髭・須藤寿が20周年を前に語った現在
地と自らの核心とは

来たる2023年にデビュー20周年を迎える髭、最新配信シングルのタイトルは「UGOKE」(うごけ)。ミディアムテンポの軽快なビート、シンプルなコードワークとポップなメロディに身を委ねていると、いつしかサイケデリックな異空間に連れ出されているような、マジカルでミステリアスな楽曲――つまり髭そのものの楽曲であるということだ。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドとオルタナ/グランジとビートルズの接点から独自の音を紡いでいたようなデビュー当初の音楽性とは大きく変遷を遂げつつも、そのサウンドと楽曲は一貫して「晴れやかな謎」とでも形容すべき唯一無二の磁場を備えている。2020年からサポートドラマーとして加わった藤田勇(MO'SOME TONEBENDER)とともに己の道を闊歩する髭の「今」について、そして20周年を前に改めて浮き彫りになった髭の音楽の核心について、バンドのキーパーソン・須藤寿(Vo/Gt)に訊いた。
――今年に入ってから『UGOKE』というタイトルのライブも開催していますけども。20周年を目前に控えたタイミングでリリースされる楽曲ということで、何か特別な想いを込めたところはあるんでしょうか?
いや、特に高尚な想いがあるわけではなくて。タイトルもプリミティブな、ずいぶんシンプルなワードですし。来年20周年っていうことで、今わりと気合い入れて新曲を作っていて。去年も『HiGNOTiQE』というアルバムを出したので、今年はわりとライブをやりつつ、ゆっくり曲を書く1年になればいいよね、っていう話はメンバーともしていて。そうやって積極的に曲を書く中で――6月に4曲ぐらいレコーディングしたんですよ。そのうちの1曲が「UGOKE」で。個人的には、その4曲の中でどれでもよかったんですよ、わりと調子もよかったし。その中で、メンバーとかスタッフの意見を聞いてこの「UGOKE」っていう曲が選ばれた感じで。「この4曲の中だったら、今はこういうムードが髭らしいんじゃない?」っていうチョイスだったんですよね。軽快で、一番無責任と言えば無責任なナンバーなんですよね。何も言ってないというか(笑)。他の曲の方が、わりとメッセージ性があったような気が、個人的にはしてるんですけど。昔からそうですけど、リード曲とか、自分では強く「これ!」っていうのがないタイプで。どれを選んでも、自分で選ぶと変なバイアスがかかっちゃう気がして、メンバーからの「これが『らしい』んじゃない?」っていう意見で、「まあ、らしいか」っていう感じなんですよね(笑)。
――確かに、須藤くんは昔から、直接的なメッセージ性みたいな、「これを伝えたいからこう歌う」みたいな表現の仕方に対しては「違うな」っていう感覚があったと思うんですよね。
はい、もともとね。
――今って、コロナ禍の状況もあって、「動く」ことに対しても「動かない」ことに対してもシニカルにならざるを得ない状況がある中で、「どっちにかわからないけど、とにかく動いていたい」っていう気持ちって、誰にでもあると思っていて。そういう聴き手の気分とは、結果的にかもしれないけど、リンクする楽曲なのかなあとも思ったんですけど――。
ああ、なるほどね。コロナとか全然意識してなかったですけど……言われてみればそうですよね。そういう、「動かない」ことに対するアンチテーゼとしての「UGOKE」っていうことでもなかったんですよ。でも、今だからこそ「UGOKE」っていう――今話しててハッと思いましたね。まったくそういう意図は自分の中になかったんですけど。確かに、2020年から2年間この状況の中にいたんで、自分が考えずとも、そういう内包したメッセージがあったのかもしれないですね。
――今までの楽曲もそうですけど、聴く人がそれぞれに髭の楽曲から受け取ったイメージを楽しんでくれればいい、みたいなところがあって。そのために、「特定の意味を持たない」ための言葉のチョイスとか配置に対して、すごく注意を払ってきたと思うんですよね。
そうですね。
――たとえて言うなら、「何だろうこの石、いびつな形してるけど気になるから家に置いとこう」って思って持って帰った石が、ある角度から光が差した瞬間に「この形にはこういう意味があるのか!」って、ある特定の気分の時にフッとわかる、みたいな――「ああ、こういう気分の時にこういう聴こえ方をするんだ」っていう面白さが、髭の音楽には一貫してありますよね。
