「尾崎雄貴自身にアンサーしてくれて
る実感がある」 壊れた心を癒すプロ
セスを描いたwarbearの2nd『Patch』
の手応え

5年ぶりとなったwarbearの新作『Patch』。尾崎雄貴が中心となって立ち上げた「Ouchi Daisuki Club Records」からリリースする最初のアルバムでもあり、エンジニアには弟の尾崎和樹を迎え、ミックス、マスタリングまで尾崎兄弟で行った完全セルフプロデュース作品としての試金石でもある。インタビューは音楽ファンの間で大きな話題として飛び交ったGalileo Galilei始動をインフォメーションした10月11日のライブの後日に実施(12日に追加公演を実施)。ファンの前で新曲を披露した上で、改めて『Patch』という作品、そしてwarbearとは何かについて、尾崎雄貴の今の言葉を届ける。
――ライブを2日間やってみてどうでしたか?
長いツアーを終えたぐらいやりきった感と、乗り越えた感のようなものがあって、かなりやりがいのある2日間だったなと思います。あと、お客さんを前に、絵本にサインする時間もあったんですけど、お客さんがどんな人となりしているのかっていうのを2日間とも見れたので、それも含めてすごく充実した2日間でした。
――ライブ中も表情は見えましたか?
そうですね。みんなその曲で一喜一憂というか表情が変わるので。悲痛な歌詞の時は胸を打たれてる表情になるし、喜びを伝える歌詞の時はやっぱり喜びの顔になっていて、ちゃんと伝わってるんだなあっていうのも今回分かりました。
――雄貴さんにとってwarbearっていうのはやろうとしてやるものですか?
前回のアルバムを出してから、ちょこちょこ対バンのお誘いをいただいたり、僕たちが札幌にいるので北海道でのライブとかはwarbearで突発的にやってたんですけど、warbearは自分自身なので一番そばにある感じがあって。なので、「warbearやりたいな」というよりは、ライブのMCでも言ってたんですけど、本当に自分に向けてやっているものなんだなという感じがあるので、「お腹空いたな」とか、そういう感じに近い感覚でやっています。あと誰も正式メンバーみたいなものではないから、結局自分と一緒にその時にできる人でやれちゃうということもあって、自然体でできるものだなと思います。
――今年のBBHFのツアー・セミファイナルで独立を発表された時に、「Ouchi Daisuki Club Records」の初作がこの作品だと分かったわけですが、それもしっくりきたんですよね。アーティストとしての活動の仕方が新たに定まったというか。
そうですね。一番最初にソニーミュージックに所属したり、その後ラストラムに所属したりということがあった上で、今、それぞれに感謝しかないんですけど……本当に会社内でも素敵な人たちに恵まれていましたし。その上で、大きいところに所属していると自分たちの中で言い訳になっちゃったりするんですよ。縛られているとか、こうしろって言われちゃったからやってるとか、そういうことから解放されたっていうのはあったんです。なので、今回『Patch』のライブもそうなんですけど、今までのライブと違って自発的にお客さんに伝えたいことがあってやっていて、それがすごくダイレクトに尾崎雄貴自身にみんなアンサーしてくれてるんだなっていう感覚がちゃんとあって。それはすごく今感動しているし、基本的にこれまでになかったというか、いろんな後ろ盾がある状態でチームで決めたことみたいなものがあったので、今本当にうれしいです。
――ところで、時間軸的なことで言うと、この作品を作っている時はどういうタイミングだったんですか?
曲自体はBBHFで出したEP『13』より全然前からある曲もあったり。主にはBBHFに曲を書いていて、あとは楽曲提供もしているので、その間に自分のストレージに曲がどんどん増えていく・ストックが増えていく中で、僕の中では結構直感で「あ、これはもうBBHFじゃないな」とか「これwarbearだな」「どっちでもないからこれは曲提供しようかな」というものはちゃんとあって。僕のデモは全然出来上がっていない短いものだったりするんですけど、その上でwarbearにストックが出来てきてるという感じなんですよ。制作期間というか曲を書いてからの期間でいうと、数年やっていたんじゃないかなと。あと、先にライブでやっている曲もあったので、ちょっと歌詞が変わった曲もありますし。曲と一緒に生きていて、レコーディングできるからやろうかなっていう感じで作っていきました。
warbear
――1stは今聴くと単に重いんじゃなくて、仕上げが高度なので、洗練されたものとしても聴けるんですよね。今回も、そこと完全に断絶して次に行くという印象でもなかったのですが、いかがですか?
