KREVA主催の音楽の祭り、三浦大知、
久保田利伸、藤井隆、椿鬼奴、後藤輝
基を迎えた『908 FESTIVAL 2022』を
振り返る

908 FESTIVAL 2022

2022.09.23 日本武道館
KREVA主催の音楽の祭り『908 FESTIVAL 2022』が9月23日、東京・日本武道館にて行われた。今回はKREVAのほか三浦大知久保田利伸に加えて、SLENDERIE RECORDから藤井隆、椿鬼奴、後藤輝基(フットボールアワー)が参加。1人のヒップホップアーティストが仕掛けているとは思えない、驚くほど振り幅広めの出演者のラインナップ。その無限の組み合わせから起こる笑いや驚きも含めて、2012年から毎回ここだけのスペシャルな祭りを繰り広げ、いまや国民的行事といえるほど人気を博している『908FES』。ここでは、その通算11回目となった今回のステージのレポートをお届けしよう。
様々な出演者のファンで満員に埋め尽くされた日本武道館。開演直前、場内に流れていたのはこの日のパーティーのためにKREVAがDJとなって自らMIXしたもの。このダンサブルなMIXが、来場者の耳を、今回の祭りに心地よく馴染ませていくための大事な導入部になっていたことに気づいたのは、終演後だった。音楽の祭典ならではの、この計算され尽くした粋な計らい。さらに『908FES』といえば、出演者の演奏をKREBand(白根佳尚/Dr、大神田智彦/Ba、柿崎洋一郎/Key、近田潔人/Gt、熊井吾郎/MPC+DJ、SONOMI/Cho +Key)が担うところも大きな特徴。ここで初めてバンドを背負って歌うアーティストは、グルーヴィーでパワフルな生のバンドサウンドを体感。ファンは、いつもの曲をここだけのバンドアレンジで聴けるという楽しさが加わるところも、『908FES』が音楽の祭りたる所以。
そうして、ライブはオンタイムでスタート。KREBandがオンステージした直後、後方から赤のオーバージャケットを着たKREVA が登場。オープナーは「クラフト」。サビ始まり、思わず体を揺らしたくなるミッドグルーヴが、開演前のBGMとスムーズにつながる。その上で、誰が聴いても分かるように、どこでどう韻を踏んでいるのかを所作、聞き取りやすい歌い方を構築して届けていくKREVA。《最近どう? なんだかんだあるけど武道館なら皆勤賞》は、KREVAソロ、『908FES』などこれまで30回以上武道館に立ったヒップホップ界の王者だからこそ歌えるフレーズ。そこから、この武道館でこそ聴きたい“日本”を歌い込んだ「王者の休日〜2019ver.〜」へと展開。KREVAの赤い衣装、ファンが掲げるグッズのタオルの配色、選曲。武道館のシンボルである日本の国旗とのコラボを思わせる演出で、今回の『908FES』は幕を開けた。「さっそくマイメン、大知」と早々に三浦大知を呼び込み、コロナ禍でライブが中止になるなか、再会を願い制作した「Fall in Love Again feat.三浦大知」を2人で歌唱。『908FES』最多出演の三浦と視線を交わしながら、息の合ったパフォーマンスでこの曲を歌い終えると、武道館を包む空気は喜びに満ち溢れ、観客たちはこうして再会できた嬉しさを大きな拍手で表し、ステージに届けた。
このあと、ステージは三浦大知へとバトンタッチ。ダンサーチームとともに「Blizzard 」を歌いだすと、《この胸にたぎる熱い炎》に合わせて、ステージ前後で客席まで熱波が届くような炎がバンバン上がる。曲のブレイクダウン、舞台は真っ白いスモークに包まれる。その巨大な白い壁を壊すように、三浦はマイクを持ちながらもう一方の手を使って、片手側転でそこから飛び出してくる。こんなアクロバティックなアクトのあとも、なにもなかったかのように息も切らさずすぐに歌唱を再開するのが彼の凄いところだ。続けて始まったソウルフルな「Touch Me」は三浦一人でステージの左右を動き回り、場内を盛り上げていく。生バンドのグルーヴにつられて放つ高音フェイクが華やかさを増していったところで、曲はブルージーなギターから大人のネオソウルバラード「About You」へと流れ込む。ダンサー2人が加わり、この曲最大の見どころとなる《寝ても覚めても》を小刻みに音符を刻んで、3オクターブを昇りつめていく離れ業は、歌唱力ある三浦の絶対領域。そこから「飛行船」へ。浮遊感ある音像からアッパーへ、動きも三浦の静なるソロからダンサー4人を交えたど迫力の群舞へと、静と動を緊張感たっぷりのテンションで行き来する芸術性の高いパフォーマンスは圧巻の一言。このただならぬテンションのアクトについて三浦は、自ら4曲連続でやらせてほしいとKREVAに申し出たことを告白。「でも、こんなに汗かく予定じゃなかった」と、勢い余って「162%ぐらいでやってしまった」と言って苦笑い。そうして、最新シングル「燦々」をハートフルな声で歌い、最後はKREVAの「イッサイガッサイ」を曲の後半、KREVA本人を交えながらカバーして場内を盛り上げた。