そういう「なるべく強いメッセージを打たない」っていう書き方が、自分の中に染み付いてるのかもしれないですね。その時その時、リスナー側が受け取るフィーリングを正解としてもらいたいというか。自分自身、好きな音楽を聴いても、完全に自分の気分で上がったり下がったりしていて。作ったアーティストの意図なんて全然関係なく聴いちゃうタイプなんです(笑)。だから、フッとランダムに流れてきた時に「おお、楽しい気分になったな」とか「なんか悲しい気分になったな」とか、受け取り方はリスナー次第で。そんな中で、最もプリミティブな――それは曲にしても歌詞にしてもそうなんですけど、テクニックで書くことがどんどんつまらないことのような気がしてきちゃうんですよ。言葉にしても、昔のように、ペンキをぶちまけたようなカラフルなワードをいっぱい集めるよりも、一点突破みたいな言葉を見つけて、その言葉について3分やりきる、っていう書き方に変わってきた気がしていて。今回で言うところの「動け」、まあ“Let's dance”っていうことだと思うんですけど、それを自分らしく表現したら、っていうことで「UGOKE」っていう言葉に辿り着いて。その「UGOKE」っていう言葉だけにフォーカスを当てていった感じなんですよね。楽曲も今回スリーコードですけど、ひたすらプリミティブになっていってる気がしますね。
――だから、この曲のポップ感もサイケデリック感も、計算とかデザインによって導き出されたものっていうよりは、内からヌルッと出てきたもののような感じがありますよね。
最近の曲の書き方はだいたいそうなんですけど、ひとつのコード進行を作ったら、そのコード進行に対して、即興で5つか6つくらいメロディを出す、みたいなやり方なんですよね。スリーコードからどうやって違うコード進行に展開していくか、というよりは、そのスリーコード内でいくつメロディを生み出せて、それをうまくつなげられるか、みたいな感じなので。だから、わりと即興性が高いというか。そのコード進行を見つけたら、あとはもう、家でひとりで作曲で練るというよりも、メンバーとかと会ってる時に即興的に出していってる感じなので。この2~3年はわりと、今までとも違う曲の書き方になってきていて。それが自分のムードというか、書きやすい感じなんですよね。
――アウトロの斉藤祐樹くんのギターは、何とも形容のし難い異世界感がありますよね。
この曲のキーは確かB♭だったと思うんですけど。はじめ、斉藤に「最後にファズ入れてよ」って言って入れてもらったら――B♭ってAの半音上なんで、開放弦がうまく鳴らせないキーなんですよね。だから、チューニングを半音下げてAにしてもらって、あとはただファズをかけてAが鳴ってるだけなんですよね(笑)。どっちかって言うと、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの2枚目(『White Light/White Heat』)の、「Sister Ray」とか「The Gift」とか、そんな気分ですよね。最初はなんか「弾いちゃってた」から、「もっとプリミティブなノイズが欲しいな」って言った結果の、半音下げの開放ファズ。発信してるだけみたいな(笑)。多少弾いてるとは思うんですけど、逆にもうファズで制御できなくなってるような――非常にプリミティブな、初期衝動的な感じがいいなと思って。
――20周年目前のこのタイミングで、ここまでプリミティブなモードになってるのは何なんでしょうね。
何でしょうね? すでにもう、虚栄心みたいなものがなくなってきてるのかな? 「これがいい」っていうことに関して、世の中に対して「いや、これすげえいいですよ」とも思ってないし。主張がなくなってることで、かえって「じゃあ媚びることもないか」っていうことになってきて。よりシンプルな考えになってきてますね。これだけ多種多様な音楽があれば、もう自分たちの立ち位置って、自分たちが「いい」と思ったことをやるぐらいしかないというか。まあ、自分はそんなに器用なタイプの作曲家ではないので、ヒットチャートの曲の書き方とか、まったくわからないので(笑)。そういうのが上手な方は、それができるからいいと思うんですけど。これだけ多種多様な選択肢があるのであれば、髭は髭を貫くしかないだろうっていう――当然といえば当然のことなんですけど、それが20年のちょい前に辿り着いた結論なんですよね。結局は、自分たちが「いいな」と思ったことを、掘って掘って掘り続けていくしかないというか。「他の道がいいな」と思ってやっても、付け焼き刃になってしまうんで。だからまあ、「居直ってる」っていう感じだと思うんですけどね(笑)。

