パノパナ、YAJICO、ユレニワの3組は
『Treasure Tour』と題したツアーで
何を見出し見せつけたのか

MASH A&R presents『Treasure Tour』 2022.11.11 渋谷Spotify O-Crest
2022年11月11日(金)渋谷Spotify O-Crestで、『MASH A&R presents『Treasure Tour』』がファイナルを迎えた。このツアーは、MASH A&R所属のPanorama Panama Town、YAJICO GIRL、ユレニワの3組が全ヵ所出演し、さらに各地で1組もしくは2組が加わりながら、名古屋・新潟・大阪・岡山・福岡・渋谷の6ヵ所を、1ヵ月かけて回ったもの。Mercy Woodpeckerは、3本目の大阪から、ファイナルのこの渋谷Spotify O-Crestまでの4本に出演。なお、この日のライブは、YouTubeとLINE LIVEでも生配信された。
Mercy Woodpecker 撮影=烈
「11月11日、『Treasure Tour』ファイナル。今日を忘れないように、熊本、Mercy Woodpecker、始めます」
という直江晋太郎(Vo/Gt)の言葉から始まった、トップのMercy Woodpecker。「ストロボデイズ」と「アルターエゴ」、ギター2本とバック・トラックが渦巻くような音像の2曲の連打で始まり、直江の歌がまっすぐに耳に飛び込んでくる「日陰に咲く」で終わる7曲をプレイした。2年前にMASH A&Rのオーディション・イベント『MASH HUNT LIVE』にこのO-Crestに出た、グランプリは獲れなかった、めちゃくちゃ悔しかった、でも負けた悔しさをここにぶつけに来たわけではない、あの時よりもかっこよくなったし、目の前にいるあなたに、心を、歌を届けたいと思っている──と、「日陰に咲く」を歌う前に直江は言った。その言葉どおりの、届けたいという気持ちが強く伝わるステージだった。
Mercy Woodpecker 撮影=烈
ユレニワ 撮影=マチダナオ
バンドで爆音を鳴らしたと思ったら、一転して静謐なイントロの「まぼろしの夜に」を1曲目に持ってくる。その後半でまた爆音ゾーンに突入し、終わると「楽しもうぜ。あったまってる?」と言葉をはさんで、軽やかな「恋人たちのヒム」へ──と、自在に表情を変える緩急の大きなバンド・サウンドで、オーディエンスを引き込んでいくユレニワが二番手。全5曲、「せっかくいい日だから、絶対、最後まで楽しもうね」などと言いながら、誰よりも自分が楽しそうなシロナカムラの「全身で歌いっぷり」も、目と耳を惹きつける。
ユレニワ 撮影=マチダナオ
2023年の2月に東名阪でワンマンツアーを行うことと、その手売りチケットを買った人限定で入れるオープンチャットがあって、そこでだけ聴ける新曲をリリースしたことを告げ、「その曲をやります」と、3曲目に「ひかりにひかれて」を演奏する。(ユレニワの中では)ストレートなタイプの……と思ったが、やっぱり途中から一筋縄ではいかない展開になる、今後のライブの軸になっていきそうな曲である。
「このツアーはめちゃくちゃ大変だったし、おもしろかったよ。それを音楽で表現したいなと思います」とシロ。どう大変だったか、どうおもしろかったかについては言葉にしなかったのが、「本当にそうだったんだろうな」と思わせた。
YAJICO GIRL 撮影=烈
YAJICO GIRLは、「寝たいんだ」で始まり、「幽霊」で終わる8曲を演奏。その「幽霊」と5曲目の「美しき町」、1曲目の「寝たいんだ」と6曲目の「Airride」、このライブの2日前にリリースされたEP『幽霊』の収録曲すべてが披露された。オーディエンスに話しかけるように歌う四方颯人、ハンドマイクでステージを歩き回っているさまが、何か、舞っているように見える、そんな不思議な軽やかさを身に纏っている。バック・トラックとバンド・サウンドと人の声、その混じり方のバランスが、ライブにおいてもとにかく絶妙で、心地いい。
YAJICO GIRL 撮影=烈
「10年を共にしているこの5人の関係性について、コロナ禍の時に書いた曲があるので」という紹介から歌われた7曲目「FIVE」から、ダンス・ミュージックの魅力と虚しさを同時に描いた、ラストの「幽霊」への流れが、特に大きくフロアを揺らした。
Panorama Panama Town 撮影=マチダナオ
トリはPanorama Panama Town。メンバー全員1990年代前半~中盤のUKロック(マッドチェスター・ムーヴメント~ブリット・ポップ)な出で立ちなのが、グッとくる。岩渕想太(Vo/Gt)は『Woodstock 94』のTシャツ姿で、「Knock!!!」「100yen coffee」「フカンショウ」と、畳み掛けるように、叫ぶように歌っていく。今日の4アクトの中ではもっとも古くからMASH A&Rにいるバンドだが(2015年から、とのこと)、もっとも青く荒々しいパフォーマンスだったのは、このPanorama Panama Townかもしれない。
Panorama Panama Town 撮影=マチダナオ
自分たちがいちばん先輩で、なんで一緒に回るんだろう、という違和感があった、決まった時は「どういう気持ちで行ったらええんやろう?」と思っていた、でも3バンドとも本当にかっこよくて、回る度に好きになっていって、いろいろ勉強させてもらった──と、MCで正直なことを言う岩渕想太。さっき、最後の曲をやる前に「先輩、観てるかわかんないけど、あとお願いします」と言ったユレニワのシロに「観てたよ、俺も」と声をかける。
MASH A&R presents『Treasure Tour』 撮影=マチダナオ
アンコールは、シロを呼び込んでユレニワの「Cherie」を、そして四方を呼び込んでYAJICO GIRL の「FIVE」をカバー。シロ、曲に入る前にフロアを見渡して「みんなめっちゃいい顔してますね、最高っすね」。岩渕想太、「いい日やな、終わりたないな」と応える。YAJICO GIRLとPanorama Panama Townはデビュー前からの付き合いで、「FIVE」ができた時、すぐ四方が岩渕に音源を送ったという。
MASH A&R presents『Treasure Tour』 撮影=マチダナオ
さらにその2曲の後、ギターが波越康平からユレニワの種谷佳輝に、ベースが田野明彦からYAJICO GIRLの武志綜真にスイッチし、岩渕の「今日ここに来た人、いい趣味してるね」という言葉からの「いい趣味してるね」に突入。なお、このアンコールは、配信はなかった。「ライブハウスに来てくれる人が好きだ」「ライブハウスに来てほしいと思う」と岩渕想太は言っていたので、今日ここに足を運んでくれたオーディエンスに、特別な何かを贈りたかったのだろうと思う。
このツアーが始まる前に、Mercy Woodpeckerの直江晋太郎と、ユレニワのシロナカムラが、MASH A&Rをどう思うか、と問われて、「ジャンルとかバラバラ、いろんなバンドがいると思う」と答えていたが、その中の4つしか出ていないにもかかわらず、まさにその言葉どおりのイベントだった。そして、そこにとても大きな価値が感じられる、そんなイベントでもあった。

取材・文=兵庫慎司 撮影=烈、マチダナオ
MASH A&R presents『Treasure Tour』 撮影=マチダナオ

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着