「ブリティッシュ・バレエを大切に、
演劇性を重要視したい」新国立劇場バ
レエ団『ジゼル』<新制作>で吉田都
が初演出に挑む~制作発表レポート

新国立劇場バレエ団 2022/2023シーズン 開場25周年記念公演『ジゼル』が2022年10月21日(金)~10月30日(日)に新国立劇場オペラパレスにて行われる。吉田都舞踊監督就任第2作目となる新制作で、吉田自身が初めて演出を担当。イギリス人振付家アラスター・マリオットに改訂振付を依頼し、19世紀ロマンティック・バレエの名作が新たによみがえる。公演に先立ち10月3日(月)に制作発表が行われ、吉田、マリオット、主演ダンサー(交替出演)の木村優里、福岡雄大、池田理沙子、速水渉悟が登壇した(MCは石山智恵キャスター)。
「お客様によりストーリーが伝わるような演技の仕方、表現を」(吉田都)
『ジゼル』ものがたり
村娘ジゼルは、恋人アルブレヒトが実は貴族で婚約者もある身と知って衝撃を受け、錯乱のうちに死んでしまう。
後悔の念にうちのめされたアルブレヒトはジゼルの墓を訪れる。そこは若くして亡くなった乙女の精霊であるウィリたちが支配する夜の森。ウィリたちにとらえられ死ぬまで踊り続けるよう命ぜられたアルブレヒトを、ウィリとなったジゼルが身を挺して守り通す。

吉田都 撮影:阿部章仁
初めに吉田が登壇し『ジゼル』への思いと新制作のコンセプトに触れた。
英国で22年間プリンシパルを務めただけに『ジゼル』といえば、英国ロイヤルバレエ他で踊ったピーター・ライト版ということになる。「サー・ピーターの『ジゼル』で育ちました。若い時から主役をいただき、すべての役を踊ってきていますし、とても大切な作品です」と原点を語る。

数ある古典名作バレエのなかでも『ジゼル』にはどんな魅力があるのかを問われると「今現在でも共感できる部分がたくさん入っていると思います。ダンサーにしてみれば、1幕と2幕でがらりと変わる生と死の踊り分けに踊りがいありますが、ジゼルの思い、アルブレヒトの思い、ウィリ(精霊)たちの思いとかが伝わってくる本当に深い作品です」と答える。
改訂振付のマリオットは吉田の英国ロイヤルバレエ時代の同僚で、キャラクター・アーティストとして活躍。現在振付家として幅広く活動し、ローレンス・オリヴィエ賞などの候補歴も誇る。舞台美術・衣裳のディック・バードは、新国立劇場バレエ団の『アラジン』『火の鳥』の装置デザインを手がけた経験豊富なデザイナー。今回は「リトアニアの「十字架の丘」に着想を得て、キリスト教と土着の文化の狭間にある世界観を表現」する(リリースより)。「二人とも素晴らしい才能で、準備をしてくださり、私の意見も受け入れてくださる。皆で意見を言い合える雰囲気がうれしくて。そういう形にしてくださっているので感謝しています」と敬意を表する。
創作のプロセスについて「アラスターと私はサー・ピーターの『ジゼル』で育っているので、ピーターのコピーではいけない。ただブリティッシュ・バレエを大切にしたいので、演劇性を重要視しています」と説明。マリオットと助手のジョナサン・ハウエルズは来日前から資料を細かく書いて下準備を進め、それらを一冊にまとめた分厚いファイルを"バイブル"と呼んで大事にしている。そして二人であらゆる役を実際に演じながらダンサーたちに振付しているという。
こだわるポイントとして「クラシック・バレエのスタイルはきちんと守りたい。それプラスお客様によりストーリーが伝わるような演技の仕方、表現にこだわって創っている最中です。そのような仕上がりになったらうれしいなと思っています」と話す。そのためにも「皆がもう少しナチュラルに動けるように」と意識して指導しているという。
(左から)アラスター・マリオット 吉田都 撮影:阿部章仁

