花總まりが新境地を見せる ミュージ
カル『エリザベート』が開幕

1996年に宝塚歌劇団雪組によって初演され、2000年には東宝版が誕生、以来数多くの観客を魅了してきたミュージカル『エリザベート』(脚本・歌詞:ミヒャエル・クンツェ、音楽・編曲:シルヴェスター・リーヴァイ、演出・訳詞:小池修一郎)。オーストリア皇后エリザベートの人生を、彼女を愛する“トート=死”なる架空の存在を絡めて描くこの作品の、2018年以来となる公演が帝国劇場にて開幕。今日の世界情勢や社会状況を踏まえたアップデートが感じられる舞台となっている。開幕前に行われた公演キャストによるゲネプロの模様をレポートする。キャストは、エリザベート=花總まり、トート=山崎育三郎、フランツ=田代万里生、ルドルフ=甲斐翔真、ゾフィー=涼風真世、ルキーニ=黒羽麻璃央。
1996年の日本初演において史上最年少でタイトルロールに扮し、宝塚退団後もたびたびこの役を演じてきた花總まり。ここに来てなおも新たなエリザベート像を生み出そうとしているその心意気に敬意を表したい。定評のある可憐さ、高貴さはそのままに、生身の女のエゴイスティックな一面をもひるまず描き出そうとするその演技は、過去の自分をさらに超えていこうとする勇気と強靭な精神性を感じさせる。バート・イシュルでのお見合いの場面ではコメディ・センスが生き、ルキーニが演出して見せる“芝居”の中のからくり人形のひとりとなったかのような戯画性がある。この可憐な人の中にここまでの生命力が……と感じさせる瞬間、いつになく荒々しさを炸裂させる瞬間も。終盤、死をどこか予感しての痛切な美しさを経て、ラストで見せる新境地に注目だ。
山崎育三郎
ルキーニを演じた経験のある山崎育三郎が、今回初めてトート役で登場、エロティシズムを内包した楽曲からその魅力をすっと引き出す歌唱を聴かせる。「愛と死の輪舞」での、……この人生、終わりがある……と思えるからこその安堵感、幸福感。「最後のダンス」での、エーテルが如き実体なきものに耳のそばで囁かれているような陶酔感。対エリザベートと対ルドルフとで、迫り方、追いつめ方が違うところも興味深い。
田代万里生
田代万里生が演じる皇帝フランツは、「もう!」と突っ込みたくなるようなマザコンぶり、鈍感ぶりが、逆にキュートに映るほど。そんな演技が見事回収されていく、その緻密な構成に唸った。「夜のボート」での、愛を愛とは感じさせないような深い愛と包容力も魅力的。
甲斐翔真
ナイーブで内向的な人物像を感じさせる甲斐翔真のルドルフは、「僕はママの鏡だから」での悲しみの表現が涙を誘う。フランツの母ゾフィーを演じる涼風真世は、その歌声にぐいぐい攻めてくる恐ろしい迫力があり、喉元にナイフを突きつけられるかのよう。強面の一方で、バート・イシュルの場面や結婚式の場面ではコミカルさも発揮。「ゾフィーの死」での切々としたソロは聴きものである。
涼風真世
ルキーニ役の黒羽麻璃央は華があり、舞台上の物語から出たり入ったり、狂言回しとしての居方がいい。先にもふれたように、バート・イシュルでのお見合いの場面がコミカルで面白かったのだが、この場面を“ルキーニ劇場”のように思わせたところにセンスを感じた。
黒羽麻璃央
ミュージカル『エリザベート』はエリザベート役を花總まり・愛希れいか(Wキャスト)、トート役を山崎育三郎(東京公演のみ)・古川雄大井上芳雄(福岡公演のみ)(トリプルキャスト)。また、フランツ・ヨーゼフ役を田代万里生・佐藤隆紀(Wキャスト)、ルドルフ役をWキャスト甲斐翔真・立石俊樹(Wキャスト)、ルドヴィカ/マダム・ヴォルフ役を未来優希、ゾフィー役を剣 幸・涼風真世・香寿たつき(トリプルキャスト)、ルイジ・ルキーニ役を黒羽麻璃央・上山竜治(Wキャスト)が演じる。
東京公演は、2022年10月9日(日)~11月27日(日)帝国劇場にて。その後、愛知・大阪・福岡でも行われる。
初日開幕 出演者コメント
■エリザベート役:花總まり
初日を迎えるにあたり、いつもながらですが、もっと時間が欲しいと思ってしまいます。
もうすぐ幕が開きます、心を込めて今できることを精一杯やりつくそうと思っております。花總まりが演じる“エリザベート”がどんなエリザベートであったかは、ご覧になったお客様が決めることだと思いますので、わたしはただ一生懸命に演じるだけです。来年1月31日までのすべての公演を、心を込め、1回1回を誠実に、大切にしていきたいと思っております。ミュージカル「エリザベート」の世界をどうぞお楽しみくださいませ。劇場でお待ちしております。
■トート役:山崎育三郎
2020年4月の公演中止から2年半が経ち、幕が上がるこの日をずっと待ち望んでいました。
今は、エリザベートカンパニーで帝国劇場の舞台に立てる喜びを噛み締めています。これまでルキーニとして出演してきて今回初めてトートを演じますが、稽古を重ねる中で、同じ作品でも角度が変わるだけで、こんなにも作品への捉え方、感じ方が変わるものだと驚きの連続でした。トート役に対しての解釈も、ある意味正解がなく、自分自身と向き合う時間でもありました。稽古の中で、小池先生から「孤独と陰」というテーマをいただき、自分の中にある影が反映されているトートのような気がします。そして作曲家リーヴァイさんがおっしゃっている挑戦的で攻撃的なトートも強く意識して挑みたいと思います。ついに帝国劇場で「エリザベート」の幕が上がります。どんな困難や逆境にも耐え必死で自分の人生を生き抜くエリザベート。今、この時代にこの作品が届けられることに大きな意味を感じながら、一つ一つ大切に挑みます。
帝国劇場が2025年をめどに一時休館するということも発表されましたが、今、この奇跡の瞬間を全力で楽しみたいと思います。

取材・文=藤本真由(舞台評論家)

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