幅31.8mの團十郎白猿襲名祝幕、11月
の歌舞伎座に登場! 三池崇史が繋ぎ
村上隆が描く現代の役者絵

2022年11月1日(火)、歌舞伎座で十三代目市川團十郎白猿襲名の舞台を彩る「祝幕(いわいまく)」が公開された。7日にはじまる『十一月吉例顔見世大歌舞伎』の舞台を彩り、観客を迎える。これに先駆けて市川團十郎、現代美術家の村上隆、映画監督の三池崇史が会見に登壇した。
⬛︎新團十郎を寿ぐ舞台いっぱいの祝幕
祝幕は、襲名の舞台を寿ぐ引き幕だ。今回は、現代美術家の村上隆のデザインによるもので、高さは7.1m、幅は31.8mある。市川宗家の家の芸『歌舞伎十八番』全18演目のエッセンスがつめこまれている。
『暫(しばらく)』『矢の根(やのね)』『鎌髭(かまひげ)』『勧進帳(かんじんちょう)』『不動(ふどう)』『七つ面(ななつめん)』『鳴神(なるかみ)』『助六(すけろく)』『蛇柳(じゃやなぎ)』『象引(ぞうひき)』『押戻(おしもどし)』『解脱(げだつ)』『毛抜(けぬき)』『景清(かげきよ)』『嫐(うわなり)』『関羽(かんう)』『不破(ふわ)』『外郎売(ういろううり)』。
全景が公開されると、あまりの迫力にシャッターが一瞬消えた。「おお」という声も漏れ聞こえ拍手がおきた。團十郎は、挑むように見入っていた。それから「すばらしい」とうなづいて、拍手をおくっていた。
■現代の絵師による現代の役者絵を
村上と團十郎を繋いだのが、映画監督の三池崇史。十三代目市川團十郎のドキュメンタリー映画を撮影している。かねてより三池と親交のあった村上に「現代の絵師が描く現代の役者絵を」と依頼し、実現に至る。
三池は「このような形で少しでも携われたことを嬉しく光栄に思います」と挨拶。会見前に、團十郎の『勧進帳』を観劇し、その迫力にも衝撃を受けていた様子。「村上さんの絵をこれだけ巨大にし、これだけ発色させる。その技術もあわさった独特のものが歌舞伎座にかかる。独特の美しさがあるのでは」と感想を述べた。
三池崇史
村上は、この縁に感謝を述べ「僕自身も歴史に残るような作品をつくらねば、という気持ちで一緒に作りました。大変強い自信を持った作品に仕上がりましたので、ぜひともご覧いただきたい」と笑顔。原画は、高さ102.8㎝✕幅480㎝のアクリル画。それでも5m近い大きな作品が、32mの幕になった。村上は「衝撃が……32mの原寸でも描いてみたい」と幕を見上げる。
村上隆
■技術に裏打ちされた幅31.8mの『歌舞伎十八番』
團十郎は、終始充実した表情をみせていた。一度花道へ戻り、あらためて全景を眺め「言葉にならない、素晴らしい」と感慨深げ。
市川團十郎
「日本の文化に、粋というものがあります。遠くからみると大柄の着物だけれど、近くでみると一つひとつが絞りになっていたり。この祝幕が離れて見た時に素晴らしいことは間違いありません。しかし、近寄って見ても素晴らしいんです。目も一人ひとり、色彩からすべてちがいます」。
村上は、見どころを問われると「少し専門的な話ですが」と断り、「目線の誘導で、絵全体に目が届くような内部骨格」に言及した。「大きな建造物を作る時に、一級建築士の資格が要るように、大きな絵の制作には内部骨格が大事です。原画の段階から、30mになることを想定して。一番上にスッと矢があり、そちら(舞台下手側)にも呼応して真っ直ぐのモチーフがあります」。これほどの大きさになると、ただ情熱的に描き、拡大プリントすればよいというものではないようだ。
村上隆
村上は「團十郎さんが注目してくださった目の色彩、目の中のぐるぐるも、一個一個の顔に視点を誘導する仕掛けになっています」とコメント。作品の爆発的な勢いは、徹底的にロジカルな技術に支えられている。團十郎は、歌舞伎の荒事も、ただ力いっぱいに荒々しいのではなく「きちんと決まっているところが、まずあります」と指摘していた。
