Absolute areaの最新曲群で描かれる
過去と現在、見据えている未来を山口
諒也が語る

Absolute areaの最新シングル「70cm」と「ビニール傘」が、9月28日に2曲同時リリースされた。前作「mirroring」と「まだ名のない歌」も含めて、同時リリースという形態で、Absolute areaの過去と現在を表現したということだが、2022年の活動指針として“挑戦”を掲げているAbsolute areaは、どのような現在を生き、どのような未来を見据えているのか?今回のインタビューでは、山口諒也(Vo/Gt)に今年の活動を振り返ってもらいつつ、考え方の変化や、年末のワンマンライブに向けての話を訊いた。
――2022年は、Absolute areaとして“挑戦”というテーマを掲げて活動している年とのことですが、振り返ってみて如何ですか?
5月に代官山SPACE ODDで行ったライブでは、バックスクリーンに映像を映しながらライブをしたんですけど、それはアブソとしての新しい試みでした。それは、音源を聴いてもらうだけでなく、ライブに来てもらう為の付加価値を考えた上で辿り着いた演出だったんですよね。それを含めて、ライブを意識してきた年だったと思います。
――音楽を楽しむ為の手段が多様化していく中でも、Absolute areaとして一番優先すべきはライブであると。
そうですね。僕らの楽曲を聴いてくれている人の顔を見ながら歌えるということの素晴らしさや大切さを、最近改めて感じたんです。元々僕自身は、ライブをすることよりは、楽曲制作の方が好きなタイプだったんですけどね。でも、これはコロナがあった反動かもしれないですが、普段応援してくださる方が喜んでくれる演出を考えて、その表情を直接見られるライブを作ることが楽しいと思うようになってきました。
――今年5月には「mirroring」と「まだ名のない歌」の2曲が同時リリースされて、今回お話をお聞きする「70cm」と「ビニール傘」も同様に同時リリースとなっておりますが、この形態に対しては意図するものがあったのでしょうか?
「mirroring」と「まだ名のない歌」に関しては、日本工学院でレコーディングさせて頂く機会をもらった時に、過去の楽曲でまだレコーディングしていないものを録ろう!ということになったんです。その時に録ったのが、僕が高校2年生の時に作った「まだ名のない歌」でした。その上で、“現在”のアブソを提示する新曲「mirroring」と、3ピースロックバンド色の強い“過去”の「まだ名のない歌」を同時にリリースすることで、バンドの対比を表現できたらいいなと考えていました。
――結成当初のロックバンド然としたサウンドメイクから、自ら意図してポップバンドへシフトチェンジしたAbsolute areaにとって、今、「まだ名もない歌」のような過去の楽曲を音源化することに対しての違和感などはなかったんですか?
ああ、なるほど。でも、ライブでは結構やっている楽曲ではあったので、カラーの異なる2曲をリリースすることで、お客さんはどっちのアブソが好きなんだろう?と再確認したかったという気持ちもありました。路線変更した時には、正直、こっちの道で合ってたかな?という不安もなかった訳ではないので。でも、いざ再生回数などでの反応を見ると、新しい方向性の僕らのことを受け入れてもらえていると感じたので嬉しかったです。
――お客さんの反応が、バンドの糧のひとつになったということですね。では、ここからは最新シングル「70cm」と「ビニール傘」についてお聞かせください。この2曲に関しては、どのようにリリースに至ったんですか?「ビニール傘」は、以前からライブでもよく演奏されている楽曲ではありますが。
実はこの2曲も「mirroring」と「まだ名のない歌」と同様、過去と現在の対比的な楽曲なんです。仰る通り、「ビニール傘」はライブでも頻繫に演奏していますし、作ったのは高校2年生の頃で、オリジナル楽曲として3曲目くらいに出来上がった超初期の楽曲なんです。なので、これらもアブソの良さをどちらも楽しめる2曲だと思います。
――「ビニール傘」は、ライブでは雰囲気を変えるスイッチのような役割も果たしていますよね。
そうですね。これから盛り上がるぞ!という時にばっちりハマる楽曲です。最近作っている楽曲は、同期を使いながら演奏するものが多くなってきたので、「ビニール傘」のようなスリーピース色の強い楽曲は自由だなと思います。とはいえ、ライブでも同期に頼らずに、キーボードのサポートメンバーを迎えたりしつつ、生音を増やしていこうとは思っているんです。でも、この楽曲はサブスクに無かったものなので、ライブで初めて聴いた人が「アブソってこういう曲もあるんだ!」という反応をしていて新鮮でした。
――歌詞も刺激的ですしね。
そうですね(笑)。高校生の頃に想像しながら作詞をしたので、もし今書くとなっても、なかなか書けない歌詞になっていると思います。あの頃は最強だったなと思います(笑)。
――ははは! 一方「70cm」は、今のAbsolute areaによる新曲ということですが、この楽曲についてはいかがですか?