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――僕自身、髭の音楽を聴き続けて20年近くになるわけですけど、これだけ表現が多様化しても、音楽的な面においても、バンドが持つ磁場においても、「髭っぽいバンド」って結局出てきてないですよね。改めて、唯一無二のバンドなんだなあと。
いいバンドって、必ずみんなそういう要素はあると思うんで。もちろん、この20年くらいの間にたくさんの音楽を吸収してはきたんですけど、結局辿り着くのは、「自分の畑を掘っていくしかないんだな」っていう。そういうところに辿り着いた上で、唯一無二だって言っていただけるのであれば、嬉しいことだなと思います。
――途中、アイゴン(會田茂一)さんが加わった時期があったり、奥田民生さんをはじめ複数のゲストが参加した『サンシャイン』があったり、その時その時で異なるモードやフォーメーションを見せつつも、「ああ、髭の核心ってここだよな」っていうところに今の髭はいますよね。シンプルでポップなんだけど、常に謎めいてる感覚があるというか。
確かに。ここ最近のSNSって、便利なツールだなと思うんですけど、一点だけちょっともったいないなと思うのは――“対・人”の謎感が全部、つまびらかにされてしまって、みんな距離感がものすごく近いものになったじゃないですか。それだけは「本当によかったのかな?」って今でも懐疑的なところはありますね。別に、アイドルと距離感が近いのがいいとか悪いとかじゃなくて、対・友人においても、SNSで近すぎるくらいに――何時に起きて、何を考えてそいつが寝たのかさえ、Twitterとかインスタとか見ればわかるじゃないですか。「ああ、意外と暗いこと考えてるんだこいつ」って。そういうことがたまに起こるぐらいだったら別によかったと思うんですけど、今はそれが日常になったじゃないですか。人同士って、“わからない”方がいいような気がするという想いみたいなものが、きっと自分の根底にあって。だから髭って、「歌詞がわかりにくいよね」とか言われても、「わからせよう」とかじゃなくて、そもそもわからないから、自分も自分が(笑)。そういったものが根底にあるので、自分の歌詞とか楽曲には、さっき智樹さんに言ってもらったような、ミステリアスな部分が隠れてるんだと思うんですよね。そういう部分を大事にしてるというか、わからないことを“是”としてる感覚が、今も昔もずっとあるのかもしれないですよね。
――腹の中をすべて見せ合うのがコミュニケーションかというと――っていうことですよね。
そう。セクシーじゃない感じがするというか。わからないことがあるから、より興味が湧くというか。自分で想像ができるし。たとえ間違えていたとしても、何かのアートに触れた時に、自分なりに解釈ができることが、僕は素晴らしいと思っていて。それが今は、すべての意図を把握することができるじゃないですか。それをどんどんつまびらかにする方向にすべてが動いてるっていうことは、世の中が僕のロマンとは違う方向に行ったんだな、って思います。“謎めいてる”って、結構好きなんですよね。「あいつ何考えてるか全然わかんない」っていうやつの方が、今だに好きな気がするんですよ(笑)。でも、「だからみんな、ミステリアスでいこうぜ!」っていうことでもなくて、単純に「自分の想いの丈を全部詰め込んだら、何言ってるか全然わかんなかったりしない?」みたいな(笑)。「全然まとまってないな」みたいなことの方が、本当のような気がして。結果、僕が好きになるものって、何言ってるか全然わかんないんです(笑)。でも、それがわかる気がするっていうか。
――そういう髭の楽曲だからこそ、いろんな人の“動いていたい”のイメージを喚起されるもので。メッセージソングでもアジテーションでもないんだけど、気分にはリンクしてきて。「これは確かに髭だな」って改めて感じる曲で、嬉しくなりましたね。
ありがとうございます。僕も今、智樹さんとしゃべって、しっくりきました。
―― よかったです(笑)。さっきも言った通り、メンバーチェンジも含め髭にはいろんなフェーズがありましたけど。まさかMO'SOME TONEBENDERの藤田勇さんが髭のドラムを叩くことになるとは、2003年当時には思っていませんでした。
