次世代のフラメンコギターを担う徳永
兄弟が生み出す『NEO FLAMENCO』とは
~デビューアルバム記念インタビュー

次世代のフラメンコギターを担う徳永兄弟が、メジャーデビューアルバムをリリースする。『NEO FLAMENCO』と題し、伝統的なフラメンコを受け継ぐオリジナル曲をはじめ、クラシック、ラテン、ロックなどさまざまなジャンルの音楽をフラメンコアレンジした楽曲など、挑戦的な1枚となっている。2022年11月からはツアーも開催される彼らに、フラメンコの魅力など話を聞いた。
――お2人はお父さまがフラメンコギタリスト、お母さまがフラメンコダンサーで、小さい時からフラメンコに触れられるご家庭だったそうですね。
健太郎:そうですね。フラメンコが何なのかもわからないくらい小さいころから、ライブなどに連れて行ってもらいました。両親の舞台をみたり、練習しているところを聞いたりして、車の中でもずっとフラメンコのCDが流れていましたから。常に音楽が鳴っている家でしたよ。
康次郎:下手なCD屋に行くよりも、家にあるCDやレコードのほうが多いくらいなんです(笑)。今でも携帯にはフラメンコの音楽しか入っていないかも。
健太郎:そこはもちろん、勉強のためとかそういう部分もありますけど……でも小さい時からずっと、フラメンコはカッコいいって思っていましたし、そこは今も変わっていないですね。
――そうなるとレッスンも厳しかったのでは?
康次郎:そこはあんまりなんですよ。やりなさい!って強制されたことはないし、父はやりたくなったらやればいい、っていうスタンスでした。
健太郎:小さい時はうまく弾けたらシールがもらえる、みたいな感じで、シール欲しさにやってました。
康次郎:でも人前で演奏するのは気持ちよかったので、そのために集中して練習する、っていう感じでした。老人ホームとか保育園とかで演奏させてもらえていたので。僕は少しでも難しいことをやらせようとすると怒っちゃうから、ずっと簡単なことばかりやらせてたと、最近になって聞きました(笑)。とにかく、楽しく弾いて欲しかったんだ思います。
――プロになろうと思ったのはいつごろでしょうか。
健太郎:中学を卒業するときですね。周りは高校に行くし、一応、音楽で高校に行こうと思ってピアノとかもやったんですけど、僕にとって音楽=フラメンコだったので、何か違っていて。調べていたら、スペインにフラメンコ専門の学校があると知って、そこに行くことを決めました。ほかに特技もなかったし、崖っぷちだったので、必死になりましたね。
康次郎:僕の場合は、小学校はサッカー部、中学は卓球部で、けっこう頑張っていたんですよ。卓球で推薦がもらえそうだったので、それで高校は行こうかと思っていたんですが、兄がスペインから帰省したときに見違えるように上手くなっていたんです。正直、中学の頃は部活ばかりでギターはやっていなかったんですが、僕が日本の高校に行ったら、その間に兄はスペインでギター上手くなって、ものすごく差がつく。それがなんだか悔しくて、そこで僕もスペインに行きたいと思うようになりました。
――高校進学を卓球の推薦で、ということは、卓球もかなり本格的にやられていたと思います。それでもフラメンコギターを選んだのはなぜでしょうか。
康次郎:正直、中学のころはギターも一切弾いていなくて。卓球の練習はまったく苦じゃなくて、毎日練習に行きたくて、家にも卓球台を買って。父も元卓球部だったので、家でも父が一緒に練習してくれていました。でも、ある一定のところで全然勝てなくなったんです。僕は中学から卓球を始めたんですが、もっと小さいころから始めている相手には、まったく勝てなくなった。すごく大きな壁を感じたんです。高校に行ってもプロにはなれない気がしました。そこで、自分が小さいころからやっているものは何だろうか、って考えたら、フラメンコギターしかない、って思ったんです。そっちのほうに、可能性を感じました。……あと、卓球で高校に行ったら坊主にしなきゃいけなくて、それも嫌だったんですよね(笑)。
――スペインでの生活はいかがでしたか?
