[Alexandros]川上洋平、ピンクの雲の
出現により一歩も外に出られなくなっ
た人々を描くロックダウン・スリラー
『ピンク・クラウド』を語る【映画連
載:ポップコーン、バター多めで P
ART2】

大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回は、10秒で人を死に至らしめる“ピンクの雲”の出現により、家から一歩も外に出られなくなった人々の新たな生活と感情の変化を描くロックダウン・スリラー『ピンク・クラウド』について語ります。
『ピンク・クラウド』
――『ピンク・クラウド』はどうでした?
僕的には80点は超えなかったけど、好きでした。ピンクの雲が突然現れて、それを吸ったら死ぬから人々は家から一歩も出れないという設定で。確かに映画の冒頭で、「この映画はコロナ前に制作された」みたいなドヤ顔メッセージを添えちゃうぐらいにはコロナ禍を彷彿とさせる物語ではあるんだけど、それを抜きにしても好きでしたね。
――なるほど。
そこまで評判はよくないし、いろんなレビューで「食料がどうやって供給されるのか」とか「そもそも仕事はどうやって続けられるのか」みたいなごもっともな穴の指摘も見受けられたけど。でもさ、そこを突っ込む映画でもないじゃん?(笑)。ピンクの雲って時点で、別に(クリストファー・)ノーラン監督みたいに本格的なSFな雰囲気を漂わせてるわけじゃないから。星新一的なちょっとした短編小説のような映画みたいな感覚で観ると楽しいけどな。
――今作が初長編作品となるブラジル出身のイウリ・ジェルバーゼ監督は、サルトルの『出口なし』とルイス・ブニュエルの『皆殺しの天使』を意識したみたいで、制限された状況下での生存競争を描くのではなく、感情の変化がどう変化して行くかを描きたかったと。物語の中心にいるのは一夜の関係を共にしていたジョヴァナとヤーゴの男女ですが、ふたりを中心に登場人物たちの思想が露わになっていきます。
ですね。ヤーゴ(男性)はそんなロックダウンの状況を「受け入れよう」ってなる。一方、ジョヴァナ(女性)は受け入れられなくて。どんどんその二人の関係に亀裂が走るわけだけど。いやー、俺はジョヴァナ派なのでこんな人と一緒に閉じ込められたらおかしくなるなーと思っちゃいました。コロナ禍になった時も、「もうウィズコロナでいいじゃん。一生マスクでも良い」とか、「ずっとロックダウン状態のままでもいい」みたいなことを言ってた人が少なからずいたじゃないですか? 嘘でしょ……?と。まあ人それぞれではあるんだけど。でも俺は無理や。閉じ込められるのも、マスクも嫌いだから。だから、ジョヴァナ側に感情移入してしまいました。
――まあそうですよね。
ヤーゴは「子供もできたわけだしさ」みたいなことを言うんだけど、ジョヴァナは「そうなんだけど、なんでそんなお気楽モードなの!」みたいな感じでちょっと怒るじゃん。「わかるわー」ってなってました。
『ピンク・クラウド』より
■雲がピンクなのがミソですよね。いかにもな毒々しい色じゃない
雲がピンク色ってのがミソですよね。いかにもな毒々しい色じゃないし。なんかおしゃれな感じ。The 1975のセカンドのジャケットみたいな。
――たしかに(笑)。あのネオンの色ですね。
そうそう(笑)。バトルスの『Gloss Drop』のジャケ写のピンクも思い出したけど、それよりはもうちょっと淡くて。あえて嫌悪感を感じさせない雰囲気のピンク色。でもそこが不気味でしたね。生まれた子供も「僕はあの雲好きだよ」みたいなことを言うんだけど、なんか人工甘味料に騙されてるみたいで恐ろしくなりました。
――この連載でも取り上げた『ビバリウム』にも通じるビジュアルというか。
あのディストピア感に通ずるものがありますよね。
――『ビバリウム』は外には出れるけど謎の住宅街からは抜けられないという状態が続くわけで。抜け出せないという共通点はありますね。
ベランダにすら出れないのってキツいなー。コロナ禍の最初って外も出歩き辛かったじゃないですか。 ちょっとでも解放的になりたくて、UberEats頼んで、ベランダで食事したりしたけど(笑)。それもできないってことですもんね。
――気を付けながらの散歩がちょっとした息抜きという人もいましたけど、それもできないっていう。
あの時期のことを思い出しましたよね。

