ホフディランから先達への
迸る敬愛が感じられる
充実しきったデビューアルバム
『多摩川レコード』

忌野清志郎直伝
とも言えるメロディー

話を本題である『多摩川レコード』へと移行すると、そんな「スマイル」が本作において傑出した楽曲かというと、決してそうではない。まず本作の特徴として、そこを指摘しておきたい。すべての楽曲で歌メロはキャッチーであり、メロディアスであり、ポップである。パッと聴いて難解な旋律はないと断言していいと思う。デビューアルバムからすでにメロディーにおいては一定水準以上をクリアしている。いや、一定水準どころではない。どれも分かりやすく、誰が聴いても親しめる歌ばかりである。ワタナベイビー(Vo&Gu)、小宮山雄飛(Vo&Key)、共にそうなのだから、これは間違いなく、ホフディランの特徴であり、ユニットとしてのアドバンテージと見て良かろう。ソングライティングに関して特徴的なのは──これはワタナベイビー作曲のナンバーにおいて…ということになるが、先達からの影響が色濃い点だろう。それはオマージュを捧げているとか何とか言う以前に、彼の肌に染み着いたものだと言えるのではないだろうか。その先達とは、言わずもがな、忌野清志郎である。とりわけRCサクセションの最初期、『初期のRCサクセション』や『楽しい夕に』(共に1972年)の頃、ギリギリ『シングル・マン』(1976年)まで入れていいだろうが、ワタナベイビー楽曲はそこで聴かせる清志郎のメロディーと言葉の乗せ方にとてもよく似ている。アルバム後半のM12「フランクフルトの日が暮れちゃう」、M14「恋の年賀ハガキ」、M15「サガラミドリさん」辺りにはそれを強く思う。高音でシャープな彼の歌声は余計に清志郎を重ねさせるし、歌詞にも清志郎メソッドのようなものを感じる。

それをパクリだ何だと言うつもりがサラサラないことはそれぞれのファンには分かってもらえると思うが、ここで改めて強調しておく。ワタナベイビー自身、忌野清志郎からの影響をまったく隠していないのである。隠してないどころか、これまたファンならよくご存知の通り、彼は“ニセ☆忌野清志郎”としてステージに立つことがある。これは清志郎本人がある日のライブでワタナベイビーを影武者のようにステージに登場させてファンを驚かしたことに端を発する。清志郎がワタナベイビーにメイクを施してオリジナルの衣装を着せたというから、清志郎公認の偽物である。姿形が似ているからこそ、ワタナベイビーにその任が与えられたのだろうが、無論そこには音楽的交歓があったからだろう。ワタナベイビーのシングル「坂道」(1999年)は清志郎のプロデュースで、ギターやコーラスでも参加している。ちなみに、忌野清志郎 & 2・3'Sの1stアルバム『GO GO 2・3'S』発売30周年記念ライブが2022年11月11日に行なわれる予定で、そこにもワタナベイビーのゲスト参加も決定している。数ある忌野清志郎の後継者の中で、その筆頭格と言ってもいいのではなかろうか。

一方、小宮山雄飛の作曲のナンバーは、ワタナベイビーほどの特徴を探れなかったけれど、前述した通り、こちらも十二分にポップである。M4「ミスターNo.1」辺りのメロディ展開はちょっと複雑というか、パッと聴き、子供でも簡単に理解できるといったものではないかもしれないけれど、耳馴染みが悪いなんてことはサラサラない。『パッヘルベルのカノン』的なコード進行のM6「昼・夜」やM8「MILK」、1990年代前半の渋谷系サウンドを彷彿とさせるM10「スロウイン ファストアウト」など(ホフディランも“一番最後の渋谷系”と言われているので、この言い方もおかしいかもしれないが…)、ワタナベイビー楽曲とは趣が異なるものの、メロディアスな歌ものとしてしっかりと機能している。小学生の頃から洋楽を聴き、高校時代は、周りでは折からのバンドブームで日本のバンドのカバーをする人たちが多い中、GUNS N' ROSESやPOISONなどをやっていたというから、彼の作るメロディーの根っこには洋楽があるのだろう。その意味では、ワタナベイビーと棲み分けができていると言っていいのかもしれない。

OKMusic編集部

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