健太郎:もう、すべてがカルチャーショックですよ。学校での学びだけじゃなく、生活の中にあふれている人としての生き方がすごく刺激になりました。こういう生き方をしているから、こんな曲が生まれたんだ、と実感できましたね。やっぱり、話す言葉から食事、文化、すべてが違いましたから。
康次郎:学校もすごいんです。朝9時から4時間半、月曜から金曜までみっちりと時間割があって、授業には歌の本場の人やギタープロが教えてくれるし、踊り伴奏には自分のためにダンサーの方が踊ってくれる。それを続けていたら、いつの間にか上手くなっていました。最初は、親から支援してもらって学費も払ってもらっているんだから……みたいな気持ちでしたけど、実際にライブにでて”これって1年目のアレだ”とかを感じるたびに、すごい環境だったんだな、と思います。
――11月23日にはメジャーデビューアルバム『NEO FLAMENCO』がリリースされますね。
健太郎:フラメンコを知らない人の入り口になれるようなアルバムになればと思いますね。知っている曲がフラメンコにアレンジされるとこうなるんだ、と。リズムとか音づかいとかを「カッコいいじゃん」って思ってもらって、結果的にフラメンコを知っていただきたいです。
康次郎:僕らの中ではすごい挑戦をしたアルバムで。クラシックやジャズをフラメンコにアレンジしなければならなくなって、これまでは避けていた部分でもあったので、すごく勉強になりました。僕らのこれまでのカバーは、比較的簡単なメロディの童謡やアニメソングなどを、フラメンコの難しいリズムやテクニックに落とし込んで超絶技巧にしていくのが基本ルート。でも今回は、複雑で完成されたもの、音楽的に豊かなものをアレンジしなければなりません。簡略化しないほうがいいけれど、フラメンコとして複雑になりすぎないようにもしたい。本当に難しかったです。
健太郎:アルバムのコンセプトとしても大人なカバーアルバムにしようと話していたので、それでクラシックやジャズ、ブラジル音楽、アルゼンチンタンゴなどをやったんですけど、それぞれに、音楽ジャンルとしてガチっと固まったものがあるんですよね。そこを簡略化してしまうと、なんだかチープになる。本場のフラメンコリスナーが聴いても、クラシックやそれぞれのジャンルが好きな人が聴いても、どっちが聴いても素晴らしいと感じる作品を作らないといけないんですが、そもそもそれってスゴイことですよね。すごく大きなプレッシャーでした。
――さらにコンサートツアーもはじまります。
康次郎:やっぱりステージで新しい我々を見ていただきたい。先ほども申し上げましたが、やっぱりフラメンコを聴いたことが無い人に聴いてほしいんです。このコンサートが、たくさんの人のフラメンコの入り口にななれたらと思いますね。。
健太郎:クラシックをはじめ、いろいろなジャンルの音楽がお好きな方がご存じの曲も取り入れているので、フラメンコ以外の音楽ファンの方にも聴いていただきたい。自信ある作品を作っているつもりですから、それをみなさんが受け止めてどう感じていただけるのか楽しみにしています。
――日本で活動するようになって、ドラマのサントラやテレビ番組のテーマ曲への起用など、いろいろな反響もあったかと思います。現在の手ごたえとしてはいかがですか?
康次郎:スペインではいわゆる演奏活動は何もしていなくて、日本に帰ってきてリサイタルやライブをやらせていただいたり、お仕事を頂く機会もあったりで、僕らはこのままやっていけばいいんだ、という気持ちにはなれました。僕らのオリジナル曲の反応も良くて、お仕事でもフラメンコでぶつかっていくしかないんですけど(笑)、そこもいいリアクションをいただけてるので、このまましっかりとやっていきたいですね。ものすごい量のフラメンコを聴いてきたので、何がダサいのか、何がいいのかは、自分の中ですごく分析していました。その分析の中から、カッコよくないものは削ぎ落して作っているので、間違いはない、って思っています。自信はありました。
健太郎:日本自体にフラメンコはあんまり広まっていなくて、踊りのバックで弾いている伴奏者って認識なんですよね。バラを咥えて踊っているようなイメージがあるわけです。でも、僕らが知っている本当のフラメンコは、そんなにダサいものじゃないし、ジャズやクラシックみたいにちゃんと成立していて素晴らしい文化なんです。すごくカッコよくて、僕らも若くしてそれに魅了されていることをとにかく伝えたい。そういう想いで日本に帰ってきました。スペインでも生活はできていたし、仕事もしていましたが、僕らにできること、役割ってなんだろうって考えたときに、日本でフラメンコの魅力を伝えたいと思ったんです。
――すでに固定化されているイメージ以上の魅力がフラメンコにはある、と。
健太郎:でも、無理して聴いてもらう、歴史を理解してもらう、っていうのも違う気がしていて。わかりやすいところもあるし、キャッチーなところだってあるんですよ。
康次郎:健太郎は中学の時、まぁ結構ヤンチャしてたんですけど、そのヤンチャ仲間の前でギターを弾くと「スゲーカッコいいじゃん、俺もやりたい」なんて言われてたんですよね。そういうヤンチャな人にも真面目な人にも、どんな人にも伝わる、呼吸みたいなカッコよさがあるんです。フラメンコを伝統芸能や文化みたいな感じより、もっと音楽ジャンルとしてキャッチーに、幅広い年代に届けて、楽しんでもらえるようになったら。僕らも楽しんで演奏しているので、ぜひ皆さんにも楽しんでいただきたいです。

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