スラム街の廃棄物で世界平和への思い
を描くサステナブルアートの旗手“M
AGO”初の大規模展 『長坂真護展 S
till A “BLACK” STAR Supported b
y なんぼや』レポート

先進国などから廃棄された電子機器でアート作品を作る唯一無二の芸術家・長坂真護の個展『長坂真護展 Still A “BLACK” STARSupported by なんぼや』が、2022年9月10日(土)から東京・上野の森美術館で開催されている。ガーナのスラム街「アグボグブロシー」を訪れたことをきっかけに、そこで見た世界の不条理をアートで伝え、貧困下にいる人々を救うことを決意した長坂。美術館で初の個展となる本展には「サステナブル・キャピタリズム(持続可能な資本主義)」という考えを掲げて製作された作品を中心とした約200点が展示されている。
ガーナのスラム街で覚醒した一人の日本人アーティスト
「アートで世界を変える」。さまざまな領域にアートが溶け込むようになった現在、いろいろなところで耳にする言葉であるが、それを直接的に感じる機会はそうそうない。そんな中で、スラム街の廃棄物によって生み出される“MAGO(マゴ)”こと長坂真護の作品からは、アートを通じて世界平和に貢献したいという本気のパワーが伝わってくる。
会場入り口
歌舞伎町の元No.1ホスト、23歳でアパレル企業を興すも1年で倒産、路上からのアーティストデビューなど、本展の序章で語られる稀有な経歴も気になるが、何より興味深いのはアーティスト、そして社会活動家としても活躍する、38歳を迎えた彼の現在地だ。

内覧会に来場し、展示解説を行った長坂真護

本展のタイトルにある「BLACK STAR」が指しているのは、西アフリカの国・ガーナのことである。同国の国旗の中心には黒い星が輝き、例えばサッカーの世界においても、同国の代表チームは「ブラックスターズ」という愛称で世界的に有名だ。このアフリカにある途上国との出逢いが、長坂真護というアーティストのターニングポイントになった。「ガーナ」エリアでは、その軌跡を知ることができる。
《真実の湖II》 2019
この空間に展示されている代表作のひとつが、《真実の湖II》という作品だ。本作の中央には、アビドゥーという実在の少年が描かれている。本展のエントランスに展示された立体作品のモデルにもなっているアビドゥーは、ガーナのスラム街に暮らしている。そして彼の周りにはテレビのリモコンやパソコンのキーボード、あるいは今ではほとんど見ることがなくなったVHSテープなど、電子機器の廃棄物がキャンバス上をひしめくように貼り付けられている。
キャンバス上に描かれる「地球上のダークな現実」
2017年の夏、ガーナを初めて訪れた長坂は、首都・アクラの近くにある東京ドーム30個分のスラム街「アグボグブロシー」を訪問。そこが先進国で廃棄された大量の“電子機器の墓場”になっていることに大きなショックを受けた彼は、アートを通じて世界にその不条理な現実を伝え、作品販売で得た収益を貧困の救済に還元しようと歩き始めた。
「ガーナ」展示風景
本章で見られるのは、そこから現在までの5年にわたる彼のガーナでの歩みだ。
《Ben is plastics》や《Proud of Ghana》などの作品には、アグボグブロシーに生きる人々をモチーフにしながら、先ほどの作品と同様に廃棄された電化製品が貼り付けられている。一方で、展示空間の中央にはスラム街の家を模した《オスマンの家》が展示され、廃棄物の上に立つ家の厳しい環境を実際とほぼ同じサイズで感じることができる。
《Plastic Boy》 2018
長坂の作品から伝わってくるのは、廃棄物を画材に変える彼の天才的なイマジネーションだけではない。そこには絶対的貧困の下で生きる人々の暮らしや大量消費社会の裏側にある闇など、地球上に現実として横たわるダークな一面も伴う。
《Ghana's son》 2018
そして「どうして先進国で廃棄された電子機器が自分の国で焼却されずにアフリカに流れているのか」「なぜアグボグブロシーの人々はガスマスクを付けているのか」「どうして彼らはゴミの山の中で暮らさなければならないのか」など、物理的に豊かな国々に暮らす我々の常識を越えたところにある、さまざまな疑問を抱くことだろう。
SDGs、ニューノーマル……、時代のキーワードとリンクする作品たち
その後は、「月」「スーパースターズ」「小豆島」「新世界」というテーマごとに、ガーナだけでなく世界各地で活動する長坂の作品を見ることができる。
《JAPAN》 2021
そのうち、2階に上がってすぐのところには、アメリカ、日本、イギリス、ガーナ、中国の国旗が、それぞれの国のブランドや生産品の廃棄物が貼り付けられたキャンバスに描かれている。例えば、日本の国旗には、ゲーム機、ビデオデッキ、ラジカセなど、かつてジャパンブランドを牽引してきた機器の数々が使われている。一方で、中国の国旗は側面からも見てほしい。前にこぼれ落ちるかのように電子機器が厚く盛られた作品は、現代において“世界の工場”と例えられることが多い同国の姿をも表現しているかのようだ。
国旗の展示風景
また、その隣の《世界平和のワクチン》も現代の世界経済のあり方を風刺した作品のひとつだ。本作に描かれているのは、先進国と思しき5つの国の首脳たち。そして彼らの目の前にあるテーブルの上には、もともと湖のあった場所の上に築かれたアグボグブロシーの模型が置かれている。
《世界平和のワクチン》 2018
一見普通のテーブルに見えるが、よく見ると4本あるはずの脚がひとつ欠けている。内覧会で展示解説を行った長坂本人の言葉によれば、これは「無理矢理の状態で保たれている現在の資本主義」を表しているそうだ。
《Let’s Go Diversity》 2020
そのほかにもニューヨークの路上に捨てられた廃家具や廃家電を素材にしたNFTアート、先日惜しくも亡くなられた安倍晋三元首相と共作した《太陽の子》、実際に企業を立ち上げて実現を目指している《未来の自動車》、コロナ禍で起こった「ニューノーマル」な暮らしに触発された未来予想図的な作品《Let’ s Go Diversity》など、アートを通じてさまざまな社会課題の解決にアプローチする長坂の多彩な活動が垣間見られる。
《向日葵》 2022
ちなみに、ここでは詳しく述べないが、終盤にはおそらく世界初だと思われるユーモラスな参加型作品も用意されているので、お楽しみに。
手前:《I'm Princess》 2022
今ではSDGsの文脈で語られることの多いサステナブル思考の高まり。あるいはコロナ禍の混乱の中で起こったニューノーマルへの動きなど、従来の産業や暮らし方に世界規模の転換が起こる中、長坂の描く世界は我々にさまざまな示唆を与えてくれる。本展を通じて「アートで世界を平和にしたい」という長坂真護の“ド直球”な熱い想いを感じて欲しい。
『長坂真護展 Still A “BLACK” STAR』は11月6日(日)まで、東京・上野の森美術館で開催中。

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