INTERVIEW / Joint Beauty 異色のキ
ャリアを形成するビートメイカー・J
oint Beauty。そのバックグラウンド
、そして新作『nell』制作背景を紐解

「Joint Beautyって何者なんだろう?」。そう思ったリスナーは多いのではないだろうか。
2020年に発表した初作品となるビートテープ『Melty』はカナダの〈URBNET Records〉から、同年にリリースした2作目『AMATSUKA』はOlive OilとPoppy Oil兄弟による〈OILWORKS〉からのリリース。そして今年、Creepy NutsSUSHIBOYSを輩出した〈Trigger Records〉からリリースしたシングルには田我流とZIN、FARMHOUSEとtofubeatsをそれぞれフィーチャー。さらに11月30日(水)に発表されたアルバム『nell』でもBUPPONから仮谷せいらまで多彩な面々を迎え……と、縁のある名前を並べるだけでも錚々たるものだ。
それでいて美しいピアノなどを巧みに使ったメロディアスで端正なビートメイクも強力な作家性を備えており、豪華なゲストに決して飲まれず自身の音楽として構築している。当然インスト作品も素晴らしい仕上がりだ。さらに2ステップやドラムンベースのようなヒップホップ以外の引き出しも持っており、とにかく底の知れないアーティストである。
にも関わらず、その活動を辿っても辿っても2020年より前に遡ることはできない。そこで今回、このミステリアスな才能へのインタビューを行った。その結果見えてきたのは、自分の理想に近づくためにたった一人で努力し、制作に妥協を許さない強い意志を持った人物の姿だった。
Interview & Text by アボかど(https://twitter.com/cplyosuke)
Photo by Official
クラシック・ピアニストからビートメイクの道へ
――ヒップホップとの出会いについて教えてください。
Joint Beauty:地元が長崎なんですけど、いわゆるヤンキーみたいな人がいっぱいいる環境だったんですよね。自分は違うんですけど。そういう人たちとつるんでいるうちに、たぶん『高校生RAP選手権』がきっかけでラップが流行ったんです。自分は混ざらなかったんですけど、自分の家にヤンキーたちが集まってサイファーとかしたりしていました。自分の持っていたiPodからYouTubeでビートを検索して流して、ヤンキーたちがラップするみたいなのがヒップホップの始まりだったと思います。
そのとき流行っていたのはAK-69さんとかでしたね。当時はヒップホップだと認識して聴いていたわけではなくて、後々にヒップホップだったんだなとわかりました。でも、自分はそれでハマったわけじゃなくて、ずっとEXILEとかを聴いていました。その後大学で福岡に行ったんですけど、イギリスに2ヶ月くらい行く機会があったんです。そのときのホスト・ファザーだった絵描きの人からレコードを色々と教えていただいて、J DillaやDibia$e辺りのUSのビートメイカーを知りました。そこからビートものにどっぷりハマったっていう感じですね。
――ビートメイクを始めたのはいつ頃でしたか?
Joint Beauty:今23歳なんですけど、大学3年か4年くらいのときに始めました。2年半くらい前ですね。
――ということは、作り始めてからすぐにカナダの〈URBNET Records〉からリリースしたんですね。
Joint Beauty:そうですね。作ったものをそのままレーベルに送ったら、それが採用されたみたいな感じでした。
――ビートメイクを始める前には何か音楽をされていたんですか?
Joint Beauty:一応クラシックのピアノを10年やっていました。ビート作りに活きてはいるんですけど、あまり実感はしていないです。
――ピアノの経験があるんですね。今のビートメイクも弾きでやっているんですか?
Joint Beauty:基本的に全部弾きでやっています。たまにサンプリングもするんですけど、限界を感じたりしたんですよね。自分で弾いたピアノの音とかを入れるのが楽しくて、最近は弾きに偏って作っています。最初にドラムを組んで、ピアノをなんとなく弾いてコード感を考えてみたいな流れで作っていますね。
――ビートメイクはどうやって学びましたか?
Joint Beauty:周りにはそういうのをやっている人がひとりもいなくて、自分ひとりで情報収集するしかないっていう環境でした。最初に「MPC ELEMENT」っていうパッドだけあるみたいなMPCを買って、YouTubeで「MPC How To」を検索して色々漁ったりしていました。
Mass Appealの『Rhythm Roulette』もめちゃくちゃ参考にしましたね。ビートメイクの経過がちゃんと見えるので、「ベースってこういう感じで入れるんだ」みたいに参考にしていました。『Rhythm Roulette』は大体全部漁ったと思います。Havoc、9th wonderの回は特によく見ていましたね。
――ミックスやマスタリングはどうやって学びましたか?
