SAKANAMON、結成15周年の成熟とアッ
プデートを紐解くーーアルバム『HAK
KOH』に満ちた閃きとは

「発酵」と「発光」のダブルミーニングになっているSAKANAMONの7thアルバムのタイトル『HAKKOH』は、結成15周年を迎えるバンドの成熟のみならず、同時にさらなるアップデートもアピールしているという意味で、まさに言い得て妙。その『HAKKOH』には、ストリングス・カルテットと共演した初出しの新曲も含め、コロナ禍の中で精力的に取り組んできた楽曲制作の集大成とも言える全15曲を収録。リッチなアレンジを楽しませる曲から、ライブを思わせるストレートな曲まで、その1曲1曲がSAKANAMONというバンドが持つユニークさをマルチに印象づけているが、今回の制作を通して、メンバー達にとって初めての経験が多かったことが重要だ。
その意味では、前述した成熟とアップデートでは後者の割合が多いとも言えるが、筆者が『HAKKOH』に興奮する理由はそこにある。もう15年なのか、まだ15年なのか。それはさておき15周年を迎え、まだまだ閃きに満ちているところが頼もしい。バンド活動はここからさらに加速していきそうな予感!
藤森元生(Vo.Gt)
結成15周年の集大成となる、「大人のSAKANAMONを見せたい」
ーー2曲目の「MAD BALLER」のイントロという位置づけの1曲目の「発光」からぐいぐいとひきこまれました。
藤森元生(Vo.Gt):ありがとうございます。暗闇から少しずつ光が放たれるという始まりにしたかったんですよ。
ーーなるほど。そんな始まりから最後の「ふれあい」までの全15曲、とても聴き応えがありました。結成15周年を迎えるタイミングでのリリースなのですが、どんな心境なのかというところから聞かせてください。10周年の時は、「気づいたら10年経っていた」ととあるインタビューでおっしゃっていましたが、今回はその時とは違う感慨があるんじゃないかと想像したのですが。
藤森:そうですね。10周年からの、この5年間は前の10年とは違いましたからね。長かったような気もするし、短かったような気もするし。でも、どちらかと言うと、長く感じたのかな。やっぱり、世の中が変わったので。
ーーそうですね。
藤森:コロナ禍を境に今まで当たり前だったことが当たり前じゃなくなっていって、その中でどうやって音楽活動をしていくか考えて、それこそ配信ライブに挑戦してみたり。
木村浩大(Dr.Cho):アコースティック・ライブをしてみたり。
藤森:そういう何かしらの形で音楽をみなさんと楽しむ方法を考えてきたことは、最初の10年とは違う経験でした。なので新しいことをたくさんできたという意味では、張りのある5年間だったとも言えるし、普通のライブができなかったという意味では、悔しい思いと言うか、じらされた感じもあった5年間だったとも言えるし。でも、この5年間、楽しんでやってきた気はします。
ーーでは、15周年を迎えることについては、大きな手応えも感じているわけですね?
藤森:そうですね。10周年の時は、10周年だーって単純に盛り上がっちゃったんですけど、今回はもうちょっと感慨深い気がします。15年、よく続けてきたね、という気持ちはありますね。
ーー木村さんと森野さんはいかがですか?
木村:この5年間、止まらずにちゃんとやれたことが何よりもよかったです。これがバンドを始めて、3、4年とか、5、6年とかだったら、1回止めようよとなったかもしれないですけど、いろいろな企画を楽しんでやれましたからね。また1つ強くなれたと思うし、20周年に向けてさらにがんばっていこうという気持ちにもなれましたからね。
木村浩大(Dr.Cho)
ーーコロナ禍の中、活動を休止せずにバンドを続けてきた延長上で15周年を迎えられたことに意味がある、と?
森野光晴(Ba.Cho):バンドをやれることに感謝ですね。コロナ禍の中で、当たり前だったことが当たり前じゃなかったということに気づいたので、それでも15周年を迎えられたことがうれしいです。
ーーだからこそ、15周年をファンと一緒に祝いたい、盛り上げたい、と?
