弛まぬ筋トレの先に築き上げた“maj
ikoサウンド”。傑作ニューアルバム
『愛編む』に迫る

サウンド、メロディ、曲調、そして歌声──。全13曲からなるアルバム『愛編む』はあらゆる方向にカッ飛んでいて、実に目まぐるしい。しかし、それでいてワクワク感を抱いたままするっと聴けてしまう。そして「あれは一体なんだったんだ?」と再び聴きたくなる。そんな作品だ。つまり、majikoというアーティストそのものによく似ている。

そういう作品がなぜこのタイミングで、どのように生まれたのか。傍目から見てもポジティヴで意欲的に映る今のモードはどこからくるのか。それらの疑問に対する回答はとてもシンプルかつ意外(?)なものだった。真相はぜひ以下のテキストから確かめてほしい。
──全13曲。濃さからしても大作と言っていいと思うんですが、作り終えての率直な心境としてはどうですか。
やっぱり浸っちゃう感じで、夜お酒を飲みながらアルバムを聴くのが最近の癒しですね。頑張ったな、どうやって作ったんだろうなぁと思いながら。
──作っている最中には当然いろんなことを考えたでしょうけど、作り終えてあらためて思うこともあります?
今までと違う作品になっていて、自分自身すごく成長を感じたし、アレンジや作詞も含めて自分の曲作りのスタイルみたいなものが徐々にできてきて。前作とも前々作とも違うけど、核は一緒みたいな印象は受けました。チルっぽい曲があったりとか、ロックな曲があったりとか、自分の生きてきた根底にある好きなものを、しっかり自分の中のフィルタを通して出せたなというのがありますね。嬉しい。
──音楽的なスキルアップや知識の増加も作品に活かされてくると思うんですが、この間どう生きてきたかみたいな部分も表れると思うんですよ。ここ数年の、たとえば『ROCKIN’ QUARTET』のゲストシンガーとして野外フェスに出たり、うちがやっているキャンプの動画に出てもらったりとか、そういう動きを見るだけでも動画での活動がメインだった頃の「majiko像」とは全然違うわけで。
そうですね。そういうののキッカケというか……やっぱり筋トレが欠かせないなという。
──(笑)
筋トレを始めてからの意識革命みたいなものがあって。筋トレを始める前と後では気持ちの持ちようが全然違って、このアルバムの制作中とかコロナ禍も含めて、家にずっといなきゃいけない状況を強いられていたじゃないですか。その中でも筋トレに行くことによって、モヤモヤした気持ちが「なんとかなるっしょ」になるというか。で、自分にも自信が持てるようになったし、最高だなって。……筋トレがわたしを変えたんです! ふははははは!(爆笑)
──そもそもなんでやってみようと思ったんですか。
もともとはダイエット目的だったんですけど、「え、身体動かすとめっちゃ気持ちが晴れやかになるじゃん」っていう、抗不安薬みたいな立ち位置にどんどんなっていきましたね。
──それによって前向きにもなり、チャレンジングな姿勢も強まったと。
そう思います。あんなに重たいもの上げてるんだからいけるよ!っていう自信みたいなものがあったり、あとは筋肉痛にも助けられていて。ずっと言ってるんですけど……「いま罰を受けてる」っていう感覚になれるんですよ(笑)。罰を受けているから赦されているっていう変な感覚になる、だから元気になるっていう法則があるんですよ。おすすめです、本当に。
──……はい。
「はい」(笑)。
──まずは肉体から精神面が変わったことで、やることの範囲も増えてきた。それはインプットの増加にもつながりそうですね。
多いと思います。筋トレのときにランニングしながらいろんな曲も聴くし、自分の曲のここをああしようこうしようとかもあるし。だからすごく効率の良い時間を作ることができましたね。制作中に朝から昼までジムに行って、帰ってきて「よし作業」っていう、スイッチングのできる生活をしてました。パーソナルトレーナーの方もつけるようになったので、しっかり筋肉に入っているという感覚があって。そこからはもう泥ハマりというか──。
──……はい。
はっはっはっは!!
──ここまでほぼ筋トレの話ですけども(笑)、実際、それによってどういう変化が一番大きいですか?
