冨樫義博という”異常” バカリズム
(音声ガイド担当)が語る「冨樫義博
展 -PUZZLE-」の魅力とは

『幽☆遊☆白書』『レベルE』『HUNTER✕HUNTER』など、数々の名作漫画を世に送り出してきた漫画家の冨樫義博。彼の画業35周年を記念した『冨樫義博展 -PUZZLE-』が東京会場となる森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ 52F)にて、2022年10月28日(金)から2023年1月9日(月祝)までの開催となっており、大阪・福岡への巡回も決まっている。同展覧会の音声ガイドを芸人のバカリズムと声優の浪川大輔の両名が担当。今回は、そんなナレーション収録直後のバカリズム氏に冨樫作品との出会いや、本展の魅力、収録直後の素直な感想などを伺った。

ファンの期待を裏切らないか、不安でした
−−まずは早速ですが、先ほど音声ガイドの収録をされたばかりということで、終えてみての感想はいかがでしょうか?
今回のお話を頂いた時に思ったのは、やっぱりプレッシャーですよね。これは僕の勝手なイメージなんですけど、冨樫先生ファンの方々って相当コアというか、“マンガ偏差値”がめちゃくちゃ高い方ばかりで、僕なんかよりも深い部分まで考察していたりとか、そういうのが絶対に好きだと思うので、ファンの皆さんをガッカリさせないような仕事をしなくちゃいけないというまずプレッシャーが勝っていたんですけど……やっぱりもう2~3テイクくらい録り直したいかもしれないです(笑)。
−−相当プレッシャーが重く肩にのしかかっていたようにお見受けします(笑)。
いや、もちろん一所懸命録りましたし、バッチリ「OKです」と言って頂いているんですが「本当にファンの方々に納得して頂けるだろうか?」とか、録り終えてみても、どうしても不安は不安ですね。でも、そこまで難しくやりすぎても、もっとライトなファンの方にも楽しんで頂きたいですし、それこそ子供たちだってたくさん観に来てくれるでしょうし、そういうバランスを考えたらいい感じに録れたのかな?そうだといいです。
(c)冨樫義博 1990-94年 (c)冨樫義博 1995-97年 (c)P98-22
一筋縄ではいかない、冨樫作品の魅力
−−バカリズムさんの冨樫作品との出会いについて、お聞かせください。
冨樫作品との出会いでいうと、実は何段階かあるのですが、1番深くハマったきっかけになったのは『HUNTER✕HUNTER』からですね。『幽☆遊☆白書』とかも連載当時は本誌で読んだりもしてはいたんですが、そこまでハマって読んでいたという感じでもなく、なので『HUNTER✕HUNTER』も存在は知っていたもののしばらくは深く触れておらず、30歳過ぎてからなのでホント10年前くらいからなんです。何かのタイミングでたまたま1巻だけ読んで、もうその日のうちに全巻揃えて、そこから他の作品も……という流れでドハマりしていったという感じですかね。
−−少年マンガの作品でありながら、10代の頃よりも大人になってから魅力に気付くというのも、冨樫作品の奥深さを表すひとつのエピソードとして充分ですが、深くハマるようになったきっかけである『HUNTER✕HUNTER』の魅力について、もう少し深くお聞きしたいです。
いかにも王道な少年マンガの冒険モノみたいな始まり方をしてはいるものの、段々と見え隠れしてくる世界観であったり設定の緻密さとか、作り込みの量の膨大さだと思います。それこそ念能力のルールだったり、ハンター試験のルールも複雑だし、グリードアイランド編のカードゲームのルールだったり、少年マンガでそこまでやらなくてもってくらいの作り込みですよね。しかも全部が見たことないルールというか、オリジナリティに溢れていて、いい感じにちょっとイジワルでゲームバランスもしっかり考えられてて、一筋縄ではいかない感じなんかが魅力なんじゃないかと思います。特にハンター試験の最後のトーナメントのルールなんかも斬新じゃないですか?
−−確かに、トーナメントと言いつつ負けた人が残っていくというのも面白いですよね。
多分、冨樫先生ってめちゃめちゃゲーム好きなんだろうなっていうのがすごい伝わってくるんですよね。軍儀のルールとかもよく分からず読んでましたけど、絶対に先生の中ではちゃんと全部作り込んで話に組み込んでるじゃないですか。
−−グリードアイランド編のカードの説明とかも、コミックスだと扉に詳細が載っていたりしますし……。
そうなんです。絶対にストーリーを読み進めていく上で、そこまで作り込む必要ってないはずなんですけど、きちんと作り込んでる。僕らってファミコン世代なので、昔からゲームが大好きでやってきてるので、きっと冨樫先生も相当ゲーム好きだからこそツボを得てるというか、ゲーム好きが好きになりやすいみたいな部分もこれだけ多くのファンに支持される部分なんじゃないかと思いますね。
残酷だけど鮮やかな、冨樫ワールド
−−個人的には作品に対する作り込みの部分だったりに、バカリズムさんのネタへの姿勢と通ずる所を感じるのですが、同じクリエイターとして共感できる部分など、何かありますか?
ああ、そうかもしれないです(笑)。確かに「そこまでやらなくても~」という部分はありますね。週刊連載でそこまでやり出したら、絶対に自分の首を絞めるって分かっているのにやってしまうみたいな感覚は共感できるかもしれないです。それって自分にとってもはや趣味の領域なのか、絶対に譲れないこだわりなのか、自分のコントとかでも「そこの描写はもうこれ以上やっても笑いに繋がらないな」って分かっていて、見てる人からしたらなんてことないシーンなんですけど、変にこだわって何回か書き直したりという経験は確かにあります。なんて言うんでしょう、先生のある種の異常性みたいな(笑)。
