『ピカソとその時代 ベルリン国立ベ
ルクグリューン美術館展』レポート 
76点が日本初公開! 20世紀美術が誇
る“巨匠カルテット”の傑作が一挙来

ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』が、2022年10月8日(土)から2023年1月22日(日)まで国立西洋美術館で開催されている。本展には、ドイツにあるベルリン国立ベルクグリューン美術館から日本初公開の76点を含む貴重なコレクションが来日。日本の国立博物館の所蔵・寄託作品11点を加えた計108点で、20世紀を代表する画家であるピカソ、そしてクレー、マティス、ジャコメッティという同コレクションの中心を成す4名の芸術家の名作を味わえる構成になっている。ここでは実際の会場の様子とともに本展の概略を伝えていく。
ピカソ、クレー、マティス、ジャコメッティ中心に、日本初公開が76点
何度も美術展を訪れていても「日本初公開」という言葉には常に心を踊らされるものがある。ベルクグリューン美術館の改装に伴い、同館の主要作品が初めて一度に館外へ貸し出されることになった今回は、なんと展示の7割にあたる76点もの作品が日本初公開。ピカソの作品も来日作品の43点中35点が初来日となっている。ドイツに行かなければ見られないものが、これだけの数、日本にやってきてくれたという感動は計り知れない。
展示室に入場すると、冒頭には本展のイントロダクションとともに、アンリ・マティスの《パリ、ベルクグリューン画廊の展覧会(1953年)のためのポスター図案》と、パブロ・ピカソの《眠る男》という2点の作品が並べて展示されている。ここでまず、本展のあらましを知っておこう。
ベルリン国立ベルクグリューン美術館は、1914年にベルリンで生まれた収集家、ハインツ・ベルクグリューンのコレクションを基盤とする美術館だ。第二次大戦中、ナチスからの迫害を逃れて渡米したベルクグリューンは、戦後まもなくパリに移って画廊を設立。そこで40年近くに渡って画商として活動した後、引退して収集家に転身した。
ハインツ・ベルクグリューンの肖像 展覧会場の案内より
彼のコレクションは、彼が特に尊敬していたマティスとピカソ、そしてパウル・クレー、アルベルト・ジャコメッティという20世紀に活躍した4名の作家に焦点をあてているのが特徴。ピカソだけでも120点以上の作品を所蔵している。1996年には、これらのコレクションがベルリンの歴史的建築で公開。さらに2000年以降には、その価値の高さからコレクションがナショナルギャラリーの一部となり、2004年に建物自体が「ベルリン国立ベルクグリューン美術館」へ改称された。
ここに並ぶ片方の作品はパリにあった彼の画廊で、マティスが初めて切り絵だけの展覧会を行った時に造られたポスターの図案。もう片方は、彼が初めて購入したピカソ作品であり、まさに本展の幕開けを飾るにふさわしい2作品だ。
20世紀を代表する天才画家の変遷をたどる、秋の“ピカソづくし”
本展はメインとなる4名の作品に、彼らの業績を補完する存在としてポール・セザンヌ、ジョルジュ・ブラックの作品を交えた7つの章によって構成されている。
手前:ポール・セザンヌ《セザンヌ夫人の肖像》1885-86年頃 ベルリン国立ベルクグリューン美術館、ベルクグリューン家より寄託
「近代絵画の父」と呼ばれ、4名の芸術家に共通して影響を与えたセザンヌに光をあてた第1章を経て、2章から4章までは、ピカソの画業に着目した空間になっている。ピカソといえば、時代ごとに興味と作風がはっきりと変わってきた画家として知られるが、ここには、いわゆる20代前半の「青の時代」から、60代を迎えた第二次大戦中までの作品が集められている。
「青の時代」に描かれた《シャウメ・サバルテスの休息》、「バラの時代」に描かれた《座るアルルカン》に続き、「古典主義の時代」に残され、《アヴィニョンの娘たち》の習作となった《女の頭部》という、若き時代の変遷を各時代の作品とともに探訪。そして20代半ばを迎えたピカソは、《丘の上の集落(オルタ・デ・エブロ)》でのように、徐々に独自の表現である「キュビスム」に目覚めていく。
ピカソがキュビスムを確立する上で、良き協力関係、そして良きライバルとして深い関係を築いたのがジョルジュ・ブラックである。本展にはピカソが彼をモデルにしたとされる《帽子の男/ジョルジュ・ブラックの肖像(通称)》が来日。また、ピカソとブラックの関係を補足する役割として、日本の国立美術館が所蔵する《女のトルソ》と《静物》という、ブラックの2作品も展示されている。
他の展覧会であれば数点見られれば凄いようなピカソ作品が、こうして全体の前半部分だけにギュッと詰め込まれている。その凝縮感は本展の大きな魅力であり、ベルクグリューンというコレクターのピカソの芸術に対する愛を感じられる部分であろう。
戦争に対する悲しみと憂いを訴える、ピカソの女性像
「キュビスムの時代」「新古典主義」の時代を経て、第4章では、幅約2メートルの《大きな横たわる裸婦》を囲むように、戦時中に描かれた女性像が同じ空間の中に集められている。本展のメインビジュアルになっており、この時期にパートナー関係にあった写真家ドラ・マールをモデルにした《緑色のマニキュアをつけたドラ・マール》も、ここに展示されている。
内覧会の中でギャラリートークを行った、ベルリン国立ベルクグリューン美術館統括責任者のガブリエル・モントゥア博士は、この空間について次のように解説する。
「この時代の女性像からは『キュビスムと秩序への回帰との融合』の手法が顕著に見られます。また、これらの作品はスペイン内戦と第二次大戦の影響を色濃く受けており、ナチスの手が迫る中でもフランスに残って活動を続けたピカソの戦争に対する強い意志や複雑な気持ちが見て取れます。なかでも、《黄色のセーター》は当館を代表する作品の一つです。この作品と隣にある《女の肖像》を見比べていただくと、『やわらかさ』に違いがあることに気付かれると思います。一見、非常に似ているように見える2つの作品の違いを楽しんでいただきたいです」
確かにここまで辿ってきた変遷からも、戦火の波が自身と世界を覆うにつれて、作品の醸す雰囲気や色調は悲しみや憂いを帯びていくさまがよくわかる。
クレーとマティスも、個展クラスの展示数でたっぷりと
続く2つの章では、クレーとマティスをそれぞれ特集している。このうちクレーの展示はピカソのコレクションと同様、彼の画業を包括する34点もの作品が見られる。「ピカソとその時代」というピカソをメインに打ち出した展覧会名でありながら、その中にクレーの個展があるといってもいいほどのボリュームだ。

