いゔどっと アルバム『POP OUT』を
通して語る、音楽活動の始まりからメ
ジャーデビュー、そして初の東名阪ラ
イブツアーまで

いゔどっとが2022年12月14日に2ndアルバム『POP OUT』をリリースする。アルバムには自作曲に加え、煮ル果実てにをはらによる書き下ろし曲が全14曲(初回限定盤には全16曲)収められている。

今作のリリースをもってメジャーデビューを果たすいゔどっとが、「“新しい挑戦をしていくぞ”という決意を込めつつ、実は“ポップスという枠から飛び出す”という想いもあって」と語る今作について、そしてこれまでとこれからの活動について、たっぷりと話を訊いた。
――10月26日に配信された「ブロードウェイ」がドラマ『ぴーすおぶけーき』のオープニングテーマに採用され、11月16日に配信開始した「佰鬼園」への反響も大きく、12月14日には2ndアルバム『POP OUT』でメジャーデビューされるいゔどっとさん。歌い手として、シンガーソングライターとしてたくさんの方に愛されている現状をどう受け止めているのでしょうか。
正直、そこまでなにかが変わったような感覚はないんですけど……メジャーデビューするわけですし、ますます頑張っていくぞという気持ちはもちろんあって。客観的に見てすごいなと思ったりはします。
――パソコンやスマホからだけではなく、テレビからも自分の歌声が聴こえてきたりとか。
そう、それはすごく嬉しかったんですけど、やっぱり現実味がそんなになくて、どこか他人事というか。だいぶフワフワしています(笑)。
――案外そういうものなのですね。メジャーデビューは、音楽を始めたときから、または途中段階で、いつかできたらと願っていたことだったのでしょうか。
いつかできたらなとは思っていました。それを第一目標に掲げていた感じではなかったんですけど、今回ありがたい機会をいただけたんです。
――ひとつ、願いがったわけですね。初めての“歌ってみた”動画投稿は、確か中学2年生だった2012年ごろでしたか。
だいたいそのころですね。ただ、もともとは動画を上げずに配信とかもしていて、“歌ってみた”の投稿をするようになったあとも休んでいた期間があったりするからちょっと曖昧で。大学に入って最初の2年間くらいはまったく音楽活動をしていなかったし、自分の場合は○周年みたいなお祝いがちゃんとできないような感じなんです(苦笑)。
――活動を休んだあと、再び動画投稿をするようになったきっかけというのは?
久々になにかやりたいなと思ったときに、やっぱり自分が好きなもの、音楽に目が向いたんです。ただ、大学卒業後はデザイナー会社に就職をしたんですよ。
――音楽で生きていきたい、という気持ちもありながら。
そうですね。でも、音楽を本気でやるか、それとも趣味の範囲でやるかを天秤にかけたら、やっぱり自分は音楽で生きていきたいと思って。
――いざ自分で決めた音楽の道に進んで今に至るまで、分岐点はありましたか。
大学を卒業してすぐに突入したコロナ禍は、やっぱり大きかったと思います。それまでの当たり前が当たり前じゃなくなって、音楽活動の面でも急に“新しい生活様式”を実践していかないといけないようになって。ただ、僕の場合はそれまでライブをたくさんやっていたわけでもないし、応援してくれる方たちとオフラインで会う機会もなかったので、コロナ禍でもそこまで戸惑うことなく活動ができていたのかなとは思うんですけど。あと、2019年からは自分で曲を書き始めて、それもよかった気がします。
――ご自身で作詞・作曲をされた楽曲、1stアルバム『ニュアンス』では5曲ほどだったのが、『POP OUT』ではなんと10曲に増えていますね。そもそも自分で曲を書こうと思ったのはどうしてなのでしょう。
“歌ってみた”動画をたくさん録っていく中で、自分も曲を作ってみたいなと思うようになったんです。最初はただただ行き当たりばったり、右も左もわからないところから始めて。
――もともと、楽器を習った経験があったりして?