藤森:はい。ここぞとばかりに(笑)。
ーーその1つが今回のアルバムと来年2月にBillboard Live YOKOHAMAと同OSAKAで開催するライブ『SAKANAMON 15th ANNIVERSARY “発酵”』の制作にファンにも関わってもらおうというクラウドファンディングだったわけですが。
藤森:まずはアルバムを出すことがなかなか難しいこのご時世でも、ちゃんとファンのみなさんにCDを届けたという気持ちがあった上で、常に新しいものを提供したいと、今回はレコーディングにストリングスを迎えるというチャレンジとBillboard Liveでのライブという普段なかなかできないことに挑戦することに、みなさんにお力添えしていただきたいという提案でした。
木村:10周年の時は同じようにクラウドファンディングでドキュメント映画『SAKANAMON THE MOVIE~サカナモンは、なぜ売れないのか~』を作らせてもらったんですけど、それがあったからという話でもあったと思います。
ーー今回のクラウドファンディングの776%という達成率がすごいと思いました。150万円の目標額に対して、1,000万円以上が集まったそうですね。
藤森:びっくりしました。こんなに応援してもらえてるんだってうれしかったです。感謝ももちろんですけど、ファンがちゃんといるんだと、数字として見えた安心感がありました(笑)。
木村:がんばらなきゃというプレッシャーもね(笑)。
藤森:そう。150万円で作ろうとしていたアルバムを、その7倍以上のクオリティで作らなきゃいけないのかなと考えるとプレッシャーでした(笑)。
森野:でも、そもそも150万円の目標も、15周年だからってとりあえず決めただけですからね。
藤森:なるほど!(笑)
森野光晴(Ba.Cho)
ーー挑戦とおっしゃったように、クラウドファンディングでも掲げていたストリングスの導入が今回のアルバムの聴きどころの1つだと思うのですが、以前からやりたいと考えていたことだったのでしょうか?
藤森:いえ、実はこれまでアイデアとして、一度も上がったことがなかったんですよ。今回、15周年ということで「大人のSAKANAMON」を見せようというテーマが1個あったんですけど、それならストリングスとBillboard Liveでのライブだろうということになったんです。
木村:どちらかと言うと、避けてました。
藤森:それにはいろいろな理由があるんです。まずは使い方がわからなかった(笑)。それにギター・ロックとの相性が危ういと言うか、ストリングスが入っているギター・ロックの中にはダサい曲もあるじゃないですか。 
木村:それは藤森の個人的な好き嫌いでしょ?
藤森:そうそう。もちろん、かっこいい曲もあるんですけど、ダサい曲になったらイヤだと思ってました。僕はストリングスのことが全然わからなかったので、入れたらそうなるかもしれないし、それに決して安いものじゃないですからね。お金かけてダサいものを作るなんて最悪だから、なかなかやろうとは思えなかったですね。
ーーたとえば、藤森さんが考えるダサい曲って?(笑)
藤森:いや、ダサいと言うか、ストリングスがなくても成立する曲に取って付けたようなストリングスが入っていると、すごくかっこ悪い。ストリングスを含め、そこに入っている楽器の音すべてに鳴っている意味があった上で完成されるべきだと思うんですけど、「この曲、壮大にしたらよくね?」っていうプロデューサーの意向が見えると言うか。
木村:わかるわかる(笑)。
森野:いまどきそんな絵に描いたようなプロデューサーっているのかな(笑)。
藤森:いや、わからないけどね。僕の中の勝手なイメージだけど、そういうのはイヤだな。無理やり入れさせられたのかなって、そんなことを考えてましたね。特に学生時代は。
ーー今回、「発光」「MAD BALLER」「ディスタンス(HAKKOH Ver.)」「ふれあい」の4曲にストリングスが入っていますが、入れるにあたってはどんなふうに?
