『美しき日本のうた 秋 2022』 in ザ
・シンフォニーホール シリーズ~今
年で3回目を迎える、ソプラノの幸田
浩子に聴く

大阪のザ・シンフォニーホールで毎年開催されている『美しき日本のうた』シリーズ。“秋” バージョンは毎年10月に開催され、日本を代表するソプラノ歌手・幸田浩子がピアニストの藤満健とともに多彩なレパートリーで客席を魅了し続けている。今回で3回目となる、2022年10月9日(日)開催のコンサートに向けて、幸田本人に意気込みやラインナップに込めた思いを聴いた。
愛おしき日本の歌を故郷で歌う
ーー2020年に始まった『美しき日本のうた』シリーズ。幸田さんが毎年取り組んでいる ”秋” バージョンも今年で3年目となりますが、演奏会に駆ける意気込みをお聞かせください。
毎年10月という美しい季節に、秋をテーマにした日本の歌の数々を歌わせて頂くことで、私自身の中でも毎回「愛おしい季節」、「愛おしい故郷」を思う気持ちがより高まってくるのを感じています。特にクラシック音楽界は10月にコンサートシーズンが始まるということもあり、音楽を愛おしく思う気持ちと故郷を思う気持ちが相まって嬉しさでいっぱいです。
ーー“故郷” という言葉が出ましたが、大阪ご出身の幸田さんにとって、ザ・シンフォニーホールで歌われるのは、よりいっそうの思い入れがあるのではないでしょうか?
地元である大阪で歌う際は、まさに ”故郷に戻る” という感覚です。いつも「皆さん、ただいま~」という気持ちで舞台に出ていきます(笑)。
ーー今回のラインナップも一目で秋の情景を感じせてくれます。
プログラム構成をしながら「秋の曲ってこんなにたくさんあるんだ」と改めて感じました。今回は3回目だからこそ、「こんな曲もあるんだ!」という新たな喜びもお客様と一緒に楽しみたいですし、「秋って、この曲が聴きたくなりますよね~」という定番の曲もラインナップに入れたいなと思いながらプログラミングしてみました。
ーー幸田さんにとって「日本の歌」のすばらしさや美点というものは、どのような点にあると感じていますか?
私の中では、イタリアオペラの作品であっても、それがドイツのものであっても、たとえ宗教曲であったとしても、歌うことや作品への思い、そして、歌唱法なども決して変わることはないと感じています。ひとつだけ言えることは、私は歌っている時、それがどんなレパートリーであれ、私自身も客席にいるお客様とともに共鳴しているんです。
例えば「これはお母さんが歌ってくれた歌だなぁ」「これは中高時代、友達同士で歌っていたな~」あるいは「青春時代に流れてきた大好きな曲」などといろいろな思いがありますよね。そのように、聴いて下さるお客様一人ひとりの中でそれぞれに想いが深く広がっている様子を、私も歌いながら一緒に全身で感じているんです。この感覚が私は本当に大好きで、「ああ、この感触はやはり日本の歌にしかないものだな」とこのシリーズで舞台に立たせて頂いて、つねづね実感しています。本当に会場全体がひとつになって共鳴する空間になっているんです。
ーー客席が共鳴している時の様子というのは、実際どのような感じなのでしょうか?
