ビールと音楽を愛する全ての人へ──
。UA、ACIDMAN大木ら登場、COEDOビー
ルによる初開催フェスに潜入してきた

麦ノ秋音楽祭 2022.11.5〜6 COEDOビール醸造所敷地内
フェスに最も似合う飲料はビールである。
というのが持論だ。フェスというのは基本的に気温の高い時期に開催されることが多いし、汗もかくし、テンションも高まるし。という環境なので、アルコール度数が高すぎずゴクゴクいけるタイプのお酒はとても相性が良い。だからこそ、各フェスにビール会社がスポンサーとして入っていたり、フードエリアではどの店舗もほぼビールを売っていたり、バックヤードでは出演者向けにもバッチリ用意されていたりする。フェスとビールには切っても切れない縁があるのだ。フェスあるところにビールあり、と言ってもいい。
だったら。ビールの会社がフェスをやったら良さしかないのでは?という、ありそうでなかった、ある意味逆転の発想で初開催に至ったのが、11月5日・6日に行われたキャンプフェス『麦ノ秋音楽祭』(読み:むぎのときおんがくさい)である。会場は埼玉県東松山市にあるCOEDOビールの醸造所敷地内。COEDOビールはコンビニやスーパーでもよく見かけ、いまや海外にも広がる、クラフトビール界隈の雄だ。
現地でまず驚いたのは、醸造所の敷地の広大さ。そんなに山深いわけではないが自然豊かなロケーションで、木々に囲まれたフラットな草原が広がっている。そこにライブエリア(メインステージのほかトーク等のサブステージもあり)、飲食エリア、キャンプエリア、駐車スペースがすっぽり収まってしまうのだからすごい。詳しくは後述するが、麦畑まで用意されていた。都心から1~2時間という立地は、キャンプエリアにテントを張って泊まりで楽しむ人、最寄り駅からのシャトルバスを利用して日帰りで楽しむ人のどちらにとっても、比較的参加のハードルが低いフェスと言えるだろう。
集まったのはファミリー層を中心とした音楽とビールを愛する(であろう)方々。観るからにピースフルでフレンドリーな雰囲気が充満しているし、出演者はみなアコースティック主体の弾き語りスタイルという、まったり楽しむ系のフェスである。ライブを楽しむだけでなく、醸造所内をガイド付きで見学したり、ワークショップがあったり、銭湯や牧場見学&BBQへ行ける会場発着のオプションツアーまで用意されていたりと、楽しみの幅はかなり広い。かなりゆとりある会場設計なので、シートエリアにイスを置いたりレジャーシートやサンシェードを広げたりと、ピクニック的な楽しみ方もできる。犬連れの参加者もたくさんいて、よく見たら猫までいた。
そんな『麦ノ秋音楽祭』に遊びに来ませんか?と誘われたのだから、音楽もアウトドアもビールも愛してやまない筆者は、2歳児も含めた家族での参加を即断。土曜の朝7時すぎに都内の家を出て、車で環八~関越道と渋滞のメッカを通るルートではあったがなんとか2時間強で会場に到着した。シートエリアのすみっこを確保、サンシェードを設置してベースキャンプとし、早速場内をウロウロ見て回る。主催がcoedoビールなので当然の話だが、フードエリアでは各種クラフトビールを売っていて、一般に流通しているものの他にも、このフェスのオリジナル「音ト鳴」や同じく埼玉で月末に開催されるACIDMANの主催フェスとのコラボ「彩 -SAI-」も置いてあるではないか。……ああ、天国はここにあったんだ。大人たちが朝っぱらからビールを楽しむ間、子ども達は広い原っぱで走り回ったりボール遊びをしたり、良い感じの枝を拾ってきたり。会場装飾のモニュメントはもはや遊具と化している。
オープニングアクトのLAURELのライブが始まったのは11:00。知らないバンドだな、と思っていたらそれもそのはず、「オルタナカントリーロックを広めたい」と結成され、これが3回目のライブなのだそう。といっても、その面々は個々にキャリアを積んできた人たちなので、彼らの全員が歌うスタイルで奏でるグッドフィーリングなサウンドが集まった観客たちの身体をどんどん揺らしていく。続いてお昼を少し回ったところで、藤巻亮太が登場。いきなりレミオロメン「太陽の下」という人気曲かつこのロケーションにどハマりする楽曲からスタートすると、これも自然豊かな環境にピッタリなソロ曲「まほろば」などを演奏。柔和な語り口と力強い歌声でグッと引き込んでいく様子からは、これまでも弾き語り形式でライブの場数を踏んできた経験が見て取れた。個人的には、おそらくここ以外ではなかなか聴く機会のないであろう「ビールとプリン」が聴けたのは嬉しかった。最後は誰もが知る「3月9日」で締め。初開催のフェスのトップバッターとして会心のステージを見せてくれた。
