林原めぐみ

林原めぐみ

【林原めぐみ インタビュー】
こんなに戦いを鼓舞している曲は
林原史上“最恐”

どっちを選んだから正しいではなく、
選んだところから始まるということ

今回は収録2曲とも“速い”“高い”“力強い”と三拍子が極まっていて、これはレコーディングも大変だったのでは?

毎回出たとこ勝負なんで、私(笑)。「集結の果てに」でも“無理無理! これは半音下げる?”って言ったのに、作曲編曲のたかはしごうさんが“大丈夫! めぐさん出るから!”って。“温まった頃に歌えば絶対に出ますよ”って言うから、“そうか。じゃあ、やるよ”って、毎回リングに上がるような気持ちです。

しかも《この手を 伸ばして/離さない 君だけ》というサビのど真ん中で、転調までしてません?

すごいよね、本当に! でも、なんとなく分かるんです。この音階を悠々と出すのではなく、“出ないよ!”と言いながら一生懸命に出してる感じが、指先が届くか届かないかっていう景色につながっているのかなって。だから、最初は裏声でフワッときれいに歌うことも考えたんですけど、“出してみるか!”って出した結果、もうこれだなと。上から手を差し伸べて“離さないよ、おいで”ってやさしく迎える側よりは、“あと1センチ! あと1歩!”って必死に手を伸ばしている側のほうが、この歌には合っているんですよね。

分かります! 余裕がなくてギリギリだからこそ出るエモさは、特にバトル系の世界観では重要じゃないかと。

そうだね、エモさだね! そこが人っぽいと思うんです。人間味があるというか。あと、たかはしさんは音回りにもすごくこだわってくださって、このベルの音は実は光を表しているだとか、いろいろ仕込まれているんですよ。ただ、そういった楽器の意味だとかは、歌うにあたって私はあえて拾わず。何かを意識してどうするんじゃなく、とにかく“全員引っ張っていってください!”って言われたから、“はい! 全員連れてきます!”って(笑)。

おかげでど頭から、まさに全てを飲み込んでいくような強さを感じました。しかも「集結の時 ~Territory~」と「集結の果てに」で、同じような始まり方をしていて。

それは先方のご要望ですね。もうイントロなんてやっている場合じゃないんですよ! それでいて2曲で絶妙に変えているのがたかはしさんのうまいところで、「集結の時 ~Territory~」がロックなら、ピアノで始まる「集結の果てに」はちょっと怖い感じにって。

よりシンフォニックですよね。「集結の果てに」の作詞は「集結の時 ~Territory~」を書き終えられてから?

まぁ、ほぼ同時進行ですね。曲制作に入る前にストーリーのヴォイス録りは終わっていたので、なんとなく話は分かっていたんですよ。そこからレイが見た景色、シンジくんやアスカが見た景色もちょっと入れてみようかなと。

では、《清(あお)き咆哮》に《清(あか)き衝動》と、色の対比が仕込まれているのも…

単純にレイとアスカをイメージしているかな? “衝動”は自分の中に湧き上がる、大事なものを守る気持ちですね。で、“咆哮”はゴジラです!

他にも《忘れ去りたい昨日 築きたい明日》というように対比が多用されていて、こちらもなかなか考察が捗りそうな歌詞ですよね。

『エヴァンゲリオン』が好きな人って考察も好きだから、そのへんはあえてやっているかも。そもそも私が歌詞を書く時の基本的なスタンスとして、“表裏一体”というものがあるんですよね。正しいか間違っているかなんて簡単には判断できないし、後悔から学んだり、負けたと倒れ込んだところで見つかるものがあったりもするので。“正と負”や“静と動”とか、そういった相反するものって何事にも共存していて、例えば正しいと思って突き進む先に戦争があったり、正しさの追求が悲劇を呼ぶこともあったりするじゃないですか。普段の生活でも“もう嫌だ”と言いながら明日のことを考えなきゃいけなかったり、“これでいいのかな?”と自問自答したり。そういったきっかけになるものというのは、散りばめてはいるかもしれないですね。

ラジオを聴かせていただいても思うのですが、林原さんって視点が常に全方位に向いていますよね。ひとつの正義の裏に、もうひとつの正義があることを認識されているというか。

まぁ、経験がそうさせているところもあるし…だから、陰陽のマーク(太極図)なんかも好きではありますね。2002年に出した『この星』っていう本の中でも書いたんですけど、20代の頃かな? 地球の上空にバーン!と幽体離脱みたいに連れて行かれて、戦争と平和、男と女、白と黒とかっていう相反するものをフラッシュバックみたいに見せられて、“ほらね、この星はそういうことを学ぶ星だから”って言われる夢を見たことがあるんですよ。どっちを選んだから正しい、間違いじゃなくて、選んだところから始まるっていう。

まさしく神のお告げじゃないですか!

他にも30歳になるかならないかの頃、フッと“事務所を辞めようかな?”と思ったんです。すごく良くはしてもらっていたけれど、事務所にいたらそれなりに貢献しなきゃいけないじゃないですか。ガンガン仕事を詰め込むより、もうちょっとゆっくり自分のペースで生きたいなと。で、何日か後に事務所に“辞めたいです”と言ったら“うん、OK!”って、“こんな円満退社ってある!?”っていうくらい円満に辞められたりとか、そういう経験も大きいんじゃないかな? あとは、“後悔したくない”と言ってる人ほど後悔しがちで。“もういいの。私の決めたことだから、後悔しても構わない!”と思ってやっている人ほど後悔しないというか。だから、“今いる場所でどう生きるか?”というのはテーマとして常にあるかも。失恋だとか就職がうまくいかないとか、生きていればマイナスなことってしょっちゅう降ってくるけど、要は“倒れたところからどうするか?”っていう。そのマイナスも、小さい筋トレだと思えばいい。

ある意味、心の筋トレですよね。

そうそう。そういうのは常々どの曲にも込めているとはいえ、今回は力こぶがでかすぎて!(笑) 身近なところに落とすのは非常に難しかったんですけど、絶大なる強さというのは恐怖だけじゃなく憧れでもあるから、なんとかそことうまくシンクロできればなと。

いや、エヴァンゲリオンとゴジラとキングギドラが三つ巴になる物語の主題歌なんて、オファーされたら普通は“どうしたらいいの!?”と戸惑うところ、林原さんだから先方も安心して預けられるんだなと納得しました。林原さんならば、どんなテーマでも良きところに落とし込んでくれるという信頼があるんでしょうね。

ありがとうございます。手前味噌ですけど、もしも林原めぐみという歌い手さんがいるんだとしたら、歌唱能力という部分だけでなく、言葉の使い方であったり、世界に対する構築の仕方までを含めて見てくださっているんだろうなぁと。

だから、人外の怪獣たちをモチーフとしているのに、人として心に響く曲になっているんでしょうね。

ゴジラとキングギドラとエヴァンゲリオンをリアルに表そうとしたら、たぶん言葉はいらないんですよ。それこそ鷺巣詩郎さんのような、出現の恐怖だったり、闘争心だったり、もしくは忠誠心だったりを添えてあげられる楽曲が良くて…。そこに詞を、ましてや日本語で当てるとなると、やっぱり人が聴くものとして言霊が残ったほうがいい。なので、激しくて最恐を突っ走ってる作品のようではありますけど、今回は歌詞カードも見れますから。何回か聴いてちょいちょい滲みてきた頃に、みんなの人生のちょっとだけの応援ができたら嬉しいですよね。

OKMusic編集部

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