ピアソラを突き詰めた2年間の集大成
に~バンドネオン・三浦一馬が語る『
ピアソラ・ザ・ファイナル』

2021年の生誕100周年、2022年の没後30周年と2年続いたピアソラ・イヤーの締めくくりとして、バンドネオン奏者の三浦一馬が、2022年11月25日(金)にオーチャードホールで『ピアソラ・ザ・ファイナル』と題するコンサートをひらく。音楽監督も務める三浦のほか、出演者には、作曲家でありピアニストである山中惇史&高橋優介によるピアノ・デュオ「アン・セット・シス」、石田泰尚&﨑谷直人によるヴァイオリン・ユニット「ドス・デル・フィドル」、ヴァイオリンの林周雅、チェロの笹沼樹、ギターの朴葵姫、新進気鋭の若手演奏家によって編成されている「タクティカートオーケストラ」ら、今話題のミュージシャンたちの名前がずらりと並ぶ。
――今回のコンサートでは、三浦さんは、バンドネオンを演奏するだけでなく、音楽監督も務められていますね。豪華な出演の方々について教えていただけますか? まずは、三浦さんと共演の多い山中惇史さんが組んでいる高橋優介さんとのピアノ・デュオ「アン・セット・シス」から。
お二人でやっている内容には独自のものがあり、凄いなといつも感心しています。ピアノの演奏だけでなく、自ら譜面を書いたりもされています。レスピーギの「ローマ三部作」をピアノ2台で演奏するかと思えば、ジョン・ウィリアムズの音楽を録音したり。聴いてみると、サウンドとして新しいのです。
今回弾いていただく「現実との3分間」は、オリジナルでもピアノ大活躍の曲ですが、✕2ということで、凄いことになるでしょうね。あと、「アレグロ・タンガービレ」を一緒に演奏します。
――「ドス・デル・フィドル」の石田泰尚さんと﨑谷直人さんともよく演奏されていますね。
石田さんには、私がオーケストラとのデビューをしたとき(注:2007年の神奈川フィルハーモニー管弦楽団とのデビュー公演でコンサートマスターを務めていたのが石田泰尚)以来、キンテート(五重奏団)や東京グランド・ソロイスツなどでも、ずっとお世話になっています。﨑谷さんとは、お一人でも、ウエールズ四重奏団とでもご一緒しています。スーパー・ヴァイオリン・ユニットといわれているのもうなずけます。
今回は、「タンゴ・エチュード」の第3曲を、オリジナルは無伴奏曲ですが、オーケストラ伴奏つきの二重協奏曲のように演奏していただきます。また、超絶技巧が聴きどころの「鮫(エスクアロ)」をヴァイオリン2本で弾いていただきます。
――カルテット・アマービレのメンバーであり、ソリストとしても大活躍の笹沼樹さんとはいかがですか?
笹沼さんとは今回が初共演です。笹沼さんには、もともとはバンドネオンと弦楽四重奏の曲ですが、ヨーヨー・マがCDで取り上げてチェロ・フィーチャー曲として有名になった「ファイブ・タンゴ・センセーションズ」の第5曲「恐怖」を弾いていただきます。
――人気ギタリストの朴葵姫さんも参加されるのですね。
朴さんとは面識はあるのですが、一緒に演奏するのは初めてです。彼女のギター演奏の安定感は本当に素晴らしいと思います。彼女は独特の光るものを持っています。ギターとオーケストラ用に編曲した「ブエノスアイレスの冬」で、ギターならではのピアソラを聴かせてくださると思います。
――先日デビュー・リサイタルをひらき、クラシック、ポップスの両方で活躍する林周雅さんとはいかがですか?
林さんとはこれまで2度共演したことがあります。とても準備をして来てくださったのが印象に残っています。
今回、彼には、オーケストラのコンサートマスターを務めていただくだけでなく、「バルダリート」で、ソロも弾いていただきます。彼はこれからの音楽業界を盛り上げてくれる一人だと思っています。
――コンサートを支えるのはタクティカートオーケストラですね。
若い方々で結成されている新進気鋭のオーケストラで、私とは初共演です。今まで、共演は自分よりも上の世代の方が多かったのですが、最近は下の世代とも交流が増えてきて、自分のやってきたことを伝えるのにはまだ早いかもしれませんが、それでも次の世代の方々ともいろいろ共有したいと思いました。
ソリストとの共演だけでなく、オーケストラだけでピアソラ初期の「カランブレ(痙攣)」を演奏していただきます。フーガの技法を取り入れたビリビリ来る曲です。
――今回のコンサートは、どのようなプログラム構成になりますか?