本当ですよね(笑)。僕もまったく思ってなかったです。すげえいいドラムだし、個人的にはものすごくしっくりきてるというか。忙しいでしょうけどね、モーサムやったり、ART-SCHOOLやったり。でも、それだけのことはあるドラマーなんだなと思いますけどね。
――藤田さん独特のドラミングのカラーはあるんだけど、それは特定のスタイルや型ではないというか。それも不思議なところで。2007年頃に、楽器取材で藤田さんのドラムセットについて取材したことがあるんですけど。その時点でも「自分はドラマーとはあまり思ってない」っていう話をしてたのを思い出しました。
ああ、でもそんな感じがするんですよ、すごく自由で。モーサムでも、一時期ギターを弾いてたじゃないですか。リハーサルをこの2年ぐらい一緒にやってきて、「ああ、そういう発想が自然に出てくるんだ」みたいな。あれだけのドラマーなのに、「いや、絶対こっちの方がいいでしょ?」ってあっさりSPD(サンプリングパッド)とか叩いたりするし。考えがすごく柔らかいというか、奇を衒ってる感じがまったくなくて。とりあえず、ドラマーとして出てきた人だから始めにドラムを叩いてるだけで、曲を聴いて「あ、違うんだな」と思えば、まったく違う楽器の話とかもしてるから。アレンジャーとしても結構信頼してるところがあって。ただドラムのパターンだけを聴いてるというよりは、全体のイメージとかも「どう思います?」って単純に訊くこともあって。サポートメンバーっていう立ち位置ではあるんですけど、みんなで編曲してる空間はもう、極めてバンドだなあって。
――個人的に髭もモーサムもずっと好きですけど、「その発想はなかった!」と思いました。
そうですよね(笑)。コロナの名前が出てくる前の、2019年くらいに、久しぶりにバーかどこかで飲んで。そこら辺から近くなっていったんですよね。「あれ? 兄やん、髭のドラムってありかな?」って思って、兄やんのスタジオに行って、その時にあった髭の新曲をセッションしてみたら「すげえいい!」ってなって。それがちょうど、コロナの名前をニュースで聞くようになってた頃で。それで、新しく始まろうと思ったら、一気に世界がストップして――っていうタイミングだったんですよね。
――そんな状況下でも髭は、着実に制作もライブも続けてきましたよね。
他にやることもないか……っていう感じなんですけどね(笑)。あとシンプルに、コロナで言うところの「おうち時間」みたいなものがあったじゃないですか。あの時に俺、真正面から音楽を勉強しちゃって。勉強してて、ひとつわかるようになると、面白くなることってあるじゃないですか。今さらで恐縮なんですけど、20年目にして今、ちょっとその状態に入っちゃってるんですよね。「やべえ、面白い!」みたいな(笑)。ひとつ数式を覚えると、こっちにも応用が効くんだ、みたいな面白さがあって。そのロジックを新曲に応用したり、昔の曲に転用したりして――だから、再現ライブとかもすごく面白い時間で。基本的には、来場してくれるファンが聴きたいのは、当時からめちゃめちゃアレンジされたものじゃない、っていうのはわかってるんですけど。みんながわからないようにちょっと、気付かずに半音ぶつかってたところを「ああ、ここはこっちの音だったんだ」みたいなことをやったりして。そういう面でも成長が見えて面白いし、それを新曲の制作にフィードバックするのもめちゃくちゃ面白くて。今さらながらに「音楽が面白い」っていう感覚があって。それが偶然、2020年から2022年の間に起こったんですよね。2020年、メンバーにも会わなかったあの時間、別に「勉強しよう」と思ったわけでもなかったんですけど、しょうがないから何かやるじゃないですか(笑)。それが自分の場合、本当にいい方向に回ったなって思うんですよね。
――別に20周年に向けてギアをチューンナップしようとしたわけではないけども、ひとつひとつ歯車が合ってきて、気持ちいい推進力が生まれてるっていう状況はすごくいいですね。
そうですね。そこに加えて、藤田勇っていう推進力のあるエンジンもあるし。世の中の停滞ムードとは別に、バンドとしては「俺はもっと勢いよく噴かしたいんだけどな」っていう感じもナチュラルにあって。わりとシンプルに楽しんじゃってるところはありますね。呑気なもんだなと思うんですけど(笑)。

取材・文=高橋智樹 撮影=大橋祐希

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