Joint Beauty:それもYouTubeですね。あとはよく知らないビートメイカーがnoteとかに書いているミックスの方法も読んで試しました。教えてもらえたらそれが一番いいんですけど、教えてくれる人が周りにいなかったので自分で情報収集してやっています。
自分にできないことをやるビートメイカーへの憧れ
――“史上最高のビートメイカー”を5人挙げていただいてもいいですか?
Joint Beauty:1人目はカナダのプロデューサー・Anomalieです。自分がやっていたピアノはジャズとかじゃないので、即興でガンガン弾けるのに憧れがあるんですよね。Spincoasterさんから出ているAnomalieのライブ映像を見たことがあるんですけど、まさにそれをがっつりやっている人なんです。
Joint Beauty:2人目はKnxwledgeです。ナシをアリにするところとか、まんま使っていいんだっていう価値観もKnxwledgeから学びました。ドラムが凹んでいるけど違和感なかったり、気持ちいいところだけ持ってきたりとか。そういうセンスって簡単なようで全然簡単じゃないところがあるので憧れます。Anderson .PaakとのNxWorriesとか、そういうデカい人たちと組めているのもすごいと思います。
3人目はElaquent。自分が最初のビートテープを出した〈URBNET〉に所属している人ですね。自分が〈URBNET〉に送ったのは、元々その人が好きだったからという理由です。Elaquentはハットのシャッフル感とか、生まれ持ったリズム感がないと出せないグルーヴがあるんですよね。自分にやれないことなのでめちゃくちゃ好きですね。最高だと思います。
――Elaquentは今年出したアルバムに日本人ベーシストのオオツカマナミさんが参加していたり、日本とも縁がある人ですよね。
Joint Beauty:日本でも人気ありますよね。あとの2人は日本人で、まずはΔKTRさんという方を挙げたいです。自分が大学時代にビートを聴き漁っていたときに〈Fuzzoscope〉というレーベルに辿り着いて、ΔKTRさんのビートテープを日本人だと知らずに聴いていたんですよね。80’sの香りがするネタをがっつり使う系の人なんですけど、ネタのチョイスに外れがなくて最高だなと思います。
Joint Beauty:最後のひとりは、個人的にお世話になっているビートメイカーのlee (asano+ryuhei)さんです。ビートを作り始めてから周りに誰もいなかった状態で、唯一恩師みたいな感じで慕っていた人なんですよね。
leeさんもKnxwledgeみたいにネタのループをがっつり使って自分のドラムでまとめていくみたいなスタイルで、なんでもアリみたいな方針を示してくれました。自分に予想できないことをやったりしていて、独創性みたいなところにめちゃくちゃ憧れています。
Aru-2さんとの『TANHA』っていうアルバムがあるんですけど、あれはマジで名盤です。あれほど擦り切れるくらい聴いたビート・アルバムはないですね。ドラムが入っている曲をサンプリングするとき、自分のドラムを入れるところのベロシティを小さくして沈めるやり方はΔKTRさんのビートを聴いて学んだし、leeさんからも教えてもらいました。
――leeさんとはどうやって繋がったんですか?
Joint Beauty:leeさんが使っているサンプルを教えてもらって、それを使って作ったビートを送ったら反応を頂けて。そこから「会おうよ」って話になって、親交が深まったみたいな感じですね。お互い寡黙なのですごい話したりはしないんですけど、通じるものがあってお互いにわかっているみたいな感じですね。
――それこそleeさんもそうですが、Joint BeautyさんのSoundCloudのLike欄にもよれたビートの人が多いような印象を受けました。ただ、Joint Beautyさんのビートはよれてないものが多いですが、そこはこだわっている点ですか?
Joint Beauty:クラシックで綺麗なピアノを強制的に弾かされていたのもあって、よれたものを作ろうと思っても綺麗な感じで収束しちゃうんですよね。聴いている音楽としてはよれるのが好きなんですけど。
“帰ってきちゃう音楽”を目指しつつプロデューサーとしての幅もアピール
――今回のアルバムではどういった作品を目指しましたか?
Joint Beauty:一年前くらいに一度アルバムを作ったんですけど、なんかまとまっていなくてバラしたんですよね。今回のアルバムでは、一時的にパッと評価されるというより、「昔から聴いていたこれに何かと帰ってきちゃうよね」みたいな作品にしたかったんです。バラした後、そういったコンセプトで曲を並べていきました。
――そういう作品にするためにトライしたことはありますか?