皆さん口から想いがこぼれ出そうな様子で真剣に聴いて下さっていて、それこそ、一緒に声を出して口ずさんでいるお客様もいらしたり(笑)。『浜辺の歌』のような親しみのある作品ですと、フレーズとともに口が動いて、思わず歌声が漏れてしまうくらいの方々もいらっしゃいます。
例えばオペラ『椿姫』のヴィオレッタのアリアをわ~っと歌っている際に客席で一緒に歌ってらっしゃる方はほとんど見当たらないのですが、やはり日本の歌ですと、詩の世界、音楽の世界、それぞれに皆さんが入り込んでいらっしゃる様子がたまらなく愛おしく感じます。まるで身体を通り抜けているようにひとつの音楽、ひとつの詩に皆さんが同調してらっしゃる様子が感じられます。

『美しき日本のうた 秋 2022』

ーーステージ上で歌っている幸田さんとしても嬉しいことですよね。
はい、とても嬉しいですね。ステージの上で歌っている時は、自分自身も曲のメロディや詩の世界に励まされたり、ということもありますし、実際にメロディや詩を感じながら歌っていると、客席の皆様とも「そうだよね < そうですよね~
歌うための最高の空間で分かち合う喜び
ーー大阪の聴衆は他の地域よりもリアクションが率直な印象がありますが、いかがでしょう。
はい! 「客席の全員がお友達同士なんですか?」と思えるくらい皆さん本番前から良い意味で、口々にザワザワと高揚しながら本番を心待ちにして下さっている様子が舞台袖にいても伝わってくるんです。そして、本番が始まって、ひとたびステージに出ると、私も「親戚とお友達に囲まれているのでは?」と錯覚するような気分になります(笑)。もう、それだけで「ただいま~」と言いたくなるくらいです。ちなみに、ザ・シンフォニーホールのコンサートホールは舞台袖が素晴らしいんです! ありとあらゆる音楽家たちのサインや写真が飾られていて、彼らのエネルギーに一緒に満たされるような感覚になれるのも嬉しいことです。
ーー音響空間としてはいかがですか?
このコンサートシリーズをさせて頂くまでは、ザ・シンフォニーホールのコンサートホールではオーケストラ・コンサートのゲスト出演でしか歌ったことがなかったんです。なので「歌を歌うための空間」として本当に実感したのは2020年に始まったこのコンサートシリーズが初めてでした。
「こんなに音がす~っと後ろの方まで美しく響き渡るんだ」ということをとても感じましたね。広いというより、やさしい響きに包まれるという感覚でとても歌いやすいんです。ちょうど横側の客席の高さとステージの高さが同じになっていて、何となく客席と一体化した気分が味わえるのも大好きです。
ピアノによる「日本のうた」オリジナル即興メドレーにも乞うご期待!
ーープログラム最後のほうでは、伴奏者である藤満さんが『美しき日本のうた2022』というタイトルの自作品のメドレーをピアノソロで演奏しますね。
はい、当日の演奏会本番の流れを受けて、その瞬間までの時の流れを経た中で、その日の、その瞬間ならではの組み合わせとバリエーションでメドレー演奏して下さると思います。なので、もしも、コンサート前のリハーサルで藤満さんが、「この順番でこんな風にメドレー演奏します」と仮に披露して下さったとしても、実際、本番のステージでメドレーにたどり着くその時点までの時の流れを経ないと何が起こるかわからないんです!
ーーその日の流れと空気感で……。素晴らしい試みですね。
毎回そのような世界を繰り広げて下さるので、私自身も藤満さんのピアノで歌わせて頂く時には「今日はどんな感じなのかな?」とつねにアンテナを広げ、彼の奏でる音楽とともに波に乗ったり、空気に包まれたり、風に乗るというような感覚を感じて楽しんでいます。
ーー現在発表されている曲目のラインナップの最後に「ほか」と書かれていますが、他はどのような曲を期待してよろしいでしょうか! 例えば、今年もオペラ『竹取物語』のアリアなど期待できそうですか?
昨年は “月” にまつわるというテーマで演奏させて頂いて、後半でオペラ『竹取物語』のアリアも歌わせて頂いたのですが、今回は月というよりは「空……」? 例えば、最後に『見上げてごらん夜の星を』でまとまるように「青い空や夕空を見たらまたこの時のコンサートのことを思い出して、たくさんの歌を口ずさんで下さったらいいな……」という思いを込められたらと考えています。あるいは「日本の美しい四季や自然は、やはりいいよね~」と思って頂けるような山とか花……とか、かもしれません……。
ーーなかなか広いヒントですね。では、当日のお楽しみということで。
そうですね。私自身の中では「やはり私ってマニアックなんだな」と密かに思ったりもしています。どうしても、そういうものも入れたくなってしまうタイプなんです(笑)。そんな時は「この曲聴いたこと無いけれど、いい曲ね」と思って頂けたら嬉しいですね。
幸田浩子
日本のうたを歌い紡ぐことの意義
ーー幸田さんは『~日本のうた~』というアルバムを続けて二枚リリースしています。日本歌曲を歌い紡ぎ、録音し、それらを残してゆくことの意義をどのように感じていますか?