感情の引き出しを作れるようになったというか。今までずっとこうドヨンとした中で、たまに元気になったりだったんですけど、しっかり「今はこの時間」「今はこの時間」と分けれるようになって、その中で必要な引き出しを開ける、そこから出すっていう、頭の中の効率化ができるようになった気がしますね。曲を作っている中でも、俯瞰で自分を見られて浸りすぎないというか。ある一定の距離を置いて曲を作るようにしないと、ドープなものになっていきがちなので。
──その引き出しや俯瞰の視点によるものなのか、今作はめちゃくちゃ幅が広いですよね。
嬉しい、ありがとうございます。めっちゃ幅は広いと思います、たしかに。「こういうのを作ってみよう」という切り替えももちろんありましたし、「こういうのが無いから作ろうか」という余裕みたいなものも生まれてた気がします。
──ジェットコースター感覚というか、上ったり降りたり振り回されたりはたくさんありつつ、でも聴き終えて疲れる感じはないんですよね。ワクワクしたまま聴き進められて、すっと終われる。
嬉しい! どうなることやらと思っていたんですけどね。序盤の数曲とかも、こういう曲を書けるようになったんだな、成長したんだなって思いますね。楽しんで作ってやがるぜって。
──ある種のカオスではあるんですが、その中でどこか吹っ切れている感がありますよね。これまでにも色んなことをやろうとした作品はあったし、自分の音楽性とポピュラリティの両立に取り組んだりもしてきたわけですけど、そういう意味でも一個の線を越えた作品と言えるのかなと。
それはある気がしますね。もう30なので年齢の線を越えるというのもありますし、それによる吹っ切れもある気がするんですよね。きっと大人になったのかなって思ったりもします。
──曲調とか歌の表情という意味では、もともとなんでも行けちゃうタイプじゃないですか。その中でどこか一つにフォーカスするのではなく、色んな方向に振れることを引っくるめた自分らしさというか、そういう自信を感じる作品とも思いました。
嬉しいです。わたし、システム・オブ・ア・ダウンのサージ・タンキアンが好きで、彼もいろんな歌い方をする人なんですよね。だからニコニコ動画のときから色々な歌い方をしようと努力していて。今はそれがしっかり自分の中に染み付いて、武器としてあるなと思ってます。
──ニコ動なんてまさに、作っている人も曲調も様々な楽曲を自分の解釈で歌うわけですし。
すごく勉強になりましたね、あの時代は。
──色々な引き出しを持つ中でも「一番の核はこれだ」みたいなものを探した時期もあるんですか?
歌自体でそれを考えたことはなくて、全部ひっくるめてわたしだと思っていたんですけど、曲に関しては「どれが自分のスタイルなんだろう」って悩んだり模索した時期はありましたね。でもいろんな人と話す中で、気にせず作っていけばいいと思うよ、それがmajikoのスタイルになっていくから、みたいなことを言われて。「そっか。気にせず作ろう」と思って作っていったら、今回でなんとなく“majikoサウンド”みたいなものができた気がするんですよね。
──まさにそうだと思います。なんでもありな中にある“majikoサウンド”が感じられて、それは今までの積み重ねの結果なのかなと。
そう思います。いろんな経験とか、いろんな人と出会ったり、誰かに曲を書いてみたりとか、全部がこのアルバムという形に入ってるんだな、一つの人生の形が音楽の形なんだろうなと思って、しみじみ浸っているんですけど。……今は嫁ぐ前の娘たちを見てるみたいな(笑)、これがみんなに届いて自分だけのものじゃなくなったときに、達成感とエモ味で良い酒飲めそうっていうのはあります。
──充実感が伺えますよね。先日のライブでは「今が一番いい」という発言もされてましたし。
あのライブは約1年半ぶりのワンマンだったので緊張はしましたけど、いざ出てしまったら楽しくて。関係者の人たちが挨拶に来てくれたときに「あんなに喋れるんですね!」って言われて(笑)、まあそりゃそうよなと。今までのわたしのライブは「あの、えっと……うへへへ」みたいなMCしかしてなかったから。それも自分の中で良くも悪くも成長してしまった部分なのかなと思いました。……あんまりMCで流暢にしゃべる女みたいな感じにはなりたくない時期があったんですけど、でもそうも言ってられないんだな、面白きゃいいやと思って。……筋トレのおかげでそう思えるようになりました。
──(笑)。でも実際そこから来るポジティヴィティって、当然今作の中身にも関わっていて。
めちゃくちゃ関わってきてますね。
──出発地点から既に「アルバムを作ろう」という感じでした?
