名取事務所公演<別役実メモリアル3
部作>、プロデューサーの名取敏行に
聞く

2020年3月に亡くなった劇作家・別役実を偲んで上演する<別役実メモリアル3部作>が、2022年9月23日(金・祝)から東京・吉祥寺シアターで上演中だ(10月2日まで)。3作のうちのひとつ『やってきたゴドー』は、2013年1月に逝去したプロデューサー・木山潔(演出時はK. KIYAMA)の追悼公演でもある。木山は別役劇を長年にわたり、企画・制作したことでも知られている。3部作のプロデューサーである名取敏行に、この公演に込めたものについて聞いた。

■今回の3本を「メモリアル」の作品として選んだ理由
──「別役実メモリアル3部作」上演についてお伺いします。まず、140本以上ある別役さんの戯曲から、「メモリアル」として、これらの3本を選ばれた理由を教えてください。
名取 別役さんが亡くなったときはコロナ禍で、ふつうのお葬式もできなかったので、なんらかのかたちで追悼公演をやりたいと思っていました。
 まず、『やってきたゴドー』は、木山(潔)さんが演出して、海外をまわったということと、やはり、いろんな賞をとった別役さんの代表作ということで……
──『やってきたゴドー』は鶴屋南北賞も受賞しています。
名取 同時に木山さんの追悼という意味も含めて、「傑作」という名前を付けさせてもらって上演します。
 〜注文の多い料理昇降機〜『ああ、それなのに、それなのに』は遺作で、再演が難しい作品なので、ここでやっておかないと、もうやれないかなということですね。
 『病気』は、かつて木山さんも演出したんですが、いまのパンデミックが続いている時代にぴったりな内容なので、若手の演出家を起用して、新しい視点からやってみたいと思って、この3本を並べてみました。
 この3本を見れば、別役実がどういう劇作家だったのか、みなさんに少しは理解してもらえるのではないかという意図もあります。
〈別役実メモリアル3部作上演〉のチラシ。

■木山潔氏と名取事務所の関係
──別役さんの芝居は、だいたい制作されるところが決まっていて、文学座のアトリエ、演劇集団円、かたつむりの会、あるいは「手の会」の延長としての木山事務所……これら4つがホームグラウンドというか、常連という感じがしました。他には、別役さんと学生時代からの付き合いがある演劇企画集団66とか。木山事務所から名取事務所が、別役作品を引き継ぐようにして上演されるきっかけのようなものはあったんでしょうか。
名取 別役さんの奥様の楠(侑子)さんは、俳優小劇場のときから知っていて親近感はあったんですけれども、ひとつの大きなきっかけは、木山さんが『やってきたゴドー』を演出したことです。前に、末木(利文)さんの演出で上演したんですが、木山さんとしては、なんとなくちがうんじゃないかと思っていた。だとすれば、自分でやるしかないということで、そのときに制作は名取事務所で、演出は木山さんがやりたいということで、改めて別役実さんに挨拶に行きました。
 そういった意味で、実際につないでくれたのは木山さんです。『やってきたゴドー』については、木山さんの縁もあるので絶対に入れなきゃいけないと。それ以後、別役さんとぼくは個人的に打ち合わせなどで会うようになったというのが経緯です。
──演出をするとき、木山潔さんが用いられるK. KIYAMAは、木山さんが考えられたんですか。
名取 そうです。木山さんは170本ぐらいプロデュースしてますが、それは木山潔だから、それと同じ名前で演出というのは、やっぱり難しいんじゃないですかね。
──ひとりのプロデューサーではなく、K. KIYAMAという演出家として作品に関わっていくという感じですか。海外での活躍も視野に入れてか、欧文表記になっています。
名取 たぶん、これまでずっと別役作品を制作してきて、少しずつ別役さんに対する思いとか、作品解釈がちがってきたように思ったんでしょうね。木山事務所を解散させて、自分ひとりになったとき、もう一度、別役さんの作品に向かって、自分が思っていたことをやってみたいと。最初に演出したのは『病気』なんですよ。
──『赤い鳥の居る風景』も演出されましたね。
名取 それから『正午の伝説』もやりました。そして『やってきたゴドー』。
──一作ずつタイプの異なる別役劇に挑戦して、周到に準備を重ねて、満を持して『やってきたゴドー』に向かわれた。
名取 そうなんですよ。
名取事務所公演『やってきたゴドー』(別役実作、K. KIYAMA演出)2012年5月の初演より。 (撮影/松本和幸)