Joint Beauty:自分の中で、“帰ってきちゃう音楽”ってなんかエロい音楽なんですよね。そこで意識的にそういうコード進行にしたりしました。あと、あえて耳にちょっと痛いスネアを使ってみたりとか。それをやることでドラムがエロくなるんです。エロくすることは意識しましたね。
――セクシャルな表現といえば、R&Bの要素がちょくちょくあると思いました。
Joint Beauty:まさに。自分が聴いている音楽がR&Bに傾倒してきていて、だいぶ意識していますね。今年の作品だとRaveenaとかめっちゃ好きで聴き漁っていました。ゴリゴリの90年代ヒップホップとかは全くリファレンスとして考えていなかったです。海外のゆるいR&Bとか、あとSnail’s Houseさんなど、いわゆる“Kawaii Future Bass”というジャンルの曲をリファレンスとして考えていました。
――Kawaii Future Bassのようなエレクトロニック・ミュージック文脈としては、今回のアルバムは先行シングルが2ステップだったり、ドラムンベースの曲もありました。これまでの作品ではそういった側面は出してこなかった印象がありましたが、今回これらの要素を導入しようと思った理由はなんですか?
Joint Beauty:自分の中で飽きが来たっていうこともあるんですけど、「こういうのもいけるっすよ」みたいなスタンスを見せたいっていうのもありました。アルバムの流れ的にも頭を空っぽにして聴ける音楽を2曲くらい入れたくて、それで4曲目でドラムンベース、5曲目で2ステップを作りました。プロデューサーとしてやれることの幅を示したかったんですよね。
――なるほど。今回のアルバムは客演を多く迎えていますが、参加アーティストを決めてからその人に合わせてビートを作った形でしょうか? それとも逆にビート先行ですか?
Joint Beauty:まず、「こういうアルバムにしたい」っていう全体像があったんですよね。それに沿って全部ビートを作って、ビート先行で客演をお願いしました。一回ある程度完成したアルバムを聴き返したらグチャグチャだったので、流れを持った状態でスタートさせたいなというのがあったんですよね。
――例えば「Crescent Moon」などはループとは別にピアノが生演奏っぽい感じで入ってきますが、ピアノががっつり入った状態でお渡ししたんですか?
Joint Beauty:そうですね。ピアノががっつり入っている状態でした。ビートを後でいじるってことはないんですよね。入れたい音は全部その日の作業中に入れることにしています。その場の熱量でやらないと、もう次の日には「あ~、もうめんどくさいな」ってなっちゃうんです。「Crescent Moon」は特にピアノを引き立たせたい曲でした。
理想に近づくための徹底したプロデュース
――客演の皆さんとは一緒にスタジオに入ったりはしましたか?
Joint Beauty:いや、一曲も入っていないです。ですが、自分の理想に近づけるためにかなり強めに要望を伝えました。自分より力のあるアーティストさんにお願いするときとかは、「自分のイメージとちょっと違うな」と思っても言えない人って結構いると思うんですよ。でも、今回は内容とかメロディを自分の理想に近づけるように作らせてもらいました。
具体的な話だと、FARMHOUSEさんには3回くらいやり直してもらったりとかしていて。「Crescent Moon」では田さん(田我流)に「自分はここに言葉を入れたいんですけど」ってお伝えしたり、逆に「ここのピアノを聴かせなくてどうするんだよ」って指摘してくれたり、そういう会話もありましたね。
――「Crescent Moon」もZINさんがフックを歌っていますが、今回はメロディアスなフックの曲が多いですよね。メロディは客演の人に任せた形ですか?
Joint Beauty:自分でメロをピアノで弾いたものを送って、それを歌ってもらうことが多いです。ビートを投げて、「これやってください」で終わりじゃなくて、自分の作品だからこだわってやらせてほしいっていう思いがあったんです。今回は皆さんにそこを理解していただいていたのでよかったですね。
――そんな中、BUPPONさんとの曲のみラップによるフックですよね。
Joint Beauty:BUPPONさんはそういうスタイルじゃないっていうのもあるんですけど、2人で話し合って、ビートの雰囲気的にも「歌わない方がいいんじゃない?」ということになりました。あの曲は「こういうテーマでやってほしい」というのが明確にあって、アルバムの締めみたいな感じで考えていたんですよね。メッセージをがっつり伝えるためにも、下手になんか入れる必要ないと思いました。
――そうやって話し合うのは全部の曲でやっているんですか?
