大ヒット曲「夏色のナンシー」を
当時の空気感とともに
瞬間パックしたかのような
早見優の『Dear』
17歳直前に発表したミニアルバム
それでは、「夏色~」はオリジナルアルバムにまったく収録されていないかというと──ミニアルバムに収録されておりました。1983年8月リリースの『Dear』がそれ。今さらながら察するに、たぶん「夏色~」のほうがイレギュラーな作品だったのだろう。3rd『LANAI』は「夏色~」以前にリリースが決定していて(というか、間違いなく全ての録音が終了していて)、「夏色~」がヒットしたからと言ってそこに収めることもできなかったのではないか。しかも、そうかといって、同年11月発売(おそらくそれも既定路線であったような気がする…)の4thまで待つというのはもったいない。そんな判断でミニアルバムを臨発したのではなかろうか(と考えるのが普通だと思うが、果たしてどうだったのだろう?)。『Dear』は「夏色の~」に加えて、そのB面だった「可愛いサマータイム」、「夏色の~」に次ぐ6thシングルだった「渚のライオン」とそのB面「赤いサンダル」、そして未発表曲3曲(そのうち1曲はインストというか何と言うか…)の全7曲収録。いかにも急ごしらえであったことは否めない。曲間に彼女のトークを挟んでいるのは、さすがにその辺を考慮した結果だろうか。
『Dear』が仮に急ごしらえだったからと言って、粗製だったかというと、決してそんなことはないと思う。ここから細かく解説していくけれど、結論から先に言えば、(推測するに)結果的には急ごしらえだったかもしれないけれど、急ごしらえだったからこそ、その瞬間にしか出せない早見優というアイドルシンガーの魅力が凝縮されたのではないか。そういう見方ができるように思っている。
本作がリリースされたのは彼女が17歳になる直前のこと。17歳と言えば、日本のアイドルソングでは森高千里のカバーでも知られる南沙織「17才」、ロックまで広げれば尾崎豊『十七歳の地図』と、古今東西、何かと象徴的に語られる年齢ではある。別に図ったわけでもなく、誕生日の直前にたまたまリリースされたと考えて間違いなさそうであるけれども(急ごしらえ説を唱えるのであればなおのこと)、作品を聴いたあとでは何か符合のようなものを感じるところではある。
デビューから1年ちょっと。アイドルとはいえ、エンタメ界で矢面に立つプロフェッショナルとしての覚悟は十二分に感じられる。しかしながら、完全に完成しているとは言い難く、エンターテイナーとしては円熟期には程遠い。そのスタンスは、未成年でありつつも、まったく子供ではないという、17歳という立場にも似たところがあったようにも思う。存在感の微妙なグラデーションというか、揺れる感じといったものが『Dear』から感じられるのである。ちなみに早見優のデビュー当時のキャッチコピーは「少しだけオトナなんだ」だったそうで、2nd『Image』(1982年11月)には「少しだけ オ・ト・ナ」なんて楽曲も収められている。微妙な感じは必然だったのかもしれない。