■「注文の多い料理昇降機」という副題が生まれた理由
──遺作となった〜注文の多い料理昇降機〜『ああ、それなのに、それなのに』ですが、新作を書くことは難しいと言われながらも、別役さんは常に周囲の憶測をくつがえして、この作品を書きあげました。しかも、ハロルド・ピンターの初期戯曲『ダム・ウェイター(料理昇降機)』を下敷きにし、さらにすさまじい味付けを加えています。
名取 別役さんは宮沢賢治の『注文の多い料理店』が大好きな作品で、完成度の高い作品だと思っていたんです。その『注文の多い料理店』の料理と『料理昇降機』の料理を、意味なく重ね合わせた。だから、なんのつながりもないんだけど……
──言葉遊びなんですね。
名取 そうなんですよ。「料理」つながりなんです。それでこのような作品になったということですね。
──副題の「注文の多い料理昇降機」の意味がわかりました。別役さんは体力とか、いろんなものが衰えていくなかで、まだエネルギーもかなりあるし、思いきりブラックだった。
名取 奇跡的でしたね。
■実現しなかった次作の構想
──この作品で別役さんが復活したと思って、次作への期待も高まりました。わたしはベケットの後期戯曲のように、15分くらいの短い実験劇を書いてもらえないかなと思っていたら、また入院されて亡くなられてしまった。この後も作品を構想されていたんですか。
名取 もちろん。次作は『楢山節考』をベースにした別役さんの死生観みたいなものになる予定でした。依頼も打ち合わせもしていました。
 どんな話になりそうですかと訊いたら、「まあ、姥捨山というか、リヤカーで運んでいって、捨てようと思ったら山がないんだよみたいな……そういうのでどうかな」と。「面白いから、それでやってみましょう」という話をしていたんです。
 ところが、徐々に徐々に具合が悪くなってきて、やっぱり、ちょっと無理かなという。ただ、別役さんは仕事人間だから、依頼をされることが、たぶん病状を好転させるんじゃないかと……
──元気の素ですよね。やる気の源(みなもと)というか。
名取 そうそう。だから、具合は悪いんだけど「別役さん、やりましょうよ」と。すると、別役さんも「資料を持ってきてくれるか」と言うので持っていく。だいたい2カ月に1回くらいのペースで、1時間ぐらいずつ会っていたんです。
 で、何回かやっているうちに、「もう、資料はいいから。だいたい構想はついたから」と言いながらも、どんどん体力はなくなっていくわけですよ。ぼくも無理かもしれないという気持ちがあり、別役さんも無理だなという気持ちがあるんですけど、おたがいにそれは言わないんです。で、会うと「おぅ」と挨拶してくれて、「どうもどうも」と返す。「別役さん、どうですか」「うん、だいたい構想はできたよ」って。でもね、これは明らかに嘘なんですよ。嘘とおたがいがわかっている。たぶん書けないだろうと思いながらも「頼みますよ」と言って、それが挨拶みたいなことになっている。1年ぐらいはおたがいに書けないことがわかりながら「頼みますよ」「わかった」というやりとりを続けていました。
──でも、そのおかげで、それだけ長く生きられたかもしれないです。

■『受付』を若い人の視点で上演したい
──では、『病気』について。演出をされる文学座の西本由香さんは、これまでに『ハイキング』『ピンクの象と五人の紳士』『森からきたカーニバル』などの別役劇を演出されています。
名取 けっこうやってるんですよ。西本をなぜ知ったかというと、ウチの所属の森尾(舞)はベルリンに住んでいて、西本が文化庁芸術家在外研修生としてベルリンに行ったときに知り合って、「面白い人がいるよ」と教えてくれた。それ以前にも、文学座で照明をしてる賀澤(礼子)さんから紹介されていました。ちょっといいかもしれないと思って起用したんですよ。非常に論理的な考えかたをしますし。
──これまでに演出された作品を見ていたら、ピーター・ニコルズ作品などにも目配りされているようですし、期待が持てそうな演出家ですね。
名取 ウチもこれがよければ、2本とか、3本とか、続けて依頼できるわけです。若い人が別役劇をどういう視点で見るのかという興味もありますし。
──30年程前に、別役さんに「『病気』とか『受付』とか、人が病いにかかる台本が多いですね」と言ったら、別役さんは「これは死を書くための練習で、死ぬひとつ前は病気だろう。だから、病気が書けるようになってから、死について書くんだ」とおっしゃっていたんです。その後、本当に「死」を見据えた作品をお書きになり、勢いがついたのか、「死」の向こう側の世界までもお書きになられた気がします。
名取 あるとき、ぼくは別役さんに「別役さんの書かれた作品で、好きなベストスリーは何ですか」と訊いたことがあります。でも、実を言うと、お見舞いに行くと「いちばん好きな食べものはなんですか」とか、「野球はどこの球団がいちばん好きですか」とか、そんなことを訊くんです。
──別役さんはどのチームがお好きなんですか?
名取 ヤクルトファンですよ。その理由を訊くと、神宮球場に家が近かったんで、何度か行くうちに、だんだん好きになったんだとか。打ち合わせは、ほとんど仕事の話じゃなくて、そういう話なんです。
──そういえば、娘さんのべつやくれいさんも、ヤクルトファンだったような気がします。
名取 それで、ぼくがたまたま「自分が書いた作品でベストスリーってある?」と訊いたら、「ある」と言う。「それは何ですか」と訊いたら、それは『にしむくさむらい』『はるなつあきふゆ』『受付』なんですよ。さらに「なぜこの3つ?」と理由を訊こうと思ったんですけど、すでに伺ってから1時間経っていて、お疲れのようだったので訊けなかった。
──別役さんの芝居は、これからも残ると思うんですが、名取さんが「別役実メモリアル3部作」を通して、あるいはこれから別役劇について、お客さんに伝えておきたいことはありますか。
名取 これからやろうとしてるのは、別役実の優秀さというか、偉大さというか、それは海外では知られていないんですよ。ぼくもそんなに長くやれるわけじゃないので、『病気』とか『やってきたゴドー』を海外に持っていって、日本にすぐれた不条理の作家がいるんだということを知らしめたいと思っているんですね。
 別役さんの作品は、観客に謎を残すというか、いったい何だろうということを持ち帰る作品なんです。いまはそういった作品は少なくなっている。わかりすぎるというか、日常的すぎるという感じがしていて、別役さんのような作品がずっと残っていかないといけないと思います。。
 別役劇は、演出家も非常に苦しむ作品なんですよ。そういった意味では、演出家がある部分、こういう作品に当たってね、演出家としての力をつけてもらいたいという思いはありますね。
取材・文/野中広樹

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