次のライブは13:30から。ライブ用のステージは一つのみ、しかも転換時間を長めにとっているので、かなりゆったり楽しめて、ご飯を食べるために誰かのライブを断念しなきゃいけないようなシチュエーションは皆無だ。のんびり過ごしていると、中低音の倍音が心地よい歌声が響いてきた。Caravanによるフォークロアなサウンドは、秋の野外で聴くにはこの上ないタイプの音楽。「その瞬間」で軽やかに揺らした後は「外だし、良い感じの距離感で一緒に歌ってもらえたらいいな」と「Magic Night」へ、そして深く豊かなアコギの音色から「ハミングバード」へと至ると、場内にはパーッと歓喜が広がっていく。「こういうライブミュージックが世界に戻ってきた気がする、少しずつだけどね」という彼の言葉に、深く頷いた人も多いであろう時間だった。
ここでサブステージでは、キャンプ芸人として名高い阿諏訪泰義とSCANDALのTOMOMIによるワークショップがはじまった。これはGYAOやYoutubeで放送中のキャンプ番組「WILD STOCK」とのコラボで実現したもので、サバイバルナイフで薪を削いでフェザースティックを作る体験ができるという内容。参加者はやたら上手い人、全くコツを掴めない人など様々で、そこにTOMOMIが切れ味鋭く突っ込んでいくスタイルでしっかり盛り上がっていた。なお、この2人は「WILD STOCK」のブースでオリジナルスパイスの売り子もやっていたので、驚いた方も少なくないのでは。
メインステージへ戻り、始まったのは浜崎貴司のライブ。アコギと、曲によってはウクレレを演奏しながら、ほどよくビターな声色と力みなくナチュラルな調子で歌う。という一人だけのパフォーマンスなのだが、そこから滲んでくるこの豊かなグルーヴとファンクネスは一体なんなのか。ぼやき調のMCをこまめに挟んで笑いを誘いながら、「ウィスキー」の歌詞にCOEDOビールを入れてみたり、子供向け番組でおなじみの「ビーだまビーすけの大冒険」を歌ったり、唐突に松山千春「大空と大地の中で」を1コーラスだけカバーしてみたり、気ままで予測不能な展開を見せていくのが楽しい。満を持しての「幸せであるように」ではお父さんお母さん世代のボルテージが目に見えて上がったのだった。
UA
「みんな飲んでるんでしょ? 時差ボケだからどうなるかわからないけど飲んじゃおうかな?」
めちゃくちゃフレンドリーにコミュニケーションをとりつつ、乾杯からライブを始めた初日のトリ・UAはもう素晴らしかった。アコギとウッドベースと共に歌うスタイルで、ウィスパーからファルセット、ソウルフルに力を込めた発声まで自由自在な、すさまじいボーカル力。普段は観る機会の限られる存在だけに、こんなに茶目っ気たっぷりな立ち振る舞いをする人だったのか、という部分にもちょっと驚く。コンテンポラリーな曲調と展開を持つ中村佳穂作曲の「Honesty」では、その乱高下するメロディをさらっと歌い上げて圧倒したかと思えば、代表曲のひとつ「ミルクティー」で観客たちの琴線を刺激。最後はリズミカルすぎてえらく高難度なコール&レスポンスから、さらっと「情熱」をドロップ! 陽が落ちて一気に気温も下がっているはずの会場内を熱く揺らしてくれた。
UA
とまとくらぶ(山田将司村松拓
日帰りの参加者はここで帰路に着いたのだが、キャンパー向けにもう1アクト用意されていた。目の前の焚き火台がパチパチと音を立てる中、サブステージに現れたのはNothing’ s Carved In Stoneの村松拓。そしてサポートするのはペダルスティールの宮下広輔。ちなみに宮下は朝イチのLAURELのメンバーでもあり、Caravanのサポートも務めてからの夜間のライブなので、この日の影の立役者と呼びたい。オアシス「Whatever」のカバーとソロ曲「ただいま」を披露したところで、THE BACK HORNの山田将司が加わる。山田と村松の2人──この日明かされたユニット名で言うところの「とまとくらぶ」は、既にオリジナルソングまで作っており、その「故郷」と題されたノスタルジックなミドルナンバーも披露。シチュエーションも相まってとても距離感の近いライブで楽しませてくれた。(2人はその後のゲーム大会にもバッチリ参加して子供たちと盛り上がったらしい)
