押尾コータロー、唯一無二のスーパー
ギタリストがデビュー20周年を詰め込
んだ傑作への想いを語る

シンプルなタイトルが、すべてを雄弁に物語る。押尾コータローのデビュー20周年記念アルバム、『My Guitar, My Life』。ジャズ、クラシック、ロック、フォーク、あらゆるジャンルのギタープレイヤーを驚愕させた、超絶テクニックを駆使する「一人ギターオーケストラ」として、前人未到の道を歩んできた20年間の、これは集大成であり新たな第一歩。DISC1には新曲が、DISC2には様々なジャンルのアーティストとの刺激的なコラボレーションが収められた、豪華パッケージの2枚組CD。唯一無二のスーパーギタリスト、押尾コータローの天才を満天下に示す会心の一作だ。
――今回は、20周年記念アルバムという意識を強く持って作ったアルバムということになりますか。
そうですね。集大成という思いもあり、「押尾コータロー、まだまだやります」ということでもあるので、ベストアルバムというものではなく、全曲新曲で行こうと。まだ落ち着かないよという思いが入っているアルバムですね。
――確かに、アニバーサリーというと、ベストアルバムに新曲を少し入れて、というパターンも多いですけれども。
ベストを出す方が、アーティストとしては楽なんですけどね(笑)。そういうパターンもありますけど、まだまだ30周年、40周年、50周年を迎えていく中で、ここで落ち着くわけにはいかないなという思いがありつつ、せっかく20周年ということなので、区切りを付けようと思って、今までずっとギターと寄り添ってきたなという思いで、『My Guitar, My Life』というタイトルを付けました。
――すべてを言い表しているタイトルだと思います。全体の方向性として、どんな内容になったと思いますか。
常に、どのアルバムを聴いてもらった時でも、「おっ!」と思わせる曲から始まって、「おっ!」というテクニックの曲ばっかりなのかな?と思ったら、素朴なメロディの曲もあって、これもいいなあと思ってもらえたり、バリエーションに富んだものにしたいなという、今までずっと作って来た流れは崩さずに作って行きましたね。
――いい流れですよね。楽曲的に、リズミックで躍動感あるものも多いですし。
50を過ぎたら、もうちょっと落ち着いた、しっとりしたアルバムを作ろうなんて気持ちはこれっぽっちもなくて、もうちょっとエッジを利かせてもちょうどいいぐらいじゃないか?と思うので。それは若い人に向けてとか、そういうことではなくて、同じ50代の人にも響いてもらえるものを作ればいいかなと思って、ギターが歪んで聴こえるエフェクトを使ったりとか、「押尾コータローここにあり」というアルバムにしたいなという思いがありました。
――歪んだエフェクトをかけているのは、11曲目「CHANCE!」ですよね。ロックな感じでかっこいいです。あの音の厚みは、さすがにギター1本ではなくて、ダビングしてますよね。
そうですね。味付けとして、メロディの部分を重ねるというやり方ですね。
――押尾さんは、基本、ギター1本で全部いっぺんにやっちゃいますから。リズム、ベースライン、コードストローク、そしてメロディ。ライブ映像を見てもらうとよくわかりますけれど。
でもね、オーバーダビングはけっこうしてるんですよ、どの曲も。メロディをもうちょっと立たせたいと思うところで、メロディをサポートで入れたりとか、そういうことはやってます。それが許される曲と、許されない曲があって、本当にウクレレ1本でやっている「マーガレット」とかは、重ねちゃうと良くないなと思うし、逆に「夢ごこち」なんかは、開き直ってもっといっぱい重ねちゃおうと思うし、それは本当に夢心地になるようなサウンドは何だろう?ということでやってます。これを一本でやれと言われたら、できないことはないですけど、どうやってライブで表現するのか、アレンジを考えなきゃいけないですね。
アーティスト人生の表題曲に込めた想い
――アルバムのタイトル曲であり、これまでのアーティスト生活の集大成とも言える1曲目「My Guitar, My Life」は、どんなふうにできていった曲ですか。
