなので、僕のダンスに対する考え方や振り付けの動機など核になる部分をシェアしてもらうことが一番大事かなと思って、そこを中心にやってます。
――藤本さん、鈴木さんの振り付けはいかがですか。
藤本 これまでご一緒はしてきたんですけど、本当にゼロからつくっていくところをずっと横で見るのは初めてなんです。それこそ僕もこんなふうにするのかと楽しく見ています。
『T/IT:不寛容について』初演より Photo by Kim Sajik
――デジタルはどういうアイデアからスタートするんでしょうか。
藤本 僕個人の話ですと最終的には舞台セットになってきます。どこに映像を映そうか、ギミック的なことを使うにはどう入れ込むかとかを考えます。今回は2メートル角の大きなキューブが舞台上に二つあるんですけど、まずはそれをスクリーンにして、上にも登れるようにしようみたいなところから始まりました。僕は監督と名乗っているんですけど、実は細かい演出的なことはほぼやらないんです。こういう環境をつくった中に、こういう人たちを入れたら何が現れるんだろうと考えるほうなんです。たとえば映像は出演者でもある長良将史さんがつくっていますが、彼の作風は知っていて、こういう投影画面があって、こんなテーマでつくりたいということは伝えますが、あとは上がってきたものを見て考えるというつくり方をしています。それは他のメンバーについても同じです。長年一緒にやってくれている人たちだから安心して任せられます。そういう意味で言えば映画監督に近いと思いながらやっているんです。
『T/IT:不寛容について』初演より Photo by Kim Sajik
――最後に茅野で上演されることになった経緯も伺えますか?
藤本 先ほども申し上げたように京都で初演し、昨年は富山でレジデンスする予定でいたのですが、現地に向かう1週間前にコロナのまん延防止等重点措置が出てしまい、企画が止まってしまった。実は僕は、昨年の、岩田渉さんがプロデュースした『鏡/Miroirs』に照明で参加していたんです。また茅野市民館前館長の辻野隆之さんとは、辻野さんが東京のスパイラルホールにいらっしゃったころからの知り合い。辻野さんにはダムタイプのツアーにもついていただいたこともあって。そのほかにも茅野でモノクロームサーカスと僕がコラボレーションした『Refined Colors(リファインドカラーズ)』を上演させてもらったこともありました。そして久しぶりにお会いした際に辻野さんやスタッフさんといろいろお話をしている中で「何かあったら」と言ってもらえたので、今回もご相談したわけです。市民の皆さんと手づくりでされる表現と、こういう先端的な表現、両方できる場はステキですね。
『鏡/Miroirs』より
――改めて、どんな作品になりそうか語っていただいけますか。
藤本 人間って自分のことはそんなに考えないじゃないですか。それを改めて考える契機にはなると思うんです。なぜ僕はこうなんだろうでもいいですけど、日ごろ疑問に思わないことをなぜだか考えたくなってしまうような作品にはしたい。それこそデジタル技術を使った作品の良いところ、目指すところだとも思うんです。普段はよく知っていることでも、違う方向から見ると違う形に見える、そういった体感をしていただきたい。そういう意味では、決してクリスマスに相応しい作品かはわかりませんが、1年の区切りに少し時間を使ってもらう分には悪くない作品です。
取材・文:いまいこういち

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