とまとくらぶ(山田将司、村松拓)
明けて2日目。「麦ノ秋朝市」で売っていた生野菜(とんでもなく美味)を食べ、ステージから小沼ようすけの奏でるギターインストを聴きながら、その脇のコンテナを巨大なキャンバスにした近藤康平のライブペインティングへ。既に絵具まみれになった子どもたちが走り回り、近藤氏の衣装に色を塗っているというカオスな環境。気を抜くと周囲の大人全てをターゲットに襲ってくるボーイズ&ガールズを巧みに交わしつつ、微笑ましく見守る保護者たち。うちの2歳児もコンテナに色を塗らせてもらったところ、驚くべき集中力で熱心に筆を振るっていた。生のライブだけでなく絵画まで、ばっちり芸術センスを刺激されてそうで何よりである。
小沼ようすけ
近藤康平
次のライブは11:20からと、かなりたっぷりめのインターバルで、キャンプで深酒した方が寝坊しても、2日目のみの参加者がのんびり向かっても大丈夫なタイムスケジュール設定だ。ここでは本来YO-KINGと浜崎貴司のコラボが予定されていたのだが、YO-KINGの出演が急遽キャンセルとなったため、前日に続いて浜崎がソロでライブを行うことに。当然、元々予定していたセトリとは大幅に変わったはずだが、そこはさすがのベテラン。昨日とはまったく違った内容かつ、YO-KINGと一緒にライブをやるようになったきっかけが忌野清志郎が亡くなった後のフジロックだったというエピソードからの「デイ・ドリーム・ビリーバー」カバー(歌詞に“キング”を入れ込む)や、真心ブラザーズ「サマーヌード」を披露するなどYO-KINGファンにも嬉しいライブであったことは間違いない。
浜崎貴司
山田将司
昼下がりのステージに現れたのは、とまとくらぶの2人。一部を除く観客たちはそのユニット名を知らないため、あらためて由来の説明も交えて発表するも、好奇と困惑と笑いの入り混じったリアクションが返ってくる。という一幕もありつつ、昨夜から飲みっぱなしだという2人は完全に上機嫌。「とまとくらぶの初ワンマンはここにしよう」と盛り上がりながら、ナッシングスの「Shimmer Song」や山田のソロ曲「きょう、きみと」、ビートルズ「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」に気さくなエールソング調のオリジナルの歌詞を当てたバージョンなどを披露。ラストに歌われた「ネバーエンディングストーリー」の歌詞そのままの、気の合うダチ同士の間柄がありありと伺える時間となった。
村松拓
2日間にわたる同フェスの大トリを務めるのは、COEDOビールと所縁があり、会場のある東松山市からほど近い川越市出身のこの男、ACIDMANの大木伸夫が弾き語りで登場した。一曲目は「FREE STAR」。ACIDMANのライブでは定番のナンバーだが、ソロで聴くとまた一味違う仕上がりで、穏やかな声色とリバーヴ多めのサウンドがとにかく心地いい。陽の傾き始めた時間帯に聴く「赤橙」もまた格別だ。そして、とまとくらぶのライブでもサポートを務めていたピアニスト・呉服隆一を呼び込んでの「ALMA」と「世界が終わる夜」は間違いなくこのフェスのハイライト。大木の思想を色濃く映したドラマティックなバラードは彼の真骨頂であり、自然豊かなフィールドにどこまでも染み入ってゆくかのよう。ラストは「Your Song」で軽やかに、そして賑やかなフィニッシュ。技量、説得力、トークスキルなどなどどこを取ってもトリに相応しい盤石のステージであった。
大木伸夫
全ライブが終了後、ライブエリアとキャンプエリアの間にある土のエリアに、参加者たちが麦の種を蒔くという試みが行われた。日本では麦は秋に種を蒔き、初夏に収穫をするそうなのだが、ちょうどその時期に当たる2023年の5月27日・28日に再びこのフェスが行われることが発表されると、場内は大きな盛り上がりに包まれていた。
初回から既に環境やコンセプト面など申し分なかったこのフェス。一度開催をしたことでよりブラッシュアップされ、認知度も高まるであろう二度目の開催には期待しかない。この日蒔かれたのは麦の種だけじゃなかった。この地に新たなフェスカルチャーが根付き、育ち、実り豊かな収穫の時を迎える日を待ちたい。

取材・文=風間大洋 撮影=俵和彦(ライブ写真)、柳詰有香・益田絵里(場内風景)

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