LOVE PSYCHEDELICO 日常のふとした
瞬間に響くサウンドとメッセージ、5
年ぶりアルバム『A revolution』イン
タビュー

日常のふとした瞬間に響くサウンドとメッセージ
2020年にデビュー20周年を迎えたLOVE PSYCHEDELICO。音楽の旅を長く続けるなか、気負いから解き放たれた2017年の前作アルバム『LOVE YOUR LOVE』において、日常を奏でる音楽を手に入れたKUMIとNAOKIの2人は、2018年12月、子供を授かったKUMIへのプレゼントとしてNAOKI主体で制作したクリスマスソング「Sally」を発表。パーソナルな出来事を直接的な形で作品に結びつけることがほとんどなかった彼らにとって大きな転機となった。
「「Sally」リリース後は子供が生まれたばかりだったこともあって、すぐに制作モードにはなれなかったので、2019年にまずアコースティックツアー『Two Of Us』を行ないました。そうこうしているうちに見えてきたデビュー20周年に向けて新曲が作りたくなってきて、まず最初に作ったのが「Swingin'」。後から思うと、あの曲は、長く音楽を続けてきたからこそ生まれたシンプルで自然な音楽なんだなと。肩の力を抜いて、それでいて格好いい音楽。そういうものをずっと目指していたんですけど、若い時はどうしても激しくなったり、エモーショナルになったり。それはそれでその時期ならではの表現として満足しているんですけど、活動を始めた頃から目指していた音楽がここにきてようやく自然にできるようになってきたんじゃないのかな」(KUMI)
しかし、5年ぶりとなる新作アルバム『A revolution』は「Swingin'」に象徴されるレイドバックした心地良いだけの作品にはならなかった。「Swingin'」のリリースと時を同じくして世界に広がった新型コロナのパンデミックによって、予定していた20周年アニバーサリーツアーが翌年に延期となったほか、その影響はレコーディングにも及んだ。
「こういう時こそ、曲を作ろうと。そう思って、スタジオに集まっても何も生まれてこなかった。世の中の状況がよく分からない、どこに向けて、何を感じて、何を歌えばいいのか。数ヶ月粘ったんですけど、ちょっと今は創作は無理かもということで一時作業をストップしました。2021年に延期されたツアーがどうにか無事に開催されて、また、曲が書けるかもと思ったのは、そこからでしたね」(KUMI)
そして、ツアー終了後の昨年(2021年)夏から再開したアルバムレコーディングは、約1年に渡る作業を経て、5年ぶりとなる新作アルバム『A revolution』に結実した。
「今にして思うと、「Swingin'」を制作していた頃から世の中のムードに自分たちの意識もリンクしていた気がしますね。最近、若いリスナーがギターソロが来るとスキップする、みたいな話題があったけど、別にネガティブな話じゃなくて、時代が求めるギターサウンドって常に変化してる“生モノ”だってことだと思うんですよ。そういう意味では今回のアルバムは、エレクトリックギター主体の表現がメインストリームではなくなったこの時代と割りと真面目に向き合って自分なりに出した一つの提案だったりするんです。つまり、エレクトリックギターを使わないんじゃなく、在り方が変わっているっていう。例えば、「it's not too late」は、歌の傍らでギターのアドリブがずっと鳴っていたりするんですけど、ミックスでほんの何デシベルか上げ下げしたりするだけで、曲を引っ張っる役割から、歌の世界観を支える立場にポジションを変えて別の役割に聞こえたりもするんですよ。そういう繊細なバランスやニュアンスのなかで、現代的なエレクトリックギターの表現にもまだまだ可能性があるんじゃないかなって。あの曲はルーツミュージックではあるけど、そういう意味では現代的アプローチですね」(NAOKI)
アルバム冒頭で、2022年にギターサウンドと改めて向き合う彼らのスタンスを鮮明に打ち出した「A revolution」は、戦争に象徴される政情不安や社会不安に敏感に呼応した曲でもある。
「レボリューションと一言で言っても、プラカードを掲げるような60、70年代のレボリューションじゃなく、歌っているのは“今の僕らの生活は分が悪いかもしれないけど、これで終わりじゃない。むしろ、ここからだよね”ということ。“僕ら”という言葉を使っていることを含め、これは僕達みんなの日常の唄なんです」(NAOKI)
「「A revolution」はそれを一番分かりやすく、強く歌っている曲なんですけど、その気持ちはアルバムを通してずっとあるかな。音楽は、リラックスして聴いてもらうことが大前提だったりするんですけど、今の世の中を見ているとそうも言ってられない状況だったりすることも事実というか、日常生活を送るなかで思うこと、募る危機感もあって、それが作品に反映されたんだと思う」(KUMI)
日常を祝福する「Hallelujah to you」やフォーキーな反戦歌「It rains」、甘くほろ苦いラブソング「Milk and honey」など、ありのままの日常を投影した楽曲は、日々の生活に溶け込んだ音楽の彩りと一体となっている。K-POPやR&Bなど、偶然耳にした現代のポップミュージックからコンテンポラリーな感覚を敏感に感じ取る一方で、この5年ですっかりバイナルフリークとなった彼らの音楽嗜好はいい音を求める過程でよりジャンルレスに。ジャズのスウィング感を内包した「It's not too late」や長尺のプログレッシヴロックを4分間に凝縮したかのような「Radio song」が象徴するように、ジャンルを横断するポップセンス、今までにないリズムアプローチや曲展開の斬新さを際立たせながら、アルバムはささやかな日常に光を灯すクリスマスソング「Sally」で締め括られている。
「日常のふとした瞬間に自分たちの音楽を聴くことはあまりないんです。でも、このアルバムは聴くことになりそうな気がします。それくらいフラットに、自分とほどよい距離感で日常が捉えられた気がするし、音楽家としての成熟を自然に鳴らすことができたんじゃないかな」(KUMI)
「自分たちとしては、長く活動するなかで身についていたLOVE PSYCHEDELICOの表現の仕方を一旦忘れて、この5年間、生活してきた音楽人生のなかで表現の方法を改めて一から探し直せた気がするし、そのせいか、もしかしたら今回のアルバムは、これまでの作品と並べた時、サウンドがまた違っているのかもしれない。でも、ボブ・ディランみたいにね、その時その時を生きて、その時の自分に一番マッチした音楽を表現することで、世の中と繋がってきた先達がいるわけじゃないですか。自分たちがそこまでできるかどうかは分からないけれども、これまでやってきた表現に甘んじることなく、この先もその時々の音楽を奏でていきたいですね」(NAOKI)

取材・文=小野田雄

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