これはね、「My Guitar, My Life」というタイトルはあったんですけど、もっとゆったりした曲で作ろうと思ってたんですよ。50代で、これからターニングポイントもあったりして、期待と不安というか、まだまだやらねばという気持ちを持ってゆっくり歩いていく、そんなイメージで行こうと思ったんですけど、(アルバムの中に)もうちょっとアップテンポの曲があるといいなという話になった時に、じゃあこの曲をアップテンポにしてみようかなと思って、もう一回作り直してみたんですよね。そして出来上がったのが「My Guitar, My Life」です。
――はい。なるほど。
もうちょっとアップテンポがほしいとか、逆にバラードがほしいとか、バランスで曲を作ることはけっこうあるので。
――押尾さん、タイトルから先に作る曲も多いんですか。
そんなに多くないですけど、今回の「My Guitar, My Life」はタイトルが先にあって、広大なバラードから、スカっと突き抜けたような曲になりましたね。
――押尾さんの曲タイトルって、今回も「Cosmic Journey」とか「この空の向こう側」とか、「You are my sunshine」とか、空や自然をテーマにしたものが多い気がします。
そうですね。広がってほしいという思いが出たんでしょうね。パーッと開けたいという思いが、今回は特にあったかもしれない。
――それはひょっとして、時代背景もあったりしますか。
やっぱり、コロナじゃないですかね。ずっと閉じこもっていて…基本的にミュージシャンは閉じこもって制作をしたりしてるんですけど、それは自由な中の閉じこもりで、最近は出たくても出られない、ライブしたくてもできないという中で、反発というか、聴いてる方もみなさん不安になっている中で、音楽だけでももっと開けたものにしたいという気持ちが出たんでしょうね。あんまりネガティブな曲は作りたくないし、突き抜けようという思いが強かったと思います。
――「Cosmic Journey」まで行きましたからね。
地球が駄目なら、もう宇宙まで行っちゃおうと。
――インスト曲のタイトルって楽しいですよね。イマジネーションの勝負というか。
面白い聴き方として、リスナーの中で、タイトルを見ずに聴いて、あとで答え合わせをする人もいるみたいです。私はこの曲はこういうイメージです、というものを想像して、自分のイマジネーションを広げてみる。
――それ面白いですね。自分なりのタイトルを想像するゲームのような。
それで、自分は海だと思ったけど押尾さんは山だったとか(笑)。マイナーメロディなのに、私にはすごく励みに聴こえますとか。同じ曲でも、全然イメージが違ったりすると思うんですね。たとえば「waltz1310」という曲は、僕の師匠の中川イサト(2022年4月没)さんの「1310=イサト」なんですけど、これ何だろう?って、わかんない人もいると思うんですよ。
――ああ…僕も今わかりました。なるほど。
僕としては、イサトさんへの思いを綴った、本当に個人的な曲で、「イサトさん、ありがとうね」という気持ちで作ったんですけど、知らない方には全然違う聴こえ方をすると思うんですね。
押尾コータロー
20年という時間が作り上げた珠玉のコラボレーション
――人それぞれの響き方をすると思いますね。そんな新曲で固めたDISC1があって、DISC2にはコラボレーション曲が6曲入りました。おなじみの方から新しい方まで、聴きどころいっぱいです。
今まで一人でやってきて、いろんな方とのセッションも増えてきてた中から、もう一度一緒にやりたいと思った方、今回だからご一緒したい人とのコラボレーションが実現したのがDISC2です。
――この中で、一番お付き合いが古いのは、葉加瀬太郎さんですか。
葉加瀬太郎さんとDEPAPEPEが同じぐらいですね。デビューして1年後ぐらいだったと思いますが、葉加瀬さんの「情熱大陸コンサート」に呼んでもらえて、それからのご縁で今までにもレコーディングやライブでも何度もご一緒させてもらってます。DEPAPEPEとは、その少しあとかな。
――葉加瀬さんはインスト音楽の第一人者ですけど、あらためて一緒にやられてどうでした?
