『坂本真綾LIVE 2022”un_mute”』オ
フィシャルライブレポート 1年8カ月
ぶりとなる再始動ライブ

坂本真綾による1年8カ月ぶりのライブ『坂本真綾LIVE 2022”un_mute”』が11月26日と27日に行われた。本ライブの1日目のオフィシャルライブレポートが到着したので掲載する。

11月26日と27日の2日間にわたり、東京国際フォーラム ホールAにて「坂本真綾LIVE 2022”un_mute”」が開催された。“un_mute(アンミュート)”=「ミュート(無音)を解除する」という意味が込められた今回のライブは、昨年3月に行われた25周年記念ライブから約1年8ヶ月ぶり、そして自身が出産を経ての再始動ライブでもあった。このレポートでは1日目の模様をお届けする。
黒で統一した衣装がスタイリッシュなバンドのメンバーと、ブルーグリーンが美しいドレス姿の坂本真綾がステージに登場すると、まず最初に演奏されたのは今年の5月にリリースされたシングル曲「菫」だった。イントロの鍵盤の音色が情緒豊かなこの曲は、彼女が車の中から横断歩道を人が通り過ぎる光景を眺めながら、色んな人の色んな人生に想いを馳せながら書いたという。新しい扉をゆっくりと開くように、ひとつひとつの言葉を丁寧に発しながら歌う姿が印象的なオープニングだった。続く「言葉にできない」も同じく最新シングルの収録曲で、ストリングスの美しいアレンジが映えるアンサンブルと坂本の軽やかで麗しい歌声が心地良い空間を生み出していく。ちなみに今回のバンドメンバーは、河野伸(Piano & Band master)、佐野康夫(Drums)、大神田智彦(Bass)、設楽博臣(Guitar)、外園一馬(Guitar)、金原千恵子(Violin)、笠原あやの(Cello)、稲泉りん(Chorus)、高橋あず美(Chorus)という豪華な編成。ストリングスも入った編成だからこそ演奏したい曲もあると事前に話していた。
彼女自身も大きな節目を迎えてのリリースとなった新曲たちで始まった今回のライブ。「コロナ禍ではライブやミュージカルを開催しても、客席は隣の人と1席空けた状態だったので、満席の会場でライブができるのは約3年ぶり」と目の前の光景に喜びながら「私の再始動を楽しみに待ってくださっていた方がこんなにいて嬉しいです!」と挨拶すると大きな拍手が沸き起こった。
まだリハーサルが始まる前にインタビューをする機会があったが「今回のライブでは私が今歌いたい曲を歌う」と語っていた。ライブを観ながら、それは「今、新しい1歩を踏み出すにあたって歌わなければいけない曲を歌う」という意味だったんだと感じた。「2009年に作った曲を何曲か聴いていただきました」というMCもあったが、その年にリリースしたアルバム『かぜよみ』の中から今回は3曲目に「SONIC BOOM」が披露され、その後も「雨が降る」「Remedy」「カザミドリ」の4曲が、セットリスト入りしている。これまでにオリジナルアルバム10枚、コンセプトアルバム4枚をリリースしてきた彼女にとって、この偏り方は珍しいかもしれない。当時のアルバム取材で「『カザミドリ』は本当に自分の言葉と自分の声で歌う意味がはっきりしている曲」と語っていたし、「Remedy」は自身の心の傷にも触れながら〈私をもっと信じてあげたい〉と曝け出すような歌。「このアルバムが出来た時、『カザミドリ』と『Remedy』を歌うために私は生まれてきたってスタッフに言ったくらい(笑)」というほど彼女が音楽と真摯に向き合うことで、これまでにない幸福感を味わった作品、それが『かぜよみ』だったのである。かつて感じたそんな喜びや、歌う意味、これからに向けた闘志をひとつひとつ拾い集めるようにして、この日の彼女はステージに立っていた。それはとてもエモーショナルで観客の心を打つものだった。
