木村カエラが数多のアーティスト、
ミュージシャンから
寵愛を受け続ける理由を
アルバム『Scratch』から探る

それでも彼女のカラーは埋没しない

楽曲毎の参加ミュージシャンを記しながら、ザっと全曲解説してみた。仮にこのメンバーが全員、それぞれのバンドで集まってライブをするとしたら、それは本格的なロックフェスに十分なり得る顔触れである。これだけのメンバーを自作に集める木村カエラの魅力は相当なものであることを理解していただけるだろう。音楽シーンでその名を轟かす猛者たちを向こうに回し、こうしてパフォーマンスできるというのは何よりすごい。そんじょそこらのシンガーであれば萎縮して、自身のカラーをまったく出せないなんてことにもなりかねないだろう。ていうか、そっちが普通のような気がする。こうしてアルバムを作っていることが、木村カエラがいかに大物かの証拠と言える。彼女のすごさは、癖のないヴォーカリゼーションもさることながら、独自の世界観を貫いていることが最大の特徴ではなかろうか。音楽界の名立たるアーティストが提示する個性に変に阿ることなく、木村カエラならではのカラーをそこに違和感なく融合させている。今作において、個人的に白眉に思ったのはM4「ワニと小鳥」の歌詞だ。

《君のステキなところも/ボクはわからなくなってた/1番うばってはいけないもの/気に入らないことに/ハラを立てて/君を食べた》《だからね/いつも頭の上に止まる/小鳥を見上げて笑う/君に重ねて/思い出してる/たくさん話をして/言葉を聞いて/こんなボクなら/生かしてあげれるかな》(M4「ワニと小鳥」)。

おとぎ話にも似たファンタジーな語り口でありながらも、実に生々しくも残酷な現実をメタファーとしている。また、残酷だからこそ、柔らかさと優しさが際立っているとも言える。こんな筆致はポップミュージックではそうあるものではない。これだけでもアーティストとして相当な才能の持ち主であることがよく分かる。ベテラン、同世代、洋邦を問わず、木村カエラが愛されるのも同然である。

TEXT:帆苅智之

アルバム『Scratch』2007年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.L.drunk
    • 2.Magic Music
    • 3.Snowdome
    • 4.ワニと小鳥
    • 5.dolphin
    • 6.sweetie
    • 7.きりんタン
    • 8.Scratch
    • 9.SWINGING LONDON
    • 10.never land
    • 11.TREE CLIMBERS
    • 12.JOEY BOY
    • 13.Ground Control(Album Mix)
『Scratch』('07)/木村カエラ

OKMusic編集部

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