『ピンク・クラウド』より

■最初は平気でもだんだん狂ってくる人間の感情の揺らぎを上手く描いている
――特に印象的だったシーンというと?
んー……今ぱっと思いついたのは、マンネリ化した2人がセックスのアプローチを変えてみようとしたシーンかな(笑)。部屋をクラブっぽい雰囲気にしたり、ちょっとしたコスプレもして。でもなんか途中でバカバカしくなっちゃうシーン。ああ、切ないなって(笑)。
――形から入るみたいな感じでしたよね。
あとヤーゴがVRヘッドセットをプレゼントして、それをジョヴァナが装着してビーチに行った気分に浸るシーンも変にリアルだったな。というのも、俺もコロナ禍でVRでよくゲームしてたので(笑)、ああいう状況になったらすごく流行るだろうなって。
――外に出れないから家の中を充実させていくという。そもそもジョヴァナとヤーゴはたまたまピンク色の雲が現れる前夜に知り合った一夜の関係性だったわけですけど、登場人物それぞれ、いろんなシチュエーションで閉じ込められていて。ヤーゴの父親は主治医と閉じ込められ、ジョヴァナの妹は友人家族と閉じ込められ。
ジョヴァナの友達は一人でしたもんね。だから二人で閉じ込められたジョヴァナはまだ良い方なんじゃないかなと思ったけど。
――仕方ないところもありながら、パートナーになりましたから。
一人で延々に過ごす方がキツいかも。最初は平気でもだんだん狂ってくる人間の感情の揺らぎを上手く描いてましたよね。ただエンディングはちょっとだけ拍子抜けしたな(笑)。もう少し観たかった。
――様々なメッセージが読み取れますけど、単純なエンタメとして楽しめるシチュエーションや設定でもあります。
THE単館映画って感じで楽しいですけどね。不気味だけどなんかちょっと小洒落てる。
『ピンク・クラウド』より
■いつだって希望は持っていたい
――[Alexandros]は緊急事態宣言が出ていた時期にリモートアルバムを作りましたが、『ピンク・クラウド』の世界でもリモート制作はできる。ただ、それが延々と続くというのはどう思います?
いやー、辛いですよ。この前のツアーファイナルは声出しOKになったんですが、感動しましたもん。お客さんもそうだったんじゃないかな。「こういう世界が戻ってほしかった」ってつくづく感慨深かった。俺、“ウィズ・コロナ”っていう言葉嫌いなんですよね。コロナなんかと一緒に生きるのなんてまっぴら。だって、“ウィズ・インフルエンザ”とか言ってなかったわけだしさ。意味はわかるけど言葉にしないでほしい。
――新たな現象が生まれると、そこに名前を付ける風潮が今はありますよね。
“ウィズ・コロナ”って言われると、それに捉われてマインドが奪われちゃう。“共存できたイコール打ち勝った”っていう風に思いたいんですよね。「何てことはないものになったんだ」っていう。人間は誰しも死ぬわけだけど、ずっと死に捉われて生きているわけじゃない。取り戻せるものは取り戻せるわけだから。
――そうですよね。
だからやっぱり俺は“ウィズ・コロナ”って言葉が好きじゃない。取り戻せた時の解放感には、“打ち勝った”って気持ちをすごく感じるし。それってすごいことだと思うから大事にしたいね。だから、『ピンク・クラウド』のジョヴァナはロックダウンが延々と続いて「もう無理」ってなってたけど、あの絶望感たるやものすごいだろうなと。ただ、いつだって希望は持っていたいなと思います。
『ピンク・クラウド』より
■『ピンク・クラウド』は絶妙な間柄の人と閉じ込められる
――誰と閉じ込められるのがすごく重要だなといろいろと考えてしまいました。苦手な人とだったらどうしようとか(笑)。
「意外とあり!」ってなったりするのかもよ(笑)。
――ありになった方が自分としても良いですしね(笑)。
この前この連載で取り上げた『奈落のマイホーム』は陥没穴に閉じ込められた映画で、家族や隣人とかと一緒に閉じ込められたわけですけど、『ピンク・クラウド』は絶妙な間柄の人。『ゾンビの中心で、愛をさけぶ』っていう映画の設定にも割と近い。
――倦怠期の夫婦が力を合わせてゾンビの世界で生き抜くというストーリーの。
あれも好きでした。
――川上さんは『ビバリウム』の時は「(主演の)イモージェン・プーツとだったら一緒に閉じ込められてもいい」と言ってましたけど(笑)。
めちゃめちゃ良いでしょう! でも最近はカレン・ギランが好きですね。『デュアル』とか『アベンジャーズ』シリーズ、あと『ガンパウダー・ミルクシェイク』に出てる。この前、「東京コミコン」で来日してたんですよね。
──そうでした。次々回は「2022年カワカミー賞」を発表する予定ですから。
そうですよね。カレン・ギランはもう大本命ですね。って、全然関係ない話題で終わりかい!(笑)。

取材・文=小松香里

※本連載や取り上げている作品についての感想等を是非spice_info@eplus.co.jp へお送りください。川上洋平さん共々お待ちしています!

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