高校のときに組んだバンドでベースを弾いたり、アコースティックギターは今も弾き続けていたりはするんですけど、趣味程度ですね。曲作りに関しては、今も勉強中です。1曲書くたびに、なにかにぶつかりながら。『POP OUT』に収録の自作した10曲では、10回どころか100回くらいぶつかりました(苦笑)。
――なんと! それでも心折れることなく。
どんなにぶつかっても心折れるっていうことはないんですよね。昔から飽き性というかいろんなことに興味が湧いてきてしまうタイプなので、あれこれやってみたくなっちゃうし。ちなみに、新録曲の「嘘と傷跡」「可愛くないね」「部屋」は、3曲同時に作ってました。
いゔどっと
――そうした自作曲にしろ、煮ル果実さんによる「ブロードウェイ」、てにをはさんによる「佰鬼園」、MIMIさんによる「月日記」、なきそさんによる「ちょっと大人」といった書き下ろしのナンバーにしろ、『POP OUT』はさまざまな音楽性と物語に彩られた色彩豊かな作品となっていますが、いゔどっとさんとしてはどんな全体像を思い描いていたのでしょうか。
“POP OUT”という言葉には“飛び出す”という意味があって、メジャーデビューするということも含めて“新しい挑戦をしていくぞ”という決意を込めつつ、実は“ポップスという枠から飛び出す”という想いもあって。自作曲にしても、煮ル果実さん、てにをはさん、MIMIさん、なきそさんに自由に書き下ろしていただいた曲にしても方向性がバラバラだし、いろいろな色がごちゃ混ぜな作品になりました。
――まさに、ですね。自作曲に注目してみると、誰かを想うことの歓び、盲目的に突き進む危うさ、愛を失うことの深い哀しみなどが、さまざまな色模様を宿すいゔどっとさんの歌声、感性であまりにも生々しく描かれているなとも思います。
僕の書く歌詞って、『ニュアンス』に収録の「累累」以外、全部フィクションなんですけどね。「部屋」なんかは、ものすごく散らかっていた自分の部屋を片付けたときに、思いつきで書き始めた曲だったりするし。
――大切な人が去った部屋を覆うあまりにも大きな喪失感を描いているのかと思ったら!
全然、そんな体験をしたことはないんですよね(笑)。小説や漫画を読んだり映画を観たりするのが好きだから、そういうインプットはたぶんあるんでしょうけど、あとは本当に思いつき。「嘘と傷跡」とかは、ワガママで天邪鬼な女性像を描きたくて歌詞を書き始めたりとか。
――「可愛くないね」で描かれている恋愛中の自己嫌悪なんかは、そうそう!あるある!と思う人がたくさんいそうですが、女性目線で書く歌詞が多いのはどうしてなのでしょうね。
そう言われると……どうしてなんでしょうね。男性目線で歌詞を書いたのは、「404号室」くらい。これっていう明確な理由はないんですけど、自分にとって女性目線での歌詞はイメージしやすいし書きやすいんです。最初に主人公のキャクターを設定して、物語の起承転結を組んで。漫画の描き方に近いかもしれません。
――中でも、自分的に特別感の強い楽曲を挙げるとすると?
ウタカタ」ですかね。
――アルバムの幕開けを飾る「ウタカタ」、なんて繊細で美しく儚げな歌なのかと心を奪われてしまいます。
よかったです。頭から最後まで、ずっときれいにしたくて。夏っぽいけど涼しいようなイメージで歌詞を書き始めたんですけど、かなり苦戦した記憶があります。
――その「ウタカタ」はじめ、いゔどっとさんの書く歌詞は情景が鮮明に思い浮かぶなと思います。
それは一番大事にしていることなので嬉しいです……!
