【ハナフサマユ インタビュー】
小さな躓き、挫折、失恋、
小さな幸せとかをテーマにしている
人生の中で向き合うさまざまな場面、湧き起こる感情をそれぞれの曲に刻んでいる2ndフルアルバム『結晶』。新鮮な切り口の描写によって、リスナーの想像を豊かに刺激する作品だ。制作を進める中で、ハナフサマユはどのようなことを考えていたのだろうか? 各曲についてじっくりと語ってもらった。
大きなテーマを描く際に小さな何かを
拾い上げて広げるのが好き
今作ですが、さまざまな曲を収録できるアルバムならではの一枚にしたいという想いがあったとお聞きしています。
はい。“CDというものをどうやって手に取っていただこうか?”と、すごく考えたんです。それで、出会い、別れ、悲しみ、幸せがある人生を描くように、曲順もこだわったものにしたいと思ったんです。
ハナフサさんもアルバムを最初から最後まで通して聴く楽しさを、リスナーとして味わってきたということですね?
そうですね。1曲目から順番に最後まで聴いていく流れが自分自身も好きですし、途中でインストが始まったりもするドキドキが楽しかったんですよ。最初に買ったYUIさんのアルバム『I LOVED YESTERDAY』とか、とても思い出深いです。
『結晶』は多彩な切り口で人生を描いている作品ですね。例えば「この美しい世界で」は、紛争の絶えない世の中に対する気持ちが伝わってきました。
この曲を作ったきっかけは前作の『Blue×Yellow』(2021年10月発表のアルバム)なんです。ウクライナの国旗がブルーとイエローだと知って、何もできない自分を感じて“世界平和”という大きなテーマを歌おうと思ったんですけど、どうしたらいいのか分からなくて。そこで思ったのは“大事な人をそれぞれが大事にしたら、少しずつ争いは減っていくのではないか?”ということでした。
自分らしい切り口を探したんですね。
はい。“大切な人を大切にして生きようね”というメッセージを「この美しい世界で」には込めています。自分にとっての、今歌える世界平和の曲になったと思います。
ハナフサさんは表現する上で、生活感、リアリティーをとても大切にしている印象があるのですが。
そうだと思います。情景が浮かぶ歌詞を書くのを自分の課題としていますので。曲を聴いていただいた時に、その人の何かしらに当てはめられる部分があってほしいんです。そういう意味で、“遠くならない言葉”みたいなのは選んでいるのかなと。みなさんも体験するような小さな躓き、挫折、失恋、小さな幸せとかをテーマにしています。
身近なテーマを彩るサウンドアレンジがどの曲もとても素敵でした。
ありがとうございます。アレンジしていただいた音を聴くのがとても好きなんです。アレンジャーさんにお伝えしたイメージに対して新たなアプローチで返していただけると、とても大きな感動を覚えて。今回はほとんどの曲にストリングスが入っていますし、そういう点でも深みのある一枚になったと思います。
「えんぴつ」も心地良い仕上がりですね。削りながら使って短くなっていく鉛筆と人生を重ねている描写が、とても想像を掻き立ててくれます。
“この曲はアルバムに入れたいよね”って何曲かピックアップする中で、浮かび上がってきたテーマが“人生”だったんです。“このアルバムは人生をテーマにしているんじゃない?”ってそこから見えてきたので、「えんぴつ」はそのテーマを象徴するような曲なのかもしれないですね。
使っているうちに少しずつ短くなっていく鉛筆も、人それぞれの使い方次第で美しい絵を描いたり物語を綴ったりできますし、人生もそれと同じだよなとこの曲を聴いて感じました。
そうなんです。ただ擦り減って終わるだけにしないように、自分自身で濃いものにしたいと私も思っています。
大人になると鉛筆で字を書く機会はあまりないですよね。
そうですよね。でも、これだけシャーペンが普及していますけど、小学生が最初に使うのは今でも鉛筆なんですよ。“鉛筆を使って字を覚えたあの頃の気持ちを大人になっても忘れないように”というメッセージもこの曲に込めています。大きなテーマを描く際に小さな何かを拾い上げて広げるのが好きなんですよね。
「スイマー」もそういう曲ですね。
はい。曲を書く時に“この曲のキーワードはこれだな”というのと、伝えたいメッセージ、主人公を決めることが多いんです。この曲も“スイマー”という言葉が最初から浮かんでいました。「えんぴつ」もそうだったんですけど、自分でも“どうしてこれにしたんだろう?”って不思議な気持ちになることがあります。
「メリーゴーランド」もモチーフを通じてイメージが広がる曲ですね。
メリーゴーランドって一見楽しそうですけど、“もしあれが止まらなかったら?”と考えたんです。乗っている時は楽しいけど、あれは幸せなのか不幸なのかよく分からないところがあるのかなと。タイトルからイメージされる楽しさとは対照的に、歌っていることは闇が深いです(笑)。
(笑)。サウンドも明るいですけどね。
“キャッチーな曲が始まったな”って聴き始めたら、“なんか深いこと言っているぞ!?”っていうギャップがあるほうがいいのかなと。
楽しさに耽りながら現実逃避をして、いつの間にか依存して抜け出せなくなってしまうさまを描いているこの曲のテーマには、明るいサウンドが合っていると思います。
最初は“ジェットコースター”にしようかなとも思ったんですが、ジェットコースターは怖いと感じる人がいますからね。でも、メリーゴーランドは乗るのが絶対に嫌っていう人はいなくて、“1回、乗ってみようかな?”って引き込まれやすいんです。それなのに抜け出せなくなるのは恐ろしいことですよね。
ハナフサさんの音楽は毒気も忍ばせていますよね?
そうだと思います。人生の中にはうまくいかないこともありますし、時には全部が嫌になる瞬間もあるじゃないですか。そういうことも赤裸々に描きたいんです。