3年ぶり関西公演「かっ飛ばす」菊地
成孔とペペ・トルメント・アスカラー
ルーー菊地成孔が語るダンスカルチャ
ー、60歳を迎える「サナギが蝶になる
感じ」

菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール。菊地がサックス&ヴォーカル&コンダクツを務め、2パーカッション、ハープ、弦楽四重、ピアノ、ベース、バンドネオンで構成される大所帯の楽団。なかなか関西ではライブを観る機会が少なかったのだが、遂に3年ぶりとなる関西での公演が行われる。それも11月18日(金)の大阪公演はSTUDIO PARTITAでのスタンディングで、19日(土)の京都公演はKBSホールでのシッティングと、全く異なるシチュエーションで行われる。
今回、改めて音楽で踊らせるということ、クラシックやジャズなどジャンルとしての見え方、そして来年60歳を迎えるにあたって思うこと。さらには統制された世の中で生まれた新しい世代によって、ダンスカルチャーが変わる可能性もあるという話まで訊くことができた。全ての話題を知的に冷静にユーモアを交えながら話す姿に、インタビュー中こちらは緊張しっぱなしであり、痺れっぱなしであった。とにかく是非とも読んで頂きたいインタビューである。
菊地成孔
コロナ禍に、音楽で踊るということ
ーーペペ・トルメント・アスカラールのツアーといえば、観客は座って楽しむものという勝手なイメージがありました。しかし今回、菊地さんが事前に発表された文章で「我々の演奏で、現在、おおっぴらには禁じられておる所の、踊ったり歓声を上げての祝祭、そのトランスを味わいたい方々もいらっしゃるのではないか?」と書いておられたのが印象的でした。過去、菊地さんが鳴らされてきた音楽も踊ること、ダンスがポイントになっていたと思うのですが、改めてこのコロナ禍で、音楽で踊る・躍らせることについてどうとらえていますか?
まず日本人は世界一、国民が日常的に踊らない国なんです。踊る国の1位はキューバですけど、キューバは果物を買いに行ってお金を払っている間に音楽が聴こえてきても踊りますから。しかし日本もフェスのカルチャーとか音ゲーとか集団の場で「踊ってもいい」となれば踊りますよね。昔はカジュアルに盆踊りや社交ダンスを習っているおじさんがいっぱいいたんですけど、今はダンスを日常的にはしなくて。そのかわり高校のダンス部やアイドルのダンス、ダンサーさんのようにキレッキレでハイテクというか、カジュアルなものはなくなったんです。まぁ、僕らの時代だとディスコのダンスなんかがありましたけど、ディスコのダンスはグチャグチャでしたからね。その後、クラブカルチャーとかDJカルチャーのいわゆる渋谷系とかがあってタコ踊りしていたので、ひょっとしたら日本人が日常的に踊りを取り戻す機会になるのかなと思ったりしたんですけど、あれはエリートの遊びで終わってしまって。
当たり前ですけど、音楽は踊りの伴奏になる側面が料理や絵画と比べると高いので、「音楽で踊ってもらいたい」というのは別に僕だけじゃなくて誰もが思っていることじゃないですかね。「今から物凄い勢いで演奏するけど踊らないでもらいたい」と思っている人はいないですから。それが今は、こういうこと(コロナ渦)になっちゃったので、踊ってもいいけど歓声は出しちゃいけないとか、ディスタンスを保たないといけないとか。校則がキツい学校ともいえるし、ある種のSMというか「やってもいいけど声は出すなよ」みたいな、また新しいことになっちゃっていますよね。コロナ前は踊りたかったら、どれだけ踊っても良かったし、ダイブしてもモッシュしても良かったわけですよ。だから、音楽がダンスの伴奏になるというのは、音楽家にとっても聴衆にとっても良いこと、古典的なことですよね。音楽というのは、クラシックみたいに座って静かに鑑賞して終わったら拍手するというのと、最初からめちゃくちゃになるという、ふたつのものに色々な音楽が充当され続けてきただけです。
菊地成孔
ーー今回、京都はシッティングでのライブですが、大阪ではスタンディングでライブをされることが本当に楽しみです。