藤森:とりあえずストリングスが入った曲をいろいろ聴いて、まず何がかっこいいのか、かっこ悪いのか、自分の中で整理しました。その上で曲を作りながら、無意味なことをしている人がいないように4本のアレンジを同時進行で作っていったんです。今回、カルテットにしたかったんですけど、テンション・コードという難しいコードをいっぱい使っているので、そのコード感を損なわないように4本を配置していきました。
ーーアレンジャーに頼むのではなく、藤森さんご自身でアレンジしたわけですね?
藤森:そうです。見様見真似というか、リードのメロディを考えたら、それのハモり作って、そこのコードはこれだから、残り2本はどの音に動けるんだろう、とパズルをするように作っていきました。そこからリード・ギターを考えてーー。だから、今回はあくまでもストリングスがメインでという作り方をしていきました。最終的に僕らの先輩である藍坊主のストリングスをアレンジしている時乗(浩一郎)さんにおかしいところを調整していただきました。
ーー初回限定盤に付くDVDに収録されているドキュメンタリーで、ストリングスのレコーディングが終わったあと、「プロだったね。いい人達でよかった」と振り返っていらっしゃいましたね。
藤森:そうですね、もちろん当たり前のようにうまくて。
木村:1stバイオリンの方がぱっとまとめて、なおかつ提案もしていただけて。それに対して、時乗さんが「OKです」と答えて、藤森に「いいよね?」と確認するんですけど、藤森が「はい!」って(笑)。それでバチっと合っちゃうんですよ。まさにプロだなと思いました。
藤森:その世界では当たり前のことなんでしょうけど、本当にその場で譜面を見て、弾けちゃうのがすごいなと感動しました。
根本にある「ライブは楽しい」「みんなに会いたい」という気持ち

藤森元生(Vo.Gt)

ーーところで、今回のアルバムはすでに発表済みの曲も含め、コロナ禍の中での制作だったと思うのですが、アルバムの制作を見据えたと言うか、意識したのは、いつ頃、どのタイミングだったのでしょうか?
藤森:去年から15周年に向けて盛り上げていこうというイベントを打っていたので、その時には意識していましたね。
ーーなるほど。今回、入っている曲で一番古い曲は20年9月に配信した「ディスタンス」です。アルバムにはストリングスを加えた「HAKKOH Ver.」が収録されていますが、では、「ディスタンス」を作った時には、なんとなくアルバムのことは考えていたんですか?
藤森:あまり考えてなかったです。むしろアルバム、出せるのかなぐらいに思ってました。コロナ禍の真っ只中だったので。
木村:「ディスタンス」は特殊な曲なんですよ。
藤森:そうだったね。3人だけでレコーディングしたんですよ。エンジニアさんもつけずに森野さんがエンジニアリングとミックスをやってくれて、そんな感じだったから、当分はCDを出せないのかなくらいのことを考えてました。
ーーその後、21年12月に配信した「つつうららか」、22年2月にリリースした会場限定CD「quest. ep」を制作していく中で、徐々にアルバムのことを考え始めた、と?
藤森:そうですね。そう言えば来年には出すんだよなとか、もうすぐ15周年だよなとか思ってましたけど、なんとなくでしたね。アルバムに向けて曲をがんがん作ってたというわけでもなかったんですよ。その時その時、作りたい曲にただ黙々と、無垢な気持ちで向き合ってました。
ーー今回のアルバムの全体像が見えたのはいつだったのでしょうか?
藤森:本当に最後の最後ですね。今回、ぎゅっと最後のほうで曲をまとめたので、それまではどんなアルバムになるのかはわかってなかったです。
ーーコロナ禍の中でリリースしてきた曲に新曲を加えて、アルバムにしようというふうには考えていたんですよね?