1枚目を作ったときはGalileo Galileiを終了させて、自分一人でドラムも叩いて、なるべく誰の手も借りずっていうやり方で、自分で自分を孤独に追いやりながら作ったので。だからこそ、今改めてライブでも「1991」や「27」など1stの曲をやってるけど、ヒリついたものっていうのはすごく感じていて。多分その過程がずっと続いていて、その孤独に耐えられなくなったり、その孤独が招いたメンバーだったり、他者から言われた言葉で傷ついたり……そういうことでバラバラになったハートを修復しているのがこの『Patch』だなと思うので、結局今作は1stから続いているものなのかなと思っています。
――1stは自分を知りたいと思う気持ちがあって、音像は最新なんだけど、アメリカのシンガーソングライターやブルースマンが歌うような知恵や詩を授けられているような感じがしたんです。
ありがとうございます。嬉しい(笑)。
――『Patch』というアルバムにつながっていったプロセスを思うと、1stもより理解できる気がします。その上で今回のアルバムの発端になった曲というと?
「陶器の心」が一番1stに近いものがありつつも、今回のアルバムの自分の心、自分というか割れてしまったものを治すっていう内容で。最初アルバムのタイトルを『金継ぎ』にしたいって思ってたんですけどでデス・キャブ・フォー・キューティーにあったので(笑)、ダメだと思って。でも、金継ぎ自体が考え方としても好きなんですよ。誰でも絶対一度は人生の中で心が砕けたり、ひしゃげちゃったりぐちゃぐちゃになっちゃったりっていう経験があると思うんです。壊れてしまったものを修復したものの方が美しい、だからこそ美しいんだっていうことを、自分でもそうだし、人に伝えたい、人を肯定するということをやりたいって思ったのが「陶器の心」で。歪になってしまったものを抱きしめるようなことをwarbearでやってみたいって、自分がたぶんそうしてほしいからだと思うんですけど……人に対して自分がしてほしいことをしてあげるっていう、そういう思いが発端になりました。
――では、曲の原型としてはあったけど、今回のアルバムのタイミングで変化した曲といえば?
「メートル法」はアルバムの中でも結構ライブでやってる曲で、何度かあったwarbearの対バンでもやっていて。かなりアレンジも形を変えていったものだなって思うので、「メートル法」ですね。
――アルバムに収録された音像はスネアの音が立ってますね。
もともとはもっとシンプルなビートと歌とベースだけというような曲で、「陶器の心」に近い曲だったんですけど、いろいろとやっていくうちにリズムの面白い曲なんだなと思って。和樹と僕……和樹はwarbearの制作もやってるんですけど、そこで起こる「こっちの方が面白いんじゃない?」というようなものが「メートル法」は強く出たなって思います。
――今回のアルバムの制作タイミングでできた曲はどれですか?
レコーディング的なところで言うとデモになっている「汐」とか「OoooZ」とか。あとは「やりたいこと」も新しいかな。特に「汐」と「OoooZ」は自分の中で、レコーディングの後半ので他の曲がもうできている段階で、アルバムに蓋をする曲として書いた2曲です。
――なるほど。「やりたいこと」や「夏の限りを尽くしたら」のような比較的明るい楽曲もありますね。
「夏の限り〜」は弾き語りでパッと考えたときよりは、あたたかさが増した感じになったかな。「夏の限り〜」は夏のことを書いてますけど、冬に北海道にいると、もう夏のことを思い出せないんですよ。「暑いって何だったっけ」みたいな。で、ちょうど夏のど真ん中にレコーディングしてたので、「あ、 夏ってそうだよね」っていうところで(笑)、あたたかさが増したりっていう変化はありましたね。
――「夏の限り〜」はローティーンの頃の夏の苦しさみたいなものをちょっと思い出す部分がありました。中学生ぐらいの感じ。
やっぱり夏って、気持ちが焦ったり、植物などが全部色づいて、生きてる!という感じが周りからワーっときますよね。僕は高校の頃もずっと不登校だったので、学校に行ったふりをして学校の近くの誰にも見られない野っ原みたいなところでぼーっとしてて。結構そういうことを思い出しながら書いた曲ですし、僕、夏自体は割と嫌いで(笑)。夏の曲っていっぱい書いてるんですけど、「夏が嫌いだ」ってずっと言っていて。で、自分の中にたくさん夏があるはずなのに、嫌な思い出とかじゃなくて、なんかこうむず痒くなるような思い出っていうのを夏にたくさん作られたなあっていう(笑)。夏に若干の恨みもこもったような(笑)、曲ではありますね。それはもうGalileo Galileiでメジャーデビューしてからも、夏フェスが嫌だったので(笑)。暑いし、なんかもう夏夏してるしやだよって思って。そういうタイプなので、それが出た曲かなと思います。
warbear
――すごく嫌だって言う夏がこういうふうに着地するとは(笑)。ところで最近は北海道も暑くないですか?