僕はダンスミュージック側にいますから、昔はリキッドルームやスタジオコーストで(観客が)スタンディングの状態でやっていましたが、だんだんと柄に合っているブルーノートやクラシックのコンサートをするサントリーホールに傾いてきたわけです。逆に、以前やっていたDC/PRG(DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN)で無理くりブルーノートでやったこともありますが、お客さんのワイングラスが倒れそうになるからでっかい音が出せなかったりした。でも今のペペ・トルメント・アスカラールの音楽では、自然にクラシックやフランス料理、シャンペンのある場所になってきた。セットリストを公開中ですけど、今回は3年ぶりのツアーですし、大阪ではオールスタンディングなので踊れるようにしていて。僕らも久しぶりですけどかっ飛ばすと。逆に京都は座って、いくらでも思索に耽りながら、KBSホールの響きとオーラを味わいながら、じっくり聴ける。ゴダールが亡くなったので、ゴダールに捧げる一種の追悼コンサートのような感じにしたりと、大阪と京都で振り分けて決めてきました。
クラシックやジャズは、敷居の高いものではない

菊地成孔

ーー菊地さんの音楽は、昔からクラシックやジャズの要素を感じながらも敷居が高すぎず、ライブハウスの様なハコでも踊れるところに魅力を感じていました。
ペペ・トルメント・アスカラールは単純に見た目がクラシックに近いというか。男はタキシードで女性はドレスを着ていて、バイオリンにハープもいるのでクラシカルな要素はあるんですけど、一方でパーカッションも2人いてトライバルなものが混じっているんですね。そういった幅広さがあるので、フェスでかっ飛ばす人とか、アフリカやラテンが好きな人も踊りやすいですよ。我々はタキシードやドレスを着てますが、汗かいて踊りやすい格好で来てもらって全く問題ないです。タンゴ、社交ダンス、ヒップホップ、ブレイキン、タコ踊り、お客様には何をやっていただいても全く構いません。それが無国籍ということですから。
ーー今、話を聞いていて思ったのは、菊地さんはクラシカルな要素を持たれていても、先程お話ししたように敷居が高くない上に、ハープもあるのにパーカッションもあるといった一種の混ぜ合わせていく新しさを感じさせてくれる、ジャンルに縛られないフリーキーさのようなものがあると言いますか。
音楽の美化として、ジャンルを守って、コンサバティブにやるのがロックンロールにすらありますからね。安心できるコンサバティブに対して、どんどん異化していくオルタナティブというものがある。音楽の発展はコンサバを守るかオルタナティブのツーウェイしかない。まぁ、僕は生まれた時からコンサバが無理なので、オルタナティブに生きてきたのですが。
ーーよく「無国籍」と簡単に言いますが、菊地さんの音楽は決してそういうものではないですよね。
「無国籍」とか言って日本人がやると、二言目には尺八や琴が入るんです。あれはダサい。何が洒落ているかというのはセンスですし、無国籍料理と一緒なので無限はあるんです。だから混血とかミクスチャーはずっと起きてるし、コンサバティブな人もずっといる。コンサバティブな人がいなくなる世界というのは無いですしね。向き不向きがありますし、人にはやるべきことがある。ペペが無国籍だからと言ったとしても、何でもいいわけでなく、ある種のバランスの中でやっているんです。和服を着て和太鼓を叩いてる人が入っていたら、もう無国籍じゃない。それは美学的に良しとしないということなんです。
ーー観る側が、聴く側がクラシックやジャズに対して、勝手に高尚なものだという偏見を持ちすぎてしまっているのかなというのも感じました。
何かが現実以上に高尚で敷居高く見える。というのは、権威主義や無関係意識から生まれる誤解の大系というか。​「あの人、怖そうだな」と思っても実は凄く楽しいとか、陽気そうに見えた人が自殺してしまったりとか、ジャッジメンタルという決めつけをしちゃっているだけなんです。ジャズは難しそうと言いますけど、ジャズは馬鹿がスポーツをやっているだけで全く高尚じゃない(笑)。クラシックを今も高尚と思っている人はいるのかな? 今は凄く感動的で分厚いもの、シンフォニックなものと思われているんじゃないですかね。敷居が高いものでは無くなってるんじゃないですか? 歌舞伎も能楽堂も今は敷居は高くないですし。逆に敷居が高かった暗黒時代の方が、実は良い時代だったという(笑)。それに僕がジャズの敷居を低くしたというのも全く無くて、それは頭で考えた物語であると思います。ジャズバンドは人を踊らせるものだし、そこに僕はアフロやファンクも入ってますから言わば踊れるということです。元々は、クラシックホールに黒人が入れないとか敷居はあったでしょうけど、今や無いですよね。
「今が一番、アナキズム」60歳になって感じること
菊地成孔
ーーあと、自分が20代の時から聴いている、年上である菊地さんが、私が45歳になった今も現役でかっこいい表現をされているのはとても嬉しいことなんです。菊地さんは、ご自身の年齢を感じますか?
