新時代を担うミュージシャン・TOMOO
はなぜ、大人や子どもについて歌うの

Official髭男dism・藤原聡、YOASOBI・ikura、Vaundy森七菜マカロニえんぴつ・はっとり、三浦大知ら錚々たるミュージシャンから絶賛されている、TOMOO。8月にメジャーデビューを果たした彼女が、新曲「17」などを手に、福岡、札幌、名古屋、大阪、東京の5年をまわる初の全国ツアー『TOMOO 1ST LIVE TOUR 2022-2023“BEAT”』をスタートさせる。ミュージックビデオの総再生回数が700万回近くを記録し、「ライブチケットが入手困難」とされるなど大きな注目をあつめるTOMOOに、楽曲づくりの背景やライブツアーの意気ごみなどを語ってもらった。
TOMOO - 17【OFFICIAL MUSIC VIDEO】
――「17」はじめ、TOMOOさんの楽曲はどれも思わず口ずさんでしまうキャッチーさがありますね。
鼻歌で、サビのワンフレーズがパッと浮かぶことが多いんです。「17」もそうですが、考えてつくるというよりもフッと出てきます。電車を乗り降りする瞬間、お風呂に入っているとき、違う曲の練習をしているとき。「17」は、音楽のスタジオのような場所へ通っていたとき、わきみちにセブンティーンアイスの自販機があって、そこで思いつきました。
――「17」は17歳の頃を思い出す曲というより、もやもやとしたモラトリアムなどから抜けだすような情景を感じました。<暗いビルの出口>という歌詞は、青春のその先にあるものをイメージさせますね。
たしかに青春のその先というのはテーマにありました。内容も17歳の頃を思い出しているのではなく、20代半ばの目線から「たとえば17歳の頃にこの人と出会っていたらどうなっていただろう」という、抽象としての「17歳」を表現しました。「これから本当に大人になっちゃうんだ」という現実感がひしひしをわいてきたその先について歌っています。
――まさに大人に向かっていく様子ですよね。ちなみにTOMOOさんはいつ頃から大人の実感を得ましたか。
周りは就職しているけど、自分はバイトしながらミュージシャンをやっていたときです。そこで「私の土台はこれなんだ」とあらためて気づかされたんです。練習帰り、仕事終わりの同年代と会って「ハッ」となって大人を意識しました。ただ10代のときは良くも悪くも先が見えないことが、つらかったり、逆に希望になったりしていたけど、20代になってカオスに見えていたものの視界がだんだんすっきりしていきました。いろんなものを整理できるようになり、自分の立ち位置やその先も見えるようになって、そこで大人になった気がしましたね。
――視界がひらけたような?
感情とか自分のなかの感じ方が整理できるようになってきたんだと思います。人と会話しているときも、それまで感覚的に喋っていたけど、徐々に人との共通言語みたいなものを見つけることができて。ズレが少ない形で話ができるようになっていきました。きっと、ある程度の物事に対して初体験感情じゃなくなっているから思います。いろいろ引き出しが増えていて、カテゴライズもできて、物事を俯瞰して見ることもできて。10代のときって何かに対してわけも分からず圧倒されて、大きく受け止めていたから。そういう感覚がしぼんでいるので、ある意味、安心感もあるけど寂しさも感じます。
――いろんなことがクリアになってきたことは、音楽制作にも良い影響が出ていますか。
いえ、制作する分にはやりづらいです。「曲が分かりやすくなった」と言われることは増えました。共通言語を昔より入れることができるし、伝わりやすいワンフレーズを入れることにも恐れがなくなったからかなと。感情をあらわす言葉も、以前は婉曲したり感覚的にやっていたけど、たとえば「ロマンスをこえよう」(2020年)の<君だけ 君だけ 私が笑えるのは君だけ>という歌詞みたいなことも書けるようになった。そうやってクリアになった分、歌いたいテーマが今の自分より遥か先のものになると、自分では扱いきれないことを理解できてしまってゴチャゴチャになっちゃいます。