Joint Beauty:そうですね。リモート会議か電話で伝えて、あとはデータのやり取りを何回かやりました。それも一回では終わらなくて、結局10回くらいやり取りしたこともありましたね。
――すごい、単なるビートメイカーじゃなくてプロデューサーって感じがしますね。今回のアルバムは海外からUhmeerとMoka Onlyが参加していますが、2人が参加した曲のディレクションはどのように?
Joint Beauty:英語圏の方なので細かいディレクションはできなかったんですけど、それでも拙い英語である程度雰囲気とかを共有して作ってもらいました。
――そういえば、そもそも2人と知り合ったきっかけはなんだったんですか?
Joint Beauty:Uhmeerは2年くらい前、前作を作っているときにたまたま自分がInstagramに載せたビートに反応してくれて、連絡をもらったのがきっかけです。そこからメールでやり取りが始まったんですけど、最初はDJ Jazzy Jeffさんの息子だと知らなかったんですよね。普通にいちアーティストとして一緒に曲を作っていて、前作を出す直前くらいに知りました。
今回の曲は2年前くらいに作っていた曲なんですけど、向こうでリリースする予定だったのが「入らないからどうしよう」みたいな話になって。それで今回のアルバムに持ってきました。Uhmeerは最近、星野源さんの『オールナイトニッポン』でジングルをやっていたりもしていますよね。Moka Onlyは、最初の作品を出したときに〈URBNET〉の担当の方から繋げてもらいました。
ライブや劇伴などにも挑みながら職人肌の人を目指したい
――シンパシーを感じるアーティストっていらっしゃいますか?
Joint Beauty:tofuさん(tofubeats)には勝手にめっちゃシンパシーを感じますね。リモート会議をしたんですけど、まさに“職人肌”っていう印象でした。自分はそういう人に惹かれるので、音楽性の面というより姿勢の面で目指したい感じの人だなと思いました。
――今回のアルバムを機に色々な人に知られて多方面から声がかかるんじゃないかと思います。今後どういう人と一緒に曲をやりたいですか?
Joint Beauty:海外のR&Bシンガーと曲をできたら嬉しいですね。そこは自分から仕掛けていかなきゃと思います。最近はとにかく歌モノのトラックをたくさん制作しているので、シンガーとの共演の機会を増やしていきたいです。
――海外アーティストといえば、SoundCloudで韓国の音楽にもいくつかLikeを付けていますよね。
Joint Beauty:韓国は弾きで作るプロデューサーの質が段違いで高いと思います。K-POPグループとかにそんなに興味があるわけじゃないんですけど、たまたま聴いた曲の鳴りに衝撃を受けることが多いんですよね。「これ、ポップスとしてリリースしているんだよね? それにしてはドラムやシンセの鳴りめちゃくちゃいいじゃん」みたいなことが多いんです。特別好きなアーティストがいるってほどじゃないんですけど、明らかにレベルが高いと思いますね。
――ラッパーやシンガーではなく、ビートメイカーとの共作には興味はありますか?
Joint Beauty:ちょっと前だったら興味はありました。それこそ〈URBNET〉からリリースされたBudamunkさんとIll Sugiさんの共作ビートテープとかめっちゃ聴いていますし。今はビートテープを作ろうっていう考えはないんですけど、ビートテープを作りたいマインドだったときには結構やりたかったですね。
ビートテープって、共作で作るとクオリティがガクンって上がると思うんですよ。Onra & Pomrad、Fitz Ambro$e & Gradis Niceとか、2人揃うと最高だと思います。でも自分はやれる人がいなかったのでやりませんでした。最高なビートメイカーと知り合えたらやりたいですね。
――今後ほかにやっていきたいことはありますか?
Joint Beauty:今後はライブを積極的にやっていきたいと思っています。フェスとかマジで出たいんですよ。今までお誘いをもらっても、「ビート・ライブって何をしたらいいんだろう?」っていうのがあってやってこなかったんですけど。でも自分のスタイルで作ったリミックスをDJスタイルでやったり、鍵盤をその場で弾いたりとかもできますし。客演を呼んでやるのもできますよね。
あとはアニメやドラマの劇伴やエンディング・テーマとかもやってみたいです。それを当面の目標にしていきたいですね。
【リリース情報】

All Tracks Produced by Joint Beauty

Mixed, Mastered by Joint Beauty
Artwork by Mee Kee
(c)︎2022 STEEL STREET, Inc.