まさに情熱的なヴァイオリニストですね。めちゃくちゃ忙しくても、「押尾が頼んでるなら行くよ」ってすぐに言ってくれる人なんです。面倒見がいいというか、ミュージシャンに愛される人で、もちろん演奏も素晴らしくて、葉加瀬太郎にしか出せない音というものがあって、今回は新曲で「葉加瀬太郎とこんな曲を作りたい」と思って作ったのが「アイオライト」という曲です。
――「アイオライト」は宝石ですよね。とてもきれいなすみれ色の。
葉加瀬太郎はずっと「青いライト」だと思ってたらしいです(笑)。「信号機みたいだから、道路交通情報に似合うよな」とか。まあ、わざと言ってると思いますけど(笑)。
――DEPAPEPEとのコラボも楽しいです。DEPAPEPE+押尾コータロー=DEPAPEKOの名義で、演奏するのはなんと、クイーン「Bohemian Rhapsody」のカバー。
僕、DEPAPEPEが大好きなんですけど、一緒にやることはないと思ってたんですよ。むしろライバル心があって、あいつらには負けたくないと。曲もいいし、ギターの伴奏とメロディが分かれてるから聴きやすいんですよね。それが悔しくて、きっと一緒にやらんとか思ってたんですけど(笑)、クリスマスコンサートに毎年出てもらったり、いろいろご縁が重なって、DEPAPEPEのバレンタインコンサートに僕が呼ばれた時に、Perfumeの「チョコレイト・ディスコ」をカバーしたりして、すごく楽しくて。じゃあアルバムも作りましょうということで、DEPAPEKOとしてアルバム(『PICK POP! ~J-Hits Acoustic Covers~』/2018年)も作って。その時にもう、「次は洋楽もやりたいね」と言っていたんですね。
――それでクイーンに挑戦してみたと。
DEPAPEPEだと、いつもは徳岡くんがメロディを弾くんですけど、三浦くんにも花を持たせたくて、最初のメロディは三浦くんに弾いてもらってとか、そういうことはすごく考えました。ライブでも披露しているんですけど、録音できて良かったです。
――そして二人のボーカリスト、キム・ヒョンジュン中川晃教。どちらも素晴らしい歌声です。
中川晃教さんが歌ってくれた「ナユタ」は、ちんじゅの森コンサートで共演する時に「歌詞をつけていいですか?」と中川さんから言ってくれたんです。その後に、先に中川さんが先にライブ録音されていて。
――それが10年くらい前ですよね。
その時はピアノとチェロと歌で、それも素晴らしかったんです。今回のアルバムの収録するには、ぜひ僕のギターで歌ってほしいと思ってお願いしました。ミュージカルですごい忙しい時期だったので、どうかな?と聞いてみたら、「行きます!」とすぐに返事が返ってきて、合間を縫って来てくれました。最初は歌の伴奏をするつもりで、メロディを抑えたアレンジで弾こうと思ってたんですけど、アキーは「そのままで歌いたい」と。そのままだとメロディがぶつかると思ったんですけど、アキーの言ってることもわかったので、メロディは小さくひいて伴奏するイメージでやったら、それがすごくよかったんですね。せーので合わせて録ったのですが、ずっと歌っていた曲なので、2テイクぐらいですぐに終わりました。
――これは本当に素晴らしいバージョンだと思います。
もう1曲の「誰そ彼~黄昏~」は、2002年に作った「黄昏」が元の曲で、それを伊勢正三さんが「いい曲だね」ってずっと言ってくれていて、一緒に演奏もしてもらって。そしたら正やんが「歌詞作ったよ」って、すごく素晴らしい歌詞を送ってきてくれた。せつない女性の気持ちを歌った歌詞がすごくよくて、でも僕は歌えないし、録音までには至らなかったんですね。
――それを今回、キム・ヒョンジュンが歌うことになった。
ヒョンジュンさんのほうからライブのゲストに来てほしいというお誘い(2020年)をいただいて、彼が僕のファンでいてくれたことをその時に知ったんです。行ってみたら、キム・ヒョンジュンさんがサプライズで僕の曲「風の詩」を演奏してくれたんですよ。僕はそれを聞かされてなくて、感動して泣いてしまって。彼によると、この曲は辛い時にいつも励ましてくれた曲だったらしいです。
――いい話ですね。
そんなキム・ヒョンジュンさんだったら、この歌を歌ってもらえるかもしれないと思って、忙しい方だから断られるかな?と思ったんですけど、ぜひやりたいと言ってくださって、すぐ決まったんですね。しかも、日本語が得意ではないのに、「伊勢正三さんの歌詞が歌えるのは光栄です」と言って、素晴らしい歌を歌ってくれました。日本の人が歌うのとは違って、外国の人が歌う日本語の響きがあって、僕はすごく気に入っています。
――ストリートピアノで大人気のハラミちゃんとは、最近の出会いですか。
