【PENICILLIN インタビュー】
今はアッパーな感じとか、
そういうアプローチの曲がやりたい
歌を乗せた時に感情や気持ちが
しっかりと伝わってほしい
『パライゾ』収録曲の歌詞ですが、とても生々しいと思って聴かせていただきました。「Screaming Dead」が唯一そうだと思いますが、こうした抽象的な歌詞は過去にもあったように思います。ただ、今作ではわりとストレートな物言いをされている印象が強くて。
HAKUEI
どうなんだろう? 時代によって歌詞の変化はあるのかもしれないですけど…ただ、『パライゾ』の歌詞を書いていた時の気持ちを思い出してみると、30周年の節目で作る新作っていうことで、よりメッセージ性というか、歌を乗せた時に感情や気持ちがしっかりと伝わってほしいというか、メロディーをきれいに歌って音楽的な部分だけで聴かせるよりは、言葉や感情をしっかり伝える、気持ちを伝える。そういう感じにしたいとは思ってました。“伝わらなきゃダメだな”と。自分の気持ちや表現したいことがちゃんと伝わるように、歌をきれいに歌うとかじゃなくて、ニュアンスや感情の込め方によって、怒りの表現であれば怒ってるように聴こえたり。
タイトル曲「パライゾ」もそうですし、「憂鬱と理想」や「想創シンドローム」もそうで、“表現とは何か?”といったところが集約されている歌詞が目立ちますね。
HAKUEI
あぁ、そうかもしれないですね。自分たちがここまでバンドをやってきて、初期の頃は正しい道がよく分からなくて、探りながらやっていくもんだと思うんです。それは今もそうかもしれないですけど、そんな状況の中でもその時に全力で答えを探すという。今回はそういう想いを込めているかもしれないですね。
「憂鬱と理想」では《僕らは明日も生きてゆく 憂鬱と理想に迷いながら》と言っていて、アルバム1曲目から“物を作るというのはこういうことなんだろうな”と思わせる内容が提示されてるような気がします。
HAKUEI
確かに。デモを聴いた時から、10曲くらいある中でこの曲の歌詞はド真ん中にあるようなテーマがいいなと思っていました。
自分が思う“クリエイティブとは何か?”といったところにフォーカスを当てようと思ったわけですね。
HAKUEI
そうですね。さっき“生々しい”とおっしゃったのはそういうところかもしれないです。絵空事ではないことを言うことで、聴いている方が自分のいろんな状況とリンクしやすくて、共感してもらいやすいっていう。
あと、「heartbeat」や「LIVING DOLL」で感じるヒューマニズム。この辺も特徴的だと思いました。“相田みつをか!?”というようなフレーズもありますね。
HAKUEI
あははは。「heartbeat」はコロナ禍になって無観客ライヴをやり始めた頃に作った曲で、形態も普通のリリースじゃなく、限定受注生産販売といった感じだったから(「heartbeat」の初出は2020年7月にリリースされたシングル「impulse」「pulse」)、コロナ禍でリスナーの心が“うわぁ…”となっている時に、よりダイレクトに音楽の力で後押しできたり…言い方は稚拙ですけど、“元気になってほしい”と思って作ったので、相田みつをっぽくなったのかもしれません(笑)。
変な言い方ですみません(苦笑)。やはりコロナ禍は歌詞に影響を与えたんですね。あと、時代の雰囲気に影響されると言えば、「Social Networking Suicide」は痛烈にシニカルな内容ですが、“これは今この時代に言っておかなければいけない”という感じだったでしょうか?
HAKUEI
そうですね。それはただ単に僕が“なんじゃ、こりゃ!?”ってムカついて書いたものです(笑)。
(笑)パンクですね。
HAKUEI
いや、もう、どんな理由があろうが、そういうことはやってはいけないという。
ネット上での誹謗中傷ですね。では、おふたかたは今作のHAKUEIさんの歌詞についてはどんなふうに思われていますか?
O-JIRO
歌詞に関しては意味合いとメロディーの乗り方が気になりますね。しっかりと聴こえているかとか、テンションが歌詞に合っているかとか。HAKUEIさんの人生…というわけじゃないですけど、そういうのは歌詞に乗ってくると思うので、なるべくHAKUEIさんの言葉でいい感じで…という。最近はすごく歌詞を書くのが早いですよ。しかも、クオリティーが高くて、一曲一曲にテーマを持って書けていると思うんですね。それは今回も。何て言うんですかね? より狭く深くなっているのかなって気がしますね。
しっかりとテーマにフォーカスが当たっていると。
HAKUEI
そんなに漠然とした歌詞は最近ないんじゃないかな?
