大橋純子の迫力と
美乃家セントラル・ステイションの
バンドらしいアンサンブルが
拮抗した名盤『RAINBOW』

土屋昌已らの手による個性的楽曲

その3rd『RAINBOW』はどんなアルバムであるか。それをここからザっと説明させていただくわけだけれど、その前に先ず、件の彼女自身の解説の引用を続けるのが最も適切な形容になるように思う。上記から続ける。
[今と違って(打ち込みではなく)ナマでのバンド録音ですから絶対!他とは違うものを・・・という気迫がこもりました。後で聴いてみたらこのアルバムだけ空気感が違うのです。'いきおい'があるんですよ。これ以上早いテンポで演奏が出来ない、っていう奇跡的な(?)曲もありましたしね。このアルバムを引っさげて「東京音楽祭」に殴り込みをかけ、「シンプル・ラブ」で見事「大橋純子& 美乃家セントラル・ステイション」は全国区に躍り出ました]。
『東京音楽祭』とは1972年から20年に渡って開催された音楽祭で、大橋純子 & 美乃家SSは1977年の第6回に、沢田研二や山口百恵、海外アーティストに交じって出演(この同じステージにThe Runawaysも出ていたようだけど、マジか!?)。そこで「シンプル・ラブ」を演奏したことがヒットにつながったようである。

[このアルバムだけ空気感が違うのです。'いきおい'があるんですよ]と述懐するのもよく分かる。確かにそういうアルバムではあるように思う。[これ以上早いテンポで演奏が出来ない]というのはM5「ナチュラル・フーズ」のことであろう。テンポの速さもさることながら、これがなかなか奇妙な楽曲である。楽曲を手掛けたのは土屋昌巳。作曲だけでなく、編曲も作詞も彼だ。彼女が[マー坊の過激な色]と振り返る楽曲のひとつでもあろう。ゆるやかなベースとウインドチャイムのようなキラキラとした音色の絡みから始まるので、パッと聴き、幻想的なナンバーかなと思わせておいてから一転。ハイスパートなフュージョンナンバーといった感じの演奏が始まる。ツインギターが奏でるリフはメロディアスでありながらもいわゆる速弾きの域。それだけでなく、ベースもドラムもキーボードもパーカッションもユニゾンでバシッバシッと合わせていく。かなり緊張感のあるアンサンブルだ。歌は1分くらいから始まるが、歌っているというよりもシャウトしている感じで、ヴォーカルは楽曲の中心ではなく、あくまでもパートのひとつとして機能させている印象。とりわけ中盤でのアドリブと思しき箇所はとても迫力があって、スリリングな演奏と完全に拮抗している。まさに気迫と勢いが感じられるナンバーである。テンポこそM5ほど速くはないけれど、M2「フィール・ソー・バッド」とM9「愛にさよなら」もダンサブルなファンクチューン。それぞれタイプは異なるものの、バンドアンサンブルが生み出すグルーブが楽曲の推進力となっているのは間違いない。いずれもとてもカッコいい演奏だ。美乃家SSが真のバンドであった証左と言える。

M5とは異なるスタイルで本作において個性的と言えるのはM4「二人の夢の島」とM8「ラッキー・レディー」であろう。前者はレゲエ、後者はニューオーリンズジャズ。と言っても、それぞれに、いい意味で本格的なそれではなく、その風味をバンドに加味していると言ったほうがいいだろうか。M4はギターの♪チャッチャ〜というカッティングはもちろんのこと、クレジットを見る限り、スライドギター、ハモンドオルガン、パーカッション、マリンバなどを駆使しながらトロピカルな雰囲気を醸し出している。バンドならではの創造力を感じる。一方、M8もバンジョーなどを使って、いにしえの米国サウンドっぽさを演出しながらも、ホーンセクション、ストリングスを加えることでさらにその空気感を増しているような印象だ。M4は土屋昌已が作詞作曲編曲を手掛けている。M2、M5ともがらりと曲調が変わっているけれど、こうしたバラエティー豊かな楽曲を創り上げているところに彼の非凡さを感じざるを得ない。こののちの1979年にバンド、一風堂を結成してニューウエイブに傾倒していくのも納得である。

(※ここまでの[]はすべて『大橋純子Official site』からの引用。原文ママ)

OKMusic編集部

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