「俺、言ったのに。100%でいいって」と三浦の熱すぎるパフォーマンスについて振り返るKREVA。「いなくなったら、なんか寂しくなっちゃったなぁ」と嘆いていると、KREVAの「くればいいのに」を歌いながら椿鬼奴、アコギを持った後藤輝基(フットボールアワー)、藤井隆が次々ステージに現れる。最後は《あなたがくればいいのに》のワンフレーズだけを《誰かがくればいいのに 》、《私がくればいいのに 》と歌詞を替え、延々に歌い続け、場内は大爆笑。「葉加瀬太郎さんを抜いて「くればいいのに」最長記録!」と言いながら「こんばんは、クレ宏です」と挨拶(笑)。80年代に人気を博した音楽番組の司会者を彷彿させるクレ宏が、このあと彼らが所属するSLENDERIE RECORDについて3人にインタビュー。あらゆる作品のプロデュースは“藤井さん”が行なっているこだわりのレーベルであることを引き出す名司会者っぷりで、彼らを今回呼んだ理由をさらりと観客に伝えていったところはさすが。そのあと、椿鬼奴が堂島孝平作曲の「Love’ s Moment」、後藤輝基が炎が上がるなか、おニャン子クラブの福永恵規のソロ曲「ハートのIgnition」のカバー、藤井隆は掘込泰之作詞・作曲による新曲「ヘッドフォン・ガール -翼が無くても-」をそれぞれに歌唱。「22年前「ナンダカンダ」のデビューがなければ、KREVAさんに呼んでいただけなかったと思います」と伝えた藤井が、そのまま「ナンダカンダ」を歌い出すと、場内は騒然! 照明まで昔のアイドルステージを思わせる雰囲気に変わり、藤井はその光を全身に浴びながら、とびきりの笑顔でこの曲を当時の振り付けのまま踊り、エンタテイナーぶりを発揮して武道館を沸かせていった。
続いて、舞台に久保田利伸とKREVAが2人で現れると、さっきまでの歌謡ショーの雰囲気とはガラッと空気が変わり、ものすごいオーラがステージから立ち上がる。そうして「M☆A☆G☆I☆C」を歌い出すと、赤✕シルバーのカラーテープが客席に向かって華やかに舞い、武道館がゴージャンスに輝きだす。そのなかで歌う久保田のソウルフルな歌声がまたきらびやかなのだ。軽やかなステップワーク、歌の語尾、“ハッ”と入れるブレス。もうその全部がグルーヴィーでファンキーな久保田。そんな久保田と対面すると、KREVAのパフォーマンスの熱量も一気にヒートアップ。そのKREVAが“アニキ”と慕う久保田は今年デビュー37周年。「アニキはファンキーもいいけどバラードの人」と熱弁した上で、代表作「Missing」を例にだすと「どんな曲だっけ?」とキーボードの柿崎を振り返り、その演奏になかった「Missing」を歌い出すという予定外のサプライズに、KREVAは驚きながらもすぐさまビートボックスを繰り出して対応。そして「これもいいんだけど、俺のなかでコード進行とメロディを思い浮かべるだけで、涙が出てくる曲の一つ」とKREVAが言って「これのヒップホップRemixじゃなくてオリジナルバージョンが聴きたい」と伝え、リクエストしたのは「Cymbals」だった。柿崎が弾いたフレーズに久保田がメロディをつけたことで誕生したというこの曲。イントロのエレピが鳴りだすと、場内はミラーボールが織りなす光が宝石のように輝きだし、久保田が歌う極上のバラードに武道館全体が聞き惚れる。そうして、最後は、久保田とSONOMIが凄まじいフェイク合戦で、場内を空気ごと震わせ、観客を最後まで魅了。
