エン*ゲキ演出家・池田純矢「中山優
馬は演劇業界を背負う存在」ーー中山
が主演舞台『砂の城』で感じた刺激「
綱渡りのようなとても危険な芝居」

俳優としても活動している池田純矢が作・演出を担当する、即興音楽舞踏劇『砂の城』。これまで革新的な作品を発表してきた、池田による「エン*ゲキ」シリーズの第6弾となる同作。国土を砂地に覆われた大海の孤島を舞台に、王位継承、そして王家の血をめぐる人間たちの運命が絡み合っていく物語だ。ピアニストによる即興の生演奏など、実験的要素もふんだんに盛りこみ、10月15日(土)からの東京公演、11月3日(木・祝)からの大阪公演の計33公演で、1回たりとも同じものは観られないという。そんな『砂の城』について、主演を務める中山優馬の記者会見のコメント、そして池田純矢の単独インタビューの模様をお届けする。
中山優馬、池田純矢 4275
●中山優馬、池田は「演出家としても信頼できる」
――『砂の城』の台本を読んでどのように感じられましたか。
中山:センシティブな問題、人間の本質的な部分、そしてセクシャルなところもあり、これまでの池田純矢作品とは違った印象を持ちました。今まではエンタテインメント性がすごくあったけど、今回はそういう要素が少ない。ただ、キャラクター造形は池田作品らしいと思います。
――池田さんの演出の印象はいかがですか。
中山:池田さんが演出した『絶唱サロメ』(2019年/「エン*ゲキ」#04)に出演していた松岡充さんが、「彼は天才だ」とおっしゃっていたんです。たしかに、舞台芸術をゼロから生み出せる演出家だと思います。あと、役者のときとは違う顔を持っていますよね。演出家としては、こちらにヒントを与えながら、辛抱強く役者の表現を待ってくれるタイプ。池田さん自身がプレイヤー(役者)でもあるので、タイミングのとり方、役者に対する言葉の選び方も「分かってくれているな」と信頼感があります。
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――「即興音楽舞踏劇」ということですが、音楽と芝居の絡みが即興ということなんですよね。
中山:即興なのですが、いくつかの「ルール」はあるんです。そのルールに沿いながら、たとえば歌のオクターブなどを自由に動かしたり、ピアニストの方の演奏が自分の芝居に付いてきたり。そういう綱渡りのようなことをしています。とても危険なお芝居ですよね(笑)。
――たしかに、その場での勝負ですもんね。
中山:だからこそ、うまくいったときのパワフルさがあります。正直なところ、当初は大海原へ飛び出してどこに行けば良いか分からない状態で、即興は不安でした。ただ、ルールというブイを浮かべてくれたので、戻る場所が明確になり迷うことはなくなりました。アドリブではなく、即興というシステムは、いろんなところに離れることも近づくこともできる。きっとブイが見えてない状態だと、クオリティが守られているかどうかも分からなかっただろうなと。
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――中山さんの地元の大阪では、11月3日(木・祝)から13日(日)まで14公演もおこなわれるのですよね。
中山:地元なので、大阪公演は特別な思いがあります。大阪で14公演という数はあまりないことなので、気合が入ります。どの作品でも、大阪公演はみなさんが前のめりで観てくれている感触があります。時間とお金以上の価値を提供したいです。あと、時間があれば池田さんを実家にご招待したいですね。自分のきょうだいを紹介したいなと(笑)。
●池田「誰にも受け入れられなくても、この作品をつくる意味が僕にはある」
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――池田さんはなぜ今回、中山さんを主演に抜てきされたのですか。
池田:2年半くらい前に優馬と食事へ行ったとき「一緒に作品をやりたいね」という話をしていました。ただ「やるんだったら成功圏以上のものを作ろう」と。つまり、120点を出すにはどうすれば良いかを考えたんです。そこで「即興だ」と。僕らならちゃんと売りものになるレベルを作れるだろうし、優馬はどんなに突飛なことを言ってもまずはやってくれます。それは演出家としてすごくありがたいこと。それに優馬はセンスも光っていて、今後の演劇業界を背負う存在です。
――先ほど、中山さんが記者会見で「即興のなかにルールがある」とおっしゃっていましたが。
池田:最初に時代背景、身分、育ちなど舞台上では描いていないところまできっちり説明します。あと歌などのチェックポイントの中で「この瞬間にこういうことをやって欲しい」、「この瞬間にはこれをやる」などのヒントを伝えているんです。そこに至るまでは、役者がなにをしても良い。たとえば立ち位置にしても、そこへ行きたくなければ行かなくて良い。でも「なにゆえ、そこに行くのか」をちゃんと伝えています。だから、自然とそこに行きたくなるようにはなっているはず。それ以外のことについては、俳優がそれぞれ感じたままに動いてもらっています。ひとつひとつの動きがいかに説得力を持ち、そして本当の感情のように見えるか。その点に関しては稽古でも時間をかけています。
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――今回は「即興音楽舞踏劇」という点も含めてかなりチャレンジングな作品になりそうですね。
池田:やっぱり自分たちにしかできないことをやらないと。でもそれは、現在の演劇界に対する危機感の裏返しでもあるんです。今、トップで活躍されていらっしゃる方の一つ下の世代が、空白になっている印象なんです。40代、50代の方の演出家はすごく少ないですから。もし上の方々がいなくなったとき、誰が牽引するんだろうと。その筆頭がいない気がしています。もちろん、30代、20代はもっといない。それはどうなのかなと。
――なるほど。
池田:僕はシェイクスピアから受け継がれてきたものに美しさを感じているし、本質的な芝居をなくしたくありません。僕の先輩方、先生方、そしてチェーホフやシェイクスピアが教えてくれたことはたくさんあります。それがなければ、今の自分は存在しません。これを次の世代にどのように伝えて繋いでいくか。その責任と役割を全うする立ち位置につかなければならないと考えています。今回の『砂の城』は、そういう意味ではかなり重要な作品になります。
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――そんな今作の起点となっているのが、池田さんのかなりパーソナルな出来事や感情なんですよね。
池田:そうですね。2年くらい前に自分にとってターニングポイントというか、「今までやってきたことはなんだったんだ」という瞬間があったんです。心がしんどくなって、生きることを諦めかけました。それでも前に進むために「作品をつくろう」と。そこで『砂の城』に取り掛かりました。これは過去との決別、過去への許し、そして新たな一歩となる作品です。
――池田さんのパーソナルな部分は、この物語のどういうところから感じとることができますか。
池田:全部ですね。だって、ずーっと痛いですから。痛いしかない。でも、たとえば漫画の絵を観て「カッコ良い」とワクワクする気持ちと、モネの絵画「睡蓮」を観て「美しい」と感じる感性は一緒だと思うんです。つまり楽しい作品かどうかは関係なくて、観た人の心を動かせるものかどうかなんです。
――これまで人生へのつらさを起点に作品をつくったことはありましたか。
池田:まったくないです。これが初めて。でも、そういうキッカケを持った作品を観て「おもしろい」と感じてもらえたら嬉しいし、そう思ってもらえると信じています。でもある意味、今回は受け入れられなくても良いかもしれない。好みがきっと分かれる作品ですから。仮に誰にも受け入れられなくても、この作品をつくって上演する意味が僕にはあります。
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取材・文=田辺ユウキ 撮影=福家信哉

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