The BONEZ、万感の『Tour 2022“Wel
come to The Lab House”』ファイナ
ル 新たにcoldrainとの2マンも発表

11月4日、Zepp DiverCity Tokyo。時刻はまもなく午後9時。ステージ上に居るのはもはやJESSEのみで、いかにも名残惜しそうなそぶりを見せている。意を決したように彼が「また会いましょう!」という一言を発し、深々と頭を下げたところでこの夜のライヴは完全に幕を閉じ、『Tour 2022“Welcome to The Lab House”』が終着点へと至った。
The BONEZは去る4月に『LAB』と題されたミニ・アルバムを発表し、春から夏にかけて同作に伴う最初のツアーを実施。その後は夏フェス等への出演も重ね、10月7日のZeppSapporo公演を皮切りに今年二巡目となるツアーを展開してきた。全7本という公演回数は、従来の彼らの活動ペースを考えれば少ないと言わざるを得ない。ただ、新型コロナ禍の影響による状況やそれに伴う規制のあり方が変化を続けていく中、全国津々浦々をくまなく巡演するようなロング・ツアーを実施することは、非現実的だと言わざるを得ない。だからこそ彼らはこうして段階を踏まえながら、徐々にあるべき現実を取り戻していく方法論を選んだのだろう。
 Photo by Yosifumi simizu
『LAB』という作品自体に彼らが掲げていたのは「人々の心を動かすための実験」というものだったわけだが、こうした二度にわたるツアーもまた、「不自由な環境下においても演者と観客の双方が最大限にライヴを楽しむための実験」だったといえるのではないか。そして今、僕自身が断言できるのは、彼らとその共鳴者たるBONERたちがその実験に成功をおさめたということである。開演定刻の午後7時を10分ほど過ぎた頃に場内は暗転。1曲目に炸裂したのは、前回のツアーの際と同様に“Plasma”だ。いつのまにか鮮やかなグリーンの髪になっていたJESSEが、自らの躍動で手本を示しながらフロアの同胞たちをジャンプへと導く。そのまま“MyBand”、“Place of Fire”と序盤からキラー・チューンを惜しみなく連射すると、場内の体感温度も急上昇していく。
その直後、「東京! パンパンやんけ!」と歓喜の声をあげたのはビートさばきの達人、ZAXだ。実のところ今でもこうしたスタンディング形式の会場では、このご時世なりの新常識に基づいた集客数に抑えられており、コロナ禍以前の超満員状態に比べればフロアのひとり当たりの面積に余裕がある状態だ。が、考えてみれば、一時はそのフロアに座席が並べられていたのだ。その状態でのライヴを「安全かつ激熱」に成功させてきたからこそ、バンドとオーディエンスは少しずつ束縛から解き放たれてきたのである。もちろん今現在においてもマスクの常時着用は求められているし、大きな声を出すことは許可されていない。ただ、「思わず漏れてしまう歓喜の声」を誰に止めることができるだろう? この日もそうした声はさまざまな局面で聴こえてきた。ただ、そこで過度に悪ノリをする観客の姿は見られなかったし、JESSEが必要以上に火に油を注ぐこともなかった。それこそ“Place of Fire”というのは彼らがこよなく愛するライヴ空間をテーマにした楽曲だが、そこに燃える火をただ単に大きくしていくのではなく、途切れぬよう大切に守っていく術を、バンド側とファンの双方が身に付けてきたということだろう。
 Photo by Yosifumi simizu
Zepp DiverCity Tokyoに渦巻く熱は、その後も一瞬たりとも途切れることがなかった。極上のグルーヴと一体感は時間が経つのを忘れさせるものだが、実際には約110分間に及ぶステージだったというのに、その経過は文字通りあっという間のように感じられた。もちろんそれは、彼らのステージが全力疾走型の単調なものだったという意味ではない。後半の冒頭にあたる“Incredible”から“In Silence”、“Stranger”を経て名曲“LIFE”へと至っていく深みと起伏に富んだエモーショナルな流れは、このバンドの魅力がわかりやすい“熱さ”ばかりではないことを無言のうちに伝えてくれるものだったように思う。The BONEZはいわば、キッズの気持ちを失うことのない大人の男たちによるバンドである。T$UYO$HIの操る図太くも柔軟な低音と、ZAXの直情的でありつつ正確無比なビート、そして今やThe BONEZに欠かせない存在となったKOKIのギターが織りなす演奏面での懐の深さが、そうした楽曲の流れから滲み出ているように感じられた。JESSEの歌唱も含め、そこには大人の色気があるのだ。ライヴ全体においてはこうしたパートが大きな起伏の“谷”の部分になるのが常だが、この夜はその部分こそが“山”になっていたように思う。
 Photo by Yosifumi simizu
 Photo by Yoshifumi Shimizu
そうした大人の深みを匂わせつつも、最後の最後は必殺曲の連続でオーディエンスにエネルギーを使い果たさせるのがThe BONEZというバンドの凄味である。実際、“Thread&Needle”でひとたび着地点に到達したのち、まさしく駄目押しのように“Hey, You”と“SUNTOWN”の2曲が繰り出された。そのアンコール2曲を含めて全20曲を演奏終了直後の4人はまさしく満ち足りた表情をしていたし、マスク越しではあるものの観衆もまた満足げな笑みを浮かべていたはずだ。
この日をもって『LAB』に伴う第二巡目のツアーは終了に至ったが、ライヴの終盤、ステージ上で発表されたのは、12月22日、Zepp Hanedaでcoldrainとのライヴが決定したとの事実。思いがけぬ朗報に、さすがにオーディエンスは沈黙を守ることができずにいた。2023年到来を前に、もう一度The BONEZと向き合うことができるこの機会を見逃す手はないだろう。そして願いがうならば、その時こそはもっと自由に声をあげられますように。
 Photo by Yosifumi simizu
文・増田勇一

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