山本舞香&瀧本美織のドラマ『Sister
』主題歌のRin音、ツアービジュアル
で交わしたイラストレーターとの「ア
ートの会話」

今年10月に開催されたアートフェス『紀陽銀行 presents UNKNOWN ASIA 2022』でイープラス賞を獲得した、アーティスト・イラストレーターの瀬崎百絵。同フェスに参加するのは今年で3回目の彼女は、2021年の参加時をキッカケに、9月10日(土)にZepp Osaka Baysideで行われた『Rin音 Tour 2022 haunted house』の大阪公演オリジナルビジュアルを手がけることになる。今回は、そんな縁から瀬崎百絵とRin音の対談を敢行。この日の取材が初対面のふたりだが、アーティスト同士の会話は弾み意気投合した。大阪公演のビジュアルや、10月21日(金)にリリースされたRin音の最新シングル「qualia」などについて、ふたりの視点から話を訊いた。
「Update me version04」
山口小夜子に影響を受け、女性を描き続ける瀬崎
ーー瀬崎さんの経歴を簡単にご紹介いただけますでしょうか。
瀬崎:活動自体は2017年の11月頃からで、初めて個展をしたのが2019年5月です。展示活動が中心で、最近は月1回程度どこかのグループ展に呼んでいただき、作品を出展しています。作風としては山口小夜子さんとの出会いをキッカケに、ずっと一貫して日本人らしい顔の女の人を描き続けています。以前1950年以降の古着がメインのヴィンテージショップで働いていた時に、色々カルチャーを勉強する中で山口小夜子さんの存在を知りました。日本の美を海外の人が受け入れてることも素晴らしいですし、容姿も素敵で魅了されました。
ーー趣味が音楽鑑賞とのことですが、普段はどんな音楽を聴かれるのですか。
瀬崎:結構マニアックな曲を愛聴しています。この間はTHA BLUE HERBというヒップホップグループの25周年ライブに行きました。イープラスのスマチケを使いました(笑)。あとは平沢進さんやZAZEN BOYSが大好きです。常に何かを聴きながら絵を描いていますが、好きすぎると気持ちが乗って意識を持っていかれるので、ちょうどいいテクノやインスト、映画音楽を流すことも多いです。
Rin音:THA BLUE HERBカッコ良いですよね。似合います(笑)。僕はもう少しポップ寄りの、RIP SLYMEKICK THE CAN CREWに惹かれてラップを始めましたが、もちろん影響を受けています。
アートや音楽を楽しむコツは「心の余裕」(Rin音)
『Fuji Rock Festival』がテーマの作品「FUJI to ROCK 2」
ーー『haunted house』大阪公演のビジュアルのお仕事の経緯をもう少し詳しく教えていただけますか。
瀬崎:2021年に『Fuji Rock Festival』をテーマにした大きな絵を『UNKNOWN ASIA』で発表しました。その絵を奏 -KANADE-の北岡良太さん(『UNKNOWN ASIA』のレビュアーで、Rin音の関西圏のコンサートプロモート業務を手がける)が気に入ってくださって。自分は当時から、ライブやフェスは気をつけながらどんどんやっていったら良いんじゃないかなと思っていたので、北岡さんと共感し合える部分があったんだと思います。「何か一緒にできたらいいですね」とお話していたら、今年の春頃にRin音さんのポスターについて北岡さんからメールをいただいて。「「FUJI to ROCK 2」のように自由に描いてほしい」とオファーをいただきました。
ーーRin音さんは、北岡さんから大阪公演のビジュアルについてどんなお話があったのですか。
Rin音:大阪でプロモーションするとなった時に、北岡さんから一度瀬崎さんのことを紹介してもらってたんですよ。作品を見せてもらった時にめちゃくちゃ良いなと思って、「もしお願いできるなら描いていただきたいです」と言っていました。そこから話が進んでいって、最後に素敵なポスターを見たときには「ウェイ!」って感じでした(笑)。
瀬崎:嬉しい!