藤森:そうですね。あとは15周年なんで、15曲にしようかと、安直ですけどそんなことは思ってたので、じゃあ曲を揃えないといけないな。でも、できないなと思いながら、できたやつから形にしていたんです。けど、こんな曲を作りたいという頭の中にしか存在しない曲もあったことを考えると、僕の中ではちょっとだけ見えてたのかな。もっとも、2人は全然わからなかったと思うんですけど(笑)。
木村:はい(笑)。
森野光晴(Ba.Cho)
ーー木村さんと森野さんは、どのタイミングでアルバムの全体像が見えてきましたか?
森野:どういうアルバムになるのか、全体像は最後までなかなか見えなかったですけど、タイトルを決めたのが今年の夏前ぐらいだっけ。タイトルと15曲入れると決めた段階で、なんとなく今までにない感じのアルバムにはなりそうだということは、わかってきましたね。「quest. ep」に入っている曲もすごい昔の曲のリテイクだったりして。
ーー「妄想DRIVER」ですね。
森野:そう。あと、「ベクトル」も未発表曲なので。
ーー08年のデモに入っていた曲ですよね。
森野:そういう曲も入れつつ、一番新しいストリングスの曲も入れるし、「南の島のハメハメハ大王」のカバーも入れるし、すげえアルバムになりそうだなって(笑)。
木村:確かに。
森野:そういう感じはしましたね。ちょっとベスト・アルバムみたいな。
木村:僕は「ふれあい」が上がった時に軸ができた気がして、もう大丈夫だと思いました。
ーーその「ふれあい」と「MAD BALLER」が今回のアルバムの大きな柱なのかなと感じたのですが、その2曲はどのタイミングでできたのでしょうか?
藤森:最後のタームですね。全然ストリングスを入れる曲ができてなくて、やばいぞってなってる時でした。ただ、「ふれあい」の曲そのものは、「ディスタンス」と同じ時期にできていたんですよ。かけらのようなものが。その時からストリングスが合いそうだと思ってました。それを今回、ちゃんとした1曲にしようとなった時にたまたまストリングスの企画が上がってきて、これは運命的だと思いつつ、一生懸命に作りました。
ーーその時からリード曲になると思っていましたか?
藤森:思ってました。泣かせる曲を作ってやろうと(笑)。 
森野:自分で言っちゃうんだ(笑)。
藤森:「MAD BALLER」も陰と陽じゃないですけど、「ふれあい」に対抗しうるようなギター・ロックにストリングスを乗せた曲をイメージしながら、同じタイミングで作りました。
ーーコロナ禍の中で、改めてバンドや音楽の取り組み方について考えたと思うのですが、そこで考えたことや思ったことが今回、歌詞に反映されているように感じましたが。
藤森:確かに。
ーー「MAD BALLER」と「ふれあい」は、特にそういう思いが感じられるという意味でもアルバムの大きな柱になるんじゃないかと思ったんですよ。
藤森:今回、人と接することを歌った曲が多いですよね。でも、意識したわけじゃないんですよ。本当に曲と真摯に向き合いながら書いていって、改めて読み返したとき、人を欲している自分に気づいたんです。
ーー「MAD BALLER」の<この儘一生 続くさ葛藤 それでも前に進むしかない>という歌詞は、SAKANAMONのファンはもちろん、バンド好きの人にはうれしい言葉じゃないかと思います。少なくとも僕はその言葉を聞けてうれしかったです。
藤森:書いてよかったです。
木村浩大(Dr.Cho)
ーー前述したDVDのドキュメンタリーに収録されている、今から30年後というていのインタビューで、藤森さんが「ライブができなきゃ。俺達はロック・バンドだからね」と発言されていて。
藤森:あ、お爺ちゃんになった僕が(笑)。
ーーあれは30年後を装いながら、今現在の気持ちなんですよね?