TOMOO - ロマンスをこえよう【OFFICIAL MUSIC VIDEO】
――「17」のセブンティーンアイスも名詞的なキャッチーさがありますよね。あの自販機は、いろんな街や駅、そしていつの時代でも置いてあって普遍性そのもの。アイスに巻きつく包み紙を剥がしたり、蓋をめくったりとかも誰もが一度はやったことがあるはず。
そうですよね、ずっと変わっていない感じがします。セブンティーンアイスってすごくフラットと言うか、ニュートラル。存在の主張具合がちょうど良い。大人向けとか子ども向けみたいな演出もしていなくて、自販機は淡々とそこに佇んでいて、でもうっすらとした可愛らしさもたたえている。あの存在感は、壮大なストーリーは想像しないけど、情緒を託すことができる。なにより自販機という響きがすごく日常的で、暗いなかでポッと光を放って立っている印象がある。過剰さがなくて、安心感と温かみが漂っている気がします。
――「17」ではモラトリアムから抜け出す雰囲気が描かれていて、「酔ひもせず」(2022年)でも<子どもじゃないのよ いいかげん>と歌っていらっしゃいました。TOMOOさんは、子どもとして見られること、もしくは子どもっぽく見られることへの違和感をかかえていたんじゃないかなって。
10代の頃はそうだったのかもしれません。音楽活動を始めた17歳のとき、大会に出たら同世代もたくさん出ていて。そこで大人の人たちから「君は本当に成熟していないね」というようなことを、よく言われていたんです。悪気があったわけではないでしょうけど、当時は「私って子どもっぽいんだ」とガーンと落ちましたね。
――あどけなく見られている風には感じられなかったんですね。
「頼りにならない」「守られて生きている」「タフではない」とか、そういうニュアンスを強く感じ取りました。それからは「自分は子どもっぽいんだ」というコンプレックスが根づいてしまって。たとえば「レモン」(2017年)では、10代の目線で「大人になりたい」という心情をあらわしました。そういう気持ちがずっとあったので、「あなたのことを理解したいけど、私の生き方ではまだ無理なんだろうな」という歌が多かったかもしれないですね。
――たしかに「子どもっぽい」と言われると複雑ですよね。
当時はすごく悲しかったです。大人っぽく見られたいんじゃなくて、「君には理解できないだろうね」と言われている気がして。そうやって線引きせず、もっとちゃんと、人と人で接したかったから。
TOMOO - レモン (Live from "Estuary" , 2022)
――そういったさまざまな心情を刻んだ楽曲をひっさげて、ライブツアー『TOMOO 1ST LIVE TOUR 2022-2023“BEAT”』がスタートします。この「BEAT」というタイトルはどんな意味で名づけられたんですか。
冬だし、血行が良い感じになりたいということでハートビートという意味があったり(笑)。あと、ドラムなど打楽器への憧れとか、私自身がピアノを弾くときガツガツと叩くように演奏するスタイルのこととか、「ピアノも打楽器」という考え方とか。いろんなことを「BEAT」というタイトルに詰めこみました。あ、そういえばタイトルを思いついたときは、喉のケアの薬を飲んで心臓がバクバクしたことがあって、そのタイミングでノリでつけたりもしました。しんどかったので、「BEAT IT=打ち勝つ」みたいな気持ちも入っています。
――今回のツアーを経て、2023年のTOMOOさんはどのように活動される予定ですか。
シンプルなものを作りたいなと考えています。2022年はいろんなものを詰め合わせたり、掛け合わせたり、そういうカオスさを自分自身で許しながらやってきました。来年はシンプルに、だけどグッとなる曲をお届けするつもりです。そのうえで、いろんなものをもっと広く見せていきたいです。
『TOMOO 1ST LIVE TOUR 2022-2023“BEAT”』
取材・文=田辺ユウキ

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