■ 配信リンク(https://linkco.re/vCaNdY7X)
■Joint Beauty: Instagram(https://www.instagram.com/joint_beauty/)
「Joint Beautyって何者なんだろう?」。そう思ったリスナーは多いのではないだろうか。
2020年に発表した初作品となるビートテープ『Melty』はカナダの〈URBNET Records〉から、同年にリリースした2作目『AMATSUKA』はOlive OilとPoppy Oil兄弟による〈OILWORKS〉からのリリース。そして今年、Creepy NutsやSUSHIBOYSを輩出した〈Trigger Records〉からリリースしたシングルには田我流とZIN、FARMHOUSEとtofubeatsをそれぞれフィーチャー。さらに11月30日(水)に発表されたアルバム『nell』でもBUPPONから仮谷せいらまで多彩な面々を迎え……と、縁のある名前を並べるだけでも錚々たるものだ。
それでいて美しいピアノなどを巧みに使ったメロディアスで端正なビートメイクも強力な作家性を備えており、豪華なゲストに決して飲まれず自身の音楽として構築している。当然インスト作品も素晴らしい仕上がりだ。さらに2ステップやドラムンベースのようなヒップホップ以外の引き出しも持っており、とにかく底の知れないアーティストである。
にも関わらず、その活動を辿っても辿っても2020年より前に遡ることはできない。そこで今回、このミステリアスな才能へのインタビューを行った。その結果見えてきたのは、自分の理想に近づくためにたった一人で努力し、制作に妥協を許さない強い意志を持った人物の姿だった。
Interview & Text by アボかど(https://twitter.com/cplyosuke)
Photo by Official
クラシック・ピアニストからビートメイクの道へ
――ヒップホップとの出会いについて教えてください。
Joint Beauty:地元が長崎なんですけど、いわゆるヤンキーみたいな人がいっぱいいる環境だったんですよね。自分は違うんですけど。そういう人たちとつるんでいるうちに、たぶん『高校生RAP選手権』がきっかけでラップが流行ったんです。自分は混ざらなかったんですけど、自分の家にヤンキーたちが集まってサイファーとかしたりしていました。自分の持っていたiPodからYouTubeでビートを検索して流して、ヤンキーたちがラップするみたいなのがヒップホップの始まりだったと思います。
そのとき流行っていたのはAK-69さんとかでしたね。当時はヒップホップだと認識して聴いていたわけではなくて、後々にヒップホップだったんだなとわかりました。でも、自分はそれでハマったわけじゃなくて、ずっとEXILEとかを聴いていました。その後大学で福岡に行ったんですけど、イギリスに2ヶ月くらい行く機会があったんです。そのときのホスト・ファザーだった絵描きの人からレコードを色々と教えていただいて、J DillaやDibia$e辺りのUSのビートメイカーを知りました。そこからビートものにどっぷりハマったっていう感じですね。
――ビートメイクを始めたのはいつ頃でしたか?
Joint Beauty:今23歳なんですけど、大学3年か4年くらいのときに始めました。2年半くらい前ですね。
――ということは、作り始めてからすぐにカナダの〈URBNET Records〉からリリースしたんですね。
Joint Beauty:そうですね。作ったものをそのままレーベルに送ったら、それが採用されたみたいな感じでした。
――ビートメイクを始める前には何か音楽をされていたんですか?
Joint Beauty:一応クラシックのピアノを10年やっていました。ビート作りに活きてはいるんですけど、あまり実感はしていないです。
――ピアノの経験があるんですね。今のビートメイクも弾きでやっているんですか?
Joint Beauty:基本的に全部弾きでやっています。たまにサンプリングもするんですけど、限界を感じたりしたんですよね。自分で弾いたピアノの音とかを入れるのが楽しくて、最近は弾きに偏って作っています。最初にドラムを組んで、ピアノをなんとなく弾いてコード感を考えてみたいな流れで作っていますね。
――ビートメイクはどうやって学びましたか?
Joint Beauty:周りにはそういうのをやっている人がひとりもいなくて、自分ひとりで情報収集するしかないっていう環境でした。最初に「MPC ELEMENT」っていうパッドだけあるみたいなMPCを買って、YouTubeで「MPC How To」を検索して色々漁ったりしていました。
Mass Appealの『Rhythm Roulette』もめちゃくちゃ参考にしましたね。ビートメイクの経過がちゃんと見えるので、「ベースってこういう感じで入れるんだ」みたいに参考にしていました。『Rhythm Roulette』は大体全部漁ったと思います。Havoc、9th wonderの回は特によく見ていましたね。
――ミックスやマスタリングはどうやって学びましたか?