藤森:いやー、チョケてるやつだから何とも言えないですけど(笑)、でも、「FEST」には、「ライブって楽しい」とか「ライブやツアーをしてみんなに会いたい」という気持ちを込めているので、今回のアルバムの根本は、そういうところにあるんだと思っています。そういうふつふつとした欲求が発酵しているんですよ。
ーーその「FEST」は森野さんの作曲ですね。
藤森:歌詞は15曲の中で最後に書いたんですけど、今年の『ROCKIN JAPAN FESTIVAL 2022』に代々打で出演させてもらった時の気持ちが大いにインスピーレーションになりましたね。前日の発表に関わらずお客さんがそれなりに来てくれて、ツイッターでもみんなが歓んでくれてたことがうれしくて、その時の気持ちを書きました。
ーー<向かい合っていたい 一つになっていたい>という歌詞なんてまさに。80’ sニュー・ウェーブっぽいサウンドが他の曲からすると、ちょっと異色とも言えますが。
森野:せっかく僕が作るんだったら、藤森君が作らないような曲をと思いました。もちろん、藤森君が作るような曲を作ろうとしても作れないんですけど、割とシンプルなものを目指しつつ、変則チューニングを使って、独特なコード感を出せたらいいなと思いました。
「今までやってきた15年があるからこそ、今できることがある」
SAKANAMON
ーーさて、今回のアルバムはストリングスも使っているんですけど、バンド・アンサンブルがこれまで以上にトリオならではの削ぎ落したエッジのきいたものになっているという印象もありましたが。 
藤森:どう?(笑)
森野:そうですね。
木村:僕もそんな気はします。
森野:個人的には自分の中の波があって、藤森君が持ってきた曲をぶち壊したい時と、そこに乗りたい時がある。今は乗りたい時期なんです。
ーーそれは思うようにライブができないからライブのノリでということではなく?
森野:そうですね。最近は藤森君が持ってくるデモのクオリティがすごく高いから、そのイメージのままやりたいということが多いですね。最近はデモの段階から歌詞も書いていることも多いんですよ。
藤森:昔は曲先だったんですけどね。
森野:だから、割とイメージしやすいんです。そのイメージを壊さないままレコーディングする。壊すとしたら、ライブで再現する時に、また構築すればいいかなというモードに今、なっているんです。僕個人の話ですけど。
ーー木村さんはいかがですか?
木村:僕は基本的に削ぎたいタイプなんですよ。シンプルなほうが好きなんです。いまだにパンクも全然聴きますしね。ギター・ボーカルは「こういうふうにやってほしい」という要求が多いんですよ。ドラマーに対して。それに応えると、グルーヴがカチっとなりすぎると言うか、きれいな四角になっちゃう。だから、そこをできるだけ柔らかくしたいと思ってるんですけど、その上で、やりすぎないように歌が聴きやすくなるように音符を削ぎたいんですよね。
ーー今回、歌詞の面も含め、けっこうストレートなんじゃないか、と。
藤森:一番ストレートなのかな。
森野:昔の曲が入っているから、そこでちょっと濁しているけど、最近録った曲だけだったらけっこうストレートな曲が多い気がしますね。
ーーもちろん、中には「つつうららか」とか、「南の島のハメハメハ大王」とか、リッチなアレンジを楽しませる曲も含まれているんですけど、おっしゃるとおり今回のアルバムが初出の曲は、かなりストレートなのかなと思います。
藤森:そこはバランスを見てたとも言えるし、たまたまそういうモードだったとも言えるし。まぁ、今までやってきた15年があるからこそ、こういうことも今できるってことだと思います。こういうシンプルなこともやっていいと思えるようになったんですよ。
ーーリーガルリリーのたかはしほのかさんをフィーチャリングした「1988」は、今回のアルバムのトピックの1つだと思うのですが、たかはしさんをフィーチャリングしたのはどんなきっかけから?
藤森:デモができあがった段階で、誰に歌ってもらうか考える前から聴こえてきちゃったんですよ。
ーーえ、女性ボーカルがですか?
