ショパン・コンクール出場から1年、
躍進を続けるピアニスト古海行子がみ
せる2022年の集大成「今の私のありの
ままを感じてもらえたら」

2019年に日本コロムビアのOpus Oneレーベルからデビュー・アルバムをリリースし、2021年はショパン国際ピアノ・コンクールでセミファイナリストに選ばれた古海行子(ふるみ・やすこ)。2022年はダブリン国際ピアノ・コンクールで第2位に入賞した彼女が、12月17日(土)に浜離宮朝日ホールでリサイタルをひらく。ラフマニノフの「ピアノ・ソナタ第2番」やベートーヴェンの「ピアノ・ソナタ第30番」などのヘビーなプログラムに挑む彼女に話をきいた。
――古海さんは、2019年に日本コロムビアのOpus Oneレーベルからシューマンの「ピアノ・ソナタ第3番」を中心とするアルバムをリリースされましたね。
シューマンの第3番は、一番思い入れの強かった作品です。そのときの自分に合っていると思いましたし、その年齢だから録れる音もあると思いました。それまで動画の撮影はしたことがあったのですが、音だけの収録は初めての経験でした。
――反響はいかがでしたか?
「(シューマンのソナタ第3番を)初めて聴いたけど、いい作品だね」と言ってもらえて、うれしかったです。
――昨年のショパン国際ピアノ・コンクールはいかがでしたか?
ショパン・コンクールは、2015年にも一次予選まで出させていただきました。2021年は、プレッシャーを感じることもありましたが、緊張感も含めて、楽しんで演奏できました。ショパン・コンクールに2回参加したからというのもありますが、ショパンは、数々の作曲家のなかでもとくに関わりの多い、特別に思う存在です。一番距離の近い作曲家だと思います。
――今年はダブリン国際コンクールで第2位に入賞されました。
アイルランドは自然が豊かで。ダブリンの自然に囲まれて、ホストファミリーの御宅にホームステイして、参加するという形でした。生活の中に自然な営みとして音楽があって、音楽に向き合うことができました。課題曲が割と自由で、シューベルトやリストを弾いたり、セミファイナルではメインにプロコフィエフの「ピアノ・ソナタ第8番」、ファイナルではラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」を弾きました。
――この12月のリサイタルのプログラムについてお話ししていただけますか。
今回は自由に選ばせていただきました。1曲ずつ思い入れのある作品です。
ラフマニノフは、協奏曲の第1番、第2番、「パガニーニの主題による狂詩曲」を弾いたことがあり、コンチェルトで親しんできましたが、ソロの大きな曲に取り組むのは初めてです。大好きな作曲家で、憧れていた分、理想が高く、なかなか一歩踏み出せずにいましたが、満を持して、今回、第2番のソナタを弾くことにしました。多くの方々に聴いてもらうことを考えて、比較的簡潔にまとまられていて、聴きやすい改訂版を演奏します。
この曲にはラフマニノフらしさが詰まっています。ハーモニーや息の長いフレーズ、時おり象徴的に出てくる半音下行の旋律、また彼自身がピアニストであったことから、とても効果的に書かれていて、ピアノ1台だから生み出せる、大きな音楽やうねりがあり、心にぐっと来る作品だと思います。
――ショパンの「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」も演奏されますね。
昨年、ショパン・コンクールに出たこともあり、ショパン作品のリクエストが多く、今年も多く弾いています。改めて、ショパンは本当にたくさんの人に愛されているなと感じたので、今回も何か入れられたらと思いました。
「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」は、ショパン・コンクールでは弾いていないですが、すごく好きな作品です。