Rin音:本当に助かりました。僕はイラストでも自分の曲のトラックでも、アーティストさんのカラーや心情、背景と僕が混ざりたい。なので基本お願いする時に詳しく「こうして欲しい」とはあまり言わないようにしてるんですよ。混ざり合うことでどうなるのか、毎回お客さんとして楽しみにしています。自分がライブしたり気持ちが上がるひとつのモチベーションにもなりますから。
『Rin音 TOUR 2022 hounted house』大阪公演ビジュアル
ーーお化けが周りにたくさん描かれています。これらはRin音さんの2ndアルバム『cloud achoo』の曲から着想を得たのでしょうか。
瀬崎:イラストの上部は大阪の街をモチーフにしています。アルバムのタイトルの意味が「お化けの独り言」ということで、言霊を口から出してみました。よく見ると大阪の名所がお化けになってたり、色々な場所に小さく「クラウドアチュー」とか「リンネ」とかを書いてあるんです。そういう遊び心で楽しげな感じを出してます。あまり見えないんですけど、客席からお化けたちがライブを観ているんですよ。
ーー本当ですね!
瀬崎:言霊ちゃんたちが街を楽しく徘徊した後に、Rin音さんのライブに行ってぶち上がるイメージで描きました。メインのキャラクターは、この時にRin音さんがピンク系の髪色だったことと、若い方に可愛いと言ってもらえる髪型を色々調べて、この形に落ち着きました。あと曲からもインスパイアを受けています。例えば『アオアシ』のED曲でもあった「Blue Diary」のイメージで日記帳を描いてみたり、曲にちなんだアクセサリーをつけてみたりして、表現しました。
Rin音:僕、ライブを観ているお化けには気づきませんでした。でもポスターを観た時に、アルバムを聴いてもらえたことが伝わってきました。口からお化けが出てる感じとか、まさしくアルバムのテーマで僕が伝えたいことです。アーティストがアートを通して交わす会話の意図を感じて、すごく嬉しかったのを覚えていますね。
Rin音『cloud achoo』ジャケット
ーーRin音さんは作品のMVなどにもイラストが使われていて、イラストと密に関わっていると感じます。Rin音さんにとってイラストレーションはどういうものだと捉えてらっしゃいますか。
Rin音:音楽は聴く日や時間、自分の心情が違うと、耳に入る歌詞が変わったりするんですよ。傷ついた時に普段と同じ曲を聴いたら別のところが刺さったり。僕はイラストにもそういうものを感じています。テンションが高い時は明るいイラストだったり、そのイラストの中でも明るい部分に目がいったりするんですけど、繊細な気持ちの時は細かい部分をめっちゃ観るようになりますよね。作品に没頭するタイミングで気付くことが変わる。視覚で楽しんでる感覚です。
ーーRin音さんの周りには日常的にイラストがあるのですね。
Rin音:そうですね。友達で絵を描いていらっしゃる方ももちろんいます。自分は全然絵がうまくないので、描ける人はすごいなと。YouTubeで1から絵を描いていく動画も観ますが、「どうなってんだ」と尊敬や憧れを抱いています。本当にアートは自分の私生活を豊かにするものです。焦っている時は細かいところを観ようとか聴こうとかしても、あんま入ってこないんですよね。でもゆっくりじっと観たら新しい発見をしたり。楽曲でもイラストでも、真の意味でアーティストが思ってることを汲み取るには、心に余裕があった方がいい気がしてます。
ーー観る側のゆとりがないと細部まで意識がいかないと。瀬崎さんは、先ほどのお化けのように細かいギミックを計画的に描き込んでいるのですか。
瀬崎:私は元気な作風なので、「衝動的に描いてるんじゃない?」とか「酔っ払って描いてんの?」とか結構言われるんですけど、私としては描いてる時はすごく冷静なんですよね。全部に意味が通ってないと嫌で、気持ち悪いんですよ。言葉で説明できるぐらいまで整理して作らないと自分としては納得できないので、その辺はしっかり作り込むようにしてますね。気づいてもらえないかもしれないけど、後で見た時にちょっと驚かせたいし、より楽しんでもらいたい。その辺は手を抜かずにやっていきたいですね。
次ページ:ふたりにとってのクリエイティブとは? 新曲「qualia」もピックアップ
「難解な言葉をテーマとして扱うのがRin音さん「らしさ」」(瀬崎)
Rin音「qualia」
ーーではRin音さんの最新シングル「qualia」について。この曲はどういう楽曲ですか?