この楽曲は2022年内に作った楽曲なんですけど、「ビニール傘」との繋がりを意識して作った楽曲ではないんです。僕、ビニール傘を色んなところに忘れて、コンビニで買い直すことがよくあるんです。しかも、65cmと70cmの2サイズ展開のうち、自分の背丈や身幅を考えたら65cmがジャストにも関わらず、大きめの70cmの方を買っちゃうんです。それは、過去に恋人がいた頃に相合傘をする為に大きめの傘を買っていたという経験を引きずっているんだと思うんですけど、その癖を赤裸々に歌詞にしたのが、この「70cm」です。
――「ビニール傘」は想像上の恋愛を描きつつ、「70cm」に関しては山口さんのリアルな体験が由来しているということで、そこもひとつの対比ですね。そのせいか、男女の恋愛観というよりは、主人公の男性の本音が描かれているように思います。
そうなんですよ、世の女性を敵に回すような歌詞です(笑)。サビも、曲の最後も「とにかく僕はもう疲れてしまったんだ」で終わっているっていう(笑)。でも、後悔の歌ではあると思っているんです。彼女のことを、最後まで雨から守ってあげられなかったという内容なんですけど、雨というのは、日常の哀しみや不安の比喩なんです。傘を傾けて相手を守りたいけれど、傾けたら今度は自分が濡れてしまう。相合傘というのは、そうした男女の恋愛における危ういバランスの縮図のように思えるんですよね。さらに言うと、その雨自体も、自分が原因で降らしてしまったいるかもしれない。なのに、自分が起因するものから相手を守ろうとして傘を差していという矛盾。恋愛っていうのは、そういう矛盾をどれだけ許し愛せるかだと思うんですけど、なんというか、疲れるなぁ、と……。
――ははは! そりゃ疲れますよね。でも、今までのAbsolute areaの楽曲って、最後には救いや励ましがあったり、自分が辿り着いた何かしらの正解を提示したりするものが多かったと思うんです。なので、この楽曲のような終わり方が新しいなと思っていて。
今回は最後に考えることを放棄してますもんね。でも、答えに辿り着くことって出来ないなと思うんです。答えが見つからないことが不安だと思っていたんですけど、今は、答えが見つからないのであれば、その問題と一緒に歩いていけばいいんじゃないか?と思えるようになってきました。

>>「次回作ではもう一段階未来に向かったような楽曲も作っています」
――そう思うに至ったのには、何かきっかけがあったんですか?