−−もはや狂気じみた熱量というのは確かに誌面からも感じ取れますよね(笑)。バカリズムさんが思う、そんな冨樫先生の”異常性”が垣間見えたシーンって、挙げるとしたらどこでしょうか?
やっぱり描き込みの量とかには圧倒されますよね。個人的にはバトルシーンが好きなんですが、バチバチの戦闘というよりも圧勝する描写が結構好きで、特にキルアが心臓をえぐり取るカットとかは、奪う瞬間は描かれてないんですよね。奪う前と奪い終わった後だけ描かれていて、それで力の差を表現してて、次のページめくったらもう心臓取ってるみたいなのは残酷だけど鮮やかというか。あとはキメラ=アント編のヂートゥも好きですね(笑)。
−−あぁ、あのチーターみたいな。キルアのお父さんに一撃で潰されるキャラクターですよね(笑)。
もうビシャ~って本当にマンガみたいにペラッペラになるまで押し潰されちゃって(笑)。そういう鮮やかな戦闘シーンは好きですし、あとはコマ割りとかページの使い方が絶妙ですよね。間合いの作り方が、もしかしたら映像的な考え方なのかもしれないですよね。テンポ感が映像作品のテンポというか。それこそキメラ=アント編の最後に、メルエムとコムギが軍儀をするシーンなんて、真っ黒なベタ塗りの中にセリフだけのコマがずっと続いて、2人の姿は全く描かれていないんだけど、2人がどういう状況か想像できちゃうというか。しかも何ページかにわたって続くじゃないですか。セリフが弱いと絶対に間が持たない演出だと思うんですけど、しっかり吸い込まれていくから、やっぱり冨樫先生はすごいなって思わされました。
(c)冨樫義博 1990-94年 (c)冨樫義博 1995-97年 (c)P98-22
ゴンって1番ヤバい奴ですよね(笑)
−−続いてはちょっとフザケた質問なんですが、『HUNTER✕HUNTER』がお好きということで、ご自身が念能力を使えるとしたら、何系に分類されると思いますか?
そうですね~……具現化系ですかね?(笑)。
−−いいですね。確かに、コントとかでも使えそうですし(笑)。
シンプルに強化系とかに憧れはありますけど、自分は具現化系かな。でもクラピカみたいに自分にめちゃくちゃリスキーな制約とかは絶対に嫌なので、日常生活にあまり影響の出ない範囲でお願いしたいです(笑)。
−−具現化系の人が強化系の人になんとなく憧れがあるっていうのもよく分かります(笑)。
やっぱりゴンみたいにまっすぐで芯の強い主人公って10代20代くらいの頃って誰もが1度憧れるじゃないですけど、あると思うんですよ。でも歳を重ねてく中で見えてくる他のキャラクターの魅力もあったり、逆にある程度歳をとってからの方がゴンの異常性に気付けたりもきっとしますよね。善悪じゃなくて興味のあるなしで行動するって、もはや動物的ですよね。
−−大自然の中で、動物たちと一緒に育ってますし、確かに動物的かもしれません。同じ主人公でも浦飯幽助とは全然違うタイプというか。
ゴンと比べると幽助は全く普通というか人間的で……、ゴンって1番ヤバい奴ですよね(笑)。
とにかく企画スタッフさんたちの気合いの入りようがすごいです(笑)
−−また今回は『HUNTER✕HUNTER』の他にも『幽☆遊☆白書』や『レベルE』の展示も予定されていますが、それらも踏まえた上での冨樫作品の魅力について改めてお聞きしたいです。
自分は『HUNTER✕HUNTER』をきっかけに冨樫先生にハマっていったので、この2作品も追っかけではあるんですけど、やっぱり少年マンガっぽくないというか、だからこそ多分10代の頃にスルーしていた気がしていますね。大人になってから読み返すと、コマ割りやページの使い方だったりのテクニカルさに驚かされましたし、ふとしたコマで不意を突かれたように笑っちゃったりできたのも、要するに緊張と緩和っていう笑いのテクニックを理解してからだったと思うんですよ。これずっと気になってたんですけど、冨樫先生って絶対ヤンキーに対する何か執着があると思っていて、必ずといっていいほどヤンキーキャラが登場しますよね?
−−確かに。しかも結構ステレオタイプな感じというか……。
そうなんですよ。冨樫先生の描くヤンキー像って、文化系のステレオタイプ的なヤンキーといいますか(笑)。視点が体育会系じゃないんですよね。ヤンキーなのに実は動物に優しいとか、なんかすごく文化系っぽいな~って感じで勝手に親近感を覚えるんですけど(笑)。そういうふとした瞬間に笑えたり、けど10代の頃はきっとそこまで笑える感じでもなかったと思うから、少年マンガでありつつ、大人も読んで楽しめるという部分が1番の魅力ですよね。
−−最後にこの展覧会を楽しみにされてる皆さまへメッセージをお願いします。
今日収録させて頂いて、色んなスタッフさんからお話など伺いましたけど、改めてものすごい力の入ったイベントであると実感しました。ファンとして1番気になる部分って「どれくらい力入ってるの?」って所が真っ先に気になるかと思うんですが「ああ、これは納得してもらえるな」と自信を持って言えます。とにかく展覧会の企画スタッフさんたちの気合いの入りようがすごいです(笑)。自分もいちファンとして色んなスタッフさんに「どんなグッズがあるのか?」とかあれこれと聞いちゃったんですけど、きっと期待を裏切らない内容になっていると思います。
取材・文:前田勇介 撮影:鈴木久美子

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