演出家 小川絵梨子が語る『レオポル
トシュタット』の魅力〜新国立劇場で
日本初演、NTLiveでも上映予定のスト
ッパード最新戯曲

2022年10月14日より新国立劇場にて開場25周年記念公演として『レオポルトシュタット』が上演される。本作は2020年1月にロンドンのウィンダムズ劇場で初演されたトム・ストッパードによる書き下ろしの戯曲をパトリック・マーバーが演出した舞台だ。もちろん、日本での上演は新国立劇場での上演が本作にとっては初となる。演出は、同劇場 演劇芸術監督の小川絵梨子が自ら手掛ける。
『レオポルトシュタット』の戯曲は、映画『恋に落ちたシェイクスピア』でアカデミー賞脚本賞を受賞し、戯曲『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』で有名な英国を代表する劇作家トム・ストッパードが、自身の家族の歴史をもとに書き下ろした。オーストリア系ユダヤ人の一家が、世紀末から第二次世界大戦までの50年間に経験したことを描く壮大な家族ドラマだ。
ロンドンでの初演は好評を博し、イギリスの演劇界最高峰ローレンス・オリヴィエ賞ベスト・ニュー・プレイ賞と助演男優賞を受賞した。現在、同舞台はブロードウェイに移動して上演中である。なお、ロンドンの公演を収録したナショナル・シアター・ライブ(以下、NTLive)版『レオポルトシュタット』が日本でも公開されるが、それは来年(2023年)1月6日からの予定だ(配給:カルチャヴィル合同会社)。すなわち現時点で日本では、ロンドンまたはNYで観た一部の人を除けば、大半の人がまだ本作の全容を知らない状態なのである。そこで、新国立劇場の開場25周年記念という重要な節目の演目に本作を選んだ、演出家 小川絵梨子に『レオポルトシュタット』の魅力を訊いた。(取材・文:カルチャヴィル合同会社 中村未知子)
NTLive版『レオポルトシュタット』の場面写真  (c)️Marc Brenner

ー- 『レオポルトシュタット』を初めてご覧になったとき(生でご覧になったので しょうか?)の印象はどうでしたか?
生では拝見できておりません。実は、初演時から何度も作品を見にいくことを計画していたのですが、コロナの影響で公演が中止となったり、海外渡航の際にあった待機期間により日程を確保できなかったりと、残念ながら拝見することができませんでした。ですので、来年公開予定のNTLiveでついに拝見できることをこの上なく楽しみにしております!
ー- 新国立劇場の今季ラインアップに『レオポルトシュタット』を選んだきっかけは何ですか?
翻訳をしてくださった広田敦郎さんにこの戯曲をご紹介いただきました。最初は、トム・ストッパードさんの最新作ということ、そしてトムさんご自身の人生を反映させた内容ということで興味を持って読み始めました。そして読んでみると、これが家族の物語であること、また自分の背後には家族や先祖たちの生きた歴史があり、それらが全て今の自分たちに繋がっていることなどを描いていることが分かりました。あるユダヤ人一家の歴史を描きながら、今を生きている人間の誰もが自分の物語のようにも感じられる普遍性にも惹かれました。「過去」は全て「今」に繋がっていて、今はやがて「未来」につながっていく。当たり前といえばそうなのですが、過去や歴史と自分を断絶せずきちんと見つめることは、現在や、未来を生きていく上で大切なことであり、生きていく上でどのような選択をしていくかにも関わることなのかもしれないと思い、今、上演することに意味があると感じました。
ー- ご自身で本作を演出する上で大事にしたいと感じた部分はどのようなところでしょうか?
上記とも重なってしまうのですが、決して懐古する物語ではなく、「今」に繋がる物語として描くことがとても大切だと感じました。それと、登場人物が多く、その子供達や孫世代までに渡る物語なので、家族の繋がりを大切に描きたいと思いました。
ー- ご自身にとってトム・ストッパードはどんな劇作家ですか?
あまりにも単純な表現になってしまうのですが、本当にすごい劇作家なんだな、と……。とんでもない知性と知識がありながらも、難しいものを作るわけではなく、必ず、演劇作品として面白い作品を作ろうとしていらっしゃるのだなと感じます。コメディ要素も沢山ありますし、人間が生きる様を俯瞰的に捉えながらも、裁定を下したり断罪的だったりではなく、曖昧で矛盾した存在としてそのままに肯定で捉えていらっしゃるのかなと感じています。演出として台本に向き合う際には、各作品の中には非常に哲学的視点や、数学的な論理などが組み込まれ、非常に緻密に書かれている台本なので、毎回学ぶべきことの多さに圧倒されています。今回、本当にありがたいことに、トム・ストッパードさんと直々にメールでのコミュニケーションをさせて頂くことができました。とてもフランクに温かいサポートを頂き、それがすごく嬉しくて感動しています。いただいたメールはずっと大切にとっておこうと思っています。
ー- NTLiveでは年明けにパトリック・マーバー演出の『レオポルトシュタット』が劇場公開されます。日本の観客は今秋に日本版を生で鑑賞する機会が持て、その後に英国版を映画館で観られる機会があるので、両方を観てくれる観客もいると思います。両方観てくれるかもしれないお客さまに、楽しみ方のアドバイスをください。
私自身、パトリック・マーバーさんの演出された初演時の公演を拝見できることがとても楽しみです。二つを見てくださる方がいらっしゃるのはとても嬉しいです。『レオポルトシュタット』は本当に素晴らしい物語だと思います。同じ戯曲をもとにしているとはいえ、シーンの印象や解釈が違う箇所も多々あるかと思いますが、同じところも違うところも、それぞれに楽しんでいただけたらありがたいです。私自身はきっと映像を拝見しながら、「そう、そうなりますよね!」だったり、「ああ、その解釈の方が良かったのか!」などなど、物語と関係ないところでもいっぱいドキドキワクワクしそうです。
ー- 『レオポルトシュタット』から派生した話になりますが、NTLiveの魅力とこれまでのNTLive作品の中で一番好きな作品を教えてください。
全てを拝見できているわけではないので、選ぶとなると偏ってしまうかもしれませんが、私個人としては 『スカイライト』です。NTLiveでの映像を拝見して初めて作品を知り、大好きになって自分でも演出することになりました。『スカイライト』という作品に出会わせていただけたのはNTLiveのおかげです。この数年、海外への渡航や招聘公演が以前よりも更に難しくなり、ますますNTLiveのありがたさを感じます。選び抜かれた素晴らしい作品と出会えることは、純粋な喜びや楽しみや感動であるとともに、作品や演技などから学んだり 刺激を受けたりと、頭も心もフル活動の体験になっています。
NTLive版『レオポルトシュタット』の場面写真  (c)️Marc Brenner

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