第5章の展示風景

「ピカソと同じく多作だったクレーですが、ピカソと比べると彼には『これこそクレー!』と人々に連想させるような作品はありません。しかし、それが彼の特徴であり、さまざまなものを描いた多様性こそが魅力の作家といえます。本展でも、人物、風景、植物を描いた作品に加え、《ネクロポリス》のようにピラミッドをモチーフにしたような作品を紹介しています」
第5章の展示風景
クレーの展示について、そのように解説したモントゥア博士。確かに幅広いものをモチーフにしているクレーだが、記号や幾何学模様を多用し、見る側の錯覚を誘う作品の数々は、どれも機知と示唆に富んでいて興味深い。ピカソや同時代の他の画家から影響を受けながら独自の世界観を築いたクレーの作品を存分に堪能してほしい。
そして第7章は、本展のもう一人の主役であるジャコメッティの彫刻を中心に、第2次大戦後に制作された4人の巨匠の作品を集合させた空間となっており、華やかなエンドロールを迎える。
海外から来日する企画展の中でも、これだけ「巨匠」と呼ばれる芸術家の作品だけに浸れる展覧会も少ないだろう。しかも、くどいようだが、来日作のほとんどが日本初公開。2022年の芸術の秋、美術ファンであれば訪れる価値がある展覧会といえるだろう。
『ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』は、2023年1月22日(日)まで国立西洋美術館で開催中。

文・撮影=Sho Suzuki

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