藤森:いえ、ほのかちゃんの声が。
ーーあ、たかはしさんの声が。
藤森:僕はデモを作るとき、自分の声のピッチを変えて、女の子の声っぽく作ることもあるんですよ。「1988」もそうやって作ったデモを聴いてたら、「あ、この声、ほのかちゃんだ」と思って「決定!」となりました(笑)。まだ歌詞も決まってないし、一番しかなかったんですけど、絶対歌って欲しいと去年からずっと思ってました。
ーーUSインディ・ロック感満載の曲ですよね。
藤森:あぁ、なるほど。スマパン(スマッシング・パンプキンズ)はそうなの?
森野:スマパンはインディ・ロックではないかな
ーーつまりスマパンを意識した、と?
藤森:そうです。「1988」というタイトルはそこから来ているんですよ。スマパンに「1979」という曲があるじゃないですか。そんなイメージです。
ーー「1988」は、みなさんが生まれた年ですよね。
藤森:そうです。でも、深い意味は特になくて(笑)。
木村:仮タイトルだったんですよ。それこそほのかちゃんがね。
藤森:「このタイトルいいですね」と言われちゃって。
木村:そう言ってもらえたらもうそれでいいよね。
藤森:うん。インタビューの時、ちょっと気まずいですけどね、「特に意味はないです」と答えるのが。
ーーでも、タイトルというのはそんなものかもしれないですよ。
藤森:そうですね。初めてかもしれない。こんなに意味がないのは。
ーー「裏鬼門の羊」は歌詞がおもしろいと思いました。この曲を聴いて、桃太郎の鬼退治のお供がなぜ犬と猿と雉なのか、そして、なぜ羊が外されたのか、その理由を初めて知りました。
木村:何の曲なんですかね?(笑)。
ーーそうなんですよ。<でも僕なんか居なくても うじうじしてもう後が無い>という歌詞が気になって、何を言おうとしている曲なんだろうと。
森野:ハハハ。
藤森:一番重要なのは、羊がかわいいところです(笑)。
ーーそうなんですか!?
藤森:これはある意味、僕の気持ちでもありますね。いわゆるマジョリティに混ざれないマイノリティみたいな。どうせ俺なんかいなくても楽しいんだろと思いながら、本当は仲間に入りたいっていう。そういう気持ちを、もし羊が鬼退治に参加していたらとか、そしてその物語が今も受け継がれていたとしたらとか、そんなことを妄想しながら書きました……というところを楽しんでほしいです。 
木村:その目の付けどころの良さをひけらかしたいんでしょ?
藤森:そう。こんな歌詞は藤森にしか書けないと思ってほしいです。
ーーもちろん、それは思いました。「ZITABATA(サカなもんVer.)」は、「サカなもんVer.」じゃないバージョンがあるんですか?
藤森:これから世に出るんですよ。この曲は『GOONYA MONSTER』というゲームとコラボしていて、楽曲提供のみならず、僕らとバンドのマスコットキャラクターであるサカなもんもキャラクターとして登場さてもらうんですけど、「サカなもんVer.」じゃないバージョンは、ゲームのキャラクターの声を担当している井澤詩織さんという声優さんとのデュエットなんです。声優さんとのコラボも初めてだったので、楽しくやらせてもらいました。
ーーその他にも個人的な聴きどころがいっぱいあるんですけど、たとえば「南の島のハメハメハ大王」のギターのトレモロ・ピッキングは、かなりツボでした。
藤森:あんまりやったことがなかったんですけどね。最近は、コードを鳴らしながらギターをガチャガチャ弾くみたいことを避ける曲も作れるようになってきて。コード・ストロークでバッキングの下塗りしちゃえば、ギター・ロックって割とすぐに作れちゃうんですけど、そういうことをできるだけやらずに他の楽器とのアンサンブルでコード感を出すみたいなこともできると楽しいというところからトレモロ・ピッキングもやってみたんです。
ーーそういうアレンジは「南の島のハメハメハ大王」に限らず、今回、全体的に多いですよね。
藤森:そうですね。そういうアレンジ方法を覚えたのは、「つつうららか」かもしれないです。アコギでジャカジャカはしているんですけど、三味線のリフだったりとか。
ーーえ、この曲、三味線が入っているんですか!?