2015年のショパン・コンクールは、自分の出番が終わったあと、ずっと客席で聴きました。第3位に入賞したケイト・リウさんが2次予選の最後に弾いたのが「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」で、それが本当に素晴らしくて、下ろしていた髪を耳にかけて、音楽を全部残さず耳に入れて聴きたいと思うくらいでした(笑)。それを聴きながら、私も感動していましたし、会場のお客さんたちも同じ思いで聴いている空気を感じて、実際に演奏が終わったときの反応もそういうものでした。こういう風に演奏してもらいたいたくてショパンは音を楽譜に書き残したし、書き残されたものをこういう風に再現するために演奏家が存在して、こういう風に聴衆に伝わるんだということをすごく感じました。それが演奏を続けていきたいと思う原点となった体験で、そういう特別な作品に今一度取り組みたいと思い、プログラムに入れました。
――ベートーヴェンの晩年の傑作、「ピアノ・ソナタ第30番」についてはいかがですか。
ベートーヴェンの第30番は、とてもとても挑戦です。こんなこと言ってはダメかもしれませんが(笑)、自分でもどんなふうになるか予測できないと思っています。
もともと、ベートーヴェンは聴くのがすごく好きで、交響曲も室内楽も本当に好きなのですが、ピアノ・ソロの曲を弾くのは、なぜか距離を遠く感じていました。少し前に急にふと気になって、パラパラと弾いてみたら、解けなかったところが今ならわかるかもしれない、今はやるタイミングかもしれないなと思いました。そして、本当に直感で(笑)第30番を選びました。ソナタの中でも好きな作品でしたし、今感じていることや考えていることのヒントになるかもしれないと。大きな挑戦ではあるし、ここでこの大作に対峙して結論が出せるとは思っていませんが、これからこういう風に進んでいきたいという方向性を示す作品として、自分自身を表現できる、特別なリサイタルの場で聴いていただけたらという思いで入れました。
ベートーヴェンは頭の片隅にずっとありました。ベートーヴェンがピアノ・ソナタ第1番を書いたのは24歳の時なんですよね。私も今24歳で、ベートーヴェンはこの年齢からあの32曲のソナタを書いたんだなあと思ったことがあって。そういうシンパシーも感じて、ベートーヴェンを演奏したいなあと思っています。
――ドビュッシーの「ベルガマスク」組曲はどうしてプログラムに入れたのですか?
ドビュッシーも今まであまり触れてきていない作曲家ですが、愛らしく、美しい作品であることと、(会場である)浜離宮朝日ホールは響きがとても美しいので、是非あのホールで弾きたいなと思って選びました。「月の光」も有名ですしね。
――リサイタル全体としては、どのようにコンサートになりますか。
今の私のありのままの姿を感じてもらえるんじゃないかなと思います。ベートーヴェンはこれから広げていきたい方向ですし、ショパンは、これまで積み上げてきたものです。今の私がいる地点を感じていただけると思います。
昨年の浜離宮朝日ホールのリサイタルでは、ショパン・コンクールで弾いた作品を、生で聴いていただきたいという思いで、ショパンの作品を取り入れましたが、今年はそれから1年経って、自分が弾きたいと思った作品を取り上げています。私はロシア音楽を勉強してきた方かなと思いますが、今回のラフマニノフのソナタではその経験が活きてくると思うし、考えが少しずつ変わっていく過程で、びびっときたベートーヴェンの第30番、そしてショパンの系譜を継いでいるドビュッシーも、ぜひ聴いていただきたいです。本当に今の私を聴いていただけるコンサートだと思います。
――どういうピアニストになりたいですか?
とりまく環境や時代は変わっても、これだけは譲れないと思うこと、これだけは信じたいことを見失わないでいきたいなと思います。基本のスタンスとして、作曲家が残した音楽をあるがままの姿で伝えられる演奏家になりたいというのは変わりません。お客さまに「良い作品だったな」「良い時間だったな」と思ってもらえるような演奏することがずっと変わらない目標ですし、そういう演奏家になりたいと思っています。
――最後にメッセージをお願いします。
浜離宮朝日ホールは、高松国際コンクールや昨年のショパン・コンクールのあと、お披露目の記念としてコンサートをひらいてきました。今年は、そういう理由はなくても、今の自分の演奏を聴いてもらえる機会を作っていただいてありがたいと思っています。思いのこもったプログラムで挑戦もありますので、たくさんの方々に聴いていただけたらうれしいなと思います。
取材・文=山田治生 撮影=荒川潤

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