札幌は暑いです。前に、僕の地元・稚内にBBHFの活動で帰る機会があったんですけど、結構それもでかかったですね。この『Patch』にめちゃくちゃ影響を与えたなと思っていて。その時稚内は涼しいというか寒くて(笑)。もうそろそろ夏に入るだろうっていう頃でも、夜のMV撮影の時、みんなジャケットを着ていたので、稚内はあの頃から変わらず涼しいままなんだなと。
――自分の10代を思い出すというか、変わっていない場所っていう感じなんですか。
そうですね。不登校の時、学校に行く前にぼーっとしてた場所や、わざと5時間目ぐらいに学校へ行ってた時に(学校へ行く前に)行った場所なども軽く見に行ったりしてたんですけど、稚内本当に何も変わってなくて。僕らに音楽やバンド教えてくれた、「ビートルズやるからお前ら休みの日に音楽室こい」って言ってくれた和田先生も今では校長先生になっていたり。元々音楽の先生で吹奏楽部の顧問だったんですけど、あれよあれよと偉くなって(笑)。で、学校を急遽貸してくれたりしたんですけど。そういう恩師に会って、一緒に写真を撮れたり。
――音楽の先生が校長先生になるってよっぽどの人格者ですよね。
みんなすごく好きな先生だったし、なんて言うんだろう……根暗な俺でも和田先生が(学校に)来いっていうから行くかって思わせてくれるような先生だったので。本当にすごく救われてましたね、僕は。本当に恩師って感じです。
――先生や稚内の変わらなさっていうのがアルバムに反映している?
もうめちゃくちゃ。自分でも今初めてというか、『Patch』の資料を書いている時も思い浮かばなかったけど、もしかしたら一番重要なアクションだったのかもって思いました。稚内には5〜6年ぶりに帰ったので。和田校長先生が「合唱コンクールの曲、雄貴書いてくれ」「絶対振るからそのときは書いてよ」って言ってくれて。そういうことも含めて、稚内に帰った時、思い出の多い過去に肯定してもらえたような感覚があったんです。「素敵な時間をお前過ごしてんだよ」って言われた感じがすごくあって。それはその心を修復する、自分の心を癒す過程ですごく大事だったので、本当に金継ぎされたような感じがありましたね。かなり参っている時に稚内に帰ったので。
――それはアルバムの途中段階で?
