ヒューストン・バレエの吉山シャール
ルイ・アンドレに聞く~ウェルチ版
『白鳥の湖』で初来日するアメリカ有
数のバレエ団の魅力・実力とは

アメリカ有数の大バレエ団であるヒューストン・バレエが初来日し、2022年10月29日(土)~30日(日)東京文化会館で『白鳥の湖』全幕を上演する。ヒューストン・バレエは1969年設立で、テキサス州最大の都市ヒューストンを拠点に活動。2003年以降芸術監督を務めるスタントン・ウェルチの下で躍進中だ。最高位プリンシパルの吉山シャール ルイ・アンドレに、来歴やカンパニーの特色、10月31日(日)昼に主演するウェルチ版『白鳥の湖』の見どころを聞いた。

■「ヒューストンに来て、バレエへの情熱が変わったんです」
――イングリッシュ・ナショナル・バレエ・スクールを卒業後、2007年にヒューストン・バレエのセカンド・カンパニーであるヒューストン・バレエIIに入られました。その経緯は?
ローザンヌ国際バレエコンクールでコンテンポラリー賞を受賞し、イギリスのノーザン・バレエから研修生のオファーをもらいました。その後、ニューヨークのユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)にも出て、ワシントン・バレエとヒューストン・バレエIIからオファーをいただきました。イギリスに2年半いましたが、怪我も多かったりしたので環境を変えたいと思いました。YAGPに出た後、アメリカン・ドリームを獲りにいこうかなと(笑)。
中学1年生の時、ボストンにあるウォルナット・ヒル・スクールのサマープログラムに参加して、それ以来アメリカは好きです。暮らしやすく、人とも接しやすい。それを思い出したりしたこともあって、ヒューストン・バレエIIに入ろうと考えました。まだ17歳だったから、もう1年トレーニングしてからカンパニーに入りたいと自分で決断したことなんですよ。いい先生がいることを四方八方から聞いていたので、自分にとって一番いい選択肢ではないかと考えました。
Houston Ballet Principal Charles-Louis Yoshiyama. Photo by Amitava Sarkar (2018). Courtesy of Houston Ballet.
――ヒューストン・バレエに入って、実際にどのような印象を受けましたか?
男性ダンサーの魅力を凄く感じました。芸術監督のスタントン・ウェルチは振付家でもあるので、彼の作品を初めて観たんですよ。スタントンがアメリカン・バレエ・シアターで初演した『クリア』という作品をヒューストンのダンサーが踊る映像を友達にみせてもらったのですが、新鮮でのめりこみました。男性7人、女性1人が踊り、構成とか振付がカッコよかったんです。そのインパクトが強くて、尊敬できる男性の先輩ダンサーができました。
一番記憶にあるのは、2009年、ヒューストン・バレエの研修生になったシーズンにスタントンがマリー・アントワネットを扱った全幕作品『Marie』を創った時のことです。僕は半分フランス人の血が入っているので、共感できるというわけではないけれど、作品を1から創り上げていく過程に参加できたのがうれしかったし心が動きました。研修生はよほどラッキーじゃないと役をもらえないのですが、マリーの浮気相手の友人という結構いい役にしてもらいました。そして、パーティーでお酒を飲むシーンのソロをもらえたりして重要な役に変わってきたんです。
僕はヒューストンに来てから人柄が変わったというか、バレエに対する情熱が変わったんです。それが功を奏して、毎日がんばろうとしているのをディレクターが見ていてくれたのかな。スタッフの方も気に入ってくれました。それをきっかけに、いろいろと使ってもらえるようになり、研修生の頃から信頼を勝ち取ることができたのではないかと思っています。
Houston Ballet Principals Karina González and Charles-Louis Yoshiyama in Ben Stevenson’s Coppélia Photo by Amitava Sarkar (2019).
――ウェルチという現役で活躍中の振付家が率いるカンパニーなので活気があるかと思います。他の振付家の作品も豊富ですね。レパートリーについて感じていることをお話しください。
前芸術監督のベン・スティーヴンソンがイギリス人で、ケネス・マクミランもヒューストンの準芸術監督だったんですよ。なのでマクミランの『マノン』とか、フレデリック・アシュトン作品といったイギリスのバレエがレパートリーにあります。マクミラン作品では『マノン』のデ・グリュー、北米のカンパニーで初上演された『うたかたの恋(マイヤリング)』のルドルフを踊ることができました。アジア人として初めてルドルフを踊れたことは誇りです。イギリスに留学していたことを振付指導の方々はプラスの意味で捉えていてくれたんじゃないでしょうか。
それからジョン・ノイマイヤーの『真夏の夜の夢』のオーベロンも踊りました。イリ・キリアンやウィリアム・フォーサイス、ウェイン・マクレガー、ジャスティン・ペックの作品もあります。今年の5月『PrettyThings』というデヴィッド・ボウイの音楽を使って男性12人が踊る新作を上演しました。僕としてはローザンヌでコンテンポラリー賞を獲れたので、バレエだけではなくコンテンポラリーと両立できる場所がほしかったんです。そういった意味では、自分がやりたいことをできているし、ヒューストンのレパートリーはよかったと考えています。
Houston Ballet Principal Charles-Louis Yoshiyamaas Basilio and Artists of Houston Ballet in Ben Stevenson’s Don Quixote. Photo by Amitava Sarkar (2018). Courtesy of Houston Ballet.

