フォーク・ブルースというスタイルで
今なお尊敬を集める
伝説のブルースマン、
ミシシッピー・ジョン・ハート

71歳にして、伝説の男、再発見される

それから34年の時が流れる。農地で働いていたJ.ハートは、ひとりの白人男性に声をかけられる。アフリカ系アメリカ人にとっては、大抵の場合、そのような状況は良いことがあったためしがない。以下はこちらの想像だが、こんなやりとりが交わされたのではないか。

訝しげに顔を上げたJ.ハートに、男は「あなたはミスター・ジョン・ハート、ミシシッピー・ジョン・ハートさんではありませんか?」と言った。「そうだ。そう呼ばれていたこともある」と答えると男は満面の笑みを浮かべて「探しましたよ。きっとこの村にいると思ったんだ」と続けた。男は怪しいものではないと前置きし、自分はトム・ホスキンズといい、ブルース研究家だと名乗った。ホスキンズは1952年に発売されたアメリカン・ルーツミュージックのコンピレーション『アンソロジー・オブ・アメリカン・フォーク・ミュージック』に収録されたJ.ハートの演奏(Frankie / Spike Driver Bluesの2曲)に感激し、当時36歳だったハートがもしかするとまだ存命ではないかと、行方を探していたのだ。「Avalon Blues」の中に、その町が自分のホームタウンだと歌う一節があることに当たりをつけ、ほとんど賭けのようなつもりでアヴァロンにやってきたのだった。そして村人からJ.ハートがいることを聞き出し、探りあてた畑で野良仕事にいそしむ彼を発見したのだ。

J.ハートは71歳になっていた。それでも彼が若い頃と変わらず、村の集まりやパーティーで歌い、ギターを演奏していること、その腕前がほとんど衰えていないことを知ったホスキンズはJ.ハートにレコーディングとコンサート話を持ちかけ、都市へ誘った。こうして今度こそ彼の人生は好転し、プロの演奏家としての道を歩き始める。

時はフォーク・リヴァイバル・ムーブメントの真っ只中。各地のコーヒーハウス、ライヴハウスなど、J.ハートの公演は評判を呼び、どこも盛況だった。テレビにも出演した。ピート・シーガーが案内役を務める番組のほか、中にはジョニー・カースンが司会をするゴールデンタイムの人気番組にも呼ばれた。

そうして招かれた1963年の『ニューポート・フォーク・フェスティバル』。この年のハイライトはふたり。ひとりは若き日のボブ・ディラン、そしてもうひとりはJ.ハートだった。7月27日(土曜日)、万雷の拍手を浴び、彼は大観衆の前で演奏する。音源を聴くと枯淡の域というか、不慣れな会場にあってさえ、いつもと変わらずマイペースな調子でフォークブルースを弾き語っている。この年は彼のほかにはブルース系アーティストとしてはジョン・リー・フッカー、ブラウニー・マッギー&サニー・テリー、ジョン・ハモンド(白人)ぐらいしか出演していないが、主催者はJ.ハートの反響の大きさにブルース枠を拡大し、翌年1964年には再度J.ハートを呼んだほか、マディ・ウォータース、スリーピー・ジョン・エステス、ジェシ・フラー、ミシシッピー・フレッド・マクドウェル、サンハウス、スキップ・ジェームスらを出演させている。

それから3年後、1966年11月2日、J.ハートは心臓発作で急逝してしまう。再発見されてからわずか3年という短い活動期間だったが、その間にヴァンガードレコードにオリジナルアルバムを3枚録音したほか、矢継ぎ早にコンサートがブッキングされ、まるで今でいうロックスターなみのハードスケジュールでライヴをこなしていたようだ。多くは車で移動していたのであろうから、老齢の身に結構こたえたのかもしれない。それでも、きっとJ.ハートという人は自分の歌を聴きたいと思ってくれている人がいるのならと、エージェントの無理なブッキングにも特に不平も言わず出かけていくような感じだったのではないか。なにせ、諦めていた音楽で旅ができ、飯まで食えているのだから。

OKMusic編集部

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