韓国の若手実力派オ・ルピナ、演出を
手がける『キングアーサー』について
語る

日本でも『太陽王〜ル・ロワ・ソレイユ〜』『1789-バスティーユの恋人たち-』『ロックオペラ モーツァルト』といった作品が上演され、親しまれているフランスの作曲家ドーヴ・アチア。彼が音楽・脚本・作詞を手がけ、2016年に宝塚月組で『アーサー王伝説』のタイトルで上演された作品が、このたび『キングアーサー』のタイトルで装いも新たに上演される。演出を手がけるのは、『デスノートTHE MUSICAL』韓国版に演出捕として携わり、2020年には韓国ミュージカル界最高峰である韓国ミュージカルアワーズで演出賞演出賞を受賞するなど、活躍を続けるオ・ルピナ。『キングアーサー』韓国版の演出も手がけた彼女に、日本版への意気込みを聞いた。
日本版では「キャラクター同士の関係性をより深く繊細に」
――この作品の魅力をどうとらえていらっしゃいますか。
まずはショーとしての華やかさ、音楽の美しさだと思います。そのうえで、韓国版を演出した際、各キャラクターのストーリーをもう少し付け加えたいと感じました。これは、(作品が誕生したフランスとの)文化の違いから感じたのだと思います。各キャラクターに歴史を加え、苦しみを乗り越え成長する姿を描き出せるよう努めた結果、おもしろい作品に仕上がったと思っています。
――日本版台本も手がけられていますが、韓国版から何か変更は?
キャラクターが悩みながら成長していくさまを細やかに、大切にしていくという点については、基本的には韓国版と同じです。それに加え、ショーの部分を上手く繋ぎ合わせようと、悩みながら執筆しました。あくまで私の意見ですが、韓国と日本の皆さんとでは、もちろん違うところもありますが、似ているところも多いと思うのです。そして、日本の皆さんは深く繊細なところがお好きなのではないかと考えているので、キャラクター同士の関係をもっと深く、密度をもって描き出したいなと思っています。
――そう考える上でルピナさんに何か影響を与えた日本の文化とは?
伝統芸能の「能」ですね。舞台の上でゆっくり耐えられる美しさがあり、時間を深く、普通の流れとは違うように使っていらっしゃるように感じました。韓国では、表現が多く、力動的なところがありますので。日本の文化というと、何か一つの職業を家業として代々つないでいる、その職人気質、精神を感じたところも、私がそう考えるに至った理由かもしれません。
>(NEXT)浦井健治伊礼彼方加藤和樹――日本の俳優たち
日本の俳優たちとのクリエイション
――韓国ミュージカルのパワーは観ていてときに圧倒されるものがありますが、ルピナさんが今回、日本の俳優と共にどのような舞台を作り上げるのか、楽しみです。
韓国版『キングアーサー』をご覧になった方が、私を日本版の演出に呼んでくださった。その理由の一つもそこにあるのかもしれませんね。(日本の)俳優の皆さんの優れたところを活かしつつ、韓国ミュージカルのパワフルなところも試してみたいと思っています。自分の演出スタイルは、俳優の皆さんにどんどん試してもらう、挑戦してもらうというところなんです。今回、皆さん一人ひとりに合わせた形で、パワフルなところもどんどん引き出していって、韓国版とはまた違う場面も作っていきたいと思っています。
これまで、演出の際にはコミュニケーションをもっとも大事にしてきました。役者の皆さんと個人的な話や雑談なども多くしてきたんです。だから今、日本語の勉強をしているのも、皆さんとコミュニケーションをとるためで、一人ひとりの性格を把握して、どのようにしたら皆さんが私の演出についてきてくださるか、悩み試行錯誤しながら一緒に作品を作り上げていきたいと思います。
プレイベント(制作発表)の様子:アーサー役の浦井健治
――プレイベント(製作発表)でも流暢な日本語でご挨拶されていたのが印象的でした。このプレイベントでキャストの皆さんと初めてお会いになったそうですが、印象はいかがでしたか。
皆さん、キャラクターにぴったりな方々で、楽しみだなと思いました。アーサーを演じられる浦井健治さんは、『デスノートTHE MUSICAL』(日本版)の際にお会いしたことがあるのですが、愉快で明るいところも、悩んで何かを深く表現するのもお上手な俳優さんだなという印象をもちました。今回、年齢を重ねられた浦井さんが、アーサー王を深く表現してくださるのではないかと楽しみにしています。
プレイベントの歌唱披露については、私からは特にアドバイスはしておらず、音楽監督からのアドバイスを受けて皆さん歌ってくださいました。もちろん、音楽監督とは前々からコミュニケーションも取っていますし、演出のイメージもわかってくださっているので、それに沿ってアドバイスしてくださっていると思います。キャラクターの分析もまだそんなには進んでいないであろうところ、ここまでしっかり歌ってくださったので、稽古を重ねたらすばらしい舞台になるだろうなと思いました。
メレアガンを演じる伊礼彼方さんと加藤和樹さんも、難しい歌を、キャラクターによく合うように歌ってくださったので、とても楽しみです。メレアガンは、この作品の中で、「この人を見ると、つらいな……」と思わせるキャラクターのうちの一人です。それは、彼が最初から悪人ではなく、運命によって悪人へと変わっていくキャラクターだからなんです。
プレイベント(制作発表)の様子:左から 伊礼彼方、加藤和樹
>(NEXT)オ・ルピナにとってミュージカルとは
ミュージカルの魅力は、短い一節でも心に響いてくること
――『キングアーサー』の華やかなショーの部分には、アクロバットも盛り込まれているそうですね。
キャラクターのエネルギーを表現するために、アクロバットも含め、多様なジャンルのダンスを取り入れたいと思っています。韓国版でその手法がとても効果的だと感じたので、今回も動ける方たちをキャスティングしました。
――ドーヴ・アチアさんの音楽の魅力についてはいかがでしょうか。
とてもショー的であると同時に感情的でもある楽曲だと感じています。もともとキーが高い曲が、どんどん高くなっていくというのは、そのくらい、感情が高くなっていっているということだと思うんですね。感情というものが音楽にちゃんと溶け込んでいると思います。妙だけどゆかいな妖精がいるとしたら、その音楽はちゃんとそのように聞こえるし、悲しくてせつないときに歌われる音楽はちゃんとそのようになっているので、感情を上手く表現していると思います。フレンチ・ミュージカルなんですが、アーサー王の物語を描くということで、アイリッシュ・ミュージック的な要素もあります。例えば、フルートにしても、アイリッシュ・フルートが使われていたり。異国的でありながら共感できるところのある、新鮮な感じの音楽だと感じていただけると思います。