■ウェルチ版『白鳥の湖』では男性も活躍! 独自の演出が光る舞台に注目
――日本公演で上演されるのはウェルチ版『白鳥の湖』全幕です。クラシック・バレエの代名詞であり、世界中のバレエ団がそれぞれの版・舞台を上演しているだけに、そこからカンパニーの色が伝わる面もあるかと思います。ウェルチ版もプティパ/イワノフ版をベースにしていますが独自の演出を施していますね。その魅力、そして主役の王子役を踊ることへの思いは?
初めて踊ったのは狩りの場面です。第1幕に男性ダンサーたちが踊る群舞があります。『白鳥の湖』といえば女性がメインになってしまいますが、スタントンはアンバランスにならないように工夫して踊らせています。それは僕らにとってもいいことで自信にもつながります。そこが大好きですね。スタントンは男性を使うのが上手いなと昔から感じています。
王子役はヒューストンとドバイで踊りました。4人の花嫁候補の王女たちとの関係などの演技も大切です。お客さんに自分の思っていることを素直に提示できたらいいですね。第3幕にはアッと驚く場面があります。余談ですが、衣裳がレザーなんですよ。重くて汗をかくので大変です!
【22年10月開催】ヒューストン・バレエ来日公演「白鳥の湖」PV
――オデット/オディールにアメリカン・バレエ・シアターのサラ・レイン(ゲスト・プリンシパル)を迎えます。初共演に向けての気持ちを教えてください。
今まで外のカンパニーからのゲストと一緒に組むことがあまりなかったんです。今回こういう形で組めることになったのは新鮮ですね。サラと一緒に自分たちの空気を作っていけるようにしたいです。そこがアーティストとして一番楽しいんですよね。リハーサルをどんどんしていくと発見も生まれてくるし、それを活かして磨いていくことができます。パ・ド・ドゥとか演技で何を発見できるのかが楽しみで待ちきれないです。
【22年10月開催】ヒューストン・バレエ来日公演 S.ウェルチ(芸術監督)からのメッセージ

■「ヒューストン・バレエは"家族"だと思う」
――ヒューストン・バレエには『白鳥の湖』の別の回で主演する加治屋百合子さん(プリンシパル)はじめたくさんの日本人が在籍しています。皆さん仲がよく励まし合っているそうですね?
僕が入った時には女性の方が数人いらしたんですよね。その後、速水渉悟くん(新国立劇場バレエ団ファーストソリスト)とか木ノ内周くん(L.A. DANCE PROJECT)が入ってきて皆でがんばったので、「日本人は男性もありなんだな」とディレクターやバレエマスター、バレエミストレスは思ってくれたはずです。今、男性では加藤凌くん、それにアクリ士門くん、脇塚優くんという有望な子がいますよ。日本人との関係は大切にしています。僕もモチベーションが高まるし、彼らにとっても僕の存在が刺激にはなっていると思います。
吉山シャール ルイ・アンドレ Photo:Joe McKinney
――最後に日本公演への意気込みをお願いします。
ヒューストン・バレエIIに入って、研修生を経て団員となり、コール・ド・バレエからステップアップしてきたカンパニーです。好きでなければヒューストンに15年間いません(笑)。昔からこのカンパニーは海外に行ってもお客さんを魅了できると知っていたから、なるべく早く日本に来たいという思いがありました。日本のガラ公演に呼んでいただいても、踊ることができるのは10分くらいです。それでもお客さんが満足してくださるので本当にうれしいのですが、全幕もので観てもらいたいというのは昔からの夢であり目標でした。
バレエはチームワークです。一人ひとりの心が大切で、スターの人一人のための公演ではありません。僕はいまプリンシパルだけど、いつも自己紹介する時はなるべくヒューストン・バレエの一員ですという形をとるようにしています。本当にチームワークがいいし、円満な関係でいられるカンパニーなので"家族"だと思っています。海外ツアーは久々なので皆楽しみにしていますし、日本のお客さんも僕たちを楽しみに待っていてくれたらなという一心です。
取材・文=高橋森彦

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着