千聖さんはいかがですか?
千聖
俺のデモは分かりやすくするために、一応最初は自分が歌うんですよ。♪ラララ〜とか♪ルルル〜とかじゃ歌いづらいんで、やっぱりHAKUEIくん本人が最終的に歌を当てる時に、仮にでも歌詞があったほうがいいだろうと思って、いつも歌詞は適当に意味のない言葉を入れていくんですね。例えば「heartbeat」のデモはサビの《heart beat heart cry》のところは別の英語を適当につけていたんです。“ここはHAKUEIくんはどんな歌詞をつけるのかな?”っていろいろと想像しながら。で、出来上がってきたものが《heart beat heart cry》で“うまい当て方するな〜”って。そういう歌詞にも前向きな姿勢が出てるし、“heart beat=鼓動”というのは生きている象徴だと思うし。歌詞を書くことって難しいと思うんですよ。ただ詩を書けばいいというわけじゃない。基本的に曲とリズムに乗せて、その意味をしっかりさせなきゃいけない。ロックには意味のない歌詞もあったりするけど、そこの難しいポイントを作詞する人たちみんながやっているわけじゃないですか。その当て方はもちろん、O-JIROくんが言ったように、その人の生き様とか価値観とか人生が出やすいんで、PENICILLINの歌詞にはHAKUEIくんの価値観が出ているんだと思いますね。しかも、「heartbeat」のような言葉選びも面白いし。
作詞家としてのスキル、テクニックもあるという。
千聖
そう。テクニカルなところも含めて面白いなって。
そうですか。これもやや強引に話をつなげますけど、30年間やってきて、未だにそういう楽しみがあるというのは、何ものにも代え難いことではないのかなと。バンドの面白さというのはそういうところにあるとも思うのですが、その辺はいかがでしょうか?
千聖
それぞれにプレイヤーやプロデューサーの側面もありますけど、クリエイターとしては一緒に合わせることで、ちょっと偶然的なことだったり、奇跡的なことが起こることがあるんで、そこは面白いですよね。
バンドでやってるからこそ、思いがけない表現が出てくると。よく言う“1+1が2以上になる”みたいな。
HAKUEI
それはもちろんあります。ただ、30周年は長いほうだとは思うんですけど、そうした時間の概念は関係なく、最初の頃からあんまり感覚的に変わっていないという。メンバーそれぞれの可能性、底が見えないっていうか。イコール、バンドとして底がまだ見えていない。なので、伸びしろしかないです!(笑)
それは素晴らしいですね! O-JIROさんはいかがですか?
O-JIRO
やっぱり毎年毎年、みんないろんな経験を積んで、PENICILLINでやる時は“バンドでカッコ良い曲を作ろう”とアップデートしたものをやっているので、同じ議題になることはないし、やればやるほど“こんなこともできるんだ!?”と思うので、“じゃあ、次を作る時はもっと面白いものやろう!”っていうバイタリティーがあるバンドだなと。やっぱりバンドというところにこだわってやっていて、最近もいい感じになってるんじゃないかなとも思うし、伸びしろしかないです(笑)。
今日のインタビューは今の台詞が聞けて満足です(笑)。個人的に今作の歌詞の白眉は「Time Machine」だと思っていて、これは誰が聴いても素晴らしいと感じるのではないかと思います。《キャンパスを彷徨い 何となくたどり着いた教室で/偶然となりにいた眼鏡が煌めいた》という歌詞がありますが、これは結構実話に近いものですか?
HAKUEI
そうですね。同じ大学で出会って結成したバンドなんで。本当に入学してちょっとした頃、キャンパスをうろうろしてたらサークルの勧誘で声をかけられて。まぁ、その時に眼鏡をかけていたかどうかは覚えていないんですけど(笑)、僕はそのサークルの集まりで誰も話しかけずにいたら、隣に千聖くんがいて、唯一、話しかけてくれたんです(笑)。そこからPENICILLINが始まりました…という。
この歌詞は本当に30周年のアルバムに相応しい内容だと思います。
これをアルバムのラストに置くことで、このバンドが持ってるヒューマニズム、ヒューマニティーがドンと出ていて、とてもいいです。
HAKUEI
嬉しいです(笑)。伝わって良かったです。
千聖
ありがとうございます。「Time Machine」を最後に持ってきて良かったですね、確かに。