「次はKREVA!It’ s Showtime」という久保田の呼び込みを受け、「基準」のソリッドなギターリフが鳴り響く中、照明で真っ赤に染まったステージにレーザービームが走り、ド派手なセットアップに着替え、サングラスをつけたKREVAが降臨。どんどんスピードを上げていく神がかり的なラップ。《今日からはこれが基準》で音が途切れた瞬間、激しい爆発音とともに炎が吹き出し、一気に場内のテンションを上げたあと、最後にカメラ目線でゆっくりとサングラスをはずしたところからショーはスタート。KREVAは「みんなの拍手が声に聞こえます」と笑顔を浮かべて伝えたあと、コロナ禍になって以降は「コール&レスポンスのある歌はいくつか封印してある。その中でも、これはいけるんじゃないかという気持ちになれた」と、ソウルフルなパーティーチューン「パーティーはIZUKO?」をアクト。「声の変わりに手で歌って」とKREVAが言うと、観客全員で《ここだ》のパートを指で床を差し、手の振りで大合唱。「今、日本のライブ会場には歌声がないかもしれない。だけど、こうしてこんだけの人数集まれてる。全然泣くような曲じゃないけど、泣きそうなくらい嬉しいよ。そこに居てくれてありがとう」と感謝の気持ちを伝え、「人生」、「居場所」をヴィジョンに歌詞を出しながら、言葉をみんなに届けるよう丁寧に歌唱。そうして、「居場所」のラスト《908 FES 2022、ここが俺の居場所、俺の、お前の、キミの、アナタの、みんなの居場所》と叫び、感動的にこの曲を締めくくったあとのことだ。ある人物が“居場所”をカバーしてくれたことで、いろいろ発見があって感謝をしているという導入から「そんな彼と10数年前からずっと『クレバフェス』で歌い続けてる曲を一緒に」と言って、三浦大知とのコラボ曲「Your Love feat.KREVA」のイントロが流れだし、場内が期待たっぷりに盛り上がったところに三浦が華やかにオンステージ。しかし、その後にはスーツ姿でマネージャーに扮した藤井隆がいて「ご挨拶だけ」と言って三浦を引っ張り、次の現場に向かおうとする。ここから小芝居がスタート。「いま一番盛り上がっているところで呼んだんだけど。じゃあ聞くけど、『クレバフェス』より大事な仕事ってなによ」と聞くKREVAに「CMです」と断言するマネージャー。「CMかぁ。なんのCMよ」とKREVAが粘っていると、三浦のチーフマネージャーと語る後藤輝基、ナオミ・キャンベルに八代亜紀が合体した八代キャンベルに扮した椿鬼奴までが加わり、ステージはとんでもないことに。そうして3人が楽屋口に車を回しに行き、ステージにKREVAと三浦、2人っきりになり、困惑した中「どうしたらいいんだよ~」と落胆する。すると再びイントロが流れ、なんと久保田利伸が《La La La~》と歌いながら登場。この展開は、かつて『908 FESTIVAL 2014』でKREVAと久保田利伸との小芝居のあとに三浦大知が久保田利伸の「LA・LA・LA LOVE SONG」を歌ったときの逆バージョンだ(笑)。ベンチに座って聴いていた2人は、2番が始まるとたまらず立ち上がり、この日は3人で「Your Love」をものすごく高いテンションで熱唱。そうして、最後はKREBandのメンバー紹介をはさみながら「スタート」、指や手を使ってたくさんのハートを飛ばしながら、この日の出演者の影響なのか、いつも以上に熱のこもったファルセットを響かせ「音色」を歌い、場内をハートフルな気持ちで包んでライブはフィニッシュ。
アンコールに呼ばれて出てきたKREVAは、ここに集まってくれた観客に感謝の気持ちを伝え、こうして会えるようになるまで「いろいろ辛かったね。大変だったね」と場内に語りかけてくる。無音の武道館、そのモノローグはいつしか「Finally」の冒頭の歌詞にスライド。そこにビートが加わり、ラップでみんながコロナ禍のときに味わった辛い気持ちを熱く代弁していくというKREVAならではのドラマチックな演出が、場内のクライマックス感を高めていく。そこに《君が意を決して そこにいてくれることが俺の存在を証明してる》でさらなる感動を引き起こし、最後に《やっとあえたな》を愛しい気持ちを込めて歌うKREVAに、場内は感極まる。すべての人々の胸がジーンと熱くなったところで「LOOP END / LOOP START」でそれぞれの日常に観客を戻すという見事すぎる感動的な展開で、ライブは終了。最後は出演者全員がステージに登場し、心で手を繋いで挨拶。出演者を送り出したあと、最後に残ったKREVAは、指で涙を拭うフリをしながらお茶目な表情をうかべて、ステージを後にしたのだった。
尚、こちらのライブはPIA LIVE STREAMにて11月11日(金)から11月14日(月)、3日間の期間限定で独占配信が決定している。
取材・文=東條祥恵 撮影=AZUSA TAKADA

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