KICK THE CAN CREW、日本武道館で見
せつけた“現在進行形”でCANを蹴り
続けTRYし続ける大人のKICK

KICK THE CAN CREW LIVE 2022 「THE CAN」

2022.09.24 日本武道館
LITTLE、KREVA、MCUの3人によるKICK THE CAN CREWが最新アルバム『THE CAN』を携えて7月から名古屋、大阪で開催してきた『KICK THE CAN CREW LIVE 2022 「THE CAN」』が9月24日、日本武道館にてファイナルを迎えた。ここからは、彼らが武道館で行なった最終公演の模様のレポートしていく。
彼らが武道館で単独公演を行なうのはKICK復活後、2018年に行なった『KICK THE CAN CREW LIVE 2018「現地集合」』以来。スモークで真っ白になったステージ、客席に向けて7色のレーザービームが走るなか、ライブは《やあ 皆さまこんばんは 今から本番だ》というLITTLEの歌い出しから始まる最新アルバムのあの曲、「準備」で幕開け。キャスケットにハーパンのLITTLEに続いて、白黒の上に赤黒とチェックONチェック柄のシャツでキメたMCU、緑のジャケットにボトムも緑、髪のサイドにも緑のカラーを入れたKREVA。キャラもラップも三者三様のスタイルでマイクをつなぎ、2分足らずでウォームアップ完了。ステージとフロアの準備が整ったところで、さあここからは本番。ソウルグルーヴな「YEAH!アガってこうぜ」が始まると、とたんに3人のラップするスピードが高速に! 大量の言葉を超絶的な歌い回しで武道館に放っていく姿は超COOL!
こうして最新のKICKを見せつけたあとは「スーパーオリジナル」へ。キラーチューンの早速のお出ましに、熊井吾郎(DJ+MPC)の合図で手を掲げたオーディエンスは誰もが大喜び。曲のブリッジで3人が1フレーズごとに忙しく入れ替わっていったあと、最後にユニゾンで《スーパーオリジナル》を叩き込んだときの迫力たるや。これで、場内の温度が一気に上がる。KREVAが会場を見渡し「世の中的にも、今日もね、こんな天気の中、電車も動いてなかったりする中、よく来たね。本当にありがとう。」といい、3人が笑顔で感謝を伝える。そして、なぜか演説口調で「観てくれてる人がいる限り、最後まで俺たち止めません。賞味期限切れっていわれても、それでも俺たち、このステージを降りません」と、いつもとは違う異様に高いテンションで熱弁していくKREVA。これが次の「We Don’ t Get Down」につながっていたとは(笑)。ここではLITTLEが《小島健司です》と自分の名前を歌い込んだバースで韻を踏みまくるぶっちぎりのライミングを繰り出すと、続くMCU、KREVEも強烈なフロウで応戦。観客たちは、いまのKICKのラップの凄みにしびれまくる。そこから、次に名曲「sayonara sayonara」が始まると、3人はこの曲がメッセージとして届くよう、今度は言葉1音1音を刻みこむような歌い方に切り替える。メッセージに賛同を示すように、観客たちは、“Yeah”のところで、声が出せない代わりにみんなで一斉にハンズアップ! その一体感をさらに高めたのが「千%」だった。2017年、KICK再始動を告げたこの曲は、彼らの過去の曲名やリリックがたくさんサンプリングされたナンバー。故に、イントロがきただけで場内は猛烈な勢いで湧き立ち、ユニゾンパートではKRAVE、LITTLE、 MCUがフロントギリギリまで出てきて観客と目線を交し、さらに熱気を高めていく。そうして、ラストの《経て からの ここ》で、みんなで床を指差したあと、3人で《武道館》と歌い込むと、ステージ後方に“日本武道館”の文字がドーンと浮かび上がるという演出も合間って、場内は興奮と歓喜に包まれていった。
KREVAは「みんなもいろんなものを経て、ここに来てくれてありがとう。そんなみんなに見せたいものがあります。20数年前、集まった5人がいました。その5人で作った作品は世に出ることはなかったけど、ここ武道館で初めて5人一緒にステージに立ちます。でっかい声で紹介させてくれ!」と武道館だけの演出として、RYO the SKYWALKERNG HEADの2人がステージへ。インディーズ時代にコラボした未発表曲「よってこい」以来、やるならいまだろうと声をかけ、最新アルバムで再び共演した「今こそ寄ってこいfeat.RYO the SKYWALKER&NG HEAD」を、全員集合で初生披露。ステージからの圧が半端ない! 客演者2人のパッション高め、どこまでもいって制御不能、ハイカロリーな彼らの熱演っぷりに引きつけられ、ここではとにかくKICKの3人も気合い入りまくり。顔つきまで変わって、エネルギッシュで強気のアクトを見せていく。MCU が《本日はご来店超あーざーす》のところで頭を下げ、《まだ足りないから》と続けて後半戦に突入すると、ステージも客席もさらに熱量が高まり、テンション爆アゲ状態のままフィニッシュまでもっていった5人。とんでもない熱気に包まれたままの武道館。客演の2人は歌い終えたあとも、がっちりとフリースタイルで3人に感謝の気持ちを伝え、颯爽とステージを後にした。彼らについて、KREVAが、武道館当日は台風の影響で交通機関が乱れていたため、ギリギリまでここに来られるかどうかが分からなかったこと、そのため、この日はノーリハーサルでさっきのパフォーマンスを行なったことを告げると、観客たちは驚きの表情をうかべながら拍手を送った。