Rin音:『Sister』というドラマの主題歌です。タイアップとしてオファーをいただき、台本を読んで「わ、すげえドロドロしてんな」と思いながら書きました。もちろんドラマの主題歌なので作品を意識しましたが、色んな友達の話や自分の経験もふまえて書きました。純粋な愛情はどっちにも転ぶなと。100%の純愛といっても、サラッサラの果汁のジュースみたいな100%もあれば、ドロドロの濃ゆーい100%もある。今回は濃ゆーい100%だと思ったんですよ。
ーーなかなか怖い話ですよね。愛情はどっちにも転ぶというのは本当にその通りで。
Rin音:多分パッと聴いたら普通の恋愛の歌に聞こえるし、ドロドロした恋愛も外から見ると普通の恋愛に見えると思うんです。でも、多分当事者は聞こえが変わる。だから最終回を見たら歌詞が全然違う意味に聞こえるようにしたくて。もちろん具体的にリリックを書くことは僕の中での定義としてあるんですけど、同じ言葉を使ってても、パッと聴くだけでは前後の繋がりが見えずに伝わらない意味もあると思うんですよ。例えばドラマを観て情景を入れた上でリリックを聴くとそのシーンが浮かんだり。最後の着地も「きっとこれだったんだろうな」と推察して終わってくれると思って。それだけ主題歌にふさわしい曲にしたかったので。
qualia - Rin音(Official Lyric Video)
ーー途中でパリンと何かが割れる音や、少し不穏な空気感が混ざっているところも、意識しないと入ってこない部分かなと思います。
Rin音:僕、結構分かりづらく作るのが好きなんですよ。パッと聞いて明るい曲なのに、実はずっと悪口を言っているような(笑)。基本ひねくれてるので、未来の希望を歌ってると思ったら実は暗いことを言いたいし、逆に暗いタイミングで未来の希望を歌いたい。ちゃんと聴かないと、歌詞を見ないと、経験しないとわからない日本語を使えるようになりたいと思っています。
瀬崎:今分かりづらくしてるとおっしゃってましたけど、Rin音さんの曲はまさにそういう印象がずっとありました。「qualia」という言葉自体も意味が難しいじゃないですか。結構難解な言葉を急に放り込んでテーマとして扱うのがすごく「らしさ」だなとも思ったんですよね。『cloud achoo』の中の曲でも難しさのある神話の言葉を織り混ぜてらっしゃるのを知っていたので、「こういうふうにあのドロドロを昇華していくんだな」と思って、楽しく聴かせていただきました(笑)。メロディーはすごくポップで明るいので、ドロドロしたドラマの中で聴くと浄化される感じがありました。
Rin音:ありがとうございます。
瀬崎:あとRin音さん自身、ひねくれてるとおっしゃっていましたけど、優しさや余白もお持ちなのかな。そこが魅力だと私は勝手に思ってるんですが、その優しい解釈も曲から何となく感じて。深い見方をされて作られたんだろうなと思いながら聴かせていただきました。
Rin音:ありがとうございます!!
ーーガッツポーズが出ました! ちなみに「qualia」をテーマにして瀬崎さんが絵を描くとしたら、どんな感じになりそうですか。
瀬崎:きっとドラマの影響もあるんですけど、女性がふたり必要だなと思っています。お互い別々の方を向いているけど、どこかで繋がってるような絵を描きたいなと思いました。「qualia」という言葉に繋げて、内面性を描けたらピッタリいくんじゃないかなと勝手に思ってます。
Rin音:さすがですね。僕だったら多分、喧嘩してる女の子を描いて終わりです(笑)。
瀬崎:愛憎という言葉でも確かに代弁できると思うんですけど、やっぱり姉妹で血が繋がっているから、どこかで絶対恨めないはずなんですよね。そういう繋がりみたいなものを曲やドラマでも描きたいのかなと、僭越ながら思っています。
それぞれの思う「演出」とは
『UNKNOWN ASIA 2022』展示の様子
ーー『UNKNOWN ASIA』の瀬崎さんのブースにはライトがついていて、作品が実際にネオンが光っているような演出になっていました。そしてRin音さんのライブは、演出が綺麗で作り込まれている印象です。それぞれ作品を魅せる演出について、意識されている部分はありますか。
Rin音:ハコによってどれだけ演出ができるかはもちろん違います。その中で自分の世界観を見せたいという気持ちもあるんですけど、何より1番自分がライブをしてて、盛り上がれないとライブの世界に入れないし、Rin音になれない。僕、あまりライブは得意じゃないんですよ(笑)。
ーーそうなんですか!
