ピアニストの小林愛実に聞く〜兵庫芸
文「ジルヴェスター・ガラ・コンサー
ト」でシューマン披露への意気込みと
1年を振り返って

2022年12月31日、兵庫県立芸術文化センターで『ジルヴェスター・ガラ・コンサート 2022』が開催される。古楽器のベテラン・鈴木秀美がタクトを振るい、ソプラノの高橋維と高野百合絵、バリトンの大西宇宙、バスの河野鉄平が登場し、J.シュトラウスII世の喜歌劇やポルカ、モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』で楽しく大晦日を彩る。
目玉の一つは、ピアニストの小林愛実によるシューマンのピアノ協奏曲だ。2021年にショパン国際ピアノコンクールで第4位を獲得し、これまでより一層活躍の幅を広げた小林愛実。取材会に参加し、演奏会への意気込みと、2022年を振り返り改めて感じるのはどんなことなのか、聞いた。

■大好きなシューマンで2022年を締めくくる
――兵庫芸術文化センター管弦楽団(以降PAC)との共演は7年ぶりになります。そこから2度のショパン国際ピアノコンクールへの挑戦や数々の演奏活動を経て、一層大きく飛躍された小林さん。その後、ご自身の音楽への向き合い方や表現方法に何か変化はありましたか?
以前共演した当時、私は20歳でした。第17回ショパン国際ピアノコンクールも控えていて、どんな音楽家になりたいのか・どんな音楽を演奏したいのかと悩んでいた時期だったことを覚えています。
2021年に再度ショパン国際ピアノコンクールに挑戦して第4位をいただき、そこからありがたいことに演奏会への出演も増えて、今は忙しくさせていただいていますね。本当に、目の前のことで精一杯です。その中でも、一つずつの機会に心を込めて丁寧に取り組むことを心がけています。
やはり私にとって、演奏をすることが一番の喜び。こうしてたくさんの舞台に立てる今が、有意義で楽しいなと思っています。
――過去に共演経験のあるPACには、どのような印象をお持ちですか?
2015年当時、本番に向けて毎日リハーサルがあったため、通勤するように芸文に足を運んでいましたね。そこで毎日オーケストラのメンバーの皆さんとお話をしました。PACには海外の演奏家や若い方も多くいらっしゃる印象が強く、現に私と同世代のメンバーが多いかと思うので、今からワクワクしています。
――今回小林さんが演奏されるのは、シューマンのピアノ協奏曲です。この作品への想いをお聞かせください。
シューマンのピアノ協奏曲は、とても大好きなんです。メロディラインが美しくて、シューマンが妻でありピアニストのクララのことを強く想っていたことがよくわかる作品です。
クララが初演を務めたということもあり、おそらく彼女が弾くことを想定して作品が書かれたのでしょう。当時の時代背景を踏まえても、男性による演奏や初演が多い中、女性のために書かれて女性によって初演されたという珍しい曲ですよね。その意味でも、私も女性音楽家として、彼の伝えたかったものを表現したいと思っています。女性だからこそ引き出せるたくましさや強さを音楽に反映したいですね。
――小林さんにとって、シューマンとはどのような作曲家ですか?
シューマンの作品は、彼自身の感情が作品にぶつけられていることが多いため、比較的解釈がしやすく、演奏していて楽しいです。
あと、シューマン作品の特徴は、内向的な部分と外交的な部分、2つのキャラクターの対称性が激しいところ。それがベースとなり書かれているため、「このパートはこっちだな」と自分なりに構成しやすいですね。繊細だけれども、ドラマティックなんです。
それに、自身の名前や「クララ」の文字を音名に変換したモチーフが使われていることが多く、それが登場したら「こういうことが伝えたかったのかもしれない」と考えたりしています。

■各国でインスピレーションを受けて、演奏に還元
――お忙しく演奏活動を行なっている小林さん。アウトプットの回数が多いかと思いますが、インプットの時間はどうやって取られていますか?
直近の話で言うと、4月と7月は出演の回数を減らして、パリでレッスンを受けてあえてインプットの時間を取りました。他にも、ツアーや演奏会に出演することで学ぶこともありますし、いろんな国を訪れて得るものもあります。そこで自分のインスピレーションや視野を広げて「インプット」して、演奏会活動を行なっています。
――訪れる国ごとに、インスピレーションを受けるために意識していることはありますか?
ヨーロッパの話で言うと、やはり歩いているだけで街の雰囲気をダイレクトに感じますね。自分の向き合っている作曲家がここで生活していたんだな、としっくりくる感覚もあります。
いま私が拠点にしているパリだと、人々の中に「自分が楽しければいいじゃない」というスタンスがあるような気がしていて、そんなところが好きです。それに、現地にいる音楽家と交流したり、演奏を聴いたりすると、自ずと刺激も受けられます。あと、時間があったら美術館に行くようにもしていますね。
日常を過ごしているだけなのに、たくさんのことが吸収できる。それがヨーロッパなのだと思います。
――2015年あたりに「自分はどんな音楽家になりたいのか」と悩まれ、そこから2度のショパン国際ピアノコンクールを経て、現在に至る今、改めてどのような音楽家になりたいと考えていますか?
「彼らの作品があるからこそ、弾き手として演奏できるのだ」と想っているので、作曲家や作品に尊敬の念を抱いていたいと思います。あと、そうやって作曲家と作品に重点を置くのはもちろんのこと、私は楽しく演奏できれば十分なんです。やっぱり仕事だからどうしても辛くなる瞬間もあるのですが、それでも音楽が好き。自分の好きなことを楽しめることこそが、自分にとって最も幸せなことなのだと感じます。

■2022年は目まぐるしい一年だった
――今回は大晦日のジルヴェスターコンサートということで、2022年について振り返っていただければと思います。どのような年でしたか?
2021年にショパン国際ピアノコンクールを終えて、今年はコロナ禍ということもあり、急遽出演できなくなった方の代役をしたこともあり、新たな作曲家と向き合う時間が増えました。
それまでは、ショパン国際ピアノコンクールに出場していたこともあり、どうしてもショパンを中心に向き合う時間が長くて。もちろんショパンも大切な作曲家ですし、好きなのですが、やはりどこかで「ショパンを弾かないと」というプレッシャーがありました。2022年はそこから解放された年で、毎回「今回も楽しく演奏したいな」という思いでコンサートに臨んでいました。
――拠点もパリに移されましたね。
はい。2013年からアメリカに留学していたのですが、コロナ禍で2年間帰れない時期が続いていた中、久しぶりに現地で借りっぱなしだったアパートを訪れて、パリに引っ越すことができました。
現地の大学の卒業演奏会にも出演しました。ショパンやシューマン、あとは私が留学した年に初めて弾いた作品であるシューベルトのソナタを演奏して、すごく感慨深かったです。
今はまだフランス語も得意ではなく、引越しのときに物件を決めることすら大変でしたが、周囲の方々のサポートのおかげで、今はようやく次のステップに向かう準備ができているのかなと。
振り返ってみると、本当に目まぐるしく、頑張った一年でした。でも健康に生きられたし、ピアノを弾き続けられた。なかなか次の時代が予測できない世の中ではありますし、自分自身の私生活でもいろんなことがあるかと思いますが、それも全て自分の経験になるのかなと。ジルベスターコンサートでは、「よくがんばったね」と自分の心に言ってあげながら、弾き納めたいですね。
取材・文=桒田 萌

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