SOPHIAの
ロックバンドとしての哲学が
徹頭徹尾、貫かれた
絶品『マテリアル』

より生々しく、リスナーに迫る

『ALIVE』で“生きること”に向き合ったSOPHIAが、その精神、哲学、音楽性をさらに追及したと言えるアルバムが『マテリアル』である。『ALIVE』もそうであったように、本作にもポップなSOPHIAの要素はほとんどない。いや、『ALIVE』と比べたら『マテリアル』はまったくポップではないと言い切ってもいいかもしれない。本作はミドルテンポのM1「大切なもの」から始まる。イントロは民族音楽風とも言えるパーカッションの響きからリズム隊が入り、そこにエレキギターのキャッチーなリフが奏でられる。そして、歌詞は松岡の独白とも思えるような言葉が並ぶ。

《何を探してんだろ この俺の心とやらは》《何かに憧れて/何かを傷つけて/見つけたもの 何処に置いたっけ》(M1「大切なもの」)。

浮遊感のあるキーボードの音色が、その茫漠として気持ちを代弁するかのように背後で鳴り続ける。ギターがエッジーではあるものの、さすがにアルバムの1曲目としては派手さに欠けるが、だからこそ、余計に彼らの決意を感じるところではある。

それはM2「航海」も同様。アップテンポではあるし、メロディー展開を考えれば、いわゆるビートロックに仕上げても何らおかしくない感じではあるが、あえてそれを拒んでいるかのようなアンサンブルである。細かく刻むハイハットを多用するドラム。ざらついた音を聴かせるアコギ。バンドのポテンシャルがグッと広がったことが伺える楽曲と言える。

《そして僕は壊れかけのこの船で いつかの様に風吹くのを待って/流れ行く暮らしに安らぐ度に 癒える事なき赤く開く傷を/情けなくなる程のつくり笑顔の中に 見えぬ振りして逃げそうになるけど/次の向かい風に迷わず行かなきゃ この風が生まれる何もないあの場所へ…》(M2「航海」)。

歌詞は上記のような内容だが、後半、演奏は突然カットされて、協和しないハーモニカと鍵盤との音でアウトロを迎える。航海の先行きを暗示しているかのような不穏な終わり方。バンドの表現力が豊かになったと言ってもいいだろう。

M3「Place〜」はのちにシングルカットされたナンバー。歌メロが壮大な印象のミドルバラードで、歌詞はM2を補填するかのような前向きさを湛えている。演奏は派手さこそないが、いい意味で歌を邪魔していない。

…と、矢継ぎ早に1~3曲目を解説してみたが、アルバム冒頭に、俗に云うJ-ROCK、J-POP的な楽曲は皆無である。M3はシングル曲であるからJ-ROCK、J-POPであると言えばそうなのだが、少なくとも、8ビートで、分かりやすいギターリフがあって、サビはキャッチーで、歌詞はラブソングで…というところがまったくない。『ALIVE』で払拭された(払拭した?)初期のポップなイメージが完全になくなったことを、改めてバンド側が宣言しているかのようだ。

M4「せめて未来だけは…」でようやくアップチューンが登場するが、これとてひと筋縄ではいかない。何と言うか、全体のバランスが妙だ。とにかくギターが奔放に暴れている印象が強く、ヴォーカルもところどころエフェクトがかかっている。冒頭こそ一発録りを思わせる勢いが感じられるものの、間奏では寸劇風の女性のモノローグが聴こえてきて、不思議な世界観を演出している。思考が取り留めもなく巡っているような歌詞は面白いというよりも、やはり不穏だ。

そんな、来るべき未来を皮肉交じりに描いたと思しきM4に続くのが、M5「黒いブーツ 〜oh my friend〜」というのも興味深い。ファンならばご存知だとは思うが、「黒いブーツ」は事故死した松岡の友人をモチーフとした内容である。M4、M5と続くことで、より生々しく、リスナーに“人生”を問うているようにも感じられる。

《いつかお前が言ってた人生に/もしも勝者と敗者がいるのなら/お前は俺に何て言うのかな 聞こえない》《oh my friend 聴かせておくれよ/俺よりぶっとんだ お前の詩を/oh my friend 守っておくれよ/嘘つきなお前の 涙の約束》(M5「黒いブーツ 〜oh my friend〜」)。

M4であれだけ暴れていたギターが、M5では文字通り鳴りを潜めているところも興味深いし、その分、頭打ちのリズムと共に楽曲の中核をベースの旋律も聴きどころと言える。中世宗教音楽のハープシコード風とも、The Doors的サイケデリックロック風とも思えるキーボードの音色も楽曲のポイントであり、バンドサウンドの成熟さを見て取れる楽曲ではある。その点でもSOPHIAの代表曲として相応しいナンバーであろう。

OKMusic編集部

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