木村達成、須賀健太、早見あかり、安
蘭けいらが名作悲劇に新たな風を吹き
込む 『血の婚礼』フォトコールレポ
ート

スペイン文学を代表する劇作家で詩人のフェデリコ・ガルシーア・ロルカによる『血の婚礼』。抑圧された世界で生きる人間たちがむき出しの熱情をぶつけ合い、二人の男がひとりの女のため命をかけて闘う、愚かしいほどの愛と衝動を描いた物語だ。今回演出を務めるのは、歌舞伎の構成や演出も手掛ける 注目の演出家・杉原邦生。主演はミュージカル、ストレートプレイ共に実力を発揮している木村達成。須賀健太、早見あかり安蘭けいといったキャスト陣が集結し、名作悲劇を描き出す。初日を目前にして行われた会見には、演出の杉原邦生、木村達成、須賀健太、早見あかり、安蘭けいの5名が登壇した。
木村達成

ーーいよいよ初日を迎えますが、仕上がりはいかがでしょうか。
杉原:劇場に来て初めて分かることもありますが、順調に仕上がっています。1930年代のスペイン・アンダルシア地方が舞台の作品です。当時の情熱と衝撃をこの舞台に表現し、お客さまにも楽しんでいただけるんじゃないかと思います。
ーーキャストの皆さんからも、意気込みや見どころを教えてください。
木村:衣裳に着替えると、各々のオーラがさらにアップしたと感じます。この作品はドロドロしていて、嫌な空気が常に流れている作品です。個人的には、舞台における初のヒゲに注目してほしいですね(笑)。僕が演じるレオナルドは多く登場するわけではありませんが、一つひとつのシーンで独特のオーラを放ちたいです。
須賀:僕が演じる花婿は、登場人物の中で一番周りに影響され、感情が揺れ動くキャラクターです。ある種、一番客観的に物語を見ている存在でもあります。最初はひとりの女性を奪い合うというシンプルな物語だと思いました。でも、稽古で作り上げていく中で、そこに付随する人間ドラマやそれぞれのバックボーンがすごく感じられる作品になったと感じます。一人ひとりの物語を感じていただけたら嬉しいです。
早見:私が演じる花嫁は、一見すごくワガママな女性に見えるかもしれません。でも、当時は結婚というものが幸せなだけじゃなかったこと、女性たちが抱えていたモヤモヤや心の闇などを映し出せたら、ただの自分勝手な女性ではない悲劇性も見せられるんじゃないかと思います。
安蘭:冒頭を見ていただいた通り、かなり激しい母親です。感情がぶわっと出まくっているんですが、それが意外と苦じゃない。自然にやっちゃってます。
木村:元々そういう部分があるんですか?
安蘭:そうかもしれない(笑)。
須賀:それ、あんまり言わない方がいいですよ(笑)。
安蘭:ないですけど、理解できるというか(笑)。感情を出すお芝居が好きなんだなって感じました。あと、舞台の床が砂。この上でやるのが楽しいですね。
須賀:咳き込みやすいですけどね。
木村:家に持って帰ってたりもする。
早見:一度、稽古着のポケットに入ったまま洗濯してしまって大変なことになりました(笑)。
須賀健太