――それに、「ウタカタ」の<小さな傷が私を作って 大きな嘘で誤魔化した>というフレーズ、刺さりすぎます。
些細なことも実は引きずっちゃうよなっていうところから生まれたフレーズなんですけど。
――自分の中にあるモヤモヤした想いを言語化してもらえたような気もして。
想像力はわりとあるほうだと思うのと、日常的に気になった言葉はすぐ調べたりメモしたりするんですよ。そうやって蓄積した言葉たちを言いたい、使いたい、という気持ちも根底にはあるような気がします。
――かと思えば、「エンドマークパーク」ではダークファンタジーな世界へといざなったりして。
ホラー映画にはまっていたときに、自分もそういう世界を作ってみたいと思ったんですよ。この映像に自分が曲をつけるならどうするかなっていう視点でいろんな作品を観ることが多いんです。あと、僕はお笑いが好きなんですけど、コントからインスピレーションを得ることも結構あります。
――意外です。『POP UP』に収録の自作曲の歌詞から推測するに、恋愛作品から影響を受けることが多いのではと思っていたので。
それが、恋愛映画は全然観ないんですよ。バナナマンさんのコントに出てきた「そんないい女じゃないよ」っていう言葉から曲を作ろうとしたことはあるんですけど、結局それは完成に至りませんでした。
――「そんないい女じゃないよ」なんて……。
実際に誰かが言っているのを聞いたことってないから、それを使うのってどんなタイミングだろう、なんて言われたらそんな言葉が出てくるのかなって思って想像して(笑)。
――どこにでも発想の種やヒントはあるものなのですね。
今回のアルバムにはVTuberの三枝明那さんに書き下ろした曲をセルフカバーした「はんぶんこ」が入っているんですけど、その歌録り当日、家を出る10分前に“法螺を吹く”ってよく聞くけどどういう意味なんだろうって思って。
――急に疑問を抱いて、気になったからにはどうしても調べたくなってしまったわけですか。
そうなんですよ。調べていったら“駄法螺”という言葉があって、この言葉で曲を書きたい!ってなってしまったので、スタッフさんに「ちょっと遅れます」って連絡をして、そのままサビを作ったのが「駄法螺」なんです。
――「駄法螺」の歌詞、人間不信になってしまうような余程のことがあって闇堕ちしているときに生まれたのではと心配したのですが……。
全然そんなことはなく。むしろ陽気なときにできた曲ですね(笑)。
――日常的に目にするもの耳にするものから着想を得て、創作意欲が途切れることがなさそうですね。
今のところはどんどん思いついてしまうので。「嘘と傷跡」に関しては、歌録りに向かう途中で急にBメロを変えたくなっちゃったから、その場で思いついたメロディを電車の中で小声で録音して、マネージャーさんにすぐデータを送ったりとかしました。
――今回のアルバム、もしかしたら自作曲だけでアルバム構成することも可能だったのではないでしょうか。
できますね、確かに。でも、ボカロPさんや“歌ってみた”は僕のルーツでもあるしずっと大好きなものなので、入れないという選択肢はなかったんです。
――煮ル果実さん、てにをはさん、MIMIさん、なきそさん作の楽曲たちもそれぞれ強烈な色を放ちますが、中でもてにをはさんによる中毒性高すぎな「佰鬼園」、よくぞ歌いこなしていますね。
いやいや、「佰鬼園」の歌はただごとじゃなかったです(笑)。人間が歌うことを前提に作られていないボカロ曲を昔からたくさん歌ってきてはいるものの、曲をいただいた段階で、これどうやって歌うんだ?ってまず絶望しました。同時期に煮ル果実さんからいただいた「ブロードウェイ」も難しかったし……。
――「ブロードウェイ」にしても、美しいファルセットのほかテクニックてんこ盛りですもんね。曲によって歌い方がガラっと違うし、表現の引き出しが豊富で本当に驚かされます。
歌い方を変えるのが好きなんですよ。それはたぶん、昔からモノマネをよくしていたからだと思います。学生のころ、そういうひとり遊びを家とか学校の廊下とかでしていたら、いろんな声を出したり歌い方をしたりできるようになっちゃって(笑)。