「都と同じバックグラウンドを共有している」(アラスター・マリオット)
続いてマリオットも登壇。
吉田の現役時代の印象を「音楽性と動きがイングリッシュ・スターに相応しい。日本人ですが皆は英国のバレリーナと受け止めていました。最高のテクニックを持っていながら、テクニックを超えた芸術性が前面に出る踊りをする人です」と振り返る。そして「仕事をする仲間として、とてもやり易い。自分のやりたいことを明確にわかっている人です」と述べる。
改訂のポイントと吉田との協同作業を問われ「都が求めていることを具現化するのを非常に楽しみにしています」と話し、「求められているのがエキセントリックでモダンなものではなかったことにほっとした」と明かす。「彼女が求めるものを実現するためにリサーチをしました。やり易かったのは、同じバックグラウンドを共有しているということなんです」と強調した。

アラスター・マリオット 撮影:阿部章仁

新国立劇場バレエ団の印象については「ジョナサンが以前一緒に仕事をしていたので事前に聞いてはいましたが、初めてのダンサーに振付をするのはチャレンジでした。皆熱心に受け止めてくれるので楽しいです。私たちの持ってきた新しいアイデアを吸収してくれるのも素晴らしい。チームワークもよくて家族の中にいるような気持ちになりました。ダンサー、スタッフも含めて一生懸命になってくださるのをうれしく思います」と語った。
作品の見どころについては「イングリッシュ・スタイルを正当に受け継ぎながら創っていきます。新国立劇場バレエ団ためのバレエであり、このバレエ団だからできる作品ができつつあると思います」と手ごたえを話した。
(左から)木村優里 福岡雄大 池田理沙子 速水渉悟 撮影:阿部章仁

主演ダンサー四者四様の『ジゼル』への思い
最後にダンサーたちが登場した。
木村はこれまでの『ジゼル』との違いについて「今回、マリオットさんの指導によって、舞台全体のキャラクター一人ひとりの人物像がより明確になった気がしています。古典的な部分は残しつつも、日常に近い感じになったのかなと思います」と話す。
木村は今シーズンからプリンシパルに昇格した。最高位ダンサーとして新しい作品に挑む気持ちを問われると「生活とか気持ちの面で大きく特に何か変わることはないんですけれども、引き続き一つずつの舞台を、丁寧に、誠実に積み重ねていきたい」と抱負を述べた。
ベテランの福岡はこれまでの『ジゼル』との違いとして、「演劇的な要素が大きくて、『ロミオとジュリエット』『マノン』のような英国風の演劇的なバレエ、ドラマティックなバレエを目指しています。二人で、皆で、練習しているところです」と述べた。
(左から)池田理沙子 木村優里 吉田都 アラスター・マリオット 福岡雄大 速水渉悟 撮影:阿部章仁
池田と速水は『ジゼル』初主演で、第1幕で踊られるペザント・パ・ド・ドゥを踊る日もある。
池田は「ペザント・パ・ド・ドゥの方は今回よりテクニカルな面でハードな構成になっていますが、物語が進んで行く中で盛り上がるシーンの一つだと思うので、二人でがんばっていきたい。毎日二人で細かく話し合いながらリハーサルに望む毎日を過ごしています」と話す。
速水は「古典バレエの大切なところは残し、自分なりのアルブレヒトを考えながら理沙子さんとリハーサルに励んでいます」と語る。具体的には「ただ見つめ合うシーンとかが多いんですよ。その中でも何を考えているか、どのような仕草をすると伝わりやすいかを考えながら話し合いながら創っています」と話した。そして「ペザントとはキャラクターも全く違うので、どちらも見に来てください!」と爽やかにアピールした。
【動画】新国立劇場『ジゼル』リハーサル映像

取材・文=高橋森彦

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