Joint Beauty:それもYouTubeですね。あとはよく知らないビートメイカーがnoteとかに書いているミックスの方法も読んで試しました。教えてもらえたらそれが一番いいんですけど、教えてくれる人が周りにいなかったので自分で情報収集してやっています。
自分にできないことをやるビートメイカーへの憧れ
――“史上最高のビートメイカー”を5人挙げていただいてもいいですか?
Joint Beauty:1人目はカナダのプロデューサー・Anomalieです。自分がやっていたピアノはジャズとかじゃないので、即興でガンガン弾けるのに憧れがあるんですよね。Spincoasterさんから出ているAnomalieのライブ映像を見たことがあるんですけど、まさにそれをがっつりやっている人なんです。
Joint Beauty:2人目はKnxwledgeです。ナシをアリにするところとか、まんま使っていいんだっていう価値観もKnxwledgeから学びました。ドラムが凹んでいるけど違和感なかったり、気持ちいいところだけ持ってきたりとか。そういうセンスって簡単なようで全然簡単じゃないところがあるので憧れます。Anderson .PaakとのNxWorriesとか、そういうデカい人たちと組めているのもすごいと思います。
3人目はElaquent。自分が最初のビートテープを出した〈URBNET〉に所属している人ですね。自分が〈URBNET〉に送ったのは、元々その人が好きだったからという理由です。Elaquentはハットのシャッフル感とか、生まれ持ったリズム感がないと出せないグルーヴがあるんですよね。自分にやれないことなのでめちゃくちゃ好きですね。最高だと思います。
――Elaquentは今年出したアルバムに日本人ベーシストのオオツカマナミさんが参加していたり、日本とも縁がある人ですよね。
Joint Beauty:日本でも人気ありますよね。あとの2人は日本人で、まずはΔKTRさんという方を挙げたいです。自分が大学時代にビートを聴き漁っていたときに〈Fuzzoscope〉というレーベルに辿り着いて、ΔKTRさんのビートテープを日本人だと知らずに聴いていたんですよね。80’sの香りがするネタをがっつり使う系の人なんですけど、ネタのチョイスに外れがなくて最高だなと思います。
Joint Beauty:最後のひとりは、個人的にお世話になっているビートメイカーのlee (asano+ryuhei)さんです。ビートを作り始めてから周りに誰もいなかった状態で、唯一恩師みたいな感じで慕っていた人なんですよね。
leeさんもKnxwledgeみたいにネタのループをがっつり使って自分のドラムでまとめていくみたいなスタイルで、なんでもアリみたいな方針を示してくれました。自分に予想できないことをやったりしていて、独創性みたいなところにめちゃくちゃ憧れています。
Aru-2さんとの『TANHA』っていうアルバムがあるんですけど、あれはマジで名盤です。あれほど擦り切れるくらい聴いたビート・アルバムはないですね。ドラムが入っている曲をサンプリングするとき、自分のドラムを入れるところのベロシティを小さくして沈めるやり方はΔKTRさんのビートを聴いて学んだし、leeさんからも教えてもらいました。
――leeさんとはどうやって繋がったんですか?
Joint Beauty:leeさんが使っているサンプルを教えてもらって、それを使って作ったビートを送ったら反応を頂けて。そこから「会おうよ」って話になって、親交が深まったみたいな感じですね。お互い寡黙なのですごい話したりはしないんですけど、通じるものがあってお互いにわかっているみたいな感じですね。
――それこそleeさんもそうですが、Joint BeautyさんのSoundCloudのLike欄にもよれたビートの人が多いような印象を受けました。ただ、Joint Beautyさんのビートはよれてないものが多いですが、そこはこだわっている点ですか?
Joint Beauty:クラシックで綺麗なピアノを強制的に弾かされていたのもあって、よれたものを作ろうと思っても綺麗な感じで収束しちゃうんですよね。聴いている音楽としてはよれるのが好きなんですけど。
“帰ってきちゃう音楽”を目指しつつプロデューサーとしての幅もアピール
――今回のアルバムではどういった作品を目指しましたか?
Joint Beauty:一年前くらいに一度アルバムを作ったんですけど、なんかまとまっていなくてバラしたんですよね。今回のアルバムでは、一時的にパッと評価されるというより、「昔から聴いていたこれに何かと帰ってきちゃうよね」みたいな作品にしたかったんです。バラした後、そういったコンセプトで曲を並べていきました。
――そういう作品にするためにトライしたことはありますか?
Joint Beauty:自分の中で、“帰ってきちゃう音楽”ってなんかエロい音楽なんですよね。そこで意識的にそういうコード進行にしたりしました。あと、あえて耳にちょっと痛いスネアを使ってみたりとか。それをやることでドラムがエロくなるんです。エロくすることは意識しましたね。
――セクシャルな表現といえば、R&Bの要素がちょくちょくあると思いました。
Joint Beauty:まさに。自分が聴いている音楽がR&Bに傾倒してきていて、だいぶ意識していますね。今年の作品だとRaveenaとかめっちゃ好きで聴き漁っていました。ゴリゴリの90年代ヒップホップとかは全くリファレンスとして考えていなかったです。海外のゆるいR&Bとか、あとSnail’s Houseさんなど、いわゆる“Kawaii Future Bass”というジャンルの曲をリファレンスとして考えていました。
――Kawaii Future Bassのようなエレクトロニック・ミュージック文脈としては、今回のアルバムは先行シングルが2ステップだったり、ドラムンベースの曲もありました。これまでの作品ではそういった側面は出してこなかった印象がありましたが、今回これらの要素を導入しようと思った理由はなんですか?
Joint Beauty:自分の中で飽きが来たっていうこともあるんですけど、「こういうのもいけるっすよ」みたいなスタンスを見せたいっていうのもありました。アルバムの流れ的にも頭を空っぽにして聴ける音楽を2曲くらい入れたくて、それで4曲目でドラムンベース、5曲目で2ステップを作りました。プロデューサーとしてやれることの幅を示したかったんですよね。
――なるほど。今回のアルバムは客演を多く迎えていますが、参加アーティストを決めてからその人に合わせてビートを作った形でしょうか? それとも逆にビート先行ですか?
Joint Beauty:まず、「こういうアルバムにしたい」っていう全体像があったんですよね。それに沿って全部ビートを作って、ビート先行で客演をお願いしました。一回ある程度完成したアルバムを聴き返したらグチャグチャだったので、流れを持った状態でスタートさせたいなというのがあったんですよね。
――例えば「Crescent Moon」などはループとは別にピアノが生演奏っぽい感じで入ってきますが、ピアノががっつり入った状態でお渡ししたんですか?
Joint Beauty:そうですね。ピアノががっつり入っている状態でした。ビートを後でいじるってことはないんですよね。入れたい音は全部その日の作業中に入れることにしています。その場の熱量でやらないと、もう次の日には「あ~、もうめんどくさいな」ってなっちゃうんです。「Crescent Moon」は特にピアノを引き立たせたい曲でした。
理想に近づくための徹底したプロデュース
――客演の皆さんとは一緒にスタジオに入ったりはしましたか?
Joint Beauty:いや、一曲も入っていないです。ですが、自分の理想に近づけるためにかなり強めに要望を伝えました。自分より力のあるアーティストさんにお願いするときとかは、「自分のイメージとちょっと違うな」と思っても言えない人って結構いると思うんですよ。でも、今回は内容とかメロディを自分の理想に近づけるように作らせてもらいました。
具体的な話だと、FARMHOUSEさんには3回くらいやり直してもらったりとかしていて。「Crescent Moon」では田さん(田我流)に「自分はここに言葉を入れたいんですけど」ってお伝えしたり、逆に「ここのピアノを聴かせなくてどうするんだよ」って指摘してくれたり、そういう会話もありましたね。
――「Crescent Moon」もZINさんがフックを歌っていますが、今回はメロディアスなフックの曲が多いですよね。メロディは客演の人に任せた形ですか?
Joint Beauty:自分でメロをピアノで弾いたものを送って、それを歌ってもらうことが多いです。ビートを投げて、「これやってください」で終わりじゃなくて、自分の作品だからこだわってやらせてほしいっていう思いがあったんです。今回は皆さんにそこを理解していただいていたのでよかったですね。
――そんな中、BUPPONさんとの曲のみラップによるフックですよね。
Joint Beauty:BUPPONさんはそういうスタイルじゃないっていうのもあるんですけど、2人で話し合って、ビートの雰囲気的にも「歌わない方がいいんじゃない?」ということになりました。あの曲は「こういうテーマでやってほしい」というのが明確にあって、アルバムの締めみたいな感じで考えていたんですよね。メッセージをがっつり伝えるためにも、下手になんか入れる必要ないと思いました。
――そうやって話し合うのは全部の曲でやっているんですか?
Joint Beauty:そうですね。リモート会議か電話で伝えて、あとはデータのやり取りを何回かやりました。それも一回では終わらなくて、結局10回くらいやり取りしたこともありましたね。
――すごい、単なるビートメイカーじゃなくてプロデューサーって感じがしますね。今回のアルバムは海外からUhmeerとMoka Onlyが参加していますが、2人が参加した曲のディレクションはどのように?
Joint Beauty:英語圏の方なので細かいディレクションはできなかったんですけど、それでも拙い英語である程度雰囲気とかを共有して作ってもらいました。
――そういえば、そもそも2人と知り合ったきっかけはなんだったんですか?
Joint Beauty:Uhmeerは2年くらい前、前作を作っているときにたまたま自分がInstagramに載せたビートに反応してくれて、連絡をもらったのがきっかけです。そこからメールでやり取りが始まったんですけど、最初はDJ Jazzy Jeffさんの息子だと知らなかったんですよね。普通にいちアーティストとして一緒に曲を作っていて、前作を出す直前くらいに知りました。
今回の曲は2年前くらいに作っていた曲なんですけど、向こうでリリースする予定だったのが「入らないからどうしよう」みたいな話になって。それで今回のアルバムに持ってきました。Uhmeerは最近、星野源さんの『オールナイトニッポン』でジングルをやっていたりもしていますよね。Moka Onlyは、最初の作品を出したときに〈URBNET〉の担当の方から繋げてもらいました。
ライブや劇伴などにも挑みながら職人肌の人を目指したい
――シンパシーを感じるアーティストっていらっしゃいますか?
Joint Beauty:tofuさん(tofubeats)には勝手にめっちゃシンパシーを感じますね。リモート会議をしたんですけど、まさに“職人肌”っていう印象でした。自分はそういう人に惹かれるので、音楽性の面というより姿勢の面で目指したい感じの人だなと思いました。
――今回のアルバムを機に色々な人に知られて多方面から声がかかるんじゃないかと思います。今後どういう人と一緒に曲をやりたいですか?
Joint Beauty:海外のR&Bシンガーと曲をできたら嬉しいですね。そこは自分から仕掛けていかなきゃと思います。最近はとにかく歌モノのトラックをたくさん制作しているので、シンガーとの共演の機会を増やしていきたいです。
――海外アーティストといえば、SoundCloudで韓国の音楽にもいくつかLikeを付けていますよね。
Joint Beauty:韓国は弾きで作るプロデューサーの質が段違いで高いと思います。K-POPグループとかにそんなに興味があるわけじゃないんですけど、たまたま聴いた曲の鳴りに衝撃を受けることが多いんですよね。「これ、ポップスとしてリリースしているんだよね? それにしてはドラムやシンセの鳴りめちゃくちゃいいじゃん」みたいなことが多いんです。特別好きなアーティストがいるってほどじゃないんですけど、明らかにレベルが高いと思いますね。
――ラッパーやシンガーではなく、ビートメイカーとの共作には興味はありますか?
Joint Beauty:ちょっと前だったら興味はありました。それこそ〈URBNET〉からリリースされたBudamunkさんとIll Sugiさんの共作ビートテープとかめっちゃ聴いていますし。今はビートテープを作ろうっていう考えはないんですけど、ビートテープを作りたいマインドだったときには結構やりたかったですね。
ビートテープって、共作で作るとクオリティがガクンって上がると思うんですよ。Onra & Pomrad、Fitz Ambro$e & Gradis Niceとか、2人揃うと最高だと思います。でも自分はやれる人がいなかったのでやりませんでした。最高なビートメイカーと知り合えたらやりたいですね。
――今後ほかにやっていきたいことはありますか?
Joint Beauty:今後はライブを積極的にやっていきたいと思っています。フェスとかマジで出たいんですよ。今までお誘いをもらっても、「ビート・ライブって何をしたらいいんだろう?」っていうのがあってやってこなかったんですけど。でも自分のスタイルで作ったリミックスをDJスタイルでやったり、鍵盤をその場で弾いたりとかもできますし。客演を呼んでやるのもできますよね。
あとはアニメやドラマの劇伴やエンディング・テーマとかもやってみたいです。それを当面の目標にしていきたいですね。
【リリース情報】

All Tracks Produced by Joint Beauty

Mixed, Mastered by Joint Beauty
Artwork by Mee Kee
(c)︎2022 STEEL STREET, Inc.
■ 配信リンク(https://linkco.re/vCaNdY7X)
■Joint Beauty: Instagram(https://www.instagram.com/joint_beauty/)

Spincoaster

『心が震える音楽との出逢いを』独自に厳選した国内外の新鋭MUSICを紹介。音楽ニュース、ここでしか読めないミュージシャンの音楽的ルーツやインタビュー、イベントのレポートも掲載。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着