越境系ギタリスト、
ビル・フリーゼルの
ノンサッチ時代を代表する傑作
『ナッシュビル』

フリーゼルが描く
幻想のナッシュヴィル(カントリー)像

フリーゼルは1989年発表の『ビフォア・ウィ・ワー・ボーン(原題:Before We Were Born)』から2009年の『ディスファーマー(原題:Disfarmer)』まで約20年間ここをベースに、彼の名前を世界的なものにする意欲作を次々と発表した。そのうちの1枚が『ナッシュヴィル』だった。そのタイトル通り、このアルバムはフリーゼルがカントリー・ミュージックの総本山とも言うべきテネシー州ナッシュヴィルにおもむき、カントリー・テイストの楽曲に挑んだ作品だった。テイスト〜としたのは楽曲のほとんどはフリーゼルのオリジナルで、他にはニール・ヤングの「ワン・オブ・ディーズ・デイズ(原題:One Of These Days)」、オールドタイム、ブルーグラスのヘイゼル・ディケンズの「ウィル・ジーザス・ウォッシュ・ザ・ブラッドステインズ・フロム・ユア・ハンズ(原題:Will Jesus Wash The Bloodstains From Your Hands)」、スキータ・デイヴィスによる大ヒットで知られるカントリー・ポップ「この世の果てまで(原題:The End Of The World)」(作:Arthur Kent, Sylvia Dee)が取り上げられているのだが、よくあるカントリー・クラシックやそれこそハンク・ウィリアムスの曲をカバーしたり、という類いとは趣きを異にしている。

演奏陣は極めて興味深い。アリソン・クラウスのユニオン・ステーションという名を出さずとも単独でも名前を轟かす当代随一のドブロ奏者で、現代ブルーグラス界の最重要人物の一人であるジェリー・ダグラスをはじめ、ベースのヴィクター・クラウス、ユニオン・ステーションのバンジョー奏者ロン・ブロックと、実力派ブルーグラス・プレイヤーが参加し、極上の演奏を披露している。先のニール・ヤングの「ワン・オブ・ディーズ・デイズ」、「この世の果てまで」で可憐なヴォーカルを聴かせてくれるロビン・ホルコム(女性)さえ、実はひと筋縄ではいかない傑物で、フリーゼルと過去に共演歴があってレコーディングに招かれ、参加したようだが、ソロ作がいくつかあり、シンガー然としたアルバムがあるかと思えば、超絶ピアノを聴かせるアバンギャルドなアルバムを出してもいる。

というわけで、アルバムは旧来のカントリー、ブルーグラスとは異なり、90年代以降に急速に盛り上がってきたオルタナティブ・カントリー、アメリカーナの趣がある。それはいかなるものかと問われても具体的に説明がつかないのがオルタナティブらしいところで、本作にからめて言えば、全員が一斉に音を出すと言うよりは、個々の楽器のサウンドの間にただよう空間、残響さえも音像化するというか。ゆったりとしたメロディーの中にあってさえ、エッジの効いた楽器の響きが熱を帯びる。その合間を縫うように、フリーゼルが室温を2、3度下げてしまうような、冷感たっぷりのギターを響かせる。その浮遊感溢れるギターサウンド、トーンは一聴して彼だと分かる特徴的なものだ。

OKMusic編集部

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