■村上隆、三池崇史、そして團十郎
團十郎は、村上の工場(スタジオ)を訪れた時を振り返る。
「どのような息遣いで仕事に接していらっしゃるのかを感じたくて、工場へうかがいました。そこではじめて原画を拝見し、祝幕になることを想像しワクワクしたことを覚えています。CGを駆使している方もいれば手作業の方もいて、それを村上先生が見守っている。しかしながら一番驚いたのは、昆虫を飼育するための家があったこと! (虫かごレベルではなく)ふつうの家より大きいんじゃないでしょうか。何かに秀でている方は、他のことにもどこまでもつっこんでいける、と学ばせていただきました」
市川團十郎
記者から「三池隆史さんと村上隆さん、“ダブルたかし”とのコラボ」へのコメントを求められた時は、「そう安っちく言われると……」と困ってみせて笑いに変えた團十郎。「素晴らしい方々とのご縁を頂戴し、深く感謝しています。この絵がどのように作られたのか。(それを収めた)三池さんの作品をものすごく楽しみにしております」と続け、三池に目線をおくった。
「僕が買いとりたいです。一生懸命働きます」と團十郎。
村上が抱く、團十郎の印象は「3D」。「パンデミックという大変な時期でしたが、それゆえに親密に一時を過ごさせていただきました。はじめてお会いした時、團十郎さんからすごいオーラを感じたことを覚えています。芸術家としての資質を感じますし、お会いするたびに“3D”を感じます。映画『マトリックス』で空間が歪むような。あれを強く感じます。そのような方とのご縁をいただき、作品を作らせていただいた。それを三池さんが映画にしてくださいます」。
三池は、團十郎と村上について「ふたりには、ものすごいエネルギーがある。エネルギーが強い人と一緒にいると、自分も自分の中の何かが増幅されて力が出てくる」という。
ここに集まった異なるジャンルで第一線をいく3人に、共通点はあるのだろうか。三池は答えた。
「色々あるけれど、しぶとく生きていくところ。ふたりはスケールがちがう。團十郎さんは、宿命として歌舞伎を背負って生まれてきた。僕の場合は映画があったから生きることができた感覚。けれども、それぞれにやるべきことがあり、役割がある。自分の持ち場でやるべきことをやる。やり続け、貫いていくところですね」。
■新團十郎の襲名披露興行、歌舞伎座から
十三代目市川團十郎白猿となり2日目。娘の市川ぼたんとカフェにいたところ「海老蔵さんですか?」と声をかけられたという。「海老蔵じゃないです、團十郎です、とお答えしました。横で娘は爆笑していました」とエピソードを明かし、記者たちの間にも笑いが起きていた。
10月31日、11月1日の特別公演を終えて、11月7日より歌舞伎座での襲名披露興行がはじまる。12月も歌舞伎座に出演し、襲名披露興行はその後も続く。
「『勧進帳』と『口上(顔寄せ手打式)』だけでも、精一杯な2日間でした。先輩方の胸をかり、歌舞伎座で多くのお客様の前でご披露できたことは私にとって、この上ない幸せ。團十郎という名跡は大変重とうございます。自分のことはさておいて、ここから1ヶ月間、そして2ヶ月間、そして2年間にわたる襲名披露興行を健康でいられるようがんばります」
この祝幕は、歌舞伎座では28日(月)までの公開。市川新之助似の『外郎売』や『矢の根』を表すアイテム、村上隆の代名詞ともいえる「フラワー」など、さまざまに読みとり楽しんでほしい。
取材・文・撮影=塚田史香

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