そうですね。まあ、押しに押したんですけど、アルバムのために曲を作る中で、新しくプロデューサー兼ディレクターさんが加わり、その方の助言で「白い蝉」を作ったのが一曲目で、そこからスタートみたいな感じでした。
──今この配信やサブスクの時代にCDでアルバム作品を出すとなったとき、「だったらこうしなければ」みたいなことって考えました?
盤を出す意味っていうものが問われる時代じゃないですか。わたし的にはコアファンのためのものだと思っていて、だから家に飾っておきたいと思えるようなジャケットにしたりだとか……グッズ感覚なのかなって思ったりもするんですけど。
──わかります。コアファンに向けたものだという、ある種の割り切りがあることで、冒険もできるようになるというか。
そう思います。今の感覚がどうか分からないですけど、いわゆる「アルバム曲」みたいな曲も必要、みたいな言われ方をしていた時期もあったじゃないですか。でも今は全部勝負した方がいいのかなというのもあって。
──CDで聴かない人は通しで聴かないケースも多いと考えると。
そうなんですよね。CDだからそういう「アルバム曲」というのがあったわけで。今はどこでどう出会うかわからないから。

>>次ページ「高校とかで聴いてた人たちがこうやって奏でてくれること自体がエモだな」
──「こういう作品にしたい」という全体的なテーマはありました?
全世界の人間が全員一瞬だけでも幸せになることって、いろんな答えがあると思うんですけど、わたしは会いたい人に会えることだと思うんです。それは愛だったり、ある種の救いのようなもので、会いたい人に会える、会いたい曲に会える、そういうものをテーマにしようと思いました。チーム内で話し合った結果の共通認識として、どんな形でもいいから結局救いになればいいみたいな、大きな枠組みの救いを書いてみようか、という話になって。そのテーマを自分なりに、捻くれたりまっすぐ出してみたりした結果、形になったと思います。
──なるほど。今のお話や『愛編む』というタイトル通り、愛についても多く歌われていますね。
そうですね。こないだのライブも「愛」が入ってるし、歌詞に入ってる曲もかなりありますけど、そこまでがっつりではなく、さらっとした印象で書いてた気がします。サブリミナルというか……深層心理的には今わたし愛に溢れてるのかもしれないなっていう感じですかね(笑)。
──愛にも色々あるわけで、「Princess」なんかはちょっとアブナイ愛というか。
そうですね(笑)。この曲は最初、スタッフさんとの打ち合わせで聴かせたときに、絶対採用されないだろうなと思ってたんですよ。わたしの暗い曲はみんな嫌いだろうなと思ってたんですけど(笑)、でも「いいじゃん!」「え、これいいの!?」みたいな。今までのわたしの「暗いの作りたい、暗いの作りたい、ぬ~~!!」っていう思いを出した曲で。「これで良いんだったら結構作れちゃうけど?」みたいになったのを覚えてます。
──かなりプログレッシヴというか、どういう展開?っていう曲ですけど、最初からこうだったんですか?
最初からやってましたね。アイディアがどんどん出てきちゃって。
──まあ、知らない人にmajikoさんを紹介するときにこの曲かどうかはアレですけど……
たしかに(笑)。
──でもめちゃくちゃカッコいいし刺さりましたよ。
ありがとうございます。すごい好きな曲です。
──MVも、ね。
すっごいですよね? 自分でもすごいなと思って。オールバックに挑戦してみたいというのはあって、そうしたらああなったんですけど(笑)。あの日、朝の2:30起きだったので撮っているときの記憶が飛び飛びで、吊るされもしたし、どうなってるんだ!と思ったけど、出来上がったら良かった。
──という曲からの、飛び道具のような「TENGIC」、一種のボカロ曲成分も感じる「ジャンプ」というアルバムの始まり方で。
「ジャンプ」は、「アップテンポが足りない」となって最後の最後にできた曲で。ワーッと書いた曲だから、マスタリングのときも「良い音像よりバカっぽい音にしてほしい」って言ったんですよね。これは歌詞もちょっとバカっぽいし、でもいいじゃん!みたいな感じ。「ジャンプ」が一番、筋トレ終わりの感情に似てると思います。
──同時にJ-POP的要素も感じましたけどね。それこそ、いきものがかりとか。
たしかに。嬉しいなぁ。これはわたしが辿ってきたものが出ているのかもしれないですね。
──次の「時空小箱」。これ、僕は好きですね。
結構これ好きな人いるんですよね、男の人で。最初はこれ入る予定じゃなかったんですよ、アレンジで行き詰まっちゃって。この曲はデモからははるかに良くなったので嬉しいです。やっぱり人間の力ってすげえって思って。柏倉(隆史)さんのドラムも素晴らしかったし、魂が乗るというか。パソコン上で作っているのとは全然違うんですよね。
──柏倉さん、超絶テクニカルなこともパンク的でシンプルなフレーズもどちらも行ける方ですし。
生きるエモっていうか。前作の「23:59」という曲でも柏倉さんがドラムを叩いてくださったんですけど、レコーディングで叩いてる姿を見たら泣いちゃって。そういう音を出す方が「時空小箱」という曲を叩いてくださったことがすごく嬉しいし、(中村)圭作さんや(村田)シゲさんも含め、高校とかで聴いてた人たちがこうやって奏でてくれること自体がエモだな、これがまさに“タイムカプセル”だなって思いました。
──もう一つ好きだったのが「アイアム」なんですけど。これもめちゃめちゃ良い曲ですねえ。
ありがとうございます! これも最後まで入れるかどうか迷っていた曲で。
──事実上のタイトルチューンなのに?