早見あかり
安蘭けい

ーー美術の話が出たのでお聞きしたいんですが、今回のこだわりは。
杉原:戯曲のセリフやト書で、土と壁、色に関する描写がたくさん出てくるんです。美術の皆さんと相談しながら作りました。この作品のファーストインプレッションが、「土の上でこの芝居を見たい」だったので、美しい人たちが土の上で汚れていくような芝居になったらと思いました。稽古は色々大変でしたが、空間を含めて良いものになっていると思います。
ーー照明の影などがセットに映っています。これにも意図があるんでしょうか。
杉原:そうですね。この作品は、1930年代、いわゆる近代古典と言われるスペインの話。今のお客さんからすると価値観などが遠い世界なんです。だから、舞台上にきっちり世界を作って立ち上げるのではなく、これはあくまで芝居だということを常に共有して見ていただく方がいいのかなと考えました。劇場の構造は見せた上で、お客様と俳優が空間と時間を共有しながら進んでいくような演出を目指しました。
杉原邦生
ーー共演していて見つけた、どなたかの面白い・意外な一面などを教えてください。
須賀:安蘭さんは格好良くてスマートな女性というイメージが先行していました。でも、すごく可愛いところがあって。人の話全然聞かないんですよ。さっきも、進行の説明をされているのに杉原さんのシャツはどこのブランドかずっと聞いていて。めちゃめちゃ面白いですよ。
安蘭:だめな大人じゃん(笑)!
須賀:いやいや、可愛らしいなって。
木村:マイペースですよね。
須賀:興味を持ったものに対するハッピーなエネルギーがすごい。意外だなと思いました。
木村:意外な一面はみんなありますよ。ここにいないキャストも、全員主役ってくらいの姿勢があって。吉見(一豊)さんなんか本当に面白いですからね。
須賀:こういう時って、ここに出てるメンバーの話をするんじゃない?
木村:あ、そっか。すみません、Q&Aができないんです。質問なんでしたっけ?
一同:(笑)。
ーーこの人のここが面白かったというエピソードをお願いします。
木村:じゃあ杉原さんの話を。稽古場取材とかでカメラが入っている時に、普段そんなに前に出て芝居つけてたっけ? と思うくらい近くまで来て演出してくれるんですよ。
須賀:風評被害ですよ!
杉原:使いやすい写真がたくさんあった方がいいかなと思って、サービス精神が出ちゃいました。
一同:(笑)。
木村:誰よりもエンターテイナーなんですよね。仕切りもできるし。
杉原:じゃあ僕からも木村くんの印象をいいですか? これまで何度か舞台を拝見して美しい役者さんだと思っていたんですが、実際は男っぽい感じがすごくしました。今回の役もあるかもしれないけど、良い意味でゴツゴツしている。それがすごく人間らしいし、この芝居に合っていて素晴らしいと思いました。
木村:レオナルドは人間味溢れるキャラクターですよね。最後には彼に同情してしまうような役柄なので、マッチしていたら良いなと思います。
ーー最後に、木村さんからメッセージをお願いします。
木村:この作品はスペインの戯曲。この会見に出ているメンバー以外にも個性豊かなメンバーが揃い、今か今かと初日を待ち侘びています。欲望、そして愛、苦しみみたいなものがたくさん詰まった作品を、皆さんに観てほしいです。劇場でお待ちしています。
≫フォトコールの様子
【あらすじ】
南スペイン、アンダルシア地方のとある村。母親(安蘭けい)と二人暮しの“花婿”(須賀健太)ら、父親と二人暮しの“花嫁”(早見あかり)と結婚したいと母に告げる。溺愛する息子の成長を喜びつつ、ただ一人の家族の旅立ちに複雑な想いを抱く母親。花嫁は優しく家庭的な娘と聞くが、以前に心を通わせた男がいるという噂があるのだ。その男の名はレオナルド(木村達成)。かつて、母親の夫と長男を殺した一族の青年だった。
かつて花嫁から別れを告げられたレオナルドは、その従妹と意に沿わぬ結婚をし、今は妻子と姑と暮らしている。花嫁は過去を捨てて幸せな家庭を築くと固く決意していたが、彼女の目の前にかつての恋人、レオナルドが現れる。
二人の男の愛が引き起こす、婚礼の日の悲劇とは――。

『血の婚礼』舞台写真
『血の婚礼』舞台写真
舞台の床には砂が敷き詰められ、白い壁は照明によって表情を様々に変える。シンプルながら想像を掻き立てるようなセットだ。彼らを縛る因習や常識を表しているような衣裳も印象的。また、舞台上に存在する壁の一部が扉や窓になるのだが、セットの裏にある劇場の構造が見えるのが面白い。会見で語られていた通り、物語の世界に引き込まれつつ、作り物であることを常に意識してしまう絶妙なバランスが生まれていた。
『血の婚礼』舞台写真
『血の婚礼』舞台写真
まず披露されたのは、冒頭の母親と花婿のシーン。スペインでは「狂気」のイメージである黄色い部屋で、息子への愛情、今は亡き夫・長男への想い、彼らを殺した人間への憎しみなどを吐露する母の激情に圧倒される。
花婿を演じる須賀は、母親が放つ言葉一つひとつを素直に受け止めつつ自らの意思も持っている青年というイメージ。安蘭は息子の言葉によって様々な感情を呼び起こされ、くるくると表情を変える不安定な母親を見事に表現。二人の会話から、当時の人々の価値観や時代背景も伝わってくる。
続いては、結婚式の朝を迎えた花嫁の元にレオナルドが訪ねてくるシーンだ。こちらは紫がかった照明で、甘い中にもどこか冷たく不穏な雰囲気が漂う。準備を進める女中(内田淳子)と花嫁のやりとりに和むのも束の間、レオナルドの登場によって空気は一瞬で張り詰める。激しい言葉の応酬からそれぞれの想いが見え隠れし、固唾を飲んで見守ってしまう。詩的な台詞に感情を乗せてぶつけ合う木村と早見、内田のやりとりが魅力的だ。
『血の婚礼』舞台写真
『血の婚礼』舞台写真
『血の婚礼』舞台写真
『血の婚礼』舞台写真
狂おしい愛を描いた名作悲劇を、勢いあるキャスト陣と演出で描く本作。登場人物たちの狂おしい愛の行く末、それを演じるキャストたちの熱を、ぜひ劇場で見届けてほしい。本作は9月15日(木)~10月2日(日)まで、Bunkamuraシアターコクーンにて、その後、10月15日(土)~16日(日)梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティでも上演される。
取材・文・撮影=吉田沙奈

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