日本の歌をCDで残したいと思ったきっかけは、私自身、東日本大震災を体験して「なんて無力なんだろう」という気持ちに苛まれていたというのがあります。その中でも「何かできることはないか」と考えた時に行動できたのは、まずはチャリティコンサートに参加させて頂くということでした。
毎回、コンサートの最後に『ふるさと』を歌うことが多く、次第に私の中で「会場の皆様と歌ったあの時の思いを、より多くの方々ともう一度共感したい」「あの時の空間にみなぎっていた優しいエネルギーのようなものを、より多くの皆様にもお伝えしたい」と思うようになりました。音楽には人を励ましたり、癒したりする力があるということは、前々から言葉では語っていたのですが、この時、初めて自分自身の中で強く実感することができました。そして、絶対に『ふるさと』をCDに録音したいと思うようになったのです。幸いなことに、その後二枚目もリリースすることができました。
ーーきっと三枚目も……、全集ができてしまいそうですね。
プロデューサーさんはシリーズにしたいとおっしゃって下さっているんですが、本当に実現できたら嬉しいです。もうひとつ、CD制作についてとても心に残っていることがあります。二枚目をリリースする際、シンガーソングライターの池田綾子さんが、私のために『時は風のように』という曲を書いて下さったのですが、彼女が曲を生み出す際に発するエネルギーや強い思いというものを私自身も身近に感じたことで、他の曲への思いも変化したのです。「そういう風にして一曲一曲は生まれるんだ!」というのを感じ取れたのは、私にとって本当に新たな気づきでしたし、幸せな体験でした。
ーーそれは、どのようなものだったのでしょうか?
池田さんは創作を前にして、何時間もかけて私にいろいろなリサーチをして下さいました。例えば「子供の頃はどんな子供でしたか?」「お父さんお母さんはどんな人でしたか?」「好きな食べ物は何でしたか?」というような、他愛もない話から始まって「どのようなことを感じながら音楽活動をしていますか?」「歌ってどのようなものですか?」というように長い時間たくさんのことを一緒に話しました。そして、その後、池田さんはこう私に言って下さいました。「これらの要素を全部組み合わせて、浩子さんがこれから歌を歌っていく人生の中で、いつもあなたを助けたり、励ましたりするものを生み出したいと思うのです」と。こうやって、彼女は長い時間をかけて大切に大切にひとつの曲を作って下さったんです。
ーーオペラアリアなどを歌われる時にもそのような思いを重ね合わせていらっしゃると。
まさにそうです。オペラアリアも、それが生み出された時、きっと作曲家がとても大切な人の姿や心、生い立ちなど一つひとつを思って描き出されたのかもしれない、あるいは、作詞家と作曲家が響き合って「これしかない!」と生み出されたものかもしれないですし、それぞれの曲への愛おしさや大切さに思いを馳せられるようになりました。今後も歌うことにおいてぜひそのような感情を大切にしていきたいと思っています。
ーー今後の展望は?
「末永く健康で歌っていけたらいいな」と思っています(笑)。もうひとつは「音楽って大切なものですよね」という気持ちや「音楽とともに生きていって下さいね」という思いをより多くの方々と共有していけたらいいなと思っています。
ーー最後にファンの皆さんへのメッセージをお願いします。
今年も 『美しき日本のうた 秋』のシーズンがやって参りました。こうやってザ・シンフォニーホールに帰ってこられるのをとっても、とっても嬉しく思っています。愛おしい日本の歌を、ぜひより多くの方々に楽しんで頂けますよう心から願っています。
取材・文=朝岡久美子

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