藤森:ええ、実は。特殊な三味線で、ゴッタン三味線という宮崎県の伝統楽器なんですけど。
ーーあぁ、宮崎。この曲は宮崎市のプロジェクト『宮崎食堂』に書き下ろした曲でしたね。
藤森:音が響かない素朴な三味線なんですけど、そういうリフとか、リズムとかを先に作っていったら、今までにないスッキリ感が生まれて、楽しかったです。
ーーマンドリンとか、スライド・ギターとかも鳴っていますね。
藤森:スライド・ギターも初めてやりました。
ーー「つつうららか」は曲の印象としては、すごくシンプルなフォーキーなポップ・ソングなんですけど、アレンジがすごくリッチで、聴き応えがあると思います。さて、自分の興味がある曲についてばかり聞いてしまいましたけど、その他、「この曲については語っておきたい」という曲があったらぜひ。
森野:ベースはさっきも言ったとおり、全体的にシンプルなんですけど、「ZITABATA(サカなもんVer.)」だけデモからめっちゃ変えました。
ーー確かにベースはかなりフレーズが動いていますね。しかも、ドラムも手数が多くて。
森野:みんな、めちゃくちゃやってもいいかなって曲だったんですよ。
木村:ジタバタと言うか、バタバタだよ(笑)。
森野:若い子に聴いて欲しいです。
木村:ゲームやってるね。
森野:若い子に「バンドってかっこいい!」と思ってほしい。
藤森:コラボしたゲームは海外でもできるそうなので、海外の人達にも響けばいいなと思いながら作ってました。
ーーラウド・ロック風のリフも鳴っていますね。
森野:いろいろなジャンルが混ざっている節操ない感じがゲーム音楽っぽい。
木村:でも、全然ラウドにならないところがおもしろい。
藤森:どうしてもポップになっちゃうんですよ。
ーー木村さんは語っておきたい曲はありませんか?
木村:そうですね。ドラムはもう「ふれあい」のような曲のほうが本当は得意なんだよなと再認識しました。昔からそれこそラウド・ロックやパンク/ハードコアが好きなんですけど、ドラムに関しては、こういうバラードのほうが得意なんです。好きと得意は違うんだなって改めて思いましたね。
ーーアップテンポの「MAD BALLER」ではなく、その「ふれあい」がリード曲なんですね。
藤森:チームで話し合った結果、多数決で「ふれあい」になりました。僕はどっちでもよかったんですけどね。
木村:どっちとも自信があるからね。
ーーさて、リリースを経て『SAKANAMON 15th ANNIVERSARY LIVE TOUR “発光”』と題したツアーが11月11日(日)の東京公演から始まりますが、どんなツアーにしたいと考えていますか?
藤森:リハーサルを始めたところで、セットリストもなんとなく決め始めているんですけど、今までとは違う新しい曲もたくさんできたので、それも含め、大人のSAKANAMONが見せられるんじゃないかなと思っています。パフォーマンス的にも一新した見せ方をしようと考えているんですけど、それはライブに来てのお楽しみということで。
木村;たぶん、びっくりしてもらえると思います。
ーー前述したBillboard Liveの2公演はストリングスとの共演なんですよね?
藤森:はい。全曲になるのかどうか、そこは考え中なんですけど、ストリングスを入れて、ライブってしたことがないので、今からちょっと緊張しています。
ーー「LIVE TOUR」「Billboard Live」ともに、これまでとは違ったSAKANAMONが見ることができるわけですね。
藤森:はい! コロナ禍がどうなるか、まだわからないですけど、ここからさらに活動に勢いがついていったらいいなと思っています。
SAKANAMON
取材・文=山口智男 撮影=森好弘

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