いや、まだレコーディングに入る前のタイミングで、BBHFの「バックファイヤ」のMV撮影で行ったんです。丁度独立するかしないかみたいな話もあったり。あとは自尊心というか、自分でちゃんと音楽をやれている、いい曲を書けている、という気持ちがもうボコボコになってしまっていて。ファンは「え? なんでそうなるの」ってなるかもしれないんですけど、僕は僕でいろんなことがあって。音楽をやめようとかそういうところじゃないんですけど、自分という人間に自信がなくなっていて、その時にちょうど稚内に帰れたんです。それでエネルギーを得た上で『Patch』を作れて。自然に、個人的な時間の中で作れた作品だなと思います。
――パーソナルなこのアルバムの中でも一番の音楽的なびっくりは「やりたいこと」で。ポピュラリティーのあるメロディに驚いたわけですが。
それも稚内に帰ったことが大きくて。僕も和樹も大江千里さんが好きで。母親が大江千里さんの大ファンなので、その影響なんですけど。幼少期に『ポンキッキーズ』のワニのアニメーションで「夏の決心」が流れていて(笑)、それがすごく好きだったんです。和樹と今でもよく話すんですけど、夏休みっていう存在をよくもこんなに胸の中にきれいにというか、ファンタジーのレベルで素敵に残せる曲を書けるなと。僕が夏を表現しようとすると、さっきもお話ししたちょっと恨みもこもってしまうので。
――好きじゃないっていうところが。
はい。「ブチあげようぜ!」っていうことではないのに、「夏って素敵だよね」っていうことを言える大江千里さんのポップネスすごい!と。僕もそういう思いで曲を書こうと思って、Aメロの<レインコートを着たまま>は「夏の決心」を意識したり、和樹といろいろやってたんですよ。だから普段使わないいわゆる王道のコード進行を使っていて、そこも含めてすごく楽しかったですね。自分たちがそのコード進行で曲を書いたらどうなるのかなっていうのもあったので。
――「やりたいこと」っていうフレーズがポンって残ると、いろいろと想像できて。大きく言ったら音楽もそうかもしれないし、バンドをやることとかもそうかもしれないし。
うんうん。ちょっと話がそれちゃうかもしれないんですけど、僕、the pillows大好きで。the pillowsのMVで自転車をこいでいる男の子のMVがあるんですけど、それからも影響されていたり……あとは自分の中にある思い出で構成している感じはあって。『Patch』自体、全体的にそうなんですけど、それはBBHFではあんまりやらなくて。BBHFではどちらかというと、そこにあるものを掴んで投げ込んでいくっていうことの方が多いけど、warbearは自分の中から出すものだけで作ろうってなれるので、「やりたいこと」もそうだなという感じですね。さっき「夏の決心」みたいな曲を書きたいって言ってましたけど(笑)、やっぱり自分の中のきれいな思い出を曲にするのがwarbearかなと思います。
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――ところで音源のサックスは生音なんですか?
サックスはいろいろあって、サンプルもあるし、息子の鍵盤ハーモニカをうまいことやるとちょっとサックスに聴こえるっていうのがあって(笑)。それをサックス風にしたり、ソフトウェアのサックスを混ぜたりっていうのでなんとかやっていて。今回のライブで大久保(淳也)さんに出会えて……大久保さんにもうラブコール送りまくったんですけど。
――それは森は生きているを聴いていたからですか?
いや、森は生きているは知っていたんですけど、僕自身接点はなくて。で、紹介していただいたときにお話させていただいたんですけど、大久保さん、優しくてすごくいい人で。今までサックスに関しては、Galileo Galileiでもそうなんですけど、何度か紹介していただくタイミングがあったんです。例えば「ポルノグラフティで吹いている方」というような方とかだと、伝えた通りに吹いてもらえなかったり、”J-POP油”みたいなものがサックスに乗っていて。自分が求めている、例えばブルース・スプリングスティーンのサックスみたいな熱と音楽的に美しさを持ったサックスを吹ける人って国内にいるのか?と思ったんですけど、大久保さんにやってもらって、「え? ちゃんといるじゃん!」と思って。『Patch』を作ってる時に大久保さんと出会えてたらって、めちゃくちゃ言いました(笑)。
――ライブで見て、管楽器は人の呼吸なので面白くなるなって。
サックスの話が長くなってしまいますけど(笑)、ROTH BART BARONの三船(雅也)さんに「サックスの方、知りませんか?」と聞いたら「オッケー! 今探してみる」って言ってくれて。「どっちかっていうとクラシック方向でやってきた人の方がいいかもです」って伝えたら、大久保さんが見つかって。三船さんだったらきっとそういう方絶対知ってると思うんでっていうので聞いてみたんですよ。
――良かったですね、“熊熊対決”(warbearとROTH BART BARONの対バン)やってて(笑)。
(笑)。熊熊対決やってましたね。三船さん、本当に良きお兄さんです。
――じゃあ次作では大久保さんが吹くと勝手楽しみにしています。
そのつもりです、僕は。大久保さんが嫌だって言わない限りは(笑)。
――ところで私はサイン会を見ていないんですけど、みんなこういう(ジャケットのルーパート・テラックの絵)気持ちだったのかもしれないですね。
それ嬉しいです。僕もちょっと思ったので。まったく意識してなかったんですけど、図らずもジャケットと同じことになってるんだと思って(笑)、すごく嬉しかった。

文=石角友香 撮影=菊池貴裕

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