ハラミちゃんは、「MBSお天気部」の秋のテーマ曲を誰かと一緒にやりませんか?という時に、ハラミちゃんがいいと思ったんですね。ストリートピアノで、即興で耳コピして演奏するパフォーマンスが面白くて、お願いしたら、ハラミちゃんもインストのコラボに興味があったみたいで、すぐにOKしてくれました。まず「ハラミ」というのが、僕の中では音符のような気がして、ラとミがあって、ハというのは、ドレミファソラシドを日本語で言うと、はにほへといろは、なので、ハはドなんですね。だからハラミは♪ドラミ。それで「ドレミ・ドラミ」という曲を作ろうと思ったんです。
――あはは。確かにそういうメロディになってます。
ピアノはまったくお任せで、耳コピとはまた違う、じっくりと考え込んだものを作ってくれました。すごく素敵なピアノのアレンジになりましたね。
――そして、デビュー前からの代表曲だった「Blue Sky」の2022年バージョン。共演はサックスの上野耕平
上野耕平さんは、2019年に「MBSお天気部」のテーマ曲を一緒にやらせてもらって、その時が初めてだったんですけど、アルバムを聴いてみると、アルトサックスもテナーサックスも、バリトンもソプラノもなんでも吹けるから、じゃあ一人で全部吹いてもらおうと。今回も4本持ってきてもらって、重ねて吹いてともらいました。
押尾コータローというジャンル
――アニバーサリーにふさわしい、明るい祝祭のような響きです。という、新曲ばかりのDISC1と、コラボでまとめたDISC2という、2枚組アルバム『My Guitar,My Life』。あらためて、日本のポップスの中で、押尾コータローの存在というのは非常に独特で、ある意味一人で一ジャンルという感じもあると思うんですけど、ご自身はどのように感じていますか。20年やってきた、今の立ち位置については。
まったく一人ではないと思うんですけどね。メジャーシーンではなかなか出て来てないかもしMなかったりするんですけど、うまい人たちはたくさんいて、今はメジャーから出るというよりも、自分たちで動画配信して、世界中にファンがいるようなアーティストも多くなっているので。日本ではあまり知られていないけど、世界中で知られているという人も出てきている中で、僕がメジャーでずっとやっている立ち位置というのは大事だと思うので、しっかりとやっていきたいなと思ってます。若い人たちに対しても、ちゃんと引っ張って行ける存在でいたいと思うし、常に先にやってやろうと思うんですよ。DEPAPEPEの時もそうですけど、ライバル意識というか、悔しいと思いながらも、愛情を持って、素直に真似でできるところは真似して、こっちも真似してもらえるようなものを作っていきたいです。
――お互いに影響を与えあう関係が、ジャンルを超えて成立すれば、もっと面白くなると思います。
僕の知らないところで、たとえばこの前もクラシックギターの、猪居亜美さんという20代のギタリストが、僕のファンですと言ってくださったり、朴葵姫さんとかもそうですね。あと、案外J-POPやロックバンドのギターの子が「ファンです」と言ってくれたり、全然ジャンルが違うのに「よく聴いてコピーしました」と言ってくれたりするんですよ。
――押尾さんのカバーした「戦場のメリークリスマス」は、当時のロックバンドの大人気コピー曲だったと記憶してます。
うれしいですね。坂本龍一さんの「Merry Christmas Mr.Lawrence」のギターアレンジで僕のことを知って下さった方も多いです。「押尾さんが弾くの戦メリを聴いてました」って今もよく言われます。
――これからも、ジャンルやキャリアを超えたコラボや共演を期待してます。そしてツアーが始まりますね。10月1日の札幌から、12月11日の東京まで、全11公演の旅です。どんな思いで臨みますか。
20周年のお祝いをしてもらいつつも、新曲をいっぱい作っちゃったんで、新曲も聴いてほしいという気持ちがありますね。ファンの心理としては、新曲よりも昔の曲を聴きたいという気持ちは、よくわかるんですよ。ファーストアルバムとか、セカンドアルバムの曲をみんな聴きたいだろうなと思うので、そのへんの曲も散りばめつつ、という感じですね。
――聴かせたい曲がいっぱいあるということですよね。
そうですね。それと、ライブが久しぶりにできるといううれしさは大きいです。ミュージシャンはみなさんそうだと思うんですけど、「ありがとう」がいっぱいのコンサートになると思いますね。あと、20年間ほぼ同じスタッフでやっていて、常に「もっと良くしよう」という意識でやっているので、音にも照明にも拘ったステージです。ギター1本のコンサートをぜひ楽しんでほしいです。

取材・文=宮本英夫

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