プレイベント(制作発表)の様子:左から 伊礼彼方、加藤和樹

――作品の公式ホームページに、ルピナさんが、「私にとってミュージカルは『刹那の瞬間と感情を舞台で拡張させられる魅力的な芸術』です」とのコメントを寄せていらしたのが印象的でした。
小さいときから舞台が大好きだったんです。子供のとき、友達と、小劇場が何十も集まるソウルの大学路に遊びに行って。呼びこまれて入った劇場で、俳優の皆さんが目の前で演技をするのが本当に不思議でした。汗も見えて、唾が飛ぶのも見えて、皆さんの表情が全部見えるのが本当に不思議だったんです。おもしろかった。それで、中学生のときから一人で大学路に観劇に行くようになって。映画やドラマより舞台が好きだったんです。作品全体というよりは、俳優の皆さんを観るのが好きでした。大学路ではもっぱらストレートプレイを観ていましたが、高校3年生のときに『キャッツ』を観て、ミュージカルの仕事がしたいと思いました。照明、舞台装置、転換、衣装、踊り、このすべてを決めているのは誰なんだろう、誰が整理しているんだろうと思ったんです。そして大学では演劇の勉強をしました。ちなみに両親は、私が演出家になって初めて舞台公演を観たくらい、全く舞台とは関係はないんですよ。
演出家になろうと目標を決めてここまで来たのではなく、ただ舞台が好きで、作品を作り上げる場所にみんなといたい、そんな気持ちで演出助手から始めました。ただただ一生懸命一日一日楽しくやっていたからここまで来られたと思っています。
ミュージカルの魅力は、セリフ一つ、歌の歌詞の本当に短い部分だけでも心に響いてくるところがあると思います。もちろん、作品全体を観てわかってくださるのもうれしいですが。そうやって心に響いてきたところから勇気をもらって、日常、大変な日々を乗り越えて前に行ける、そういう元気をくれるものだと思うんですね。観客の皆さんにそういう瞬間をお届けできるように頑張りたいなと思います。
この作品で、私が韓国版から付け加えたアーサーのセリフがあります。人生の選択にまつわるセリフで、それがどんなセリフかはぜひ劇場に来ていただいてお確かめいただきたいのですが、その言葉を私の原動力としてここまでやってきました。そのセリフに限らず、短いセリフであっても歌詞であっても、お客様の心に響くように、共感していただけるように頑張りたいと思います。
プレイベント(制作発表)の様子
取材・文=藤本真由(舞台評論家)

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