けいちゃん

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【けいちゃん インタビュー】
音楽が好きな人であれば
必ず楽しんでもらえる自信はある

YouTubeにアップした超絶的なピアノのプレイが大きな話題を呼び、2021年6月にCDデビューを果たしたけいちゃん。ニューアルバム『聴十戯画』は豊富なアイディアと、それを良質な楽曲に仕上げる手腕、卓越したピアノ演奏などが相まって非常に魅力的な一作になっている。高度な演奏力と豊かな感性を兼ね備えた彼だからこそかたちにできた好盤について訊く。

今の自分がやりたいことが
ピアノの音を主役にして表現すること

今作を作るにあたってテーマやコンセプトなどはありましたか?

それがまったくなかったんです。“こういうアルバムにしよう”という構想とかは一切なくて、頭の中から出てきた順に10曲を集めただけなんです。本当に、先着で辿り着いた10名みたいな(笑)。なので、“戯れに描いたものを10個集めました”という意味で“聴十戯画”というタイトルにしました。

『聴十戯画』に収録されている10曲はそれぞれテイストが違っていますが、それも意識したわけではないと?

しなかったです。自然といろいろな曲が出てきました。

前作『殻落箱』(2021年6月発表のアルバム)ではヴォーカルや作詞などにチャレンジされましたが、今回はピアノにフォーカスしたアルバムになっていることもポイントと言えますが。

それもまったく意識したわけではなくて、今の自分がやりたいことがピアノの音を主役にして表現することでした。なので、次のアルバムはまた声が入っているかもしれないし、また違ったアプローチのピアノで表現していくかもしれない。僕はそういうスタンスで作品を作っていきたいと思っているんです。

その時その時の自身のリアルな姿を届けたいんですね。では、『聴十戯画』の中でキーになった曲を挙げるとしたら?

どうだろう? 今までの自分とはちょっと表現の仕方が違う感じがするのは「人間失格」と「かげおくり」ですね。「人間失格」は制作時間が一番短かったんです。『人間失格 太宰治と3人の女たち』という小栗 旬さんが主演の映画を観た時、“恥の多い生涯を送ってきました”という台詞に刺激を受けて、観終わった時に頭の中で曲が出来上がっていたんです。なので、すぐにピアノに向かって、録音して…という感じでできました。

「人間失格」は中間のセクションで世界が変わりますが、ああいう展開も自然と出てきたのでしょうか?

出てきました。この曲は本当に過去最高くらいの早さで出来上がったんですが、逆にレコーディングに一番時間がかかりました。僕はアドリブを入れる曲が多いんですよ。わりと自由に弾いて“どのテイクにする?”みたいなことが多いんですけど、「人間失格」はアドリブは一切なく、自由に好き勝手弾いたので、想定していなかったくらい難しい曲になっていたんです。レコーディングは9時間くらいかかりました。音にもすごくこだわり、後半はめちゃくちゃ難しい和音を使っていて、もう本当に大変で。そういうところで思い出深い作品にはなりました。

「人間失格」は大正ロマンが香る世界を鮮やかに表現されていることが印象的でした。もう一曲の「かげおくり」は陰りを帯びていて、なおかつノスタルジックな雰囲気もあるという美麗なスローチューンですね。

僕の中では白くぼやけているようなイメージの曲です。“成長の儚さと尊さ”を描いた作品なんですけど、僕の頭の中に流れている映像は常にぼやけているというか、白みがかっていて。まさにノスタルジックという感じで、それも表現したくてサウンドをそういう方向に持っていきました。成長は止まることができないものなので、嬉しい反面ちょっと寂しさもあって。でも、その止まらないことが美しい…みたいなことを表したくて、わりと一曲の中でストーリー性を持たせて、成長だったり、人生だったりを表現しました。この「かげおくり」と「人間失格」だけはイメージ先行で作ったんです。他は曲からタイトルをつけて、そこからさらにイメージが膨らんでいく感じだったけど、この2曲は違っていたんです。

そのことからは、頭の中にあるイメージを具現化するスキルにも長けていることが分かります。挙げてくださった2曲以外にも『聴十戯画』は注目と言える曲が揃っていて、例えば1曲目の「Edo」は近未来感と和テイストをハイブリッドさせて、現在の東京を巧みに描いていますね。

違うジャンルを合わせるとゴチャゴチャになってしまってうまくいかないことが多いと思うのですが、僕がいいところに持っていけるのはピアノの力です。ピアノは違うものを混ぜた時、全体を馴染ませてくれるというか、異国の人たち同士でも全員が共通言語でコミュニケーションできるような結束力を持った楽器なんです。「Edo」に関しては近未来的なことも表現したいし、ちょっと宗教的なものも合わせて、その上でずっと同じメロディーを繰り返してトランス状態を作るイメージを持っていて。そういうことを意識して、ピアノが持っている力を活かしてかたちにしました。

和楽器の音を入れれば和風だろうとか、サイバーなキーボードを鳴らせば近未来だろうというようなことではなくて、こういうアプローチをすれば表現できると考えて作られたんですね。「Edo」は中間のセクションで、ベースが尺八を思わせるフレーズを弾いて世界観を深めていることにも耳を惹かれました。

あのベース、いいですよね(笑)。最初は上にピアノが結構乗っていたんですけど、あえてなくそうということになって、オフにしたんです。その結果、あのベースが前に出てきて、いい感じになりました。

柔軟さが、いい結果を呼びましたね。柔軟と言えば、「Edo」ではピアノの音にフィルターをかけて、より楽曲に寄り添わせるという手法も使っていますね。

「Edo」はフィルターをかけて、「Lv.OFF」は3~4種類くらいの音色を使い分けています。リリースカットだったり、ディレイだったり。あと、エディットもしました。アコースティックだけでは表現できない、今の時代だからこそできるピアノの表現も取り入れたいんです。あくまでもピアノは曲のために使うツールなので。僕はそれを主役にしているだけで、何のためにそれを使うのかと言ったら曲を完成させるためなんです。だから、それぞれの楽曲に合わせて古くからある伝統的な音も使うし、今の時代だからできる手法も使います。さっき話したピアノをカットしてベースを前に出したというのも、いかに楽曲を素晴らしくするかがモットーとしてあるので、抵抗感はまったくなかったです。僕はいつもそういうスタンスで作品を作っています。
けいちゃん
アルバム『聴十戯画』【初回限定盤】(CD+DVD)
アルバム『聴十戯画』【通常盤】(CD)

OKMusic編集部

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