色々ありましたね。例えば、お世話になっていた人が「〇〇した方がいいよ」とアドバイスをくれたのに、昔の自分はその意見を突っぱねてしまっていたんです。でも、今考えたら正しいことを言っていてくれていたんだなと思いますし、当時の自分がもっと聞く耳を持ってさえいれば上手くできていたんだろうなと思うことが凄く多いんです。そういった経験もあって、今至った答えがこの先も正解であるとは限らないなと思えるようになったというか。その時は納得できなかったとしても、その言葉と一緒に歩いていけば、どこかのタイミングで正しかったと思えるかもしれない。昔は答えが出ないとモヤモヤしていましたけど、答えってそう簡単に出るものではないですしね。なので、今はもっと気楽に考えられるようになりましたし、そういう変化が歌詞にも表れているのかもしれません。
――バンドとの向き合い方も少し変わってきました?
もう、全然違いますね。サボテンじゃなくなりました(笑)。バンド内の雰囲気も変わったと思います。メンバーも、昔は僕のことを怖いと思っていたらしくて……(笑)。確かに、音楽に対して意見し合える雰囲気でもなかったんですよね。余裕がなかったし、誰かに否定されることが凄く怖かったので、それが思い切り出ちゃっていたんだと思います。でも、否定の言葉に否定で返したり、自分一人で全てをやろうとしたりして、誰かが差し伸べてくれた手を払ってしまった後に何かがあった時、その責任を取るのは自分ひとりであることの怖さも痛感したんです。そこでの後悔も、今のマインドの変化に繋がっていると思います。
――Absolute areaは、自分が楽しければそれでOKということではなく、もっと大きな場所でライブが出来るくらい成長していきたいという明確な目標を持ったバンドだからこそ、そういった焦りが生まれていったのかもしれないですね。でも、その点で言えば、今年は『SUMMER SONIC 2022』の『出れんの!?サマソニ⁉』に見事合格したことで、大舞台でのライブも経験したかと思います。夢の舞台に足を踏み入れた感覚もあったかと思いますが、如何でしたか?
僕らは大阪公演の2日目に出演させて頂いたんですけど、前日もお客さんとして遊びにいかせてもらったんです。そこで観たライブはやっぱりスケールが違いましたし、物凄く刺激的でした。Absolute areaとしてはフェスに出ること自体も今回が初めてだったので、これが本物か!と思いましたし、こういうステージが似合うバンドになりたいと心底思いましたね。あとは、フェスで盛り上がれる曲を作ろうと思いました。
――今も新曲の制作はされているんですか?
はい! 年内にミニアルバムをリリースする為に鋭意制作中です。テーマも定まっていない中でどんどん曲を作っている段階ではあるんですけど、シングル2曲同時リリースで“過去”と“現在”を表現した上で、次回作ではもう一段階未来に向かったような楽曲も作っています。バンドっぽさも残しつつ、今のJ-POPを継承したような音楽を作っているんですけど、その曲は、伴奏もアレンジもアレンジャーさんに丸投げしているんです。自分が作ることを絶対としていた自分にとっては、かなり挑戦的な試みなんですけどね。でも、Absolute areaとしてもひとつ大きな勝負をかけられるような、めちゃくちゃ良い曲に仕上がっています。それもまた、ファンの方に受け入れてもらえるかは不安な部分ではありますけど、反応が楽しみです。
――それはかなりの挑戦ですね!
昔の自分だったら絶対にしなかった選択ですね。あとは、2021年10月に行ったShibuya WWW X公演の中で披露した「橋を超えれば」という90年代ポップ的な楽曲も入っているので、そういう意味では“現在”と“未来”のアブソを楽しめる作品になると思います。
――12月4日には、Shibuya WWW Xでのワンマンライブ『Fighter~未来への架け橋~』も行われますし、年末に向けてまだまだ色々とありそうですね。
そうですね。今回のワンマンライブでは、サポートギターの方にも入ってもらう予定なので、ハンドマイクでのパフォーマンスも増えるかもしれないです。サマソニに出演できたことがひとつのきっかけではあるんですけど、やっぱり大きいステージでは動いた方が映えるなと思ったんです。なので、そこのところも楽しみにしていてもらえたらと思います!

取材・文=峯岸利恵 撮影=高田梓

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