このあとはミラーボールが回るなか「GOOD TIME!」で体を揺らし、レーザーが飛び交う中、MCUが《来年で30です》のところを《来年で50です》と歌って場内をどよめかせつつ「地球ブルース~337~」へ。ここでは《あげろ!》のところで激しい炎が上がるなか、和の三三七拍子をみんなで鳴らしながら、大騒ぎ。
ダンサブルな2曲を終えたあとは、今回のツアーグッズのなかでも、メンバーが自ら関わり制作していることで人気を集めた“空気の缶詰”を武道館のステージ上で作るというコーナーが始まった。武道館のステージにいる3人の周りの空気はもちろん、特効のスモークをリクエスト。さらに客席の拍手も入れたいということで、KREVAがオーディエンスに「世界陸上の棒高跳びの選手が飛ぶ前に起こるような手拍子を」とオーダーし、そのクラップもパックして、空気の缶詰は完成。KREVAのリクエスト通り、クラップがどんどんスピードアップしていったところで、抜かりなく最新アルバムの「カンヅメ」へとつなぐ。この曲のフックの《今日も3人で缶に詰める》をリアルに目の前で実現していった彼ら。そうして、缶を開けると、懐かしい記憶が蘇るように曲は「Playground」へとゆったりとスライド。昔遊んだ公園などを思い出させる映像とともに、ここからはKICKの叙情感たっぷりの哀愁ナンバーに会場全体がどっぷりと浸っていく。
ミラーボール2機が回り、武道館の天空に宇宙が広がるなか、歌っても歌ってもたどり着けない夢にもがく気持ちを綴った「ユートピア」。その無情な叫びを熊井がスクラッチプレイでさらに拡大している間、3人は舞台から姿を消す。舞台後方に海、大地といった大自然がビジョンいっぱいに映し出されるなか、熊井が壮大なサウンドを広げていくと、3人のダンサー(山井絵里奈、渡辺理恵、宮本祐宣)がステージに登場。踊りだしたのは、ヒップホップでもストリートダンスでもなく、前衛的なモダンバレエのようなダンス。これには観客も驚きを隠せない様子。そこに、眩しいほど全身純白の衣装に着替えて戻ってきた3人が加わり、いままで見たことがないような光景のなかで歌いだしたのは「LIFELINE」だった。《与えられた命、信じてみな》《一生懸命を恥ずかしがるな》など、生きる根幹にあるものを歌ったこの曲が、ダンスとともに体の中に飛び込んできて、深い深い感動を脳裏に刻みつけていく。このヒップホップとバレエを組み合わせた新しく斬新なパフォーマンスについて、KREVAは「大人になったいまのKICKならできると思ってトライした」と解説。続けて「次にやる曲は18年ぶりに歌います」といって「HANDS」を会場にリリースすると、場内の雰囲気はガラリと変わり、たちまち楽しそうなクラップが客席に広がっていった。そしてメロウな「Boots」では《Boots》のところで観客が一斉に手を上げ、「アンバランス」はその手を左右に振って盛り上がり、「トライは無料」まで一気にパフォーマンスを繰り広げていった。
ここからライブは終盤へ。「玄関」のラップナンバーでギアを一気に踏み込み、そうして、本当なら女子が《いいかも》、大サビの《in the house》をみんなで歌いたいポップチューン「住所(Extend Ver.)」は、ド派手なレーザービームと岡村靖幸のMV映像、観客が繰り出す手拍子だけでも大いに盛り上がり、《in the house》のところは、みんなで武道館を指差して、爽やかな一体感を作り出していった。そして、そこに極め付けの「マルシェ」をドロップ。すると、会場にカラフルなテープが放たれ、この日最高の多幸感に満たされたところで、パーティーはフィニッシュ。
本編終了後、本来ならステージから楽屋に戻るはずの3人は、そのまま舞台にステイ。これは、ここまでクラップを続けてきた観客は、手が痛いはずだからという理由で、“アンコール”の手拍子を割愛するためのKICKなりの心優しい配慮。「じゃあ最後にもう1曲、歌詞の意味を伝えてから歌って、終わりにしたいと思います」とKREVAがいい「俺たちのCANは“目標”なの。そのCANは昔といまとでは違うCANかもしれないよ。いつしか目標が変わって。目標自体、姿形が変わっても、それでも何回でも蹴飛ばせばいい。自分なりのCAN、目指しているCAN、一緒に蹴っ飛ばしていきましょう」と一気にエモーショナルな感情をのせてしゃべったあと、「あなたは誰の何を観に来たのか。それが答え」とスマートに言葉を叩きつけ、最後は「THE CAN(KICK THE CAN)」を客電がついたなかで、気高く3人が熱唱。従来のエンターテイナーぶりはもちろん健在。その上で、いまもまだまだ理想を追い求めて、“現在進行形”でCANをストイックに蹴り続け、TRYし続ける大人のKICK。それを目一杯、しかもまざまざと見せつけられた今回のライブ。終演後は、もっともっとアルバム『THE CAN』を深掘りして聴きたくなり、彼らのこの続きを想像するだけで気持ちが高まる。そんな未来へと繋がる、おそろしいほど刺激的なライブだった。
取材・文=東條祥恵 撮影=AZUSA TAKADA

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