――変幻自在な歌い方はその賜物なのですね。「花咲」の歌声なんかは、あまりにも寂しげで切なくて。
純粋な片想いの物語だから、そういう歌い方になるんですよね。
――初回盤に収録されている全16曲、どれも違っていて多重人格的だなと思ったりもします。
確かに、多重人格っていうのが一番近いかもしれない。曲によって人格のスイッチを切り替えながら歌っているような感覚はあるので。
――『POP OUT』の制作を通して、見つけたもの、気づいたこともあったりするのでしょうか。
なんだろうな……あ、同じ言葉を繰り返すのが好きだなとは思いました。「ウタカタ」の<サイダーの泡みたいに>とか、「404号室」の<ずるい君はきっと>とか、「可愛くないね」の<あのね><でもね>とか。
――いくつもの曲で、<部屋>という言葉が見られたりとかもしますね。
部屋にずっといるし、部屋が好きだから自然と出てきちゃうんでしょうね(笑)。あとは、無理矢理明るい曲、アッパーな曲を作ろうとしていた時期もあったんですけど、それは今自分がやらなくてもいいのかなと思って。
――実際、「ウタカタ」に始まり通常盤は「部屋」に終わるわけで、明るいか暗いかでいえば暗いし、全体に愁い色がにじみますよね。
ずーっと哀しい感じで。やっぱり、根がネガティブなんでしょうね(苦笑)。
――でも、ただ闇に引きずりこむのではなく、そっと寄り添ってくれる温かさのようなものは感じます。
そうであれば嬉しいです。ネガティブだけど前向きになれるような、少しの光を感じられるような曲を自分は書いていきたいので。
――そういういゔどっとさんの歌は、聴く人それぞれ、人生の折々で救いや導きにもなりそうです。
「結婚式でいゔどっとさんの歌を流していいですか?」と言ってくれる方には、「いいけど、本当にいいの?」って思いますけどね。別れの曲が多かったりもするので、選曲だけ間違わないようにしていただきたいです(笑)。
――ですね(笑)。なお、初回限定盤に付属のライブDVDには、2021年に行われた1stワンマンライブ『琥珀』よりオリジナル曲11曲が収録されますが、いゔどっとさん的見どころは?
『琥珀』に来てくれた人も、来られなかった人も、ライブの空気感を何度でも楽しんでいただけたらいいなと思います。
――そうなると、2023年1月に開催の『IVUDOT ONE MAN LIVE TOUR "POP OUT"』への期待感も高まってしまいます。『琥珀』以来1年半ぶりとなるライブであり、東名阪を巡る初のワンマンツアーとなるのですよね。
そうです。『琥珀』は初のワンマンライブだったこともあってきれいにまとめたんですけど、今度のツアーはいろんなことをしたいなと思っていて。『POP OUT』の曲たちをバンドアレンジでどう届けるか楽しく試行錯誤しながら、一歩を踏み出す、“飛び出す”ようなステージにしたいです。
――期待しております。そんな東名阪ワンマンツアーで幕を開ける2023年、どんな1年にしたいと考えていますか?
2022年はコテージで『夏祭り』と題した無観客配信ライブを開催したんですけど、毎年なにか新しいことをやりたいと思っていて。2023年も曲を作りつつ、“歌ってみた”を投稿しつつ、新たな挑戦をしつつ、実りある1年にします。
――では、最後に。せっかくなので、この記事を最後まで読んでくださった方に、なにかお伝えしておきたいことはありますでしょうか。
ここまでいろいろお話させていただきましたが、いろんな楽曲を作ることに挑戦したアルバム『POP OUT』、今のいゔどっとをすべて詰め込みましたので、是非みなさん聴いてください。そして、この記事が出るころには、2023年1月開催の東名阪ワンマンツアー『IVUDOT ONE MAN LIVE TOUR "POP OUT"』のチケット二次先行受付中だと思います。アルバムを聴いて気になったら、ぜひライブに足を運んでみてください。一緒に“POP OUT”しましょう!

取材・文=杉江優花

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