僕はあと8ヶ月で60歳になるんですけど……年齢は感じますよ。年齢を超越できる人間はいない。20歳、30歳、40歳、50歳は何にも感じませんでしたが、今59歳になって、何と言うんですかね、サナギが蝶になる感じというか。それは青年というか若造みたいだったのが、おじさんやパパという時期を越して、いきなりおじいさんになる感じというか……。実際、僕は家庭と子供が無いので、パパっぽい時期が無いんです。写真を見てもずっと同じ顔をしていて、50代で流石に変わるかなと思ったら変わってなくて。コロナ禍は偶然ですけど、57、58歳になって急に変わってきた。もちろん変わらない部分もあるんですけど、現実的に老けるということがドサッと襲ってきたのは事実ですね。なので年齢は感じていて、これを表現に使わない手は無いなと思いますし、自然に反映されますね。最終的に70歳や80歳になると老けて体が動かなくなって円熟していくしかないかもしれないですが、60歳はまだ暴れるおじいちゃんなんです。おじいちゃんの第一形態というか。
それに今は59歳の人がいっぱいいて、松本人志さんとかトム・クルーズ、ジョニー・デップ、ダチョウ俱楽部のおふたりとか。あっ、阿部寛さんとかね。みんな来年、続々と還暦になるので、今の日本の60歳はどうなるのかなと思って見ています(笑)。みなさん何かを体現されるのかな? 個人的には今が一番アナキズムです。海外には(ウィリアム・S・)バロウズみたいなかっこいい80歳もいましたかしね。ああいう極端な例は日本にいなかったですが、バブル期を20代で経験して、60歳になった人の動き方はあるでしょうし、今まで日本にいなかったようなタイプの人たちが出てくるのかもしれないですよね。歳を取ったら円熟というのは希望で言っているだけで、円熟なんか80歳になっても遅くない。あんちゃんメンタリティーがおじさんメンタリティーに変わっただけですよ。僕なんかも体が、左耳とかDC/PRGの名誉の負傷でほとんど聞こえませんし、今年も二回靭帯損傷して、とうとう歯もダメになって今、仮歯が入っている状態で、満身創痍のボロボロです。そうなってくるとヤケクソに拍車がかかる(笑)。僕は1960年代の森繁久彌さんや若大将シリーズの映画を観るのが好きなんですけど、70代に見える人が設定では45歳とかなんですよ。その頃を考えると、日本人は若くなりましたよ。どんどん世界的にも若くなっていますしね。
菊地成孔
ーーそうやって歳を重ねていく中で、菊地さんにはどんどんライブをしていって欲しいと思うんです。
これからライブ自体が増えていくに越したことは無いですからね。僕は無観客配信はとうとうやっていないですし、手伝いでもやっていない。入場制限があっても観客を入れることをずっと選択してきましたから。特に今、興味があるのは、コロナ禍になっても音楽を楽しんでいますけど、体を動かすこととか声を出せないとか去勢はされていますよね。最初は息苦しいけど、人は必ず順応していくんです。だから僕らはライブが終わった後はグアーっと興奮してきても、ライブが終わった後もずっと静かにしていることが生理的に何の抵抗も無い人たち、別に何も息苦しくないという世代の人たちが出てくるかもしれないんですよね。そうなると、ダンスカルチャーは変わると思うので、そこに興味がありますね。別に嘆かわしいことではないし、昔に戻りたいとかでも無くて。もうジジイなので、世の中がどうなろうと、若者がどんな風になってゆくのか、年寄りがどんな風になってゆくのか、も、僕に希望はないです。なるようになるだけなんで。僕はこれから何が起きていくのかを見たいだけなんですよね。それはきっと生まれた時から。
ジャズクラブとかでも拍手したり歓声を上げたら店員さんに怒られたという話は聞きますし、そういうのは言論統制みたいなものだけど慣れたら慣れますから。これからの日本で、声を出したり騒ぐことで感情や感動を表現しない人……20年前でいうところのコミュ障みたいな人が普通の人の動き方になるのかな。「盛り上がってないとやりづらいから、早く叫んで大騒ぎしたい」と言うのは簡単ですけど「はい騒げますよ」と言われた時に体が騒げなくなっている、つまりは生まれた時からライブを聴いても騒がなかった人も出てくるわけで、それはおもしろいですよね。さっきも言いましたけど、決して嘆かわしいことでは無くて、自然なことですから。だから、自分の(ライブの)フロアがどうなるかも興味がありますね。統制がある社会の方がスリリングでいいんですよ。
取材・文=鈴木淳史 撮影=河上良

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