プロローグがあって、第1章、第2章……というように、この先どのようになっていくのだろうという期待感が持てる、一つのストーリーになるような選曲をしました。また、音楽監督の務めとして、どの人にどの曲が合うかも考えました。コンサート冒頭では、今日の主役たちということで、ソリスト全員で、オーケストラは無しで1曲演奏しようと思っています。そのあと、先ほど申し上げたように、そのメンバーが次々とソロを取っていきます。
そして最後には、ソリスト全員とオーケストラで、ピアソラの「螺鈿協奏曲」(注:バンドネオンには螺鈿細工の装飾が施されている)を演奏します。ピアソラではバンドネオン協奏曲「アコンカグア」が有名ですが、それではなくて、「螺鈿協奏曲」は、ピアソラの九重奏団”コンフント9”(バンドネオン、弦楽器5人、ピアノ、ギター、パーカッション)とオーケストラのために書かれた、9人のソリストとオーケストラのための協奏曲です。今回は、少し編曲で手を加えまして、出演するソリスト全員がオーケストラをバックにソロを取ります。私は、「螺鈿協奏曲」を東京グランド・ソロイスツと室内オーケストラ版に編曲したものは弾いたことがあるのですが、フル・オーケストラと弾くのは初めてです。非常に楽しみです。コンサートのクライマックスでこの曲が演奏できることに、わくわくしています。
――2021年の生誕100年、2022年の没後30年という2年間のピアソラ・イヤーを振り返って、どのような感想をお持ちですか?
2021年のいよいよ生誕100周年というときに、まさにコロナ禍で、2021年3月の大きなツアーも中止になり、当時は、せっかく来たアニバーサリー・イヤーなのについていないなと思った記憶があります。でも、実際には、いろんなことができ、次々と編曲と演奏で忙しく、今までで一番実りのある年になりました。
特に昨年9月のサントリーホールでのピアソラ・フィスティバルは、超一流のプレーヤーの方々(上野耕平宮田大大萩康司、山中惇史、角野隼斗)に集まっていただけただけでなく、コロナ禍にもかかわらず、満席のお客様に来ていただき、奇跡のような一夜でした。幸せでしたね。来年1月15日に宮崎で、またあのときのメンバーで(角野さんは来ていただけませんが)、再演するのですがとても楽しみです。2021年5月には原田慶太楼&NHK交響楽団とピアソラのバンドネオン協奏曲「アコンカグア」も演奏しました。そういうのをすべてひっくるめて、今回のコンサートをピアソラ・イヤーの集大成にしたいと思っています。
――今年の夏にCDの録音もされたそうですね?
次のステップに行くという思いを込めて、『ピアソラ スタンダード& ビヨンド』(12月発売予定)というタイトルにしました。ピアソラの代表曲も入っていますが、よくあるピアソラ名曲集には入っていない作品も入れました。そして来年には、CDの発売を記念して、1月に東京(1月29日:紀尾井ホール)で、2月には大阪(2月4日:ザ・シンフォニーホール)で、三浦一馬五重奏団(キンテート)のコンサートをひらきます。
――最後に、これからのご自身の活動について、お話ししていただけますか?
ピアソラの音楽は一生演奏していきますが、私がずっと考えているのは、私はあくまでバンドネオン弾きであって、楽器として考えてバンドネオンにあと何ができるのかということ。バンドネオンはまだまだ未開拓なところも多いと思うのです。ジャズっぽいものやガーシュウィンを弾いたり、あまりやらなかったポップス系のコンサートにも参加してみたりすると楽しいですね。いろんなジャンルを渡り歩いてみたいと思っています。今後もピアソラだけでなくいろいろなことに挑戦していきますが、今回のコンサート『ピアソラ・ザ・ファイナル』は、ピアソラを特に突き詰めた2年間の自分なりの区切りになると思います。
取材・文=山田治生 撮影=荒川潤

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