タイトルは後から決まったんです。曲自体は入れるか入れまいか最後まで迷って、「入れよう!」と。今の時代にバラードって、あんまりどうなんだろう?というのがあって、しかも年齢層が上目のことを歌っているから、若い子たちはわからないんじゃないか?と思っていたんですけど。でも「買ってくれてありがとうね」という感謝の気持ちと、ライブも含めファンあってのわたしたちだなという思いも込めて入れました。
──普遍的なバラードソングという括りになると思うんですけど、これが最後に構えることで、いろんな方向に尖った作品に安心感が生まれてる気がします。アブナイ愛から始まったのが、最後に安らかな愛を感じて。
アブナイ愛(笑)。たしかに! ……誰かが「このジャケ写で1曲目が『Princess』ってヤバいね」って言ってて、「たしかに!と」。でもめっちゃ面白いな、良い順番だなと思います。
──majikoさんのお気に入りソングだとどのあたりですか?
個人的には「いろはにほへと」がすごく好きで。和チルっていうんですかね? あんまり聴いたことがなかったので作ってみようと。「春、恋桜。」で学んだ大和言葉だったりがわたしと相性が良いみたいで……日本語って素晴らしいなと毎回思うんですよね。サウンドもとにかくカッコよくなって良かったと思って。
──洋楽的なメロディには日本語が綺麗に乗りづらいという話がよくありますけど、大和言葉という手法は一つの解決方法になりうるかもしれないですよね。
そうですね。すごく楽しいですし、「春、恋桜。」は海外の人にも受けが良いみたいなので、そういう日本っぽい感じは好きなんじゃない?と。普通に聴いても全然カッコいいので気に入ってます。
──それで言うと「TENGIC」にも独特なワードセンスが出てますよね。
メロディだけ聴いたら日本っぽいメロですしね。すごく好きな曲です。
──リリース後にはワンマンもあります。タイトルに「強行突破編」と入っていて。
前回のライブでいきなりわたしが「やろう!」と決めたので(笑)。
──ここにもそこはかとなくマッチョ精神みたいなものが伺えます。
多分そうだと思います(笑)。だからポスターも変にお洒落な感じにしないほうが良いと思って、「習字するぞ」って言って出したんですけど、ファンの方が「お金なかったんだな」とか言っていて。「違うから!」「あえてだから!」みたいな(笑)……そういう感じのライブです。
──レコ発でもありますが、どんなライブにしようと考えてますか。
いろいろアイディアはあって、それが可能なのかだけで、あとは強行突破!みたいな。いつものキャパから半分くらいのホールなんですけど、それも強行突破感があって良いなと。だから、楽しもうというのが第一にあるし、あとはしっかり新曲を聴かせて、その後のツアーが終わった頃にどうみんなの中に浸透していくんだろう?っていう、その始まりとして楽しみですね。
──モードとしては依然、筋トレ効果のポジティヴなものということですね。
そうですね。一ヶ月くらい前から毎日セトリ通りに練習してるくらいで。今までのライブって、若さゆえのムラもあったんですけど、もうそろそろしっかり見せるところは見せるというふうな考えにシフトチェンジしたいなと思っていて。そのためにはもっと前から準備をしようっていう。……それもなんか脳筋みたいな考えなんですけど(笑)。やる気満々ですぞ!っていう感じですね。

取材・文=風間大洋 撮影=高田梓

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