Rin音:僕が知る限りみんな「アーティスト」をステージで演じて、 すごくカッコ良いことや刺さる言葉、可愛らしいことを言っているんです。でも自分はRin音に入りきれない感覚がある。1枚壁があるというか。でもそれを全部取っ払って作品の意図を伝えるために「俺はステージでめちゃくちゃ良いライブを見せるんだ」という自分への覚悟の意味も込めて演出します。フリースタイルで即興ラップもするので、アイデアを掻き立てるための一部として、演出をしっかりしたい。それだけライブに入り込みたいと思っています。
瀬崎:私は逆に完全に素の自分なんですよ。「瀬崎百絵」を演出する感じではなく、自分らしさを拡張して、好きなスタイルを突き詰めていった結果、この画風になっているので。自分自身の良さを他人にどうアピールするかにも近いなと。それはお化粧やファッションのようだと思っていて。見せ方に関しても自分の絵をいかに届け、分かりやすく伝えるかを、演出でより強くしていく感じです。
「クリエティブとは、アップデートすること」(Rin音)
Blue Diary - Rin音(Official Music Video)
ーーおふたりにとってクリエイティブとは何ですか。
Rin音:結論なんですけど、僕の中では常にアップデートすることだと思うんですよ。時代は回って少し前のスタンスの音楽やファッションがまた流行したりするけど、その中のリリックや要素にその時代の背景が組み込まれています。極端な話、50年前の楽曲の歌詞に「Instagram」という言葉はないじゃないですか。ゼロから1を生むのも大事ですけど、昔のものに影響を受けた上で、どれだけ自分のものとして噛み砕いて、違うものとして出すのか。常に自分の中でアップデートのフィルムをかけて出すイメージです。それが1番自分の色にも染まるし、その上で色んな要素を出せる。
ーー毎回アップデートを意識して曲を作ってらっしゃるのですか。
Rin音:僕、同じテイストで曲を作ってくださいと言われることが、あんま好きじゃないんですよ。「「snow jam」っぽい曲を作ってください」と言われても、あの時にああいうマインドで書いたから、ああいう曲を書けただけであって、それを次に踏襲しても全然意味がない。同じことをずっとやるのは嫌だなと。でも言いたい真意や自分の想いは貫きたい。それも何だかんだアップデートされると思うんです。例えば嫌なことをされて「俺こういう嫌な奴にはなりたくない」と思ったら自分の中で上書きされていくじゃないですか。それが成長だと思うんです。同じことはしたくねえし、同じ間違いもしたくねえなという感覚です。
瀬崎:私の中で制作は本当に生きることの一部で、自分はそのために存在していたいなと思ってますね。続けるにはどうしたらいいかということだけを考えて今までも活動してきたし、これからもそうであり続けると思います。条件がどうであれ人間はいつか死ぬし、やりたいことができる極限までやるべきだと思うから。その中で1番優先順位を高く持っていたいのが、やっぱりクリエイティブ、作り続ける行為です。私今年で30歳になったんですけど、節目の時に賞やお仕事をいただいたのも自分の中では大きくて。「やってていいんだな」と思えたんですよね。反響をいただけてすごく励みになったので感謝してます。クリエイティブも今後もずっと続けていくように、自分で仕向けていきたいなと思いました。
ーー力強い。Rin音さんも頷いてらっしゃったので、お気持ちがわかるのかなと感じました。またおふたりのコラボレーションを見られるのを楽しみにしております!
「OFF-LINE(M)」
取材・文=ERI KUBOTA

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