初日は「みどりのはね」、2日目は「ねこといぬ」という日替わりメニューでも楽しませてくれながら、中盤では来年の1月25日にリリースされることが発表されたばかりの新曲「まだ遠くにいる」と「un_mute」をいち早く披露。WOWOWオリジナルアニメ『火狩りの王』のEDテーマ「まだ遠くにいる」は静寂と激しさがシームレスに交差するようなドラマティックなアップナンバーで、怒涛のバンドサウンドの中で緻密な熱唱を繰り広げる姿が圧巻だった。そして「un_mute」はTVアニメ『REVENGER』のEDテーマとして書き下ろされた、美しいバラードナンバー。そして「『un_mute』って“産休明け”の世界一カッコいい言い方ですよね、とか言われましたけど(笑)。これ考えたの私じゃなくて岩里先生なんですよ」と作詞が岩里祐穂によるものであること、この曲名を気に入って今回のライブのタイトルにしたことを明かした。
「お望み通り」をバンドが素敵なインストで披露してくれている間に、淡いカラーがお洒落なパンツスーツ姿に衣装チェンジしてライブは終盤へ突入。「カザミドリ」は「昨年亡くなった渡辺善太郎さんに初めてアレンジしてもらった曲。寂しいけど善太郎さんにこの歌を届けたい」と話し、彼に最後にアレンジしてもらった曲「Hidden Notes」も力強く披露した。こんなエピソードから、序盤に披露した「雨が降る」は20周年記念トリビュートアルバム『REQUEST』でTRUSTRICK神田沙也加がカバーしてくれたことを思い出したファンも多かったのではないだろうか。この日の坂本は、みんなからの温かな祝福ムードに包まれ、再始動を誓い、そして色んな想いを抱えながら歌っていることが感じ取れた。
「やっぱり久しぶりのライブは緊張します(笑)。こうして『un_mute』できて良かったです、ありがとうございます」とホッとしたような顔を見せた。「昔からライブの終わりには『また会いましょー!お元気でー!』なんて言っていましたが、そんなことは当たり前じゃないんだってことをリアルに感じるような年齢になってきました。歳を重ねると、誰かに突然、もう会えなくなったりすることも増えていく。だからこそ、いつになるかわからないけどもし次に会える時は最高の気分で会えるように、自分を大事に1日1日を生きていこうね」と語り「とりあえず私、『まだ歌っていく気があります』ってことを皆さんに伝えるために今日は来ました」と語ると、客席から大きな喜びと励ましのような拍手が届けられた。
キャリアは子役から始まり、「歌手になりたい」なんて思う間もなく10代でデビューし、歌手として声優としてミュージカル俳優としても活躍を続けてきた坂本真綾。アーティストだって当然一人の人間としての人生があり、CDデビュー25周年という大きな節目を越えて、結婚や出産という大きな出来事を経て、それでも歌を歌い続けるという選択だって、当たり前のことじゃない。だからこそ「それでも歌うんだ」ということを決めた人の歌は、より一層の強い輝きを放つ。この日、17曲目に演奏された「レプリカ」は、今の彼女の覚悟と、未来への決意が込められているように感じて、何度もライブで聴いているはずなのに、まるで初めて聴いたような感動を覚えた。人としての底力を感じさせる、魂が宿ったような歌いっぷり、とでも言えばいいだろうか。
「みんなが明るい気持ちになれるような曲で終わりたいと思います。また会える日までお元気で!」と歌われたのは「クローバー」。本当に明るいエネルギーに満ちたメロディとサウンド、そして歌声。音楽に手拍子で気持ちを添える客席に向かって、坂本は手を振ったり、乾杯したり、握手したりと歌詞に合わせた動きで応えて、より楽しい気持ちにさせてくれた。そしてアンコールがわりのラストナンバーは「まだみんなに歌ってもらうわけにはいかないけど、その楽しみは次に会う時まで取っておきましょう!」と新たにバンドアレンジされた「千里の道」を。朗らかなムードが会場いっぱいに広がって、そこにいる全員がいい気分になったところで、この日のライブは終了した。お客さんも含め、みんなが笑顔で再会できた、とても大切な再始動ライブ。きっとこれからの坂本真綾の